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迷子少女のダンジョンキーパー  作者: 滝口流
第一章 『迷子』スキルのラティメリア
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第6話 新たな部屋を作りましょう

「さっそくだけどラティ。グレートボアの死体を消化槽に入れて、魔力に変換することをオススメするよ」


 そんな風にぽよぽよとその半透明の体を揺らしつつ喋るヨルくんに促され、わたしたちは猪さんの遺体を引きずり消化槽まで運びました。

 大変重く、一番の力持ちであるグラニさんもさきほど盛大に突き飛ばされたばかりですので、それは大変な重労働でした。


「ふひー。一難去ってまた一難というか、後始末が大変というか」


「今は魔力が枯渇している状態だからね。何かがあってからじゃ遅いよ」


「何かあるなんて考えたくないんですけどもー」


 目の前では(だいだい)色の甘い香りをした池が、新たな獲物を待つようにごぽごぽとその口を開けています。

 ……そういえば。


「これ、全部を溶かした方がいいんでしょうか?」


 果たしてどこからが『死体』としてカウントされるのかと不思議に思いました。

 わたしの問い掛けに、ヨルくんはその体を震わせて答えます。


「肉体は全体に生命エネルギーを宿しているけれど、特に集約しているのは脳や心臓かな。次いで内蔵や血液に多く含まれているよ」


 まるで何かの栄養素のようです。


「ふうむ……。それなら、少しぐらい削るのもありですね?」


 わたしは懐から短剣を取り出します。

 黄金の細かな装飾がされた剣です。……まさかこんなことに使うことになるとは。

 わたしは猪さんの背中の部分に刃をいれました。


「……ごめんなさい、と」


 じわじわと血液が流れ出るのを気にせず、片手で持てる程度のずっしりとした分量のお肉を切り取ります。

 とりあえずは少しだけにしておきましょう。

 あとで食べるんだ……。ふふふ……久しぶりのお肉……!

 皮や骨、他の部位のお肉なんかも、このまま溶かしてしまうのは多少もったいなくはあるのですが。


「……よし、グラニさん。一緒に落ちないように気をつけつつ、これを押し出しましょう」


「了解でッス! いくッスよー!」


 わたしはほんの少しだけ血まみれになりつつ、グラニさんと一緒に猪を突き落としました。

 じゃぽんっ。じゅわっ。

 そんな音が一瞬して、猪のお肉……もとい、死体はずぶずぶとその底に沈んでいきます。

 十数秒も経つと、そこにはもう何かを沈めた痕跡はなくなっていました。


「ばばばばー! ばーばーばーん!」


 ヨルくんが突然叫び出します。

 びっくりしました。


「ダンジョンレベルが2に上がったよ! おめでとうラティ!」


「おー」


 わたしはぱちぱちと手を叩きます。


「それじゃあさっそく新たな項目について説明しようか。まず追加されたのはクリエイトルームの内容は――」


「……と、とりあえずまずは手を洗ってからで!」


 血まみれの手を振りヨルくんの言葉を遮って、わたしたちは制御室へと向かうのでした。



  §



「わー。本当に美味しいですねー。身が引き締まっているにも関わらず、硬くもなくてやわらかい」


 口の中でとろけるような脂がびゅーてぃふぉー。

 ジュワー、と熱した石の上に置いたお肉から、肉汁がしたたり落ちました。

 薄く切り分けたお肉をみんなで食べます。


「めっちゃうまいこれ……うま……」


 いつもの口調も忘れて、もぐもぐとミアちゃんは一心不乱にかぶりついています。


「火を通すとこんなに香ばしくなるんスね……ふむふむ。まあ自分は生の風味も好きなんスけど。勉強になるッス!」


 一方のグラニさんはまるで実験を行っているかのように、少しずつじっくりとそれを口の中に入れるのでした。

 食べ方一つにもそれぞれの性格が出ているようです。

 わたしは断然かぶりつく派で。

 恥も外聞もなく豪快に食べてしまいましょう。


「それにしても……」


 わたしはお行儀悪く指先を舐めつつ、ヨルくんの半透明な体に表示された新たにクリエイトルームに追加された素材たちを見ました。


「予想はしていましたが、こうも微妙なラインナップだとやっぱりちょっとがっかりしますね」


 そこに表示されていたのは、『塩』『油』『木材』の三種類の項目でした。

 かなーりしょっぱいです。いや、塩分的な意味ではなくて。


「レベルが上がればもっと素敵なものが作れるようになるよ、ラティ」


 ヨルくんいつもそんなことしか言ってない気がします。


「それに、レベル2になったことで新たな機能が追加されたんだ」


「……ほほう? 初耳ですが、どんな機能なんです?」


 ヨルくんはその軟体を平べったく伸ばすと、そこに四角いブロックを映し出しました。


形状指定(モデリング)機能だよ。固形物は生成時にある程度の形を指定することができるんだ」


 画面の中で、木片とみられるブロックがぐにょーんと曲がります。


「おお……。それなら器とかいろいろ作れたりしそうですね」


「そうだね。画面に触れることで形状を自在に変えられるから、ラティもやってみるといいよ」


 言われた通りヨルくんの体にタッチすると、ぐにょぐにょと木片が動きました。


「指を二本使うと角度が変えられたり拡大縮小できるよ」


「おー。砂場で絵を描く感覚みたいで、これならわたしでも……」


 指先でくるくると回せる感覚は結構面白かったのですが、思うようには調整できません。

 行き過ぎたり、曲がり過ぎたり、(ねじ)れたり。


「……なかなか難しい作業ですね」


 簡単、とまでは言えませんでした。


「やっているうちに慣れるよ、ラティ」


 ヨルくんが慰めてくれました。

 ……そんなもんでしょうか。

 いろいろと弄って遊んでいるわたしの前に、ヨルくんはもう一つ画面を作り出します。


「新たな機能といえば、ダンジョンのエリア調整機能も追加されたよ」


「エリア調整?」


 そちらに視線を向けると、そこには神秘的な鍾乳洞や無骨な炭鉱のような映像が次々と映っています。


「現在の最大利用区画は『10』だよ。制御室(メインコンソール)、クリエイトルーム、消化槽はそれに含まれないけど、それぞれ一室しか作れないよ」


 ヨルくんがそう言うと、このダンジョンの全体地図らしきものが表示されました。


「現在ある魅了エリアはレベルが上がるまで作り直すことができないから、変更するときは注意してね」


「むむむ。おうちを改築するみたいですね……」


 この洞窟は、途中で消化槽に繋がる区画がある以外は基本的に一本道です。

 ヨルくんの画面に触れると、空きエリアに新たな区画を新設できるようでした。


「設定すれば魔力を消費して、ダンジョンが自動的に変化するよ。変化が完了するのには一日ぐらいかかるよ」


 ふんふん。

 猪さんと戦う前にヨルくんも言っていましたが、事前準備が大事ってことですねー。

 画面の一部をタッチすると、そこにいくつかの洞窟の風景が表示されます。

 おそらく右下に書かれている92/100というやつが魔力なのでしょうか。


「設定するエリアの種類はいくつかのパターンから選んでね。それに合った素材が設定されるよ」


 そこには3種類のエリア名が表示されました。『岩壁』、『土壁』、そして――」


「これは――!」


 わたしはそこに書かれた3つ目の名称をタッチします。

 画面には、水が流れる通路が表示されました。


「それは『地下水路』だよラティ。自由に水の流れを設定できるよ」


「この部屋を作りましょう!」


 わたしは早速、『モデリング』を開始するのでした。



   ☆



 次の日。

 ゴゴゴゴ、と大きな音がしたかと思うと水晶の広間の壁の一部がガラガラと崩れ落ちました。


「――出来た!?」


 わたしはそれに呼応するように立ち上がります。

 新たに出来た隣の部屋へと駆けていくと、そこには壁で仕切られた大きな白い部屋がありました。

 ちょろちょろと水の流れる音がしていて、若干のひんやりとした空気を感じます。


「ふふふ……うふふふ……!」


 中を見て、思わず気持ち悪い声が漏れました。


「……トイレ・バス・キッチン! お洗濯もできますよー!」


 その部屋は全て滑らかな石で出来ていました。まるで大理石のようです。

 魔力を放つヒカリゴケの力で照らされたその部屋は、ピカピカな貴族の豪邸をイメージして設計しました。


「なんとー! 凄いな、ラティ! ……めっちゃすごい! 超すごいぞ!」


 その様子を見たミアちゃんが声をあげます。

 語彙力がないです。


「ふふふ……! もっと褒めてください……! モデリングを頑張った成果です……!」


 昨日は『地下水路』エリアで水場を作り込んでいました。

 残念ながらエリアのモデリング機能では、最小で手のひらぐらいのサイズまでしか細かくは設計はできないようです。

 それ以上はクリエイトルームで、物を作る必要があるとのこと。


 しかしそれでも制御室のすぐ横にトイレとお風呂、そしてキッチンが出来たことで、このダンジョンは大変住みよくなったことでしょう。


(ちべ)たー!」


 ぽちゃん、と広く作ったお風呂の中にミアちゃんが入っています。

 沸かす施設はありませんが、水浴び程度なら出来るはずです。


「こらこら、服を着たままだと風邪をひきますよー」


 わたしは彼女に声をかけつつ、思った以上によくできた台所を眺めます。

 あとは木材で食器なんかをいろいろ作れば、まるで町中のような文化的な暮らしができるはずです。


「……そうそう、グラニさんの水浴び場も用意しておいたんです」


 わたしの声にグラニさんは口元に前足を当てると、息を絞るような声を漏らしました。


「わぁ……! 自分のことまで考えてくれるなんて……! 感激ッス……!」


 たったったっ、とグラニさんは駆けていき、作っておいた底の浅いプールへと入りました。

 バシャン、と音を立ててそこに入ると、ゴロゴロと背中を水底にこすりつけます。


「いや~気持ちいいッスよ、これ! まあ自分は普通の人間さんのお風呂サイズでも大丈夫でしたけど!」


 一言多いです。

 まあグラニさん、普通に体が大きいし結構器用ですからね。

 それでもせっかく作った物を使おうとしてくれる心意気は、素直に嬉しいです。


「……よーし、この調子でどんどんダンジョンをレベルアップして、快適なダンジョンにしちゃいますよー!」


「おー!」


 わたしの言葉にミアちゃんとグラニさんが両手を上げ賛同してくれました。

 目指せ、貴族もびっくりな快適ダンジョン生活!

 そんな未来を思うと、なんだかワクワクしてくるのでした。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


自走要塞ヨルムンガルド

レベル2


クリエイト

『水』『でんぷん粉』『繊維』

『油』『塩』『木材』


エリア

『岩壁』『土壁』『地下水路』

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