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異世界論破! ~魔法も奇跡も認めませんっ~  作者: 南野 雪花
第7章 ~露呈する弱点~
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5


「うえ!? だれっ!? なに!? 何がどうなってるのっ!?」

 混乱のあまり、変な踊りをおどりだすナナ。

 変な呪文を唱え続ける北斗をひっつかせたまま。

 なんだこの絵図ってシーンである。

『……声のみでの拝謁、失礼いたしますわ。アルテミシア女王陛下』

 他方、アリーシアの方はなんとか精神的な再建を果たし、やや震えてはいるものの、意味のある言葉を発すること成功した。

『初めましてね。聖賢の姫君(セージプリンセス)。貴女には会ってみたいと長いこと思っていたのよ』

 笑みを含んだ声。

 コーヴとナウスとアトルー。

 遠く離れた場所にいる三人の少女は、互いがどんな顔で話しているのか知る由もない。

 しかしナナには、緊張した面持ちのアリーシアと、ゆったりとした笑みを浮かべるアルテミシアが想像できた。

『まずは状況を説明させてちょうだい。搦め手を使って、あなた達の秘密兵器を手に入れたわ』

『陛下が会話に参加していることに(かんが)みても、そういうことなのでしょうね』

『謝罪はしないわよ? これも兵法だもの』

『こちらが不覚を取っただけというお話ですわ。謝ったり謝られたりするようなことでもないでしょうね』

 白刃を打ち交わすような会話だ。

 ナナは胃のあたりが痛くなってきた。

 政治のことなんかさっぱり判らないし、できれば関わりたくないと思っている剣の舞姫(ソードダンサー)としては、聖賢の姫君(セージプリンセス)救世の女王(セイビアクイーン)の中間地点に位置するなど、かなり勢いで勘弁してほしい。

 むしろとっとと風話を終えてしまいたい。

 ぶちっと切ってしまいたい。

 しかし、そういうわけにもいかないのである。

「あのねあのねっ 用事があったから風話したのっ わたしの手に負えないから知恵を貸してっ」

 とにかく、用件を話して終わらせよう。

 政治的なやりとりは、自分のいないところで思う存分やればいい。

 という意思を全身に込めて、ナナが発言する。

『私は退室する?』

『けっこうですわ。陛下。風話を聴いていないという確証が得られない以上、聴かれているものとして考えるしかありませんもの』

『あら? 一国の女王が盗み聞きをすると?』

『そうは申しませんわ。ただ、しないという確証がないと申し上げているだけですわ』

『言うじゃない。私の言葉だけじゃ信用できないってことでしょ?』

『逆に、陛下は妾の言葉を信用するのか、という質問をお返しいたしますわ』

 互いにしゃらくさい口を叩き合う。

 きっとどっちもすげー意地悪そうな顔をしてやがる。

 何の根拠もなく確信するナナ。

「いいから聞けっ! どっちのシアちゃんもっ!」

 怒った。

 ナナさんぶち切れです。

 陰険漫才をして遊んでいる余裕はないのだ。

『あ、はい。承知いたしましたわ』

『う、うん。ごめん』

 あまりの剣幕にふたりがたじろぐ。

不死の王(ノーライフキング)が出たらしいの! それがモンスター襲撃の原因かもしれないの! なんとかしなきゃいけないけど、ホクトがおはけ怖いってぶるっちゃって使い物にならないの! だからなんか違う手考えて! 以上!!」

 一気に言い切って、一方的に風話を終える。

「あの……ナナ……べつにぶるってない……」

「あぁん?」

「あ、いえ……すんません……」

 微弱な反抗をしようとする北斗だったが、一睨みで沈黙させられた。

「私だってねっ 自分の亭主がおばけにびびってるなんて言いたくないんだからね!」

 ルーンの聖騎士(ルーンナイト)の後継者と呼ばれる男の弱点がおばけ。

 きっとアトルーとコーヴでは、姫君と女王が大笑いしていることだろう。

 ナナさん情けなくて涙でそうである。




「あんたたちは、貴族を潰し、豪商たちを追い払う。それで自分たちは正義だと主張する」

 ティアロットが吐き捨てた。

 赤い瞳に灯るのは怒りの炎だ。

 貴族は権力を独占し、民から搾取し、我が世の春を謳歌する。

 豪商たちは富を独占し、民をこき使い、贅沢な生活を続ける。

 それはたしかに事実だろう。

 どこまでいっても民は弱者。

 搾り取られ、使い潰されるだけの存在だ。

 では貴族や豪商を滅ぼして、世界は豊かになるのか。

 否だ。

 社会という構造そのものが、強者と弱者を作るようにできている。

「あんたたちは、奴らのかわりに自分たちが支配者になっただけ。けど、それが悪いっていってんじゃない。チカラのない支配者が打倒されるのは当たり前だし、チカラのある者に取って代わられるのも当然だからね」

「ふむ。それは道理だな。ではティアロット。私たちの何が許せないのかね?」

 狭い牢屋。

 粗末なベッドに腰掛けたふたり。

 正面から向き合い、視線を絡ませる。

「あんたたちは奴隷を量産している」

「いや。私たちは奴隷解放、獣人や亜人に平等を、というのを旗印にしているが」

「身分の話じゃない。あんたたちの作っているのは、精神的な奴隷だよ」

 豪商たちを逐い、貴族を逐い、平等で開かれた社会を与えられた(・・・・・)人々。

 何の努力もなく、何の苦労もなく。

 ただ豊かさを与えられる。

 それは人々から思考する力を奪う。

 何が正しいのか、どうすればより豊かな生活ができるのが、何を変えていけばみんなが幸福になれるのか。

 全部、上が考えてくれる。

 それはまさに奴隷。

 アトルワが作ってきたのは、奴隷が暮らしやすい街。

 何も考えなくていい、ただ上に従っていれば、豊かさを享受できる、グロテスクな桃源郷だ。

「ほう?」

 じつに面白そうに目を細めるセラフィン。

 ティアロットと名乗った少女の論法に興味を惹かれた。

「だから君は、私たちを排除しようとしたわけか。そのあたりはよく判らないな。私たちがいなくなれば、君の理想に近づくのかね?」

「そんなわけないだろ。あたしが城を攻撃したのは、単にそういう仕事だったからだよ。報酬を受け取って仕事をしただけさ」

 ただ、嫌いな奴をやっつけるという点で利害が一致した。

 それだけの話だ。

「それで私たちがガゾールトから撤退した場合、この地は無政府状態になってしまうのではないか?」

「だろうね」

「統べる者がいなくなれば、街道の補修もきかない、橋が落ちても直せない、街の治安も維持できない、モンスターの襲撃にも対応できない。よほどひどい状況になってしまうと思うのだがな」

「自分たちでやればいいのさ。みんなで金を出し合い、みんなで知恵を出し合い、みんなで力を合わせて、自分たちの街を運営していけばいいんだよ。誰かにやってもらう必要なんかない」

 支配者に与えてもらうのではなく、自分たちのことは自分たちで責任を持つ。

 さすがに全員でというのは効率が悪くなりすぎるため、代表者を選ぶことになるだろう。住民の総意に基づいて。

 ちなみに、みんなで金を出し合い、というのは、本来の税の形である。

 役人や領主の懐を潤すために、税というのはあるわけではない。

 社会を運営するため、社会を構成する人々が負担する会費なのだ。

 それは民主主義というものの最も根底にある考え。

 もちろんセラフィンはそんな思想を知らない。

「面白いな。君はよほどの智者のようだ」

「褒めているのかい?」

「ああ。そして智者というのは、ときとして同じ橋を渡るのだな。君の言っていることは、アトルーで採用された代表者会議に似ている」

「なんだって?」

 目を丸くするティアロット。

 セラフィンが説明したのは、聖賢の姫君(セージプリンセス)が導入したアトルワの政治形態だ。

 各部族の代表、商人の代表、軍人の代表、住民の代表、そういった者たちによって議題が持ち寄られ、領地の運営方針が定められてゆく。

 さらに、巡察使を設けて、民草の声を政治に反映させる。

「君は在野にありながら、アリーシア姫やホクトと同じ次元でものが見えているようだ。正直、驚いたよ」

 セラフィンの言葉に、ティアロットが深沈と考え込んだ。



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