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異世界論破! ~魔法も奇跡も認めませんっ~  作者: 南野 雪花
第6章 ~手にしたのは剣だから~
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 ルーン国内においてモンスターの襲撃が頻発したのは、豊作と減税によって村々の備蓄が増大したためである。

 その見解は事実から大きく外れていなかったし、主原因であるということに間違いはない。

「そうか。そういうことだったのか……」

 カイが呟く。

 目の前に広がる光景に慄然としながら。

 郡都ナウスから東に四日ほど。モンスターの襲撃によって住民すべてが殺されたという村を訪れた。

 一人も生き残っていないなら、モンスターはどこかへ移動している。

 エサのなくなった場所に居座り続けても意味がないからだ。

 しかし、いた。

 命の気配がなくなった村を、ゆらゆらと歩く人影。

 生きている人間ではない。

 落ちくぼんだ目、だらりと垂れた両腕、蛆が湧き、腐りかけた全身。

 それは、リビングデッドやゾンビなどと呼ばれるもの。

 目的もなく、かつて村だった場所を歩き回っている。

 まるで土地全体が瘴気(しょうき)で覆われているかのようだ。

 このようなものを作り出す事のできる存在を、彼は知っている。

不死の王(ノーライフキング)……」

 それは、アンデッドモンスターを統べるもの。

 繋がった。

 モンスターたちは豊作だった村の備蓄を狙った。それはたしかに事実である。では、どうしてそんなに活性化したのか。

 簡単な理屈だ。奴らは住処を逐われたのだ。

 不死の王の軍勢によって。

 食料とねぐらを求め、他のモンスターのナワバリを荒らす。

 当然、そこで争いが起きる。

 敗れたものは人間を襲う。

 あるいは吸収され、より強固な集団となって、人間の村を襲う。

 一連の動きは、ここに端を発していた。

「この村より東は、だめかもしれねえな……」

 思い出す。

 ルーンに救援要請のあった貴族領を。

 ガゾールト以北の領地からはなかった。当たり前だ。そこはもうアトルワの勢力圏なのだから。

 では、ガゾールト以東は?

 脳裏に地図を浮かべる。

 アンバー子爵領とイロウナト侯爵領。あとは直轄地だけ。

 いずれも救援要請は出ていない。

 否、出ていないのではない。

 出せなかったと見るべきだろう。

「こいつは……俺一人の手には余るな……」

 預かった兵たちに素早く後退を命じる。

 不死の眷属は、通常の武器で倒しきることができない。

 聖別された武器や、魔力付与(エンチャント)された武器でないと、致命傷を与えられないのだ。

 もちろん全身をバラバラに刻んでしまえば、それ以上動くことはできないだろうが、そんな倒し方では時間がかかりすぎる。

 そしてゾンビ相手に時間をかけるというのは、足止めされているのと同義だ。

 こんな連中と通常装備で戦うのは愚策である。

 するすると退却してゆくカイ隊。

 一言も口を開かず、死者の国となった村から。




 襲撃はあった。

 リキ、カイ、ミシディアが出撃した四日後のことである。

 深夜、ものすごい大音響で飛び起きた北斗は、まず我が目を疑った。

 寝室の窓から見えた光景に。

「なんだありゃあ……」

 市街地の方から、一直線に城を目指してばく進してくる物体。

 石畳を蹴散らし、月光に照らされ。

 造型としては人に近い。

 ただ、五メートルを超えるような身長を持った人間は、そう滅多にいないだろう。

 足は短く、腕は巨木の幹のよう太い。

 そして頭に当たる部分には口も鼻もなく、黄色い光を放つ両眼だけがついている。

「ロボット……?」

「なにそれ?」

「機械人形っていうか、人型の兵器っていうか」

 ナナに説明しようとして、ううむと唸る北斗。

 一九七二年の日本にも、いちおうはロボットアニメくらいはあった。

 超合金Zの装甲をもち、光子力とやらで動くスーパーロボットも、一九七二年の十月に完成したらしい。

 残念ながら、それより数ヶ月前に死んだ北斗は知らないが。

 まあ、仮に放送時に生きていたとしても番組を視聴することはなかっただろう。

 当時の日本は、大人と子供の線引きが平成の時代よりずっとずっと明確で、とくに趣味の分野に色濃くあらわれた。

 高校生にもなってアニメなどを見ていたら、笑われるくらいでは済まず、親が心配して病院に連れて行くような時代である。

「ゴーレムだな。ずいぶんと懐かしい」

 北斗とナナの間に、にゅっと顔を入れたのはセラフィンだ。

 隣室から駆けつけたらしい。

 ゆったりとした夜着が、そこはかとない色香を醸し出す。

 なんというか、まったくなにも隠していないナナにも見習って欲しいくらいだ。恥じらいとか、そういうやつを。

「知ってるのか? セラ」

 年上の女性(ひと)の艶姿から視線を逸らし、北斗が問いかける。

「ああ。まだあんなものが残っていたのだな」

「生物なのか?」

「人形だよ。生命体ではない」

 かつて、セラフィンたちがルーンを建国する前には、わりと頻繁に見かけた。

 魔力によって動き、人間に数十倍する力を持った人形。

 農耕などにも使われたが、主たる目的はそれではない。

 兵器である。

 操縦者の思うがままに動く巨人。

 痛覚もなく、壊れたところで作り直せば良いだけ。

 太古の戦争では、ゴーレムが何体も戦場に投入された。

 しかし、ルーン建国後に設立された魔術師協会によって、ゴーレムの精製技術は禁呪扱いとなり、厳重に封印された。

 うまく使えば便利な力。だがそれは、戦禍の拡大と悪用を招くだけだったからである。

 以来三百年。

 ほとんどの人は、ゴーレムなどという言葉すら忘れ去った。

「ようするに誰かがコントロールしてるってことか。鉄人みてーだな」

「鉄ではなく石だがな。主な成分は」

「いや、成分の話ではなくて」

 苦笑する北斗。

 彼の知っているモノは、コントローラーを誰が使うかで善にも悪にもなった。

 本体には意志がなく、ただ圧倒的な力があるだけ。

「どんどん近づいてくるよー 狙いはやっぱりこのお城っぽい」

 ナナが指摘する。

 すでに服を着こみ、戦闘準備完了といった風情だ。

「まあ、ほっといたら城が壊されちまうしな。迎撃すんぞ!」

 夜着のまま愛剣だけを引っ提げ、北斗が窓枠を蹴って飛び出す。

 自由落下、に見えた瞬間、後を追って跳んだナナが肩を組んで速度を殺す。

 絶妙のコンビプレイで屋根から屋根へと渡ってゆく二人。

「元気なことだ。これが若さというものか」

 苦笑したセラフィン。

 彼女もまた宙に身を躍らせる。

 風の力をまとって。

 一緒に飛ばなかったのは、屁理屈バリアで無効化されてはたまらないからだ。

 やがて三人は城門の前に到着する。

 外からやたらと景気のいい音が聞こえる。おそらくゴーレムがぼっこぼこに城門を殴りつけているのだろう。

 このままでは遠からず城門が破られてしまう。

 右往左往する夜番の兵たちに、北斗が門を開くよう命じた。

 城内には寝ている人だって多いのだ。

「安眠妨害だし、門を壊されちまうと、さすがに修繕費で泣きたくなるしな」

 下手な冗談を飛ばして唇を歪める北斗。

 ゆっくりと門が開いてゆく。

 それは、まったく格好良くなかった。

 まず足が短すぎる。

 腕も長すぎて、造形的には人間というよりゴリラのようだ。

「観念して出てきたか! 魔法使い殺し!!」

 ゴーレムの背後から響く威勢の良い声。

 姿は見えない。

 姿隠し(インビジブル)の魔法だろうか。セラフィンが目を細めるが、まったくそんな必要はなかった。

 ゴーレムのぶっとい足に隠れるようにして、少女が立っているのを発見した。

「小さすぎて気付かなかった……」

 そりゃあ全長五メートルもあるような巨人の後ろにいたら、小学校低学年くらいの女の子など、普通に隠れてしまう。

 べつにセラフィンの感想は奇をてらったものではないし、相手を馬鹿にしたわけでもない。

 なのに、少女は激昂した。

「誰がチビだこのやろーっ!!」

 地団駄を踏んでいる。

 とんがり帽子にローブをまとい、ねじくれた杖をかざし。

 えらく古風な魔法使いスタイル。

「魔法使い殺し! このあたしの縄張り(シマ)で好き勝手しやがって!!」

 なんか怒ってるらしい。

 迫力がないことおびただしいが、敵対する意志が明白な以上、放置することもできない。

 ため息混じりに北斗が進み出る。

 影のように付き従うナナ。

 無言のコンビネーションだ。少年の突進と同時に、キャットピープルの爪が愉快な客人を切り裂くだろう。

「いけ! ナイトホーク三号! 蹴散らしちゃえ!!」

 えらく格好いい名前で呼ばれた不格好なストーンゴーレムが、ヴォォォンという唸りをあげて両腕を振り上げた。

 


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