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異世界論破! ~魔法も奇跡も認めませんっ~  作者: 南野 雪花
第6章 ~手にしたのは剣だから~
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「指揮官を狙え!!」

 ガゾールト軍の後背で反転したアトルワ軍。

 北斗が叫ぶ。

 数で勝る方に冷静な判断をさせないためには、頭を潰すのが最も効率が良い。

 血に飢えた獣のように、無防備な背後に襲いかかる兵士たち。

 戦場の各所に赤い花が咲き、命が散ってゆく。

『ユウより。敵騎士撃破。次の獲物を狩る。どうぞ』

『エナより本隊。右翼部隊の足止めを開始するわよ。どうぞ』

『こちらマルコー。魔法騎士を一名撃破。どうぞ』

 北斗の耳に次々と状況が飛び込んでくる。

 風話装置を通して。

 周波数(バンド)がひとつのため、所持している全員に同時に声が届くのだ。

 このあたりはトランシーバーと同じである。

 電話のように一対一での通話ではなく、オープンでの会話となる。

『ライン。敵の抵抗が思ったより激しい。おそらく本隊と思われる。来援を乞う。どうぞ』

 そのため、誰からの通信であるかを最初に告げる、というのが徹底された。

 こうしないと、声質が似ていたりすると混乱してしまうのである。

『シズリスより各員。ラインの来援には北斗隊が向かえ。その他は現状維持。敵指揮官を各個に撃破せよ。以上』

『了解!!』

 各部隊長の耳に、僚友たちの声が響く。

 みるみるうちにガゾールト軍が崩されてゆく。

 ある意味で当然の帰結である。

 アトルワ軍は情報伝達という点において、著しい優位性をもっているからだ。

 ガゾールト軍の伝令兵たちがいくら必死に走っても、伝わる頃には戦況が変化している。

 むしろ、伝令が走ったことすら、アトルワ軍に利用される。

 どこが有利でどこが不利なのか、彼らは音声によって常に情報を共有できるから。

「ばかな……こんなばかなことが……」

 刻一刻と変わりゆく戦況に、ガゾールト伯爵が呻いた。

 ありえない。

 どうして半分しかいない敵に圧倒されるのか。

 仮にアトルワ軍が百戦錬磨の強者ぞろいだとしても、である。

 彼は知らない。

 これがルーンの歴史上、はじめて情報の即時伝達が使用された戦いであることを。

 もちろん知っていたとしても、それを喜ぶ気分にはなれなかっただろう。

 王国軍のイスカあたりであれば、ご愁傷様といって笑ったろうか。

「降伏しろ。ガゾールト伯爵」

 降りかかる声。

 視線を転じれば、騎乗もせず徒歩の剣士が立っていた。

 黒髪の。

 右手に提げたのは双竜剣。

「ルーンナイトの後継者……っ!?」

 激した伯爵が愛馬に拍車をくれ、猛然と襲いかかる。

 こいつだ。

 なにもかもこいつが悪い。

 この男がアトルワに流れ着いてから、ルーンはおかしくなってしまった。

 女王は世迷い言を口走り、平民どもは貴族に対して要求などするようになり、奴隷どもまで騒がしい。

「なにもかも貴様の責任だ! 小僧!!」

 迫る馬蹄。

 半歩だけ右に動いた少年が、くるりと横回転しながら馬の足を斬る。

 哀しげないななきとともに横転する軍馬から伯爵が投げ出された。

 無様に地面に落ちる。

「降伏しろ。伯爵。もう勝ち目がないことくらい判るだろう」

「ふざけるな……魔力ももたぬ下賤(げせん)の輩が……」

 よろよろと立ちあがった。

 右腕は折れたのだろう。変な方向に曲がっているし、額からもだらだらと血が流れている。

 それでもガゾールトは戦意を失わない。

 血走った目で北斗を睨みつける。

「名誉ある王国貴族が賤民ごときに膝を折るか!!」

 左腕をかざす。

 灯る魔力光。

 虚空を貫いて放たれる。

 最も基本的な攻撃魔法、魔力弾(マジックミサイル)である。

 ただ単に魔力の塊をぶつけるというだけの魔法であるが、誘導性をもっており、回避は困難だ。

 不規則な軌道を描きながら高速で迫るそ魔力弾に、北斗はにやりと笑う。

「いままで見てきたインチキの中じゃ、一番マシなインチキだな」

 よくわからないエネルギーの塊を飛ばす。

 突如として炎や氷を出すよりは、多少はマシだ。

「けど、インチキはインチキだよ。それはなんだ? 何でできている? 組成をいってみろ」

 ただの一言で砕け散るマジックミサイル。

 伯爵の顔が引きつり、尻餅をつく。

 魔法使い殺し(ウィザードキラー)

 すべての魔法を否定する力。

「ひ……」

 なんだかよく判らないお経を唱えたら(詠唱したら)光る球ができました。

 それがふわふわ飛んで敵に向かいます。

「ねえから。そんな話」

 歩を進めながら笑いかける。

 彼は剣士だ。

 気力とか気迫とか、そういうものを否定するつもりはない。

 しかし、それらは自分の内において作用する類のものだ。

 魔力でも気功でもなんでもいいが、それが目に見える形で出現するはずがない。

 まして、重力に逆らって飛び、敵を追いかけて行くなど。

「ば、ばけもの……」

「魔法とかいうインチキで人を支配するような連中にいわれてもなぁ」

 尻餅をつき、ずるずると後退する伯爵にすいと剣を突きつける。

「三回目の勧告だ。降伏しろ。ガゾールト伯爵」

 静かな声。

 周囲には戦場の喧噪が満ちているのに、鋭く響く。

 わざわざ回数を述べたのは、最後通告という意味だ。

 これを拒絶したらどうなるか、いかに鈍な者でも理解できるだろう。

 伯爵は理解した。

 理解したが、頷くことはできなかった。

 貴族が平民に命乞いをするなど、絶対にない。

「……斬れ」

 完全に据わった目で北斗を見ながら言い放つ。

「……そうか。残念だ」

 次の瞬間。双竜剣が伯爵の肩の高さで移動した。

 水平に。

 滑稽なほど軽い音を立てて高貴なる首が地面に落ちる。

 噴水のように、鮮血が吹き上がった。




「陛下」

 緊張した面持ちで執務室に入ってきたシルヴァが声をかける。

 読んでいた書類から顔を上げるアルテミシア。

「凶報?」

「いえ……ですが、意外極まる報告ではあるかと。ガゾールトがアトルワと戦端を開き、敗れました」

 何ともいえない表情で、事実のみを伝える。

 ふうと女王が息を吐いた。

「ごめん。もう一回いって」

「ガゾールトがアトルワと戦端を開き、敗れました」

 シルヴァが正確に繰り返す。

「私の聞き間違いじゃなかったみたいね……」

 額に手を当てて首を振る。

 ガゾールトが攻め込んだことに驚いたのではない。

 アトルワが勝ったことに驚いたのでもない。

 どちらも充分に予測されていたことだ。

 ゆえに、もしシルヴァの報告が、ガゾールトが攻め入ったが戦況はアトルワ有利に推移している、というものだったらアルテミシアは顔すら上げなかったかもしれない。

 問題は、すでに(・・・)アトルワが勝利したという点である。

「両軍の布陣から、半刻ほどで勝敗は決した由にございます」

「なにそのいかれた数字は……」

「付け加えますと、ガゾールトは五千余を動員し、アトルワの数は三千に届かなかったとの報告です」

「何があったのよ……」

 異常すぎる。

 五千と三千がぶつかれば、普通は前者が勝つ。

 だが、後者が勝利するという可能性もまた否定できない。

 二倍近い兵力差をひっくり返すのは容易ではないが、アトルワはそういう戦いを経験している。

 その点では一日の長があるだろう。

 だが、決着までの時間が短すぎるのだ。

 千を超える大軍が(しのぎ)を削る戦場である。

 さすがに攻城戦のように一月二月というスパンはないだろうが、十日くらいは普通にかかる。

「なにか、想像を絶する新兵器でも使われたとか?」

「そんなものは存在しませんよ。あるとしたらアキリウ平定戦に使っているでしょう」

「となれば、想像を絶していたのは戦法ってことね」

「御意」

 なにか、短期間で多数を打ち破れるような戦術を、アトルワは生み出したのだ。

 由々しき事態だといって良いだろう。

 多数の敵というのは、そのままルーン王国に敷衍(ふえん)できるのだから。

「軍議を開くわ。四翼を集めてちょうだい」

 真剣な顔でアルテミシアが命じる。

 うやうやしく、制服の宰相が頭をさげた。


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