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異世界論破! ~魔法も奇跡も認めませんっ~  作者: 南野 雪花
第5章 ~解放者と改革者~
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「おそらくガゾールトが動くわ」

 久しぶりに参集した四翼を前に、アルテミシアが口を開く。

 謁見の間ではなく、いつもの執務室である。

 普段と異なる点があるとすれば、きれいに整理整頓されている、ということだろうか。

 救世の女王が実権を握って、たぶん初めての珍事だ。

 入室したライザックが部屋を間違えたかと思い、いちど廊下に出てプレートを確認したくらいである。

「アトルワではなく、ガゾールトが動きますかい? 陛下」

 雄偉な肉体をなんとはなしに前後に揺すりながら、訊ねる赤のヒューゴ。

 アルテミシアが軽く頷く。

「そう仕掛けたのか? イスカ」

「いんにゃ。俺はなんもしてねえよ。わりとすぐに手を引いたしな」

 白のウズベルの問いに、黒のイスカが答えた。

 アトルワに潜入して情報を集めていたイスカだったが、思わぬ収穫があったことで、長期間の諜報はおこなわなかった。

 なんと彼は、新生アトルワの幹部との接触に成功したのである。

 魔法使い殺し(ウィザードキラー)剣の舞姫(ソードダンサー)

 ルーンナイトの後継者とか、獣神キリの末裔とか噂される人物たちの知己を得て、その為人(ひととなり)を知った。

 まずはこの情報を持ち帰らなくてはならない。

 ルーンに伝えることなく死ぬことは絶対に許されないほど、それは重要な情報である。

 ゆえに、当初予定していたガゾールトをけしかける計画は中断された。

「だが、ガゾールトが動くと、陛下はおっしゃいますか」

 ウズベルが腕を組む。

 同僚の話を聞くかぎり、ガゾールト伯爵領が動く要素はないように思えた。

「そうねえ。ヒントとしてはモンスターの動向かしら」

「ガゾールトからの救援要請はなかったがな」

 首をかしげるのは青のライザックである。

 彼らはルーン中を転戦したが、ガゾールト伯爵領からの救援要請は受領していない。

 それは、襲撃がなかったからなのか、それとも自分たちで対処できたからなのか。

「前者だとすれば力を充分に蓄えています。一連の騒ぎで弱ったであろうアトルワをねじ伏せられる、と思いこめるていどには」

 六人目の人物の声が響き、十本の視線が戸口にたつ人物に注がれた。

 制服の宰相(ユニフォームプリミア)シルヴァである。

 彼の後ろには、軽食とお茶をのせたワゴンを押す太った女性が控えていた。

「せっかくなんで、みんなとお茶しながら話そうと思ってね」

 片目をつむる女王。

 メイリーがそれぞれの前にカップを置いてゆく。

 会議というより座談会のような雰囲気が漂う。

 軽食をつまみ、ほうと息を吐いたのは三人。ライザック、イスカ、ヒューゴである。

 彼らはメイリーの名人芸を初めて堪能する。

 薄切りのパンに、薫製肉とチーズをのせて香ばしく炙ったもの。

 シンプルな料理だが、使用されているトマトを使ったと思われる赤いソースが絶品だ。

 チーズ、パン、薫製肉、ソース。

 どれかひとつが欠けてもこの味わいは出せないだろう。

 互いが補い合い、高めあっている。

 さながらルーンの四翼のように。

「いつもながら見事ね。メイリー。やっぱりこの四人をイメージしたの?」

「どうでしょうか? わたくしなどの浅知恵で、将軍さまたちの紐帯をはかれようはずもありません」

 女王の言葉に秘書が微笑した。

 そしてそれ以上は何も言わない。

 解釈はご自由に、といういつものスタンス。

 彼女は政治にはいっさい口を出さない。ただ、どういうわけか、メイリーの料理にメッセージを感じてしまう。

 こほんと咳払いするシルヴァ。

「反対に、壊滅的な損害を被っていた場合、領民たちの目をそらす必要があります。アトルワという敵を与えることで」

 話題が戻る。

 一礼してメイリーが退室する。

 男たちの表情もまた、真剣なものに戻った。

「前者は戦を仕掛ける根拠として薄すぎるな。ガゾールト伯爵がそこまで好戦的な御仁だという話も、聞いたことがない」

「となると後者。失政から目を逸らすための戦ということになるな」

 ライザックとイスカが視線を交わす。

 ガゾールトだけモンスターの活動期がなかった、などということはあるまい。

 襲撃はあり、伯爵軍は適正に対処できなかった。

 戦って勝てなかった、というのであれば、戦をする体力など残っていないだろうから、出し惜しみした結果として民草に大きな犠牲が出た、というあたりだろうか。

「愚行の失点を取り戻そうと、さらなる愚行を繰り返す。救われないことではあるね」

 肩をすくめるウズベル。

 最初から私兵を動かしてモンスター討伐をおこなえば良かったのだ。手が足りなければ、王国に助けを求めるとか、方法はいくらでもあったのに。

 モンスターと戦うのはダメで、アトルワと戦うのは良し、などという理屈は成立しない。

 付き合わされる兵たちこそ、良い面の皮というべきだろう。

「ガゾールト界隈が荒れそうですなぁ」

 面倒なことで、と、ヒューゴが笑った。

 ルーンとしては、ガゾールトとアトルワが共倒れになったところで、べつに痛痒を感じない。

 感じないが、周辺地域があまり荒廃するのも良くはないのだ。

 いつかもシルヴァが言ったが、アトルワはコントロール可能な敵であることが肝要なのである。 

「俺の軍で平定するか?」

「最強騎士団を動かすような案件じゃないだろ。俺がいくさ」

「異称は関係ないと思うがな」

「大仰な名前が付いちまうと大変だなぁ。ライザック卿」

「自分が戦いたいだけじゃないか? ヒューゴ卿」

 青と赤が揉めている。

 好戦的な野郎どもである。

「はいはい。どっちも動かさないわよ」

 呆れたように、ぱんぱんと手を拍つアルテミシアであった。




 布告があった。

 ルーン王国はガゾールト伯爵の行動を是としない、という内容の。

 タイミング的には、かなり絶妙だった。

 そもそもの発端は、ガゾールトから新生アトルワに、資金と糧食の貸し付けが要請されたことである。

 非常に高圧的な内容で、貸してくれというより、よこせという言っているような要請だった。

 ガゾールトとアトルワは陣営を異にしているので、当然のように拒否する。

 むしろ拒否させるために高圧的な文書を送りつけた。

 人道に基づいた援助などされても、上がるのはアリーシアの名声だけだからだ。

 ともあれ、拒否されたことを不服として、ガゾールトは戦の準備を始めた。

 無茶苦茶である。

 銭を貸せ、飯を貸せと要求して、断られたら殴りつけようとする。

 そんな外交があるか、という話だが、じつのところこれは珍しくもなんともない。

 現代日本を取り巻く外交関係でも、いくらでも例がある。

 そうなることが最初から判っていたアトルワは、余裕を持って迎撃準備にはいった。

 モンスターへの対応が一段落した時点で、アリーシアはガゾールトが取ってくる政略の予測を立てており、着々と準備していたのである。

 このまま事態が進めば、アトルワは旧バドス領とガゾールト伯爵領の境界線あたりで一戦交え、軽く捻った後に多額の賠償をガゾールトに要求したことだろう。

 しかし、それより手前の地点、実際の戦端が開かれるより前に、ルーン王国に布告を打たれてしまった。

「最悪ですわ。これでガゾールトは死兵にならざるをえません」

 布告文に目を通したアリーシアがげっそりと呟く。

 ガゾールト伯爵はバックボーンを失った。

 彼らはアトルワと死ぬまで殴り合いたいわけではない。一戦して勝利し、賠償として金と糧食を奪い取りたいだけ。

 それがガゾールトの計算だろう。

 だが、ルーン王国という後ろ盾が、彼の行動を否定してしまった。

 これでは勝ったとしても、賠償など要求できない。

 徹底的に戦いアトルワの深部まで侵攻して、豊潤な肉体を貪るしか生き残る道がなくなってしまったのである。

「会ったことはもちろんないのだけれど、アルテミシア女王って、ぜったい性格が悪いと思いますわ」



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