表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界論破! ~魔法も奇跡も認めませんっ~  作者: 南野 雪花
第4章 ~聖賢の姫君と救世の女王~
31/102

1


 真昼の街道。

 曇天の下、郡都リューズの城門へと近づいてゆく旅人。

 三人だ。

 男性が一人と女性が二人。

 軽装のクロースアーマーをまとい、男は腰に剣を()き、女の一人は弓を携えている。

 それだけならべつになんということはない。

 冒険者か傭兵か。

 しかし、人間とエルフと獣人という取り合わせであれば話は別だ。

 物珍しいどころの騒ぎではないだろう。

 城壁に詰めているアキリウ兵たちが息を呑んで見つめる。

 彼らがバドス・アトルワ連合軍に与する者なのは疑いない。ただ、その意図が見えないのだ。

 たった三人で何をするつもりか。

 そのとき、空に彼らの姿が大写しになる。

 エルフの使う精霊魔法だ。

 光の屈折率に働きかけ、大気そのものをスクリーンにしているらしい。

 仏頂面の北斗だが、屁理屈をこねようとはしなかった。

 すべて納得できたわけではないが、ようするに映画のようなものだと思いこむことにしたようだ。

 まあ、何もないところに火や氷などを出すよりはマシである。

 あいかわらず良く判らないファウルラインだった。

 大気スクリーンの中、大きく北斗が口を開く。

 さすがに音声までは拡大できないので、大声をあげなくてはいけないのだ。

「降伏しろ!」

 飛び出した言葉は、それほど奇をてらったものではなかった。

 むしろ当然の降伏勧告だ。

 もはやアキリウ子爵軍に勝ちの目はない。

 主力部隊は惨敗して散り散りになり、城にあるのはわずかな守備兵と敗残兵のみ。

 補給線は断たれ、どこからも援軍はこない。

 もちろんルーン王国政府も、わざわざアキリウを助けることはないだろう。

 彼らにしてみれば、消えるものの固有名詞がアトルワだろうとアキリウだろうとたいした違いはないのだから。

 リューズの門を固く閉ざして徹底抗戦の構えをみせたところで、破滅を一日のばしにしているだけ。

「これ以上、なんのために戦う!!」

 朗々と響く北斗の声。

 城壁上の兵たちの目が泳ぐ。

 彼らのうち、何割かはとっとと降伏したいと思っていること、疑いない。

 すでに勝敗は決しているのだから、こんな籠城に意味はないと考えているものも多いだろう。

 ただ、兵士たちには自分の命を決める権利がない。

 職制の上からも、上位者の命令に従わなくてはいけないからだ。

 そしてその上位者たるアキリウ子爵が城壁に姿をあらわした。

「見くびるなよ。鼠族(そぞく)ども。名誉あるルーン貴族が反逆者に膝を折るとでも思っているのか」

 これもまた当然の主張だ。

 ここで降伏したとしても、アキリウに浮かぶ瀬はない。

 アトルワとバドスの両家に所領を食い荒らされておしまいだ。

 であれば、小癪な男爵どもの兵を一人でも多く道連れにして果てる。

 城を枕に討ち死にする覚悟など、とっくに定めているだろう。

 それを知っているから、シズリスも現在まで降伏勧告は行わなかった。

 こちらが差しのべた手を振り払われるのは屈辱だし、あまり下手(したて)に出すぎても士気に関わってしまう。

 しかしセラフィンは降伏勧告を出すよう献策した。

 理由がある。

「反逆者? 貴様は何を言っている? マルコー・アキリウ」

 笑みの形に唇を歪め、北斗が剣を抜き放った。

 雲間からさす陽光を照り返す美しい剣。

 スクリーンに映し出される。

 刀身には躍動する二頭のドラゴン。

 赤竜と黒竜。

「……双竜剣……だと……」

 掠れた声を子爵が絞り出した。

 ざわめきが城壁から市街へと伝播してゆく。

「さすがにこれが何なのかは判るようだな。その通り。双竜剣だよ」

 高々と掲げてみせる。

 それはルーンの聖騎士(ルーンナイト)の帯剣。

 最強の魔獣を封印したという、伝説の剣である。

「そして俺がガドミール・カイトスの後継者、北斗だ。もう一度問うぞアキリウ。俺は反逆者か?」

「うそだ……でたらめだ……」

 酸欠の金魚みたいに口をぱくぱくさせながら、あえぐようにつぶやく。

 ルーンナイト。

 建国王の親友にして懐刀。

 無敗無敵の伝説だけを残して野に下った男。

「嘘でもでたらめでもない。なぜなら、双竜剣は私が彼に託したのだからな」

 美しいエルフが告げた。

 子爵の顔色は、死人のそれに近かった。

 彼は知っている。

 建国王の親友たる聖騎士には、つねに絶世の美女であるエルフ娘が(はべ)っていたという口伝を。

「まさか……まさか貴殿は……」

「私はセラフィン。オリフィックやガドミール、キリとともにルーンを築いた一人だ。そしてここにいるのは、キリの末裔だ」

 ナナをみる。

 ポーズをつけ、獣人の少女が爪を伸ばす。

 建国の立役者とその末裔。

 もう一度、北斗が大声をあげた。

「ルーンナイトの後継者として命じる! 武器を捨てろ! アキリウ!!」




 アキリウ子爵領の郡都リューズから遠く離れた、ルーン王国王都コーヴ。

 アリーシアやシズリスには斜陽と評された王国だが、王都の賑わいはそれこそ彼らの所領の比ではない。

 居住者の数だけでも数十万に達し、訪れる人々は年間に百万を数える。

 大国の首都に相応しいたたずまいと喧噪。

 ぐるりと街の三方を高く厚い城壁が囲み、唯一壁のない面は海である。

 陸封された内陸都市ではなく、大海にむけて開かれた臨海都市。

 それがコーヴだ。

 建国王の戦略構想がじつによく出ている。

 貿易。

 それも海洋貿易を、彼は経済の中心に置いた。

 隊商(キャラバン)がいくつ馬車を連ねたところで、外海を渡る交易船の積載量には及ばない。

 風向きや海の状態に左右されるが、人間が歩くよりもずっと速く、大量の物資を運搬することができるのだ。

 先見の明というべきだろうか、建国王の施策によりルーンは一代にして大陸南西部に覇を唱える大国となった。

 それを支えたのが、海からもたらされる膨大な利益である。

 ゆえに、コーヴを訪れるとき、最も正解に近いのは陸路ではなく海から街に近づくことだといわれている。

 それが最も美しい姿だから。

 天を突くようにそびえ立つ尖塔。

 西から湾内に入った船は、まずそれを視界に入れる。

 吟遊詩人たちがうたう、世界の中心。

 魔法使いたちの聖地たる魔術教会世界本部。通称は世界塔だ。

 さらに接近すれば、豪華絢爛な宮殿が姿をみせる。

 ルーン王宮。

 もちろん世界の中心などという呼称は、自然地理的には大きな間違いである。しかし、人文地理としてはそう的はずれでもない。

 経済と文化はこの街から発進され、世界中の富が集散し、無数の成功とそれに十倍する失敗とが奏でられる。

 偉大なる稀代の大魔法使いによって築かれた花の都。

 船に乗る旅人たちは、例外なくその光景に息を呑むという。

 街に西側に城壁を作らなかったのは、この美しい光景を旅人たちに見せつけるため、という与太話を信じ込んでしまうのだ。

 その絢爛な王宮に程近いところにルーン王国軍を束ねる軍務省の本拠地が存在する。

 いたって普通の建造物で、これといった特徴もない。

 その特徴のない建物の一室で、書類の決裁している男がいた。

 ライザック・アンキラ。

 眉目鋭い二十代半ばの男だ。

 魔法騎士百人を統括する隊長である。ルーン王国軍の位階では百騎長と呼ばれている。

「これはなんだ。ライザック卿」

 ノックもせずに入室してきた中年が開口一番に詰問した。

 面倒そうに顔を上げた百騎長が闖入者(ちんにゅうしゃ)を眺めやる。

「主語を省略して問いかけられて、答えられるものがいるとも思えませんが? 軍務監どの」

 おもいきりしゃらくさい口調である。

 太った軍務監の額に青筋が浮かぶ。

「城壁補強建材の納入価格だ! どうしてこんなに安い!!」

「そりゃあ、安くて腕の良い業者に頼んだからに決まっているでしょう」

「どうして指定商家をつかわんっ!」

「高くて腕が悪いからに決まっているでしょう」

「ふざけているのか!!」

 殴りかかろうとする中年男。

 冷笑を浮かべたままのライザック。おおかた指定の商家から賄賂でももらっていたのだろう。

 俗物も、ここまでくればいっそ見事だ。

 まあ殴って気が済むなら好きにすればいい。

 眉すら動かさないライザックだったが、彼が殴られることはなかった。

 軍務監の背後に忍び寄った人物が、太い腕を掴んで止めたからである。

「すんませんね。軍務監どの。彼とはこのあとちょっと約束がありましてねぇ」

 小馬鹿にしたような声とともに、背の高い男が姿を見せた。

「イスカ卿か……」

 苦笑をたたえる百騎長だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ