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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

破棄系

血肉狂宴

作者: アロエ




たった数時間前まで触れていた腕を、払われ、汚しいと罵倒され落ちた先は水の中。



暗く澱んだ生臭い水をドレスが吸って重い。



身を飾り立てていた金銀の指輪が、サファイアのネックレスが、ブレスレットにアンクレットが重い。



皆、皆あの方に頂いた私の宝物であったはずなのに。



重くて重くて、苦しくて悲しくてああそれよりなにより……




恨めしくて、憎くて、体の中が沸々と煮え立つように熱い怒りが。



我が身を蝕み、そして私は死んだのです。










気がついたなら周りは屍だらけ。



嵌められた私を嘲笑った、どこの身分の者とも知れぬ者らが混ざり合った生徒たち。



目を逸らしてまるで私が悪いものとしようと処理した教師たち。



私の悪い噂を信じ込み、石を投げつけ更に根も葉もない話を作り上げた街の者に、口さがないその乾かぬ舌で私を散々に貶め指差した貴族たち。



皆、皆。嫌いですの。



守るべきと教えられてきて、必死にその立場にならんと身を粉にしてきたけれど。



でも、そんな私に最初に刃を向けたのは彼らですもの。



刃を向けられたなら返されるのも、相手が怒り狂うのも当然でしょうに。今更許してなんておかしいでしょう。





私は疾うに死んでしまったのに。



もう元には戻れないのに。



ねぇ?



『あははハははァ』



腐ってぶよぶよになって魚や蟹に喰われた美しい白い脚の代わりに生えた、吸盤のついた太く逞しく自在に動く足。



例え千切れ飛んでも次々生えてくるこの新しい足は、絡めとった人間から生きたままに生皮を剥ぎ取れる。



素敵でしょう?



私を醜いといった憎い宰相の子息もこの足で散々に可愛がりましたの。



声を涸らしても足を解いて、海水に落としても、地に叩きつけても彼はとてもとても醜かった。



私とは比べくもないほど



食い荒らされた内腑の代わりに得た強固な魔物の体。



誰にも捧げた事のなかった乳房もぐずぐずにとろけ、腐り落ち、けれど白い柔肌の代わりに手に入れたこの紫の肌は向けられた槍や弓をも弾いて、とても愉快でしたわ。



食い荒らされて無くした腕は戻りませんでしたけど、足が沢山あるもの。



それに髪も。自分でいうのもなんだけれど、金色に輝き太陽に愛されたたおやかな髪も、今や黒に染まり足と同じように自在に操れますの。



毛先は目のない蛇のような……。そう、こうなるまで見たことはなかったけれど話には聞いた事のある蛭のようになりました。



ぬらぬらとしていて、一匹一匹が意志を持ち、涎を垂らし、歯を鳴らし、血肉を貪る。



私の項辺りから生えた子が、私を倒さんと背後から斬りかかってきた騎士団長の子息を貫き、内臓を生きながら食らいだした時のあの絶叫。



とても、とても心踊りましてよ。



未来の魔術師として有望だと言われていたあの方も。



まともな術を使う前に私の優秀な部下が吐いた毒液を被ってしまってとてもじゃないけれど力など使えない状態になっていて、大層滑稽でしたわ。



婚約者だった方が、私をこんな風にしてまで愛した彼女。彼女は私が再び舞い戻ってきたと知って絶望した顔をしていた。



……いいえ。本当は違うの。彼女は私が死んだあの場所に、ある日一人でやってきた。



そして私の死を悼み、哀れみ、私を殺した婚約者を憎み、私を蘇らせた。



彼女、本当は愛した人がいたんですって。それは私の婚約者ではなく、そして思い合っていた彼らを引き裂き彼もまた私と同じように理不尽に殺されてしまったと。



どんなに苦しく、悲しく、惨めだったでしょうね。愛しい人を殺した男に周りから落とされ妻に望まれ、あまつさえ子を望まれるといった処遇は。



自分と自分に宿った憎らしい命を犠牲にして、こうして破壊の限りを尽くす魔物として私を呼び戻すくらいにはきっと。



恨めしくて、憎くて、体の中が沸々と煮え立つように熱くなり。



あの方も私と同じ。いえ、私よりも心を壊されたのでしょう。



「何故だ!何故っ!!このような化け物に私の国が蹂躙されねばならぬ!何故、兵は!何故、民は逃げ出す!」



……ああ、ああ。



来ましたわ。やっと、漸く。



彼女と私という女達の運命を悪戯に狂わせ破壊し、奪い取った全ての元凶たる忌々しい男が。



守るべき民も、護ってくれる騎士も、王も王妃も何もかも無くなったこの国と土地で、彼は一体どういう身分になるのかしら?



権力を笠に様々な事をしでかしていたけれど、それももう期待できないでしょうし。



他国に助けを求めようにも国のあった場所は四方を海水で囲んでしまったし。それに海水が無くとも徒歩じゃ国境越えなんてできるわけもないですし。



ふふ、あはははは。


本当に、彼は周りに誰かいなければ一人では子供用の玩具の剣を振り回すしかできないような全くの役立たずですわねぇ。



『ジュゼペリア・オスロット……。ワタクシたちはお前を、この国を、全てを、決して許しませんわ。破壊し尽くしてみせましょう』



簡単には殺しません。誰より何よりも惨たらしくして差し上げましょう。



ワタクシの生きながら殺されていくような痛み悲しみ苦しみより深い、そんな最期を。



貴方と滅びゆく国の歴史に刻み終末を迎えましょう。




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