プロローグ
初投稿です。
薄暗い部屋、至るところに精密機械が置かれていて、ピッ、ピッという機械音だけがこの部屋の静けさを物語っている。部屋の外では、爆発音が絶え間なくなり続いているのにも関わらず。
その部屋には誰が見ても親子にしか見えない二人の男女がいた。
そして、二人は、前に在るものをじっと見つめていた。
それは、四つの円柱状の透明なカプセル。
カプセルの一つには藍色の髪の男性と銀髪の少女の姿が映っている。
中には、同じ液体とそれぞれ違う女性型の人形が入っている。人形には意識は無いのだが、下から浮き上がってくる気泡がそれぞれの髪を揺らしていた。
その人形を見ていると、男は前を向いたまま隣にいる自分の肩までの身長しかない少女の頭に手を乗せて、
「ごめんな、シュリ。お前も連れていけたら良かったのに……こんなことになってしまって」
と言った。
シュリと呼ばれた少女は、頭に乗せられた彼の手を取り、胸の前に持ってきて両手で優しく包み込む。
「大丈夫。わたしは、貴方と最後までずっと一緒にいるって決めたから。貴方となら何も怖くない」
子供のような見た目と裏腹にとても慈愛に満ちた優しい声で、シュリはそう言った。
彼らには、これから起こる未来がわかっていた。正確には、これから起こってしまう事を予想できていた。そして、その結果、自分達が死んでしまうだろうことも。
「ありがとう。俺もシュリと一緒にいられてよかった。これがたとえ自分の犯してしまった罪だったとしても、その結果、シュリに出会えたから、この人生はとても幸せだった」
「うん。私も短い人生だったけど、とても幸せだったよ」
お互いに思いを伝えた後、二人は恋人のようにお互いに手を繋いだ。
「だから、これからする事は俺の我儘。過去を生きている人へ、そして未来を生きていく人のために……俺が犯した罪への最後の抵抗」
男は、目の前にあるカプセルに、繋いでる手とは反対の手をかざした。
薬指には、青い宝石のついている指輪。シュリの指にも同じものがはめられている。これは、求婚や婚約などの副産物ではなく、ただ純粋に"すっと一緒にいる"という誓いの結晶である。
すると、カプセルの中の液体が蒼く輝き始めた。
これは、自分が起こした罪を償う為だけに作ったもの。
二人の友人も協力してくれた。
今は此処とは違う所で同じことをしてくれているだろう。
彼らがいなければ、進められなかった計画。
本当に感謝している。
だから、自分が死のうとしていることは伝えなかった。言ってしまえば同じことをするだろうから。
二度と同じ過ちを繰り返してはいけない。絶対に
二人が事の成り行きを見守っていると、後ろにある、この部屋唯一の出入口が横に勢い良く開けられた。
引き戸が開くと同時に、外の熱い空気が中へ入ってくる。
「やっと見つけたぞ博士!よくもこんなことをしてくれたな!お前のせいで俺の計画が台無しじゃねーか!」
入ってきたのは、男の事を博士と呼んでいるからおそらく助手なのだろう。
男には見えていないが、それは人間の形をしていながら人間では無かった。
鋭く睨み付ける真紅の目、深い闇を思わせる漆黒の肌。輪郭は定まっていないのか、陽炎の様に蠢いている。もう怪物と呼んだ方が正しいのだろう。まだ、言葉を話している時点ですごいのだ。
その間にも、蒼い光は強くなっていく。
「君がここに来ることはわかっていた。何をしようとしたのかも。だから私は全てを消去する。もうじきこの部屋も爆発するだろう。それまでにここに君が来てくれて良かった。これでもう残すものはない」
男は、来たのが自分の助手だと判っていたのか、振り向くとこなく、もう既に怪物である助手に話しかけた。
「うるさい!うるさい!うるさい!お前のせいで、お前のせいで、お前のせいで、俺の人生滅茶苦茶なんだよ!」
怪物は、まるで他人に怒りをぶつける子供ような口調で叫んだ。
そして、ある意味壊れているのか、人間には絶対に出せない速度で男に近付く。
人間でいえば右腕の部分が槍の様に鋭く尖り男の背中を貫いた。
男の着ている白衣がどんどん赤く染まっていく。
「ケイタ!」
異変に気づいたシュリが横を向くと、そこには腹部から黒く尖ったものが突き出ている最愛の人の姿が映った。尖っている先端からお腹に向けて血が伝っていく。
シュリは思わず叫んでしまった。
「……大丈夫だ。これぐらいの痛み、俺がしてしまったことに比べたら軽いもんさ。心配するな」
腹部から血が流れている中、ケイタはユリに心配を掛けないように、体に走る痛みを必死に我慢する。
怪物は、ケイタの腹部を貫いたまま、もう話せないのか、意味不明な声を発して、そのまま動かないでいた。
ケイタは、このまま自分の罪が具現化した存在と一緒に心中しようとしていた。全てを終わらせる為に。
空間を満たす蒼い光も強さを増し、もうお互いの姿も見えなくなっていた。だが、ここにいる。嬉しいような悲しいようなそんな気持ちが心の中を渦巻いていく。
「……もう時間だな。本当に楽しかった。お別れだ。シュリ、ありがとう」
「……違うよ。私たちはこれからもずっと一緒。だから。これはお別れなんかじゃない。………大好きだよ、ケイタ」
「……そうか、そうだな。俺も大好きだよ、シュリ」
お互いに手を強く握りしめる。お互いに大好きな人の方を向くが、光のせいで顔が見えない。
そして光が若干弱まり、お互いの顔が見えた瞬間、部屋のなかで爆発が起こった。壁が崩れる音、機械かま吹き飛ぶ音、爆発音に紛れてたくさんの音が聞こえた。
時間が経ち、蒼い光も爆発も収まった時、そこには壊れた機械や崩れた壁の残骸があるだけで、人の死体や居た痕跡は、何も無かった。
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