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入り口に現れたのはローブを纏った危ない宗教団体、といった感じの人たちだった。体格からして男3人、女1人。リーダー格がおそらく女なのだろう。
リーダーだと思われる女は、何か指示を出すと、幾何学模様の描かれた札のようなものを取り出し、掲げる。すると、このドームを覆い尽くすほどの巨大な魔法陣のようなものが出現し、ホールの全員に対して発動される。
(「永続的翻訳魔術か」)
言い忘れていたが、俺は魔術を知っている。元の世界にもあるし。自分自身使える。だから最初から召喚だとわかっていた。
(「構成方法は向こうの主流とほぼ同じ。魔術水準なら、少なくともあの4人は元の世界とほぼ変わらない、か」)
魔術。
魔術とは言っているものの、魔力などは使わない。どこにでもあるようなものを『存在力』と呼ばれる万能エネルギーに変換し、術陣を用いて別のものに再構築したりそのまま利用したりする、どちらかといえば錬金術に近いものだ。
俺の成績や運動神経は、この魔術によるものだ。
俺の父親は結構な魔術の使い手らしく、幼いころから色々と教わった。といっても小さいころには魔術に必要な思考領域、魔術思考領域による演算を阻害する道具を日ごろからつけられていたため、学校などでは使えなかった。
それが変わったのが8歳のころ。
阻害する道具を外せないか試行錯誤して魔術を構成したらあっけなく外せてしまったのだ。それから俺は学校でも時たま魔術の練習をし、そして、あの二人に見つかって……。
っと、今更そのことを確認する必要はない。それより今どうするかだ。
先ほど魔術を行使していた女が次の魔術を発動しようとしていた。術式からして、意識状態の探査。
「なあ、千浦。今のって……」
「魔法陣かな!? 魔法陣だよね!?」
「ちょっと待って、今動くと危なさそう。あとごめん」
小声で騒ぎ始める佐藤をなだめながら、俺は自分を含めた4人に、脳波を強制的に変える魔術を使う。脳波を戻し、強制的に目を覚ます魔術も5秒後に発動するよう待機しておく。
*****
意識がブラックアウトし、数秒後に戻るという稀有な体験をしたところで、別の魔術を使って連中の声を聴いた。ちなみに他の3人は申し訳ないが、騒がれると厄介なので脳波は戻していない。
『……召喚時の崩壊、再構成による衝撃を受けても起きているものは14人ですね』
『意外と少ないですが、魔術師が秘匿されている世界から、しかも向こうの世界では成人していないという15から17歳の学生を選んでいるのでしょうがないでしょう』
『むしろ多いのでは? 我々は勿論耐えることはできますが、帝国魔術師団内の下位のものでは耐えれるものは数人ですからね』
『その話は今はいいです。その14人を賢者殿のもとに連れて行きなさい』
女が指示を出すと、男達はしぶしぶといった調子で俺以外の今起きている14人のところへ行き、何かを言ってホールの外へ連れ出していた。
男女比は男子9人、女子5人。男子の中には浮かれているやつもいるが、大半が不安でしょうがないといった表情をしていた。
男たちと起きていた14人が出て行った後、女は再度意識探査魔術を行使したが、俺ももう一度脳波を変えて意識を落としたため、気づかれなかった。女は、起きているものが誰もいないことを確認するとホールの外へ出て行った。
緊張からか、だいぶ疲れた気がしたが、なんとか連れてかれずにすんだ。ここで連れてかれると酷いことになるとわかっているから、ここで連れて行かれるわけにはいかない。連れてかれた14人は、どうしようもないし俺に助けれる力はないから心苦しいが見捨てる。
―――あの二人がいたときならどうにかしようと思ったんだろうけどね
そう思いつつ、俺は3人の脳波を戻す魔術を行使した。