幼女に死霊魔法を使ってみました
黒色の魔力が全身から溢れ出す。
その悪役染みた魔力の色に不快感を感じながらも一瞥して幼女へと向き直る。
死霊魔法を使ってモンスターを作るには発動条件がある。
まず一つとして死体あるいは魂が死霊魔法を行使できる範囲内に存在しているということ。
大体十メートルほどなので直ぐそばにいるイヴはこれはクリアしている。
次に、モンスターとなり得る意志があるということ。
それが強い意志であればあるほど強力なモンスターになる可能性がある。
「大丈夫だ」
生きたいと願った幼女がいた。
蘇りたいと願った意志があった。
「その意志がある限り、君はまた動き始める」
闇色の魔力が噴き出す手がイヴに掲げられる。
すると複雑な幾何学模様の魔法陣が浮かび上がりイヴへと纏わりつく。
幻想的な光景であれど、その雰囲気はやはり禍々しい。
これはやはりそういう力なのだと俺は理解する。
「それでも助けることができるなら、使ってやるさ!」
歯を食いしばりながら死霊魔法を行使する。
最初の方は難しく感じなかった物の、イヴが強く生き返ることを願えば願うほど腕が重くなり、魔力が乱れる。
その魔力の乱れを意志で押さえつけ、反発しそうになる魔法を全力で防いでは続けていく。
その光景をボルツのおっさんは後ろから無言で見ているようだった。
今の俺には後ろを向いてボルツのおっさんの表情を確認する余裕なんてないので背後から感じる気配から想像するしかない。
だがボルツのおっさんもイヴが生き返ることを強く望んでいることも、俺を信じていることも分かった。
まだ対した時間が経っていないのにも関わらず信頼を寄せてくれる仲間がいる。
「それに答えられなきゃ男が廃るってもんだろっ」
変な汗が全身から噴き出てくるが不敵に笑ってそれを誤魔化す。
カタカタと全身が震えてくるがそれでも失敗する気なんて無かったし、失敗するなんて到底思えなかった。
主人公かどうか、英雄かどうか、勇者かどうか。
そんな大層な存在何て俺には似合わない。
「俺は俺のやり方で救う。それだけだろ」
後ろから無言の肯定を感じた。
目の前からその言葉に反応する感触があった。
完結した魔法により、魔法陣がイヴの中に吸い込まれていく。
闇色の魔力は青白い光へと変わり、イヴに纏わりつき、それが血液のようにイヴの全身に巡っていく。
不思議とその青白い光からは嫌な気配は感じられなかった。
ぴくりとイヴの瞼が動く。
ゆっくりと、だが確実に開かれていく目から、意志のある光が見えてようやく俺は安堵した。
「お兄……さん?」
しかしそれもつかの間のこと。
とてつもなく全身が重くなった俺は視界が歪んで動いていくのを感じる。
体に僅かな振動を感じると、急に視界が黒く染まった。
前後で誰かが俺を呼んでいる。
そんな感覚に捉われながら俺の意識は闇色の魔力の中へと沈んで行った。
「ほらな」