魔力精密操作をしてみました
廊下に出るとすでにゾンビは迫って来ていた。
非常にゆっくりしたスピードで肉体の損傷が激しいのか立つことができずに這って近づいてくるその執念には脱帽する。
一体何が彼らを動かしているんだろうか。
「短期で落とされたとはいえ、城に籠城しておりましたからな。飢えも渇きもあったであろうし、何より帝国兵の恐怖におびえ、そして虐殺されたのだ。魂が抜け落ちても体が覚えている何てこともあるのであろう」
「それは何ともまた……悲しい話だよな」
来た方とは違う道へと走る俺。
ボルツのおっさんは後ろから滑るようにして空中を飛んで付いて来ている。
ゾンビが迫って来るが、這う者は避け、歩いて近づいてくる者は木の棒で薙ぎ払う。
無理に倒そうとしないのはそこで立ち止まってしまえばたちまちゾンビにとりつかれてしまうからだ。
今はいち早くここから脱出してゾンビの包囲から抜け出す必要がある。
幸い、走る個体がいないお蔭で追いつかれることは無いのが救いだ。
曲がり角を曲がり、階段を下りるとようやく追ってくるゾンビの気配が無くなる。
「何とかなったか。げっ」
そこで俺は見てしまった。
城なのだから民や文官や王族だけが居る訳では無い。
このボルツのおっさんも近衛騎士という騎士であった。
つまり武装した人間も居たという訳だ。
「ウアー」
ガシャリ、ガシャリと重たい鎧を引きずるようにしてこちらに来るゾンビ。
幸いにも剣などの武器は奪われたのか持っていないが鎧を着ているのに歩けるということはそれなりの戦闘力のある個体だと思われる。
「あれは流石に無理ですな。逃げましょうぞ」
「だな。全然勝てる気がしない」
せめて金属製の武器でもあったのなら話は別だが木の棒で鎧を通してダメージを与えることができる技など俺にないし、近寄ればその鎧を着込んで動ける力で組み敷かれて殺されてしまいそうだ。
なので俺とボルツのおっさんは即座に退避を選んだ。
目的はゾンビを倒すことでは無いので当たり前だ。
こんなところで死んではいられないし、現状を把握しきれていない今、無理に冒険すれば先ほどの会議室の二の舞である。
人気の無い一室に入り込んでドアを閉めて呼吸を整える。
どうやら撒くことに成功したようだ。
ピコーン!
ステータスが上がった音が聞こえたため確認してみる。
『名前 ヨハン
レベル 3
戦闘力 19
スキル 【ダンジョン操作】【魔力精密操作】【死霊魔法】』
レベルが上がったということは薙ぎ払ったときに何体かのゾンビはあれで倒してしまったということであろう。
戦闘力は上がったがまるで強くなった気がしないのはどうなんだろうか。
もうすぐ雑兵程度の力が身に付くはずなのに実感が無いんだよな。
「パワーアップはしていると思いますぞ?何も力が強くなるだけが強くなるという意味の全てではありませんぞ。戦うという経験もまた強くなることの一つであろう」
「なるほどなあ。そこは流石ボルツのおっさんも騎士だというだけあるよな」
ということはスキル、とは一体どういうパラメーターになるのか。
俺なんて戦いもせずに魔力操作が魔力精密操作に変化した。
これもまた経験であり、一つの技術になるんだろうか。
「むむ?ヨハン様、まさか今まで戦っている最中に魔力精密操作を使っていなかったのですかな?どうりでゾンビ相手に苦戦するはずですなあ。それはいけませんぞ、吾輩のように身体能力強化にも使えますし、何より新たな魔法を覚える可能性も……」
「それを先に言えよお!」
もうやだ。
何なのこのガチムチの幽霊。
まあ、確かに一般常識の違う世界の者同士なのだからそういうすれ違いはあるかもしれないがそれにしてもどこか抜けているのがボルツのおっさんである。
ガシャリ。
「げっ」
「む?気付かれましたかな」
思わず叫んでしまったことにより先ほど撒いたゾンビに気付かれてしまったようだ。
もちろん部屋の中に居たら袋のネズミなのは会議室と同じなので直ぐに外に出る。
ゾンビの姿はまだ見えないが音は聞こえるので近づいていることは間違いない。
「じゃあ、逃げ……」
「まあ、待ちなされ。魔力精密操作の訓練も同時にいたしましょう」
そうだった。
使わないと強くなれないのだから使いながら逃げる方がいい。
「体に満遍なく纏うイメージでいいでしょう。そうすることで体全体のステータスを一時的に上げることができるはずですぞ」
ボルツのおっさんに言われた通りに某竜の玉のマンガのように青白い光を意識して体に纏ってみる。
ぼおっと淡く揺れる光が何とかまとわりつく。
それを切らさないよう俺は集中しながら駆け出し始める。
「お、体が軽い?しかも若干速くなってる?」
軽くなっているのも速くなっているのもまた体感でしか無いので正確なことなど分からないのだが。
結構きついがやってできないことは無い。
俺のいい加減なイメージでも魔力精密操作が発動しているのが救いである。
「ほう、これは中々」
「え、これ上手くできてるんだよな?なあ?」
ふむふむ、ほうほうと独り喋るボルツのおっさんに確認しながら俺は移動を開始した。