おっさんがゾンビを虐殺しました
自分のダンジョンといえども何が出るか分かった物じゃないのでそろりそろりと歩いて探索する。
そして着いた場所は会議室っぽい一室で軋んだ音を立てるシャンデリアっぽい巨大な照明が印象的な部屋だった。
「おうおう……たくさんいるなあ」
元、王族や重臣だったっぽい人達のような彷徨う死体。
意外と私腹を肥やしているような太っているゾンビが居ないことには驚きであり、ボルツのおっさんの言う通りラビアナ国は本当にいい国であったのかもしれない。
「オ……ア」
「アアー」
流石に立場のある人間だからか豪華な服を着ている者もいるが帝国兵に奪われたのか裸の人間だっている。
もちろん、服を着ていてもボロボロだったり血や何かしらの液体で汚れていて使おうとも思えない不衛生さであるんだが。
「で、ここで何をどうするつもりなんだボルツのおっさん」
「ふふん。吾輩にお任せあれ!」
ボルツのおっさんはそう言うと両手を前に上げて突き出した。
少し上を向けているが何を狙って……。
そう思って腕の軌道上を見ると軋んだ音を立てるシャンデリアがあった。
おい、まさか。
「ふんぬっ!」
いささか筋肉質な掛け声と共にボルツのおっさんの両腕が光るとシャンデリアの根元から鎖辺りも青白い光に包まれる。
ギシギシと嫌な音が強まり、流石に不審に思ったのか、それとも無意識か、シャンデリアの真下の方に集まって上を見上げる。
ビキリと何かが限界を迎えた音が聞こえると共に、バキンッ!と音を立てて鎖が半ばから千切れる。
半壊したシャンデリアは歪んだり、割れたりして突起に溢れており、それらが真下にいるゾンビに向かって落ちてくる。
避けようとしたのか僅かに動いたゾンビ達であったができたのはそれだけであった。
成す術なく、腐りかけの肉体が巨大な装飾の照明に貫かれ、押しつぶされる。
ぐしゃりっと生々しく聞こえた後にガラスやらが割れる音が部屋に響き渡ってしまい、その嫌悪感を抱かせる音に思わず耳を塞いでしまう。
だが音よりも速い光の光景は俺に視線を逸らすことも瞬きすることも許さず、凄惨な光景を目に焼き付けさせる。
「う、ぷ」
「ヨハン様、大丈夫ですかな?」
胸の内から何かが込み上がってくる感触がしたが胃に何も入れていないせいか、それともダンジョンマスターになったためかは分からないが吐き気は催したものの吐くまでには至らなかった。
そんな俺の様子にボルツのおっさんは心配げに見るがやるならどういうことをやるのかあらかじめ言ってもらいたかった。
いや、それでも聞いていてもこの感覚になるのは間違い無いし聞いていたらその時点ですでに吐き気が症状として出ていたかもしれない。
そういう意味ではダメージが少なかったとも言える。
「……もう、大丈夫だ」
「分かりました。中を調べてみましょう」
気を取り直して会議室の中を調べてみる。
「うわあ……」
流石に落ちたシャンデリアの下は凄惨な有様であり、押しのけて下を確認しようとする気になれない。
それが災いしてしまった。
視線が目の前の床で繰り広げられている余りにも残酷な光景に釘付けになってしまっていたんだ。
「ヨハン様!」
ボルツのおっさんがいち早くそれに気付き俺に声をかける。
顔をボルツのおっさんが声を向けた方向に向けると口を大きく開けたゾンビが目の前に迫っていた。
「うおわあっ!」
咄嗟に持っていた木の棒をゾンビの胸に叩きこむが崩れ落ちるようにしてもたれかかってきたゾンビに押し倒される。
「グアウ!ガアウ!」
ガチン!ガチン!と目の前でゾンビの歯が勢い良く何度もぶつかりガチガチと硬質な音を立てる。
俺は噛まれないように両手で気の棒を持ってゾンビに押し付けており、ゾンビはその上から俺を食べようと何度も顔を伸ばすようにのしかかって来て餌である俺を血走り黄色味がかった目で睨みつけてくる。
それでも瞼や瞳が小刻みに痙攣しており明らかに常軌を逸しているのは間違い無かった。
「このっ!」
ゾンビの口から赤黒く濁った涎が垂れてくるのを見て思わず足が出た。
膝がゾンビの腹にめり込み、僅かに押し上げる。
「ゴッ」
息を強制的に吐き出され、動きを止めたゾンビの腹に両足の裏を押し当て、一気に蹴り上げる。
「ボアッ」
奇妙な声を上げながら蹴り飛ばされたゾンビは吹き飛び尻もちをつく。
その間に俺は立ち上がり、木の棒を構えてゾンビに接近する。
ゾンビは当たり所が悪かったのか、直ぐに起き上がることはできない。
「今ですぞ!」
「でええええい!」
ブンッ!と振り下ろされた木の棒がゾンビの頭に直撃する。
衝撃で体を倒したゾンビは小さく跳ねるとそのまま動かなくなる。
「や、やったか」
「その様ですな。むむっ」
偉い目にあったと思って安堵したらボルツのおっさんが奇妙な声を上げる。
え、まだ何かあるの?
「おお、吾輩もパワーアップしましたぞ!ポルターガイストが強化されてより強く物に影響を与えられるようになったみたいだ!」
ぬあっ!と声を上げ、青白い光を纏った両手を広げたボルツのおっさんにより会議室の机がガタガタとかなり大げさに揺れる。
怖いからやめてくれ。
『名前 ボルツェノフ・スクレイン
レベル 3
戦闘力 7
スキル 【剣術】【大剣術】【筋力増大】【身体能力強化】【魔力操作】【浮遊】【零体】【ポルターガイスト】』
ボルツのおっさんのステータスを確認してみるとレベルを抜かれてしまった。
最後、俺が倒したゾンビのこともあって巻き込まれた感が強く、仲間が強くなったのに素直に喜べない俺は何て小さい男か。
流石主人公能力が無い訳である。
ぞり。
不意に、何かが這いずる音が聞こえる。
ぞり、ぞり。
それは小さいが、だんだんと大きくなっており近づいて来ているようでもある。
べちゃ、ぺた、ぺた。
ぞり、ぞり。
音が増えた。
それは会議室の向こうの廊下から聞こえてくるようで、数は今もなお増え続けている。
「オアアー」
うめき声まで聞こえ始めた……!
「おお、どうやらゾンビは音や振動に反応する魔物のようですな!先ほどのガラスの破壊音と机を揺らした音で周囲のゾンビが集まって来ているようですぞ!これは吾輩、やってしまいましたな!ハッハッハッハ!」
「ボルツのおっさんんんんっ!!」
何してくれてるんだあ!と心の中で叫ぶも音は大きくなり、今なお数は増え続けている。
悠長にしている場合では無い!
「ヨハン様!このまま会議室にいても袋のネズミですぞ!すぐさま廊下に出て一点突破しましょう!」
「ちくしょおおっ!」
やはりどこか納得いかないがボルツのおっさんの言う通りにゾンビが大量にいると思われる廊下に向かって走り出した。