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おっさんに名前を付けてもらいました

「何よりの目的、ですかな」


ボルツのおっさんは今一度自分の中で整理を付けようとしているのか目を瞑って考え込む。

一分か二分か、それくらいの時間を置いて再び目を開けたボルツのおっさんは俺を見上げる。


「吾輩、帝国に対する憎しみはあれどそれ以上に望んでいるのはラビアナの民が幸福に暮らすこと。それは王族も貴族も平民も奴隷でさえも変わりませぬ。そのための力を吾輩は主殿に求めたい!」


硬い握り拳を作って改めて俺に頭を下げるボルツのおっさんに俺は頷いた。

こう言う善良な理由なら大変なことでも手を貸したいって思えるしやり終えたら達成感だってあるだろう。

何だか異世界に来て途方もないことにいきなり巻き込まれてしまったがそれでもいいかと思う自分がいる。

魔物になってもやはり根っからの心根というのは変わらないのかもしれない。

それくらい俺は今の世界とこの状況に不謹慎ながらもワクワクしていた。


「わかった。そういうことなら手を貸すよボルツのおっさん」

「おお!流石は吾輩が見込んだ主殿!主殿の瘴気に当てられてからこの人ならばと確信に近い物を感じておったのだ!」


手を広げてその場でくるくると回って大げさに喜びを表現するボルツのおっさんは本当に嬉しそうだ。

願いが叶う一歩を踏み出したと思えばそう言ったものなのだろう。


「で、ここからが問題だけど。ダンジョンを立ち上げてどうやって王国を復活させるつもりなんだ?」

「ではまず吾輩の持っている情報と照らし合わせながら今後の方針を取るとしましょう」


俺は頷いてボルツのおっさんが情報を出すのを促す。

ボルツのおっさんは近衛騎士という立場であったためか城内のこともこの世界のこともかなり詳しそうだったのでかなり期待が持てそうだ。




・ダンジョンは魔物を発生させる場所である。中心にコアと呼ばれる存在かダンジョンマスターと呼ばれる存在、あるいは両方の場合があり、どちらも破壊、もしくは奪取されるとダンジョンは消滅する。この際特例を除きダンジョンマスターは死亡する。


ちなみに俺がいるダンジョンはダンジョンマスターのみがいるダンジョンになり、俺が死ぬかダンジョンの外から出るとダンジョンが消滅する。

そして現在のダンジョンは帝国によって破壊されたお城の部分だけなのだそうで地下やら庭などは対象範囲に入って居らず建物のみという状態である。


・ダンジョンでは魔物が発生するがその全てがダンジョンマスターに服従するわけでは無い。またダンジョンマスターの能力でモンスターを作り出すことなども可能でその場合はダンジョンマスターに服従する。外部から侵入してきたモンスターは基本的に敵対関係であり、ときおり共生や投降や士官を望むものがいる。


ボルツのおっさんは俺が生み出した存在になるようで俺に服従している。なので俺が王国再興を拒否すればそれに従うしか無かったようだ。


・この世界にはレベル・戦闘力・スキルという物があり、念じれば自分のステータスを認識できる。ダンジョンマスターは配下のステータスも見ることができる。一般的な人の成人男性の状態はレベル5、戦闘力10、スキル2個くらいなのだそう。そして雑兵はレベル8、戦闘力20、スキル4個くらいだそうだ。


ボルツのおっさんはというと。

『レベル 1

戦闘力 3

スキル 【剣術】【大剣術】【筋力増大】【身体能力強化】【魔力操作】【浮遊】【零体】』

七つのスキルを持っている人族の中でもエリート的な存在だが魔物になってレベルが1に戻ったのと実体が無く魔法を使えないため攻撃手段が無く、魔法など食らったらすぐに死んでしまうような存在。


そして俺はというと。

『レベル 1

戦闘力 12

スキル 【ダンジョン操作】【魔力操作】』

戦闘力は一般人より高いが油断すると負けるレベル。

濃い魔力である瘴気を内包するダンジョンマスターという魔物になったことで魔力操作が使えるようになっていた。


「この魔力操作ってどうやるんだ?」

「多分主殿も見えておるかと思いますが吾輩の身を包んでいる青白い光が魔力。すでにスキルが発現している主殿なら集中してみれば自身の体内におなじような存在があることは認識できるはず」


言われてみて確かに集中して見ればそれらしい力が体内を巡っていることは分かる。

操作できるとのことなので一部分に集中させたり、集中させたものを動かしたり、さらに集中させた濃さで全身を巡らせたりしてみる。


ピコーン!


「ん?何か今変な音が鳴ったような」

「む?それはもしかして何かを閃くような音ではございませんかな?そうであればレベルが上がるか何か新しいスキルを覚えていますぞ!」


ええ、なにそのゲームみたいな情報。

まあ、それを言ってしまえばファンタジーなんて皆ゲームの世界だよな。

異世界ならば何でもあり、つまり地球とは常識も違うなんてことも多くあるはずだ。

思わぬところで足をすくわれることもあるかもしれないからちゃんと頭の片隅に置いておこう。


さて、何か変わったんだったか。

『レベル 1

戦闘力 15

スキル 【ダンジョン操作】【魔力精密操作】【死霊魔法】』

【魔力操作】が消えて【魔力精密操作】に変化している。

さらに【死霊魔法】などという薄気味悪い、というより完全悪役的なスキルが発現していた。


「魔力精密操作は魔法使いが持つスキルですぞ!主殿は魔法の才能があるのだ!死霊魔法?ああ、多分配下一号が吾輩というゴーストだからですな!ハッハッハッハ!」

「ボルツのおっさんのせいかよ!」


帝国によって滅亡した王国の城という様々な怨念が詰まっていそうなダンジョンでさらに仲間がゴーストなどという状況であればそう言ったスキルに目覚めてもおかしくは無い。

何故ならダンジョンマスターとダンジョンは互いに影響を与え、影響を受ける存在なのだボルツのおっさんが言っていた。


「しかし死霊魔法とは実に強力なスキルを覚えましたな。かつて一人のネクロマンサーによって国が三つ滅びた話も残っておるほどですからな。これは心強い!」

「逸話もやっぱり悪役じゃないか」

「ムム!」


俺が眉をひそめているとボルツのおっさんが何かを思いついたような顔をした。

これは何かさっきの俺と似ているなと思ったら案の定そうであったようでボルツのおっさんも何やら強くなって変化したようだ。


「おお!主殿が死霊魔法を使えるようになって吾輩も僅かばかりパワーアップしたようですぞ!」


何でも戦闘力が5になってスキル【ポルターガイスト】を覚えたそうだ。

【ポルターガイスト】って言ったら物を動かしたりする揺らしたりする力だが、攻撃手段っぽい物を手に入れたんだな。

死霊魔法には配下の死霊系モンスターをパワーアップさせる力があるみたいだ。

あと死霊系のモンスターと契約して配下にしたり作り出すこともできる。

確かに強力、でも悪役スキル。

輝かしい王国再興には不釣り合いなスキルではあるが……。


「うむ、主殿。どうすれば王国の再興に繋がるかと悩んでおりましたが主殿の【死霊魔法】で戦力にもなれば建物を建設したり農業作業にも使える!死霊系モンスターを平民、奴隷、もしくは家畜にしてこのダンジョンを発展させるのはいかがですかな!」

「奴隷、家畜っていうのは何だか響きが悪いから平民にするとして死霊系のモンスターと人間を共生させるダンジョンを目指すってことでいいか?」


そう言えば某有名海外ファンタジーではここよりもはるかに立派な城で絵画から出てくるボルツのおっさんみたいなゴーストが学生魔法使いと共生している物語なんてものもあった。

それを思えば確かに少しは現実味も出てくるというものだ。


「うむ、我々のダンジョンはその方針で活動いたしましょう!そう言えば……」


そこでボルツのおっさんは何かに困るような顔で俺を見る。


「主殿は記憶を無くされてその際に自分の名前も彼方に飛んで行ったのでしたな」

「うん、その言い方だと無くなって消え去ったみたいだが多分そうじゃなくて封印されて思い出せないみたいな方が正しい気がするぞ」


そうなってくると俺の記憶を封印した存在がいるということになるがボルツのおっさんが言いたいことはそういうことじゃないようだ。


「ダンジョンマスターという主に名前が無いのは不便というもの。吾輩が名付け親になりましょう!」

「え?まじで。それは助かる」


実際、自分で何か決めようとしてもしっくり来なかったりこの世界風じゃなかったりして合わないんじゃないかと悩んでいたからな。

ボルツのおっさんが名付けてくれるのならば有難い。


「ヨハン、はいかかがですかな」

「へえ……もっと濃い名前かと思ったけど想像よりはるかにいい名前だな。それにしよう」


ピコーン!と音が鳴ったのでステータスを見てみる。

『名前 ヨハン

レベル 1

戦闘力 15

スキル 【ダンジョン操作】【魔力精密操作】【死霊魔法】』


名前が追加されていた。

そう言えばボルツのおっさんも名前がついていなかったな。

多分魔物になったのでもう一回付けないといけないのだろう。


「ボルツのおっさんはボルツェノフ・スクレイン……だっけか?元の名前を今まで同様名乗るといいさ」

「そうですな。吾輩が元の名をかたることでラナビアにゆかりのある者達も気付くやもしれませぬ」


ボルツのおっさんが受け入れたのを見てステータスを見てみる。


『名前 ボルツェノフ・スクレイン

レベル 1

戦闘力 5

スキル 【剣術】【大剣術】【筋力増大】【身体能力強化】【魔力操作】【浮遊】【零体】【ポルターガイスト】』


しっかりと名前が表示された。


「むむ、どうやら名前が付いたことによって主殿との間に魔力的な繋がりができておりますな」

「え?何それ、危険なものなの?」

「いやいや、これはダンジョンマスターである主殿からの支配が強まったことで吾輩などの配下がパワーアップしやすくなるのでしょう。こういう仕組みもダンジョンにはあるようですな」


そういうものならばいいか。

名前を付けることでパワーアップするっていい仕組みだよな。

モンスターとしてではなく仲間を大切にするっていう感性を感じさせる。


「さて、じゃあ今度は城内の見回りにいこうかボルツのおっさん」


やることはまだまだありそうだし帝国が再びこの地にやってくるまでできることをしておかないとな。


「……ヨハン様。もはや望めぬと思っていた名を付けることがあろうとは……世の中分からない物ですな」

「ん――――?ボルツのおっさん何か言った?」


背後でボルツのおっさんが何かを呟くように言ったが俺には聞き取ることができなかったので後ろを向くとボルツのおっさんは地面から浮いて俺に暑苦しい笑顔を向けていた。


「いえいえ何も。さあ、行きましょうか」

「――――ん、そうだな」


何だかボルツのおっさんが寂しいような嬉しいような、そんな微妙な顔をしていたので聞かないことにして俺はボルツのおっさんと城内に散策にでかけた。

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