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幼女の強さを確認しました

「行っくよーっ!」


イヴが手に持った大型の軍用ナイフと調理場にあった包丁を片手に二つずつ持って振るう。

俺の目では追い切れないそのスピードはゾンビに抵抗することなど許さない。

容易く肉を裂き、骨を断つとその勢いのままゾンビを吹き飛ばす。

どこにそんな力がイヴにあるというのか、ゾンビはそのまま壁へと激突してぼきりと体のどこかから嫌な音を立てて床へと崩れ落ちる。

それだけでゾンビは動かないのだ。


「これが戦闘力50越えの幼女の力だというのか」

「凄まじいですなあ。自身が弱体化したことによってその凄さというものが感じられますな」


空間に弧を描く鋼色と紅の雫が乱舞する。

その中心にいるのはニコニコ笑顔の幼女。

俺のホラーなダンジョンがさらにホラーになった気がするのは気のせいだろうか。


「ふふーん!ねえお兄ちゃん凄い?あたし凄い?」


鼻歌交じりに廊下にいるゾンビを殲滅していくイヴの姿はやはりどこかうすら寒い物を感じさせる。

いくら戦う力があると言ってもやはり小さな子供がすることじゃないよな。


「ああ、凄いぞイヴ。だけど俺も戦うよ」


その小さな体が少しでも危険に晒されないように。

俺は調理場で入手した金属の棒を持ち上げる。

ダンジョンマスターになったせいか以前の俺ならば振り回すことなどできそうに無かったものでも今の俺ならばどうにかできそうだ。


強くなろう。

せめてイヴが戦わなくてすむくらい、強く。




「そう思ってたときがありました」

「ウ、アアー」


目の前から迫ってくるのはがしゃりがしゃりと鎧を鳴らしながら近づいてくるゾンビ。

金属製の武器を手に入れたと言っても未だ抵抗の残る相手だ。

というか、怖い。

音を立てながら遅いと言っても重量物が迫って来れば圧迫感を感じるものだ。

それが彷徨う死体となればなおさら心理的なプレッシャーが増すというものである。


「どうしたのお兄ちゃん?戦わないの?」

「……いまの俺では難しいかもしれない」


相手は雑兵以上のゾンビである。

生前の戦闘力を考えれば20はあるはずであり、城の中にいる兵士であればその戦闘力は考える間でも無く高いはずだ。

ゾンビになることでどれだけ戦闘力が弱体化しているかは分からないが少なくとも戦闘力19の俺よりは高いことが分かる。

そんな存在が鎧を着て動いているとなれば俺が与えることができるダメージはどれほどのものになるのか、想像することができない。


「ふーん……」


心底不思議そうに、そしてさしたる脅威でも無いかのようにイヴが小首をかしげて俺を見る。

そして、何の感慨を持たないかのように鎧を鳴らすゾンビを見た。

おい、まさかとは思うが……。


「そっか。じゃあ、あれはあたしが戦うねっ」


音符でも語尾に付きそうな、楽しそうな声色でイヴが笑う。

止める間も無く、その体が疾走して鎧ゾンビへと迫る。

そのスピードは今までと比較することができないほどに速い。


「全力じゃなかったのかっ?」

「あれを見なされヨハン様」


ボルツのおっさんが指さしたのはイヴの背中。

よく見れば青い光と赤い光が出ている。

あれは魔力を操作している光と……何だ?


「【魔力操作】と【身体能力強化】の同時発動ですな。あの歳でそれを何の隔たりも無くこなすなど……」


驚愕したようなボルツのおっさんの声に俺はイヴのスキル構成を思い出した。

そしてそこにはまだ、戦闘に使えそうなスキルが存在する。


「ばいばい。おじちゃん」

「ア、ガッ」


冷たくも聞こえたその声色は迸る光を放つナイフによって鋭利な斬撃となって鎧ゾンビへと迫る。

その光の斬撃は金属製の鎧にあたるとギャリイインッ!という凄まじい音を上げ、胸の部分の金属を抉りとる。

堪らず鎧ゾンビはたたらを踏んで動きを止める。


「『蛇口の一撃』」


イヴが技名を言うと共に再びナイフが振られる。

それは寸分たがわず鎧ゾンビの胸元の隙間へと叩きこまれた。


「ア……?」


何が起こったのか分からないかというような声を鎧の隙間からから出した鎧ゾンビが鎧の内側から血飛沫を上げて後ろへと倒れていく。

ガシャン!と大きな音を立ててその身が床へと叩きつけられるように倒れると鎧ゾンビは動きを止めてしまった。


「ふふーん。大したこと無かったねお兄ちゃん!」


上機嫌でこちらに近寄ってくるイヴ。

一切の疲労すらも感じられず、むしろ時間が経てば経つほどに強くなっていくように感じる。

ああ、そう言えばイヴもレベル1だったか。

辺りはゾンビの死体で死屍累々といったありさまであり、これだけ戦闘をこなせば凄まじい勢いで強くなるというのも頷ける。


「これは……想像以上の強さですな」

「俺達の存在意義に疑問が出そうなほどに、な」


余りにも強く、強力な戦力に喜ぶべきなのだろうけど、それが自分よりはるかに年下の幼女が持っているということに俺はどうしても素直に喜ぶことができなかった。

幼女無双。

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