20 急事には頭が回らない
またまた一波乱ありです。
夜──時間で言うなら多分十時くらい。
自室にて、私達四人は話し合いをしようと、円上に椅子を並べていた。
何だが、この内緒話な小声会話に慣れてきた気がする。
「第三回、異世界会議ー」
「どんどんぱふぱふー」
いつの間にか、三回目……。
そんな間の抜けるような開始合図を行うのは、姉さんと志乃。
それを若干引いた目で見つめるのが、私と星羅だ。
何だろう、そのノリ。
深夜のテンション?
いや、待て。まだそんな時間じゃないよ。
落ち着いて、ほら、話し合いしないと……。
さて、今回の話し合いについてだが、内容は簡単──これからどうするかについてだ。
訓練にかまけて保留にしていた事だが、もうそろそろ考えなければならない。
この国を出るか否か、何処へ行くのか。
「早速だけど、挙手取る?」
首を傾げる姉さんに、小さく頷く。
「この国を出るか、否か。出たい人は挙手して~」
姉さんの言葉に、私含む三人は挙手する。
いつまでもこの国に居る訳にはいかない。
保護して貰えているのは有り難いけれど、多分ここに居ても元の世界に帰る方法は分からないだろう。
幸い、次の目的地の目星は付いているし、早くこの国を出たい。
まだまだ私達が弱い事は知っているけれど、自分達が強くなるまでここに止まるなんて無理だ。
時期を逃す可能性だってある。
「あたしも賛成だから、満場一致か」
「そうね、じゃあ次は行き先だけど……」
「フールメル」
緩く手を上げた姉さんが呟き、それに志乃が続く中、私は間髪入れずにそう告げた。
軍事国家フールメル、聖霊石を用いた兵器の開発、精霊の研究、晶霊術の軍事的使用などなど、結構過激な話の聞く、アルガンダから、森を一つと国を一つ、それに渓谷を一つ越えた先にある国だ。
そこで、確か異世界召喚の研究がされていた筈。
原作の中で、フールメルを訪れたヒルデくんとラルクくんが異世界を渡る式陣(晶霊術で言う魔方陣)について、話していたのを覚えている。
私の記憶が全然当てにならないのは分かっているが、でも、もしかしたら、本当に帰る方法があるかもしれないし、賭けてみる価値はあると思う。
少し危険かもしれないが。
このまま、この国に骨を埋める気なんてない訳だし。
「! 軍事国家フールメル! 確かにあそこなら、帰る方法が分かるかもな」
嬉々として星羅が手を叩く。
姉さんも志乃も頷いている事から、私の提案は賛成されたらしい。
目的地が決定したとなれば、後はそこまでの軍資金や地図、旅の荷物か。
案内人、は多分心配しなくてもいいとして……。
どうやって旅支度を整えようか?
後、エリオスさん達にどう話をつけようか。
「行き先はフールメルでいいとして、エリオスさん達になんて言う?」
「そこなのよね、仮にも志乃達って保護されてる身だから……国を出る事が可能かわからない」
うん、そう、そこ。
今それを考えてたんだよ、姉さん、志乃。
私達異世界人は保護対象。
ならば、他国に旅へ、なんて許可が下りるのだろうか。
結構難しい話だと思うんだよね。
「女神の加護の事もあるから、何とも言えねぇ……」
「どう説得するかじゃない? まあ、国としては不安要素を余所にはやりたくないと思うけど」
私の見解的には、だが。
態々、女神の加護を受けているかもしれない人間を、他国に渡してどうするんだ、て話。
「じゃあ、どうすんの?」
「そこは誰ぞの話術で……」
問う姉さんに、私は口を開いたが、言い終わる前に閉じた。
三人とも何故そんな、冷めた視線を私に向けるの。
…………解せぬ。
「素直に話せばいいだろ、素直に」
星羅、ちょっと面倒くなってない?
「どうだろうね。取り敢えず、帰る方法を探したい項は伝えなきゃね」
姉さん、まあ、そこは話さない事には何とも……。
「もういっそ、ヒルデくん達に付いてく?」
志乃、まさかの主人公の金魚の糞ですか。
ヒルデくん達、フールメルには行かないと思うんだけど。
「何にせよ、エリオスさん……延いては、この国の王様の説得が最優先事項になる訳だ」
姉さんがそう結論付けると、小さく溜め息を零す。
ふぅ──それと同時に、何処からか何かが崩れたような音が聞こえてきた。
私達は何事かと、思わず肩を跳ね上げる。
何だが、デジャヴを感じるのは何故だろう。
「ね、姉さんの溜め息に物体を破壊し得る力があるなんて、私知らなかったなぁ……」
「いや、何、現実逃避してんの。あたしの溜め息にそんな力あったら、この部屋、今頃吹き飛んでるでしょうが!」
敢えなく、撃沈。
現実逃避する暇は与えて貰えないらしい。
私は様子を窺おうと立ち上がった姉さんにより、扉の前へ引き摺られる。
志乃と星羅は自主的に扉前へ移動していた。
今日は確か、扉前の護衛兵さんはシギさんじゃない筈なのだが……声を掛けても、ちゃんと答えて貰えるだろうか。
「? え、あれ? 今、なんか音が……?」
志乃が首を傾げる。
今、確かに、扉の前で音がした。
何か重いものが床にぶつかる、そんな音。
互いに顔を見合わせ、ごくりと生唾を飲み込み、一様に頷く。
そして、姉さんがゆっくりと、扉を開いた。
「あら、こんな所に居たのね? 双黒色のお嬢さん達」
リズムを奏でるように軽快かつ楽しげに、眼前に現れた彼女はそう言って微笑んだ。
バタンッ──勢いよく扉が閉まる。
姉さんだ。姉さんが、反射的に扉を閉めたのだ。
恐らく私でも同じ事をしていたであろう行動を、私は目を丸くして見つめた。
今、今何が起こった。
扉の前に誰が居た。
……床、廊下に、護衛兵士さんが泡を吹いて倒れていたのは気のせい?
外側から開けられないように、がっちりと扉を内側から押さえ付ける姉さんを横目に、頭を捻る。
落ち着け。落ち着け、私。
こんな話あった筈だよ。
城に招かれたヒルデくんを追って、バルミアスさんともう一人、誰かがお城に乗り込んでくる、てシナリオ。
……もしかして、巻き込まれてる?
「あら? ここ、開けて頂戴」
何度も何度もドアノブを回す耳障りな音が響く。
それでも、姉さんが必死に扉を押さえていた。
けれど、扉前の彼女の一言により、この扉は開けざるを得なくなる。
「開けてくれないと、この兵士さんの首へし折ってしまうけど……いいわよね?」
鶴の一声、とは正にこの事。
また、皆一様に肩を跳ね上げる。
そして、先程は勢いよく閉めた扉を、今度は勢いよく開けた。
扉前の女性が、言葉の通りを本気でやりそうで怖かったのだ。
「あら、早い」
開く瞬間、扉前から素早く飛び退いたらしい彼女が感嘆したように呟く。
そのまま、扉に激突して気絶してくれれば良かったのに。
心内で毒づきながらも、私は目の前の女性を見据えた。
真ん中分けにした前髪と、腰元まで伸ばされた長くさらさらな銀糸、ヒルデくんと同様の緋色の瞳に、陶器のような白い肌、モデルさんのようにすらりとした肢体、美しい目鼻立ち。
美女と呼ぶに相応しい容貌。
多分、声からして、このアルビノの女性こそ、ヨキさんなのだと思う。
彼女、基ヨキさんの手の中で、己の存在を主張するように、レイピアが明かりを反射して光った。
.
次回より、再び戦闘ターン!
そして中々入らない恋愛ターン……。




