ジャージー
なし
こんな年になっても
彼女のいない
自分のふがいなさで
ぼんやりしている
いや落ち込んで
泣きそうになっているのを
時計がそんなに
欲しそうにしているのか
思われたようで
「やるか」
ご老体
時計を外そうとしている
思わず小心者の私
「いえいえけっこうです」
反射的に
言ってしまう
ああこれがなければ
テレビから
ほされることもなかったろうに
そして
断られたことなど
気にせず
余裕綽綽で
むしろやはりかと考え
あっけにとられている私を
楽しんでいるご老体
その御大
笑みを浮かべていたと思えば
急にまじめな顔になって
「んでもって
さっきも言ったが
うちの母ちゃん亡くなったんだべさ」
「100歳のばあちゃんさ」
そう言って
指さした向こうには
死体。
ではなく
優しそうなお顔が
誰かいたかと思うかのような
額に入った写真
何とも若い
とても100歳には見えない
「100歳には見えんと
思ってるじゃろ
そうさのう
10歳くらい
さばをよんで
10年前の写真を使ったんじゃ
もとは
ジャージーの姿じゃったんじゃが
今の世の中
写真の合成くらい
朝飯前
本当に
今は何にでもできるのじゃな
はじめは
ジャージーの写真も
最期に
着ているのは西陣の着物じゃ
すごいもんじゃ
まあ
あれも
ジャージーが好きで
よれよれのやつを
なんか大事そうにきておったわ。
頼めばなんでも
着物でもあったのにな」
思わず考える風。
なし