テレビ局
なし
それにしても
私はなんとしたものか
自分でしゃべっていることに
高揚感をもってしまうのだろうか
まさにいづこかの
独裁者然
楽屋口で
一人座って
通る人々を眺める
煙草を吸いたいところだが
ここでは吸えない
せまいタレントクロークには
今から12月の年末、
そして
正月特番を撮る
言ってみれば
年末進行というやつで
行き交う人々が
はなはだ多い
そんな忙しそうに
通り過ぎる人々を
横目に
私は
ただただぼんやりとする
そんな目の前を
着物姿のアシスタント数名や
マネージャーに付き添われた
若いアイドルタレント
テレビで見かけたことのある
お笑い芸人などががやがやと
通り過ぎる
風もないのに
誰かの服についた
たばこのにおいがした
私の周りだけ
時間が止まっているのか
いつもは
すぐに飛んできて
おべんちゃらを言いながら
タクシーチケットを
わたす
ディレクターもこない
真に
あいそをつかされたか
テレビ局の表と裏
本音と建て前をわけていかなければ
いけないのに
ここほど
それらであふれている場所こそなく
踏み外してしまった
自分に悔む
これでまたしばらくは
あそこからの仕事はないか
いつのまにか
日も暮れて
寒々とした歩道橋の階段を
渡る
そういえば
今日は休みだったか
娯楽施設やショッピングモールに
家族連れやカップルが吸い込まれていく
白い
歩道橋向こうの観覧車が
見える
ネオンが今の私には
痛々しい
しかたなく
ふきさぶつむじ風の中を
地下鉄への
道を急ぐ
なし