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タイトル未定・・・。

作者: 雪那




タイトル未定




あなたが嫌いなわけじゃない…

でも、あなたの悲しむ顔をもう見たくないから…


「梨生!」

「莉子…」

「早く学校行かないと遅刻するよ!」

「行くよ!」

朝っぱらから騒々しい。

莉子は毎日俺を迎えに来るから。

でも結構うれしい。

付き合い始めてもう2年が経つ。

中3の時から付き合っているから。

早いものだ。



「梨生!はよ!」

「おーっす蓮ちゃん。」

「はよ莉子!」

「おはよ!」

校舎に入ると色いろな人から声をかけられる。

結構大変だ。

「梨生後でね!」

「おう!」

莉子のクラスは2C、俺のクラスは2Aだった。

莉子は休み時間になると遊びにやって来る。

「なぁ。莉子。元気無くなかったか?」

「疲れてるだけだろ。」

「ふーん。」

「遅くまで漫画でも読んでたんじゃねーの?」

「それお前だろ…」

梨生には言えない。

こんな事。

下駄箱の中にゴミ、机の上に乱雑な落書き。

嫌がらせだ。

「A組の橘君と付き合うとか似合わないよね。」

「ミスマッチだよ。」

「あーああんな子よりあたしと付き合って欲しかったなぁ。」

技と私に聞こえる様に全員が言ってくる。

“やめて”の一言がでない。

いったら何されるか解らないから…

怖くて辛くて苦しかった…。

「っつ…」

「莉子!英語の教科書貸して!」

「えっうん」

「やーだぁ橘君あたしが貸してあ・げ・る」

「結構です。莉子に借ります。」

玉砕。

梨生が浮気とか考えられないね。

「はい。3限英語だから早く返してね。」

「サンキュー莉子!」

「はいはい。」

梨生を教室に突っ返すと自席に着いた。

「一海さん。あんたいい加減にしなよね。」

「何の事?」



「莉子普通だったぞ?」

「そうかそれなら良いけど。」

「それよりさ、これなんて読むんだ?」

「オイオイ…」

蓮に呆れられながら勉強をしてしまった。

1限の英語が終わると莉子の教室に行った。

「莉子ーあれ?莉子は?」

「一海さんなら体育委員で先行ったよ。」

「あ…マジ?じゃあこれありがとうって伝えて置いて下さい。」

「了解…」

俺はクラスメイトの子に教科書を渡して教室に戻った。

「梨生!」

「あっ蓮ちゃん。」

「次体育だぞ。」

「ありがとう。」

「莉子いた?」

「いなかった係で行っちゃったって。」

「残念だな早く行こうぜ」

「押忍」

体育がおわって、3限目教室に戻ったら英語の教科書が破かれた状態で置いてあった。


「橘君が置いてったよ」

「…クスッ…」

机の中には紙が入っていた。

『ブス女汚れるから寄るな。』

「クスッいい気味…」

誰かがボソッと言った時、私の堪忍袋の尾が切れた。

「これやったの誰?」

「しらなーい。」

「この机の落書きだれ!?」

「あんたじゃん?そっくりよ」

「ハハハ確かに!」

……

「バカ…?」

「はぁ?」

「こんなことやって楽しい?」

「誰に言ってんのよ。」

「お前等に決まってんだろうが。」

「喧嘩売ってんの?」

「ウラレテンの。」

淡々と突っ返す。

プツッ

バンッ!!

「やるっての!?あぁ?」

「誰がやるかあんたらの低レベルな喧嘩についてってやる義理もない。」

「うぜぇんだよ!」

「いい加減にしてよ。そんなに莉生が欲しいなら面と向かって告りにいきな。」


教室には野次馬が群がっていた。

「莉子…?」

体育が終わって俺は一服していた。

「なぁ莉生なんかC組騒がしいぞ」

「行ってみるか。」

俺と蓮ちゃんはC組に行った。

すると…

そこには莉子がいた。

クラスの女子生徒と喧嘩しているようだった。

「…莉子?」

莉子は気がつくと俺を見た。

「梨生…」

「莉子!?何してんの」

俺は莉子に近付くと頭を撫でた。

今にも泣きそうな顔をしている。

俺は莉子を抱き抱えるとクラスの女子に言った。

「何があったか知らないけど莉子に何かしてたりしたら許さないから。」

第二体育倉庫

「莉子?どうかしたのか?」

「ちょっと喧嘩しちゃっただけだよ。」

嘘だ。

梨生に心配されたくない。

嫌がられたくないから。

「ほんと?」

「大丈夫だよ」

「じゃあ莉子を信じる。」

「ハハハ…ねぇ梨生…」

「何?」

「別れよ…」

「えっ?」

「別れよ。梨生。ごめん…」

「どうしちゃったんだよ」

「どうしても…ごめん。」

「何だよそれ…おれ何かした?。」

「してないけど…」

「じゃあ何だよ!」

「ごめん!許して!」

私は急いで体育倉庫を飛び出した。

好きだけど、仕方ないんだ…


好きだけど、好きだけど。

ずっと一緒にいたいけど。

いられない。

苦しむのは私だけで良いんだ。

あなたはあなたで私は私だから



「ごめんね…梨生君…」



「なんでだよ!莉子!」

ドンっ

俺は跳び箱にあたった。

そうでもしないと泣きそうだから。

「莉子…」

俺はマットの上で寝てしまった。


「…のっ!あのっ!大丈夫ですか!?」

大きく俺の体を揺すっている。

声をかけている。

「わっ!」

「大丈夫ですか!?」

陸上部の女子だった。

「大丈夫…放課後か…」

「6時ですよ?」

「あぁありがとう。」

「あぁ!!!!手っ!怪我してます!」

「舐めてりゃ治る」

「ダメですよ!ここにいて下さいね!?」

「え?おい…」

陸部女子は慌てて出て行くと慌てて戻ってきた。

「手見せて下さい。」

手際良く消毒をするとガーゼを当てた。

「どうしたんですか?これ。」

「フられたんだ…彼女に。」

「あぁその腹いせに。大丈夫ですよ。すぐに良い人が現れます。」

(いや…莉子以上のやつはいないいらない…。)

「はい!出来ました!」

「ありがとう。キミ名前は?」

「1B加西雪です。」

「ありがとう。」

俺は加西に礼を言うと倉庫を出た。

「梨生!」

「蓮ちゃん。」

「莉子、いじめられてたらしいぞ。」

「え?」

「お前と付き合ってるのを糧に。」

「……」

俺は何も言えなかった。

校門を出た。

今日はいいことがなかった

私は校門の近くの川を除き込んでいたの。

「…はぁ」

「何溜め息付いてるのよ!!」

えっ?

私は浮いてたんだ。

上にはクラスメイトが笑ってる。

私は川に落ちた。

落とされた。

体をつよく叩き突かれた。

景色が霞む。

クラスメイトは笑っていた。


「蓮ちゃん帰ろ?」

「莉子は?」

「良いんだ。俺フられたから。」

「え?いいの?」

「うん…仕方ないもん。」

ザワザワザワザワザワザワ

校門に人が群がっていた。

さっきの今日のように。

しかも救急車が止まっている。

「何の騒ぎ?」

俺は近くの奴に聞いた。

「川に2Cの女子が落ちたって」

「は?」

「一海!しっかりしろ!」

一海…一海?

「莉子!?」

俺は人の間を掻き分けた。

「開けて!莉子!莉子!」

「梨生!やめろ!」

「蓮ちゃん離して!」

「梨生!俺等が行っても仕方ないだろ!?莉子は大丈夫だよ!」

救急車が出ると俺は家に走った。

「梨生!」

蓮ちゃんが呼び止めても止まらなかった。

「お前等こい。」

生活指導が3人の女生徒を呼んだ。

蓮ちゃんは3人の前に憚った。

「また?ふざけんなよ。莉子に何かあったら俺だってゆるさねぇからな。」

ドンッ

肩を思いっきりぶつけて蓮は通り過ぎた。


数日たった。

俺は学校にも行かずに考え込んでいた。

俺は何をしているんだろう。

なんであの時莉子を止めることが出来なかったんだろう。

何故手を引っ張ってその場に引き留められなかったのだろう。

俺があの時莉子を止めてればと考えてしまう。

俺が莉子を追い詰める原因だったんだ。

莉子を苦しめていたのは俺だった。

「莉生!」

ドタドタドタ!

「はぁはぁ…莉子が…」

「莉子が…?」

グイッ

連ちゃんは入って来るなり、俺を引っ張った。

「連ちゃん!莉子がどうしたのさ!」

「黙って着いてこい!」


市立病院

ガラッ

「連ちゃん!」

莉子の病室で莉子は元気良く出迎えた。

俺はなんだかほっとしていた。

「普通じゃ…」

「ねぇ連ちゃんこの人誰?」

思いがけない台詞。

莉子は俺を見て笑っている。

「連ちゃん」

「一番思い出したくない事を忘れているんだ。莉子は莉生との日々が一番辛かったんだ。」

「そんなっ。莉子!俺だよ莉生だよ!」

俺は必死に莉子の体を揺すった。

「?莉生君って言うんだ。よろしくね。」

「………」

ダメだ。莉子は俺を覚えていない

俺の事を見てケロッとした顔で笑っている。

なんで…辛かったなら言ってくれればよかったのに。

コンコンッ

扉が開いた。

俺と連ちゃんは思わず目が行った。

「失礼します。」

入って来たのは莉子を突き落とした3人だった。

「なっ!お前ら何しに来たんだよ!」

俺は喧騒をかえて突っ返そうとした。

「莉生君!ダメだよ。あなたたちは誰?」

「えっ?」

「莉子はあの時と、莉生の記憶がないんだ。」

「…そんな。一海さん。ごめんなさい。ホントにごめんなさい。」

「??」

「帰ってくれ。俺はお前らを許さないからな。」

「莉生君。」

「悪いけど俺もだ。」

「連ちゃん!」

「莉生。」


「連ちゃん。」


連ちゃんは俺の様子を見に、来てくれた。


俺は莉子にひどいことを言ったんだ。

「気にするなよ。莉子は大丈夫だよ。」

「うん・・・俺やっぱり帰るわ。」

「なんで?もう少し居てやれば?」

「だめなんだ。莉子の側に居ると莉子を傷つけそうなんだ。俺は振られたんだから。リコの側に居ちゃいけない。」


俺は、今にも涙があふれそうだった。

「お前、それでいいの?」

「あぁ。」

俺は連ちゃんの横を通り過ぎた。

連ちゃんには悪いけど。

俺はもうその場には居られなかった。

「莉生!」

連ちゃんの声だ。

俺は止まった。

「学校・・来いよ!」

連ちゃんはそれだけ言うと、どこかへ歩いて行った。


ガチャ。

「連ちゃん。」

帰ってきたのは連ちゃんだけだった。

莉生君は帰ってしまったらしい。

「大丈夫。莉生はまた来てくれるよ。」

「・・・・・」

私は深く考え込んでいた。

「莉子?」

「ねぇ連ちゃん私、何忘れてるのかな?」

「は?」

「何か莉生君も、さっきの人たちも知ってるはずなのに、どうしても思い出せないの。それに、莉生君見てると、なんだか、落ち着くんだ。ねぇ私、何忘れてるの?」

私はどうしても思い出せないことに恐怖を感じてたの。

あったものがないってすごく怖い。

「莉子。ちょっと不思議な話をしてあげるよ。」

「なに?」

「高校生の男の子と女の子の話。ある男の子A君と女の子Bちゃんは中学校のころから付き合っていたんだ。だけど、高校に入ってから、Bちゃんには友達が出来なかったんだ。何でかって言うとな、A君がすごくもてたから。A君と付き合っていたのを疎ましく思ったクラスの子が、Bちゃんをいじめていたんだ。もちろんBちゃんはA君に言える訳ないよね?だから、BちゃんはA君から身を引いたんだ。あることがきっかけでBちゃんは記憶を失った。でもね。A君はずっとBちゃんのことを好きだったんだ。」

連ちゃんが話す話はどこかで見た事のあるような話だった。

「BちゃんはまだA君が好きなの?」

「うん。今もずっと大好きだよ。」

「可哀想。二人共。せっかく愛し合ってたのに、愛せなくなるなんて。可哀想だよ。」

「でもね。それが現実なんだよ。」

私はなぜか涙が零れた。

何か感じたことのある感情が

込み上げてきた。

私もそんなことがあったのかな。

私も誰かに愛されていたのかな。

思い出せないよ。


「クッソッ!!」

何で俺はこんなに怒ってるのだろう。

でも、莉子が忘れている事にほっとしている訳でもある。

莉子が思い出したら莉子が崩れてしまうかもしれなかった。

俺は弱い人間だ。

人よりも自分を優先的に考えてしまう。

俺は莉子が記憶を忘れたままでいれば「また莉子を取り戻せる」と考えてしまっていた。

莉子にとって今、あったはずの記憶がないのはとても辛いことなのに。

俺は何を考えてるんだろう。

「せーんぱい♪」

頭を抱えている俺の前に誰かがやってきた。

「加西。」

「何してるんですか?心気臭い顔して。また降られたんですか?」

加西はおれの横に座ると顔を覗き込んできた。

「違うよ。」

「じゃあどうしたんです?」

「莉子の側に居られない。」

「あの一海さんがどうかしたんですか?」

そっか1年にはこんな話通るわけがない。

でも…

「先輩?」

「フラれたのに俺、莉子の記憶が無いことを利用してもう一度振り向いてもらいたいって思ってたんだ。莉子の記憶の欠片になるものを無くそうとしている内に莉子を苦しめてたんだ。」

「好きな人を強引にでも向かせるのは悪い事ではないです。むしろ私はそう言う方が好きです。でも傷付けたら、誰も振り向きませんよ。」

俺は加西の言葉に下を向いてしまった。

加西の言う通りだ。

俺はおかしかった。

「そうだよな。俺、違ってたな。」

俺は立ち上がってその場を過ぎようとした。

俺は何だか一人でやっていけないきもした。

「…好きです!」

「え?」

ふと飛んできたのは加西の声だった。

俺は瞬間てきに振り向いた。

「先輩がずっと一海先輩を追いかけているように。私も先輩を追いかけていました!」

「でも」

「ダメなのは分かってます。でも!一海先輩の代わりになれませんか?私じゃなれませんか?力になりたいんです!」

すごく必死な顔で加西は俺を見ていた。

俺は莉子と加西の間で揺れていた。

莉子が俺を忘れているように、俺が莉子を忘れたいと考えたら、俺は加西を選ぶ。

だけど莉子が思い出してくれたら俺は莉子を選ぶだろう。

でもやっぱり今は。

一人ではやっていけない気がした。

「うん…いいよ。」


俺は、なんだか加西なら大丈夫な気がした。



加西でよかったのかもしれない。



梨生君は今日も来なかった。

梨生君にもう4日も会っていない。

何だか会いたいな。

梨生君元気にやってるのかな?

「莉子。」

「連ちゃん。梨生君学校来てた?」

「来てたよ。元気だ。」

「ねぇ私のこと嫌いになっちゃったのかな?」

「そんな事無いよ。」

私はすぐにわかった。

連ちゃんは嘘をついている。

何かを隠している。

「ねぇ、何隠してるの?」

「え?」

連ちゃんは戸惑っていた。

「連ちゃんいつもと違うもん嘘ついてるの解るもん。」

「・・・・」

「何隠してるの?」

連ちゃんは黙りこくった・

私はすごく不安だった。

「あのな。梨生。1年の加西ってやつと付き合い始めたんだ。」

「・・・・え」

「この前公園で告られて、付き合うことになったって。」

「・・・・」


そんな。何かすごくいやな感じだ。

何で?

何だか解らないけど、涙がこぼれる。

この気持ちは何なの?

「莉子?」

「なんか解らないけど、涙が止まらないの。何でないてるのか解らないけど。すごく悲しいの。忘れている記憶の中に、その答えがあるかもしれない。でも。解らないの。私、大事なものをなくしちゃった。」

解らない。梨生君がいたことで、何だか安心していた心がぐらっと揺れた。

「ねぇ連ちゃん。何か知っているんでしょ?教えてよ。ねぇ。私の記憶、教えてよ。」

私は、連ちゃんの袖を掴んで駄々を捏ねるようにゆすった。

「莉子。。すぐ思い出せるよ。大丈夫だよ。」

連ちゃんは私を慰めてくれる。

私を慰めてくれてるけど・・・私はこれ以上の暖かさを知っている。

でも思い出せない。

なんで。。。

「先輩!」

昼休みになると、加西が毎日のように教室にやってきた。

「おー。」

「今日お弁当作ってきたんです。食べてください。」

「サンキュ!」

俺は、加西が持ってきた弁当をほうばる。

加西は横で、それを嬉しそうに見ていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・加西の卵焼きは少し甘みがある。

でも、莉子の卵焼きは、苦い。不器用な手付きで毎日失敗したなかの一番良かったものを入れていた。

そして、鮭。

莉子はやっぱり、味付けが下手だった。

しょっぱかったり、味が無かったり。

そんなところがすごく可愛かった。

「先輩?」

「あ。うまい。」

「わーい!本当ですか!?」

「うん・」

莉子事を忘れようと思って加西とつきあったのに。

何をしても莉子が頭に浮かぶ。そんなにも莉子に対する思いが強いのか。

でも・・・

俺は今、加西を支えなければならない。

そうなんだ。

「梨生。」

「連ちゃん。何?」

「ちょっと話があるんだ。」

「うん。」

連ちゃんは俺を屋上に呼び出した。

俺は放課後に屋上に行った。

「連ちゃん。何?」

「なぁ、莉子、俺がもらってもいいか?」

「え?」

「もう見てられないんだよ。莉子は記憶が無くても、お前がなになのか理解しようとしてたし、お前が加西と付き合ったコと言ったら、あいつ泣いたんだよ。お前、莉子が莉子なりに戦ってんの知らないだろ。」

連ちゃんは何だか感情的だった。

「知らない。でも俺は俺なり戦ってた。」

「お前は逃げたじゃないか!!加西っていう逃げ場に引きこもったじゃないか!!」

「…………」

「…お前、それで良いのか?」

連ちゃんは俺の胸ぐらを掴みながらじっと見ている。

「いいんだ。」

俺は連ちゃんの手を振り払った。

「明日から病院くんな!んのバカ!!」

俺は連ちゃんの言葉を聞いていなかったように背中を向けていた。


今日も良い天気。

退屈だなぁ、外に行きたい。

「ふぅ」

ガラッ

扉が勢い良く開いたことに私はびっくりして目が行った。

「連ちゃん!?」

連ちゃんが息を切らしながらドアの前に立っていた。

「好きッ」

「え?」

「ってほどでも無いけど梨生がお前を居やがるなら、俺がお前のそばにいる。」

一体何なの?

連ちゃんが変だよ。

ガチャ

「それは無理だな。」

「こんにちわぁ♪」

今度は梨生君と知らない子が入ってきた!

何?何なの?

「梨生、加西?」

「何でいるかって顔してんな。お前、明日から病院来んなって言ったろ。だから来た。莉子は渡さない。莉子は俺のだ。」

「え?」

何何?何なの?私でモメテンの?

「おまえ加西が」

「知らないんですか?橘先輩ったら《友達としてなら良い》って言ったんですよ。」

「は?」

「でもさーさっきみたいなこと言って連ちゃんがホントに行くなんて思ってなかったんだよ〜」

「なんだしそれ!!」

「え?何?」

「あんな連ちゃんが莉子に告ったんだよ」

驚きが隠せない。

びっくりマークが5、6個できた。

連ちゃんがそんなことしようとして走ってきたんだと思うと信じがたい事実だった。

「でも!」

「?」

「莉子はあげない♪莉子は俺のだもん。」

梨生君は梨生君なりの温かさ、連ちゃんの温かさと違う。

私の探していた温かさは限りなく梨生君に近い。

梨生君が大切な人だったのか思い出せないんだ。

あの後すごい連ちゃんに怒られたけど、やっぱり莉子が一番でしょ。

本当は加西に無理矢理こじつけたものだったけど、加西はそれなりに理解してくれた。

「あとは…」

莉子が俺を思い出してくれるのを願うだけだ。


1週間経った。

相変わらず莉子の記憶は戻らずじまい。

だけど退院が決まった。


「あれ?もう支度してんの?」

退院まであと2日もあるけど早く準備するのに越したことはないと思ったんだ。

ずっと寝たきりだったから足も上手く動かないし、左手の麻痺が残ってるから。

「うん。連ちゃん来ても暇だよ。」

「いや、今日さ、梨生から手紙預かってきたんだよ。」

「え?」

「あいつも自分で来ればいいのにな。はい。」

連ちゃんは私に、手紙を渡してきた。

何だか、やな予感がする。

私は、一瞬手紙を開くのをためらっていた。

「開けてみろよ。」

連ちゃんの言葉につられて手紙を開いてみた。

カサッ

『莉子へ

あと少しで退院だってな。

おめでとう。これから、学校が始まるし。

たいへんだと思うけど。連ちゃんとかいるから頑張ってな。

ちなみに、莉子は2cだからな。

さて。俺だけど、明日、実家の方に引っ越す事になったんだ。

この前会う前から決まっていた事なんだけど、中々言い出せなかった。

だから、莉子の記憶が戻るまで、会うのをやめようと思ってた。

でも、やっぱり莉子は大切だから、何も言わずに行くのは嫌だった。

だから、連ちゃんにお願いして、手紙を書く事にしたんだ。

ごめんな。

ここで、本当の話をするよ。

莉子が記憶をなくす前の話を。

中学三年のころ俺と、莉子は初めて同じクラスになったんだ。

今まで、会った事も無い俺たちだったけど、すぐに仲良くなって付き合っていたんだ。

それから2年がたって、俺たちは同じ高校に進んでいた。


でも、俺と莉子が付き合っているのに良い気分になれる人が周りにいなかったんだ。

そのせいで莉子は、周りの女子にいじめられるようになった。

結果がこれだ。

莉子は学校の前の川に突き落とされて、記憶をなくしたんだ。

読むのは本当につらいと思う。

だけど、莉子が捜し求めた結果。

受け止められなくてもいい。

俺は求めた結果を伝えただけだから。

これを聞いて、俺を嫌いになったなら、なったで良い。

でも、俺はお前を忘れないから。

短い時間だったけど、俺はお前に会えてよかった。

もう、会うことが無いかもしれないけど、莉子は莉子なりに頑張ってな。

じゃぁ長かったけど、さようなら。

○月○日   橘 梨生 』

日付は昨日。

という事は、梨生君は今日、実家に引っ越してしまう。

急な事だ。

私は混乱していた。

どうして急に?

こんな事をいわれて私はどうしたら良いのかな。

すごくこれからが不安だよ。

「莉子?」

「連ちゃん。梨生君の実家ってどこにあるの?」

「京都じゃないか?」

ガタンッ!

私は何だか解らないけど、京都と聞いて、体が動いた。

「莉子?おい莉子!!」

連ちゃんの言葉なんか耳に入らなかった。

私はとりあえず、駅に走った。


東京駅

結局あれ以来、莉子には会わずじまいで、京都に帰る事になった。

莉子は怒っているかもしれない。

それとも、何が何なのか解らなくて泣いているかも知れない。

でも、こうするしかなかった。


俺は俺なりに、戦ったつもりだ。

電車の窓から見える景色は、晴れている。

莉子の退院の日も、これぐらい晴れていると良いな。

ピーーーーーーー電車が動き出した。

「梨生君!待って!」

「莉子?」

「梨生君!お願い!行かないでよ!ねぇ!梨生君!」

莉子は、窓の外から、俺に訴えていた。

でも無残にも、電車は動き出していた。

「梨生君!!梨生君!」

「莉子!!ごめん!元気でな!」

莉子は、病院から走ってきたのだろう。

ぎこちない動きをしていた。

俺は、それを見ていられなくなった。

俺は新しいものを見つけ出さなきゃ。

じゃ無いと、莉子は悲しむだけだ。

もう莉子は莉子だ、もう、俺の彼女という肩書きは無い。

「さよなら。」

窓のカーテンを閉めてしまった。

「駅まで来るなんて、反則だよ・・・」

涙が止まらなかった。



行っちゃった。

梨生君帰っちゃった。

何で早く行ってくれなかったの?

何で会いに来てくれなかったの?

「うわーゎん」

「莉子!?」

ホームで座り込んでいる私を発見するなり、連ちゃんは慌てて駆け寄ってきた。

「莉子?どうしたの?何で泣いてんのさ。」

「梨生君が行っちゃった梨生君が行っちゃった。」

何でないているか解らなかった。

手紙の中では付き合っていたという文字が並んでいたけど、実感が無い。

でも何だか、涙が止まらなくて。

「莉子、とりあえず病院に戻ろう。」

「わーー・・・」

私は、人目も憚らず涙を流した。

すごく悲しかったんだ・

「あいつ、莉子に言ってなかったのか!?」

「うんっ。さ、さっきの手紙で・・ぐすzつ」

「何だよ。あいつとっくのとうに言ったと思ってたのに。」

連ちゃんもおカンムリだ。

梨生君がこんなことするとは思わなかったんだろう。

それを聞いて、ますます涙が止まらなかった。

不思議な事なんだ。

何で、自分でも追いかけたか解らない。

でも、さっきの手紙を読んだとき。何だか、心の奥から、温かいものが現れたの。

思い出せそうで、思い出せなくて、何かをあの時掴んだのに。すぐに離れてッちゃッた。

梨生君がいなくなったら、私思い出せるものも思い出せなくなっちゃうかもしれない。

「もう、訳わかんないよ。連ちゃん・・」


なぜこんな事になったかわからないまま。

学校に行く事になってしまった。

私はこれからどうすればいいか解らず、ただただ、授業を受けているだけに過ぎなかった。

「一海先輩。」

そんなときだった。加西さんが私に話しかけてきた。

「加西さん?」

「あの。これなんですけど。」

加西さんは私に何かを渡しに来た。

包み紙に入った、何だかアクセサリーっぽい感触。

「何?これ。」

「お預かり物です。橘先輩から。」

「え?」

私は、慌てて封を開けた。

『誕生日おめでとう。

今日は莉子の誕生日。

忘れちゃだめだよ。

最後のプレゼント。

莉子がほしがっていた、ダイズのアクセサリー。

何でこのアクセがほしいか最初わからなかったけど。

ダイズには。6つの答えが出るからかな?って思うんだ。

莉子は第一の答えを探し終わる前に。

また新たな答えを探さなきゃいけなくなったけど。

莉子なら大丈夫。

このアクセは俺の最後の恩だと思ってほしい。』

また手紙。

ダイズのアクセ、どこかで聞いた事がある。

なんだっけ。

何だっけ。

・・・・・・・・・・そうだ。

あのときだ。

私はあの時に、ダイズのアクセのことを言ったんだ。

中学三年生の最後の日。

卒業式の後に、梨生と買い物に行ったんだ。

「ねぇ。これかわいい!」

「えー・そうか?」

「ダイズって何だか好きなんだよね。すごく不思議で。ほしいな。でも、良いや、梨生にもらった違うアクセがあるから。」

「また探せば良いんじゃないか?」

「そうだね。」

私はその時すごく、残念だったんだ。

本当はほしかったのに。

本音を言えなかった。

でも、梨生は気づいていたんだね。

私がほしいって思っていたこと。

「梨生の馬鹿。」

「え?」

莉子はどうしてるかな。

また俺は莉子を傷つけちゃったんだ。

でも、俺は弱い人間だから、そんな事しか出来なかった。

もう、後戻りは出来ない。



新しい学校。

新しい校舎、見慣れない田舎の景色。

俺は、戸惑っていた。

莉子がいないことに不安を感じているのだろうか。

でも、莉子は俺を思い出さずに、楽しい学校生活を送っているのだろう。

こんな悲しい事は無いかもしれないが、自分で選んだ道だった。

無理やり楽しむ生活も何だか悪くは無いかも。ってそう思ってきた。

ボコッ

「そんな事思ってないくせに!」

背後から殴られ、すごく聞き覚えのある声。

俺は振り向いた。

「ほら、帰るぞ!」

「連ちゃん、加西、莉子!?」

「何ボーッとしてんの!?早く行くよ!!皆待ってんだから!!」

「えっ!?おまえら何で!!」

「梨生があんな馬鹿げた手紙置いてくから。思い出しちゃったの!!」

「なっ!馬鹿げたってお前!俺は心配してっ」

「何!?梨生は私を置き去りにしたじゃない!」

「それは…ごめん」

「ほら早く!!」

いつもの莉子がそこにいた。

俺のしっている強気の莉子が目の前にいた。


人生はいつ、どのように変わるか解らない。

でも人にはひとつの人生しか無い。

だから、もし自分の人生にタイトルを付けるとしたら

私はきっと

「愛」

と付けるだろう。


私のタイトルはまだ見つからない。

でも人生のタイトルは私の思った、「愛」に限り無く近づいているだろう。


                             END





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