幼女、戦に興味を示す
「結局のところヨーコやクソ女の力って何ていう力なの?」
「クソ女言うなっ」
「何でしょうね?……私達の世界で言う所の念力とか超能力だと思いますが」
「力が成長すると超ウルトラスーパーミラクル能力になったりするのね」
「しません」
現在、夜が近付いてきたのか辺りが暗くなりだした為、探索を中断してキャンプの準備をしている最中だ。日が暮れるにはまだ早い気もするが、森の中って事も影響しているだろう
夜行性の魔物が多いだろうけど、引き続きクソ女のゾンビ達が勝手に倒してくれるだろう。私達はテント張って飯食って寝てればいい
「夜の森って不気味ですよね」
「幽霊が夜を怖がってどうすんの」
「別に夜行性な訳じゃありませんよ……」
「私は昼でも夜でも元気だよっ」
「でしょうね」
アリスは昼でも夜でも一人騒がしくはしゃいでいるからな……てか幽霊って睡眠必要なのか?アリスはこの前人のベッドでスヤスヤ寝てたけど
「幽霊って睡眠って要るの?」
「要るか要らないかって言えば要らないよ?」
「あなた寝てたじゃない」
「だって皆寝てるし一人起きててもつまんないじゃん!」
確かに一人起きてても退屈か……こちらとしても静かに寝ててくれた方が助かる
「というかぁ……私は眠りにつくのが嫌いな方なんだ……もし、目覚める事が出来なかったら、とか考えちゃうもん」
「そのまま成仏するかもって不安なのね?」
「うん、まぁそんな感じ。あと、最近寝相が悪いのか服がはだけてたりするし……寝てる間に見られると恥ずかしいから嫌かな」
それは変態共の仕業と思うが黙っておこう。その張本人共は私は一切関係ありませんと言わんばかりに素知らぬ顔をしているが……
「話を変えますが、ここで訓練をしていた当事者であるお二人に質問です。今回冒険者がそこそこ来てましたが、この森での討伐の依頼とか結構あるのですか?」
「いい質問ね。私としては人を実験体に使っておいて他国から何の非難も浴びないってのが不思議でならないわ」
「ふふんっ、最初の質問にはこの私が答えてあげるっ!……冒険者達に、というかギルドに依頼を出す事は時々あるの。その時々って言うのが……私や兄弟姉妹達の訓練相手のため」
「……対人戦のためだとでも?」
「正解。私達は何も魔物を倒す為に作られた訳じゃないの。魔物と違って知恵もある人間と戦わせる為よ。その為には実戦相手も人間でなきゃね」
「言い方は悪いですが、戦争の駒という事ですか……」
このご時勢にまだ戦争とかやりたい奴等いるんかい。フォース王国の相手と言えばやはり仲が悪いサード帝国だろうな
「今時戦争とか……何て思ってそうなお姉様の為に言いますが、確かに大国同士の大規模な戦争は長年起こってません……が、小国同士や戦争とも呼べない小競り合いならしょっちゅう起こってますよ」
「へー……まぁ私達まで情報が流れてくる事は無いからわかんないのね」
「そういう事です。しかしギルドなら大体情報は集まってますよ」
世界情勢を聞くためにギルドに行くわけない
だが今回はフォース王国が動く……かもしれないって事で大きな騒ぎになりそうだ。うーむ、生きてる内に生の戦争にお目にかかれるチャンスって事か。さぞかし迫力があるだろうな
「実際のところ、フォース王国が戦争を仕掛けると思います?」
「異世界人まで呼んでるんだから何かしらやるでしょ」
「そりゃそうですね」
「それをヨーコが阻止すれば異世界人はまたもや英雄になるわよ?」
「私は自分の胸さえ処分出来ればいいです」
「勇者として売られた兄と大違いね」
「兄は……仕方なかったのです。当時、兄は14歳……勇者になって魔王を倒し、周りに美少女を沢山侍らせる事を夢見ていたお年頃だったから」
何が仕方ないのだろうか……勇者になって欲しいと頼まれて喜び勇んで承認したのが目に浮かぶ
だが英雄に憧れる気持ちも分からんでもない……何故ならウチにも勇者ではないが、おかしな妄想してたアホの娘がいるから……ジトーっと視線を送ると何のことか分かって無い様で小首を傾げた。地味に可愛い
「ではお母さんの疑問には私が答えましょう」
「ええ」
「簡単に言いますと、フォース王国が実験に使用している人間は死刑囚という事で公表されています。畜生にすら劣る卑劣な死刑囚を新薬の実験台として活用していると。まぁ魔物化する時点で病気の為ではなく怪しい薬と分かりそうなものですがね……
結果、先のオーガの様に化け物と化し、人として死ぬ事が出来ない事がある……というかほぼなるのですが、民の間ではざまぁみろ、自業自得、見せしめとして犯罪率が減る、と言った意見が多いのが現実です」
「信じてる民も大概馬鹿ね」
「実際は誘拐してきた子供、孤児、奴隷などが実験体として使われていると思われます」
「それはヨーコやクソ女に聞いた方が早いわ」
嫌そうな顔をして聞いていたヨーコと、何のこっちゃと分かってないクソ女
……見た目はメルフィぐらいの年に思えるが、クソ女の性格もは子供っぽいし、もしかしたら元となった素体は子供だったかもしれないな
それに大人と違って扱いやすそうだし……
「あー面倒くさ、考えるのは止めにしてホットケーキでも食べましょう。ルリ、蜂蜜出せるでしょ?」
「何じゃ?主殿はバター派ではなかったのか?」
「それはサヨが勝手に言ってただけよ、花蜂の蜂蜜を味わう前に一般の蜂蜜の味を再確認して食べ比べしようってね」
「なるほどの、それは良いな」
先ほどのホットケーキを夕飯代わりとして食べる事にした
ヨーコはアリス同様に食べる事は出来ないが、クソ女は私にも寄越せとやかましいので不服だが分けてやった
……ぶっちゃけ甘ったる過ぎて私はあんまり好きじゃないかも
ん?何か見落としてると言うか気になる事があったが、なんだったっけか
☆☆☆☆☆☆
翌日、花蜂の巣の近くまでやってきた。と、サヨが言っていた。どうせ探知魔法かなんかで近くまで来たと分かったのだろう
ちなみに今日はマオが抱っこ係りである。最近座椅子として活躍してないから選んでみた、私ったら何と優しい姉なのだ
この付近では普通の魔物も出るみたいで、犬型や鳥型など何処にでもいる魔物にちらほら出くわす。
ちなみに熊型の魔物も出てきた。肩に尖った岩の様なものを付けており、体長はおよそ3メートルはある大きな熊だった
強さ的には大したこと無い魔物だが、やはり蜂蜜と言えば熊なのだと一人満足した
「この下に花蜂の巣がありますね」
「このそこら辺に飛んでるピンク色の奴が花蜂?」
「そうです。名前の由来は羽根が花柄になってることです」
なるほど……蜂が花から蜜を集めるとか当たり前だしな。流石に花から蜜を集めるからって理由じゃなかったか
どうやって掘るか……と悩んでる内にユキが地面を叩き割るという力技で巣を掘り出した。
巣は何とも巨大で1メートルは軽く超えている。巣からブンブンと花蜂が出てきたり、幼虫がウネウネしているが眼中にない。目的は蜂蜜のみだ
「ほほう……これが花蜂の蜜か」
「早速舐めてみますか?」
「当然」
穴に溜まっている蜜を指で掬い取り口に運ぶ
おぉ……案外甘くないし、何より花の蜜の如く花の香りがする。これは紅茶に入れたら良さそうだ。他にも活用法はあるだろうがそれはユキに任せるとしよう
「良い収穫だわ、これは当たりね」
「それはようございました。では予定通りルリさんに食べてもらって量産しましょう」
「任せよ」
ルリが量産してくれるおかげで巣は一つ見つけるだけで済む。花蜂の巣を何個も掘るのも可哀想だし、結構なことだ。連れてて良かったドリンクバー
「では戻りましょうか、ひょっとしたらホットケーキ達が冒険者にやられてる……なーんて事も」
「……冒険者?」
「あ、今のは軽い冗談で……」
それだ、冒険者だ
昨日なんか見落としてるというか聞き流してたと言うか……とにかく忘れちゃいかん事を忘れてた
「クソ女は対人戦の為に冒険者に依頼を出しておびき寄せるって言ったわよね?じゃあ今回もそうなの?」
「そういえば……あのエロガキ用じゃないですか?」
「んー……違うかな?あのクソガキには訓練とか必要ないだろうし、というかクソガキは勝手に抜け出してきたんじゃないかな?常習犯だったから」
なら誰の為の訓練相手なんだと
考えるまでもない、新しい実験体に決まってる。いや、決まってはいないけど……仮に合っていた場合、もしかしたらクソ女より強化されており、あの小僧も練習台として用意されたのかもな
まぁクソ女の言うとおり勝手に来た可能性のが高いけどな
「また実験体の相手とかしたくないわね……」
「どうです姉さん?何か気配はありますか?」
「あると言えばありますか?距離的に森の入り口らへんで冒険者とオーガと思われる気配が次々に消えているのが……いや新手のせいとは言えませんけど」
「はよ言えペチャパイ!」
「む、黙っていたのは悪かったと思いますが……依頼もやらねばなりませんでしたし」
何という事だ
サヨの馬鹿者め、依頼なんかよりよっぽど大事な事じゃないか!
「入り口付近には私達の馬車もあるのよ?」
「中にはぺけぴーも居ますしね……急ぐべきです。転移で早く戻りましょう」
「……失念してました。申し訳ありません」
「行動で返してもらうわ。もし、新手と戦う羽目になったら働いてもらうわよ?」
「勿論です」
相手がクソ女みたいに扱いやすい相手ならいいけど……だがこちらには私達以外にもヨーコやクソ女もいるんだし、何とかなるか
念のためすぐに戦闘できる様に準備してから私達は転移で入り口まで戻った
★★★★★★★★★★
入り口、というか馬車の側まで転移で移動してきた。まず最初に馬車を確認するが、幸いな事に何の被害も見当たらなかった
結界を張っているとはいえ、ヨーコの力と同じなら簡単に破壊されただろうし無事で良かった……高いんだよこれ
辺りには確かに死んでいる冒険者やオーガがいるが……肝心の敵が見当たらない
というか冒険者とオーガはお互い戦って死んだっぽい。何だ、心配するだけ無駄だったか
「取り越し苦労で良かったわ。でも冒険者を火葬して埋めてないって事は……」
「余裕が無かったんでしょう。死体が持っているギルドカードを見る限りトゥース王国の冒険者のようですし、まぁ実力が足りなかったんでしょうね」
「何でフォース王国の尻拭いをトゥース王国がやってんのよ」
「……何故でしょうね?冒険者を派遣出来ない理由でもあるんでしょうか」
理由として考えられるのは自国でも実験体が暴れてるとかそんなもんか?
「お姉ちゃん、ホットケーキさん達は置いてけぼりですか?」
「忘れてた。無視していい?」
「待機しとくように言った以上戻るべき」
と言われてもホットケーキなんか連れて行けんぞ?
というか世にも珍しい生物なんだから絶滅させるには惜しいと思う
「……あいつらにはこのまま生きてもらいましょう。人間の馬鹿さを伝える為に」
「それもいいですね、連れて行っても邪魔になりますし」
「でも確かに黙って行くのは悪いから手紙か何か書いておきましょう」
「ではその様に……」
オッサン達には悪いが、囮にしかならなさそうだし正直邪魔
ユキが代筆をし、転移魔法でオッサン達の元へ届けたのを見て先へ進む事にする
まだ森の中では冒険者とオーガ、またはその他の魔物が戦っていると思うが、今まで森の中で生きてきたオッサン達なら巻き込まれる前に回避できるだろう
二人ほど同行者が増えたが、客用の部屋もあるしいいか、どうせすぐに別れることになるし
だらけていたぺけぴーを叩き起こし、早速フォース王国の方角へ向かうことにする
クソ女のゾンビ達はベレッタ以外さっきの場所に置いてきたが、どうせ呼べるしそのままにしとく
………
……
…
「何なのよこの夜逃げ集団達は」
「何でしょうねぇ……」
ハイキの森から出発してはや数日、というか10日以上は経ってるか?
道中はクソ女がこの素晴らしい馬車にはしゃいで五月蝿い以外は何もなかった。いや、アリスも一緒に騒いで余計五月蝿かったが
中継都市にすら寄らずに先へ進んでいると、冒険者とは思えない感じの者達とすれ違い始めた。初めは馬車とばかり遭遇していたが、日にちが経つにつれて荷物を背負って歩く一般人風の者達も現れた
最初の馬車の奴等が貴族、今すれ違ってるのが平民か
どうやらフォース王国の冒険者達が守っているようだが、オーガをトゥース王国の冒険者達に任せた理由はこれっぽい
「ユキ、その辺の奴に聞いて何事か調べなさい」
「わかりました」
馬車に乗っているので他国の貴族と間違われたが、ただの冒険者と伝え落ち着いたところで事情を聞いた
だが話を聞くよりこれを見た方が早い、とユキは紙切れを一枚貰いそれを私の方に持ってきた
『残虐極まりない実験を繰り返すフォース王国へ裁きを下すために我々は立ち上がった
我が名はボテバラート、ペロ帝国を率いる王なり
今より二ヶ月後、我等はフォース王国へと進軍する。二ヶ月もあれば民の避難も済むであろう……愚かな王族だろうが兵士だろうが我等に恐れをなし、逃げるのも結構。ただし、我等はフォース王国を潰した後ペロ帝国として土地を頂く
少しでも誇りがあるのならば我等と戦え、正面から叩き潰してやろう。以上をもって我等の宣戦布告とする
追伸。罪のない幼い少女まで実験に使ったことが貴様等の過ちだ。覚えておけ、ペロりロリータノータッチだ』
「何だこの追伸」
「戦を起こす理由としてはふざけてますが、何の罪も無い人間を実験に使った証拠でも掴んだのでしょうね」
「大義名分を得たという事ですか……どうせ本命は土地でしょうけど。しかし二ヶ月前というとあのオバサン会ったぐらいの時には宣戦布告してたのですかね」
「かもね。ヨーコ、先を越されちゃうわよ?」
「これ以上私の胸を他人に晒すわけにはいきません。急いでください!」
「誰も貴女の胸かどうかわかんないわよ」
予想と違ってフォース王国が攻められる側になっているが、生で戦を見れることに変わりは無い
しかしそれとは別に困ることがある
「まだメルフィの両親に墓前で報告してないんだから荒される前に行きましょう」
「……そうしてくれると助かる」
ペロ帝国が攻め込むまでは具体的には不明だが残りわずかの筈、時間的にギリギリだ、というか間に合わないと思う。そもそもトゥース王国からフォース王国までが遠いんだから仕方ないのだが……
緊急という事でペロ帝国より先にメルフィの故郷に着くためにぺけぴーに速度を上げるように伝え、道中の風景を楽しむことも無く進む事にした。いざって時は転移魔法の出番だが、いきなり戦闘中に出くわしたりしそうで嫌だ
このまま間に合えばいいなぁ……




