幼女、生きたホットケーキに会う
サクラヨウコの話を聞くのは構わないが、私達には蜂蜜の依頼があるしこの場所でのんびり話してたらオーガがまた襲ってくる、というか現在進行形で襲われている。なので先に進みながら聞くことにする
オーガの相手をしているのは冒険者……のゾンビ達だ。クソ女のゾンビな訳だが、引き連れていた訳ではなくあの時と同じように召喚で呼んだ
「ゾンビを操るってのも案外役に立つのね」
「どうでもいいけど、何であなたがベレッタに抱っこされてんのよ」
「ひんやりしてていいわー、この娘。森の中だけあってジメジメしてるし蒸し暑いから快適」
何で私がベレッタに抱っこされてるかと言えば試しに抱っこを要求してみるとあっさりしてくれた、以上である。
「ベレッタは私のよ、さっさと降りて」
「ふ……私の抱き心地を知ってしまったベレッタはもはや私の虜よ」
「ベレッタ、そいつムカつくから捨てなさい…………こら、言う事聞きなさいっ!わ、私よりそいつを優先するってのっ!?」
「お姉様の言い方は間違ってませんがエロいですね」
「抱き心地……意味深です」
「さっきまで姉妹喧嘩してたくせにこういう話になると仲良いわねあんたら」
悔しがるクソ女の顔が涙目になっていくのが面白いので更におちょくる事としよう
そういえばとトゥース王国の変態騎士がベレッタの乳を揉んでいたのを思い出したので触って見る事にした
ふにふにでした
「あの変態の気持ちもわからんでもないわね」
「どこ触ってんの!!ベレッタっ!!捨てなくていいからさっさとそいつ降ろしなさいっ!!」
「降ろしちゃ駄目よ。そのひんやりした身体で私を満足させなさい」
「……降ろしませんね。どうやらお母さんの言う事を優先した様です」
「主殿は他人が使役しとるゾンビにまで好かれるのか……女殺しというより人外キラーじゃな」
「ふむ……ルリの言う事は間違ってないわ。ここにまともな人間は私しかいないし」
メルフィは今は人間だが元は悪魔、記憶も力も受け継ぐ転生者なんぞ普通の人間とは言い難い
さて、そろそろサクラヨウコの話を聞いてやるとしよう。ホットケーキが現れるまではまだまだかかる
「じゃあサクラヨウコ。あなたの頼みとやらを言うだけ言ってみなさい」
「あ、遥子で構いません」
「ヨウコ、ヨウコヨウコ……ふむ、ヨーコね」
しかしオオォォ、とか唸り声しかあげなかった黒い幽霊と同一の存在とは思えないほどはっきり喋るのな。まぁアリスもやかましいくらい喋るし、ちゃんと自我を持つと喋れるのだろう
「……では、まずは私がこうなってしまった経緯から」
「待った、いい?長ったらしい話は駄目よ?」
「では短めに……まず最初に、私は兄と一緒にこの世界に召喚されました」
「こらアリス、脳に欠陥がある幽霊を連れてきちゃダメじゃない」
「まぁまぁ、最後まで聞いてみようよ」
この世界に召喚って……まるで自分が異世界から来ましたと言わんばかりじゃないか
そりゃ昔は異世界人がそこそこ現れたらしいが現在ではそんな話は全く聞かない。もはや伝説の存在だ……あまりに好き勝手する異世界人を世界が拒絶したのだと私は考えていたが、違うのか
「ヨーコ、あなた自分が異世界人とか言うつもり?」
「その通りです」
「ぷふーっ!異世界人だって!おちびちゃん、まさかあなた信じるの?」
「そうね、嘘は言ってないみたいだし何よりヨーコの力はこの世界の人間では異質だもの」
「主殿の言う通りじゃ。その様な出鱈目な力を使えるのは過去を思い出しても異世界人だけじゃ」
そういえばルリは大精霊だけあってかなりのババアだったっけ……なら大昔の異世界人を知っているはず
「ルリ、異世界人ってのはヨーコみたいな容姿や名前だった?」
「むー……実際に見たのはごく僅かじゃが、黒髪の異世界人は確か居たのぅ。じゃがサクラヨウコ、ふむ……名前がそんな感じの奴もおったな」
「黒髪じゃない異世界人もいたのですか?」
「むしろ黒髪じゃない方が多いらしいぞ?まぁ大体金に近い色で、名前もこの世界の者達に近い。じゃが技術や知識に関しては黒髪の者が優れておった」
ふむ……てことは黒髪の人間は異世界の中で優秀な一族なのか……この世界で言う所の貴族って感じかな
「いえ……私の力なんてそれほどじゃないと思いますよ……現にアリスさんには全く通用しませんでしたし」
「なに?アリスったら実は隠れた実力者なの?」
「私は幽霊だから効かなかっただけじゃないかな?」
何とも白々しい奴だな……まぁいい、話すつもりが無いのなら無理に聞く必要はない
私のことより話を聞きなよ、と促されるので続きを聞くとする。いや、聞かなくていいか
「あなたの頼みってのは兄を探す事でいいのね?」
「それもありますけど……と、とりあえず最後まで聞いて下さい」
一つだけじゃないってのか
研究所を一緒にぶっ潰しましょうとか言われたら断固拒否だ馬鹿野郎
「召喚された直後、私に今の力は無かったので私室を作られて保護されてました。まぁ今では監禁してたのだと思いますが」
「あなた達は何で召喚されたのよ」
「異世界から来た者は強力な力を授かるようでそれが目的です。実際私にも能力が付与されました」
「兄にも?てか兄はどうなったの?」
「兄には私の様な力は有りませんでしたが、代わりにドラゴンですら素手で倒せるほどの身体能力が供わりました」
ほほぅ……ドラゴンを素手でとな
ちらりとユキとサヨを見る……何だ、大したこと無いな。マオですらドラゴンくらい素手で倒せそうだ
「ただ、身体能力が高いだけの存在などあの研究者達は必要としていなかったようで……兄を勇者などと称して他国に売ったのです」
「他国?」
「確かナイン皇国と言ってました」
あー……あそこな。あの国なら確かに異世界の勇者とか欲しがりそうだ
ただ、今時勇者なんか必要かと思うが……まさか冒険者の様に魔物を討伐するだけじゃあるまいな
「兄は……悪魔の巣窟に攻め入って魔王に深手を負わせたものの、多勢に無勢で敗走したと聞きました。それ以降行方はわかっていません……」
「……あれ?」
何か似たような話を前に聞いたな
そう、確かマオの母である舞王がそんな事を言っていた。確か農作業をしてたらいきなり魔王覚悟とか言われて重傷を負ったと
「貴女の兄がその悪魔に深手を負わせたのはどれくらい前だかわかる?」
「……この姿になってどれほど経ったか分かりませんが、あの馬鹿息子が13歳ぐらいの容姿でしたので15年ほど前だと思います」
「へー……時期的に合ってはいるわね」
「何がでしょう?」
「私の妹、義理だけど。その妹の母親が何者かに襲われたわけよ……その後まだ赤ん坊だった妹は犬猿の仲である種族の元で不遇な生活を強いられたのよ」
何という偶然……マオがあの様な生活をする羽目になった元凶の妹にこんな所で会うとは。ヨーコの兄が襲ったという確証は無いのだが、まず間違いないな。悪魔の巣窟、里か?そんなに数があるとは思えない
「その、それは……すいません……」
「私に謝るよりまずこの娘よ。マオ、あなたはどう思ってるの?」
「ふぁい?……んー、良く分かりませんけどお母さんは生きてるし、おかげでお姉ちゃんに会えたから別にどうも思いませんけど?」
「……あっそ。まぁ貴女なら言うと思ってたけど」
マオのことだ。直接手を下したのはこの幽霊じゃないから恨むこともあるまい。重傷を負った舞王の実の娘が気にしないのだから私も気にしない
とでも言うと思ったか馬鹿め
「マオは気にしない様だけど私は違う。あの時舞王は私のことを娘と呼んだ、なら私にとって舞王は第二の母……私は家族を傷つける者には容赦はしない」
「あの、そう言われても」
「そうね、あなたは兄の身内ってだけで無関係だわ。けど残念ね……私ほどの外道になると関係のない」
「お母さん、おやつをどうぞ」
何だこの野郎……このチート娘に奇跡ぱわーの力を見せてやろうとしてる時に邪魔しおって
何か黒……濃い茶色い物体をズイっと渡されたので素直に受け取ってしまった。ひんやりして冷たい……というかこの形はおっぱいアイスじゃないか
「おっぱいアイス褐色娘バージョンです。味はチョコレートになります」
「なんと、新製品が出ていたか」
どれどれ……うむ、確かにチョコレート味。せっかくだからベレッタの胸に押し付けて食べたいとこだが体勢がきつすぎる
「ちゅーちゅー」
「あの……?」
「アイスを食べている間はお母さんは静かですので続きをどうぞ」
「ぇー……」
「ちい姉ったら……チョロイ人だねっ」
どさくさに紛れて私を中傷した馬鹿者がおるな……このアイスを食べ終わった時、私の怒りが爆発するだろう
しかしこのアイス、デカすぎだろ……絶対Dカップはあるぞコレ。おのれユキ、私が食べ物を粗末にしないと知っての狼藉だな……これでは長時間喋ることが出来ない。ちゅーちゅー
「そ、それでですね?私が召喚された当時は10歳だったのですが、能力が発現するまでは先に言った通り監禁生活をしてたのです。それまでは何の危害も加えられる事は無かったのですが……」
「その力を手にしてから変わったと」
「はい……まずはこの森で力を上手く使う為の訓練をさせられました。と言っても私はこの森に住む生き物を殺すことなど出来なかったですけど……なので岩など無機物を破壊する事で訓練をし、能力を上手く使いこなせる様にしました。まぁあっさり使いこなせたんですけど」
「白髪の方にも聞きたかったのですが、その力とやらはどう使うのですか?」
うむ、私も気になっていた。サヨもボケ担当のくせにたまには良い質問をする
私の口がアイスで塞がっていなければお前も白髪じゃん、と突っ込んでいたところだ。そして白髪ではなく灰色に近い銀ですと反論がきていただろう
「えと……ただこうなればいいなぁ、って思ったらその通りに発動しますけど」
「爆発しろ、って思ったら爆発するんですか?」
「はい」
はい、じゃねえよ……何だよそれ。こちとら強く想わないと発動しないってのに不公平じゃないか
「それを何の代償もなくやってのけるとは……恐るべし異世界、という事ですか」
「あぁ……お母さんが怒りの表情でおっぱいを吸っていらっしゃいます」
「言葉にすると何とも変な感じがするのぅ……」
「大丈夫だよちい姉っ!間違いなくちい姉の力の方が上だからねっ!」
まともに私の力を見たことないと思うのだが、やけに自信満々に言うな
「ちい姉の力はマオちゃんから聞いたからねっ!何で上かと言うと、ヨーコは自分の力じゃ異世界に帰れないけど、ちい姉の力はきっと元の世界へ戻すことが出来るからだよっ!」
「えっ!?ほ、本当ですか?」
くそボケアリスめ……余計なことを言いやがって
確かに出来るだろうけどどんだけ気絶しなきゃ不明だから絶対に使わん!
「まぁこの話は置いといて……続きをお願いします」
「え?……あ、はい。で、しばらくは訓練をさせられていたのですが、その、ですね……私が、こ、子供を産めるようになってから扱いが何と言うか……」
何故か皆顔を真剣にさせて話に集中しだした。わかりやすい奴等だ……このスケベ共め
かくいう私もヨーコの話に集中しているけど
「そ、それで!さっきの男の子を産んだ訳ですけど」
「待ちなさい」
「馬鹿な……ちい姉がアイスを食べながら喋ったっ!?」
「普通にお姉ちゃん喋ってるじゃないですか」
「よほどヨーコさんの話の中に大事な事があったのでしょう」
「そうよ、何故子供を産むまでの過程を省いたし」
「いえ……わ、私にだって思い出したくない事もあるんですっ!」
知らんがな。皆言いたくない事は言わなくても……みたいな雰囲気を出しているが私には分かる、こいつら絶対聞きたいと思っている!私も聞きたい
「どうなの?ねぇどうなの?研究所にいる沢山の研究員達に襲われたの?どの研究員があの小僧の父親か分からないんじゃないの?それくらい大勢の相手させられたんじゃないの?」
「何で知ってるんですかっ!?」
「ふっ……自白しおったか。あの小僧がパパ達とか言ってたからね……勘で言ってみただけよ。もしかしたら誰が本当の父親か分からないんじゃないかって」
「相変わらずお姉様の考察は鋭いですね」
サヨはそういうが、思った通りの展開だったとか物凄くつまらん。もっと聞いて驚くような話を聞きたかった
「うぅ……他人にはあんまり知られたくないのに」
「ふ……ユキ、こいつに言ってやりなさい」
「では僭越ながら……ヨーコさん、エロ本にはよくある事です」
「エロ本かよ馬鹿。世の中にはヨーコと同じような目にあってる奴が多いとか、そんな事言いなさいよ」
だがまぁよくある事ってのは一緒だ。もう死んでるんだし、生前の事は無効と考えれば良いのだ
ヨーコが子作りの様子を具体的に言わないならもう興味ない、アイスの続きと洒落込もう
「お話中失礼するけど、もうオーガは出てこないみたいだよ。てか私にばかり敵を押し付けないでよ」
「別にあなた自身が戦ってるわけではないでしょう?」
「操ってるのは私っ!」
「まぁまぁ……アイス食べますか?」
「食べるっ!」
クソ女も子供だなぁ……まぁハトがいますよ何て手に引っかかる時点で馬鹿か子供なんだけど。実際こいつ何歳くらいなんだ?ヨーコの身体の一部から作られたって事は10歳前後と思う
見た目は大人ではあるんだがなぁ……
「……ふっ」
「何か鼻で笑われた気がするんだけど?」
「お静かに……どうやらお母さんのお目当ての一つが近付いてきます」
「ヨーコさんの話は一先ずお預けですね」
お目当て……?蜂蜜じゃないな、近付いてくるのなら生きたホットケーキだろう
こりゃアイス食ってる場合じゃないな。想像するのは中々難しいから実物が如何に珍妙なのか見てやろうじゃないか。食べかけのアイスはユキに渡して亜空間に一時保存してもらう
その場に立ち止まってホットケーキが出てくるのを待っていると、ばいんばいんと何かが跳ねる様な音が聞こえてきた
そして更に待っていると黄色……表面が茶色に焦げた様な二枚重ねのホットケーキが現れたのが確認できた。普通のホットケーキと違う所はその大きさ、幅がおよそ一メートルはあるだろう
そして真ん中の店で注文したらバターが乗ってる場所に禿げたオッサンの頭が生えていた
「想像以上にキモいわ。すごくガッカリ」
「ちい姉見てよっ!あの顔黄色いよ?絶対あれも生地で出来てるよっ!」
アリスだけテンション高かった。他の皆は一様にキモい生物を見る目をしている
そのキモいホットケーキはばいんばいんと近付いてきて、一定の距離を保ったところで停止した。ただ、跳ねるのはやめずにその場でばいんばいんしている
「何だって?これじゃパウンドケーキならぬバウンドケーキだって?」
「言ってねぇよ」
こいつ喋んのかよ……黄色い顔したオッサンに戦慄していると、あちらこちらからホットケーキ達が現れた。何というカオス……皆してオッサンの顔をしているとか悪夢だ
ここに居るのはお菓子の町なんていうメルヘンな世界の生物じゃなかったのか?当時の研究員達は何でオッサンを選んだ
「いきなり攻撃をしてこない所を見ると敵ではなさそうだな……俺の名はモンブラン、こいつらのリーダーだ。よろしくな」
「おい、モンブランに謝れ」
「おぉ!?……そ、そこにおわすは我等が女神、サクラヨーコ様……と、我等が死神のちんちくりんか」
「くふふ……また虐めちゃうよ?くそケーキ……」
「お久しぶりですね……相変わらず気色悪い」
オッサン……あんたらの女神に割と嫌われてるじゃないか。気付いてないのか知らんが満面の笑みでヨーコに近付き嫌そうな顔をされつつ離れられていく
見た目はこんなだが、ここまで明確な意思と言葉を話せるとは実は凄いことだ。なんせホットケーキだし
うぅむ、実はこいつらも元は人間じゃないかと思いつつ、逃げるヨーコを追う沢山のホットケーキを眺めた




