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幼女と廃棄物

 起きたらユキが人が無防備で寝てる所をスケッチしてた


「人の寝顔を無断で描くとは堕ちたものね」

「お静かに」


 口元に人差し指をあてる仕草をした後そのまま指を私の方へ向ける。正確には私の後ろの方を指しているようだ

 何事かと思えばアリスがいつの間にやら隣で寝ていた。どうやらユキは私ではなくアリスの方を絵に描いていたみたいだ


「猫の様に丸まって幸せそうに眠る少女……これは絵に残すべきでしょう」

「そうね、だからって人の布団を勝手に剥がないで欲しいわ」

「私は何もしてませんが?お母さんが暑いからって蹴飛ばしたのだと思います」


 符によって快適な温度になってるからそれはない……というか今まで布団を蹴飛ばした事が無い。となると犯人は隣で熟睡してる幽霊の仕業ということになる

 にゅふにゅふ笑みを浮かべて寝るアリスを見たら怒る気も失せた。しかし仕返しせずに済ますのも何なのでスカートを捲り、下着が半分より少ないほど見える絶好のチラリズムとなった所で満足する


 今日はピンクだった


「これは……流石お母さん、分かっていらっしゃる」

「全く嬉しくないけどありがとう。この絵は飾るから気合入れて描きなさい」

「お任せ下さい。しかし半透明のアリスさんを描くのは中々に難しいですね」


 そりゃ難しいだろうよ。わざわざ半透明に描かなくてもいいと思うが、その辺は絵描きとしてのプロ根性を発揮してる様子

 どんな具合になってるか確認したら見事に私がドアップで描かれており、アリスは私の影に隠れてほぼ見えないという有様だった。当然破って新しく描かせる事にする


「如何にもアリスを描いてますって感じだったくせにこの出来は何って話よ」

「あぁ……2時間かけて描きましたのに……アリスさんはこれが完成した後にもう一枚描くつもりでしたよ」


 2時間も私は気付かずに寝てたのか……これはいけない、身内とはいえ危険人物が居るってのにこの腑抜け具合は何とかしないと


 ユキが気を取り直してアリスを描き始めた時、ドアが開いてメルフィが入ってきた。手に箒やらちり取りやら掃除道具を持っているので清掃に来たようだ


「掃除していい?」

「ベッドにはアリスがまだ寝てるからそれ以外をお願い」

「分かった。姉さんはさっさと着替えてくれれば洗濯物を運べるから助かる」

「メルフィさんが掃除と洗濯をしてくれる様になってから非常に助かってます。しかしお母さんの私服を洗濯出来ないのは悔しいです」

「気色悪い」


 寝巻き姿のままではメルフィに悪いから普段着に着替えるとしよう。だが変態がいるのでわざわざ風呂場で着替えなくてはならない

 着替えを持って移動しようとした時ふと思ったので聞いてみる


「精霊魔法で掃除って出来ないの?」

「出来る。けど……魔法使ったら早く終わりすぎて働いた感が無い」

「私は楽する方がいいと思うけどねぇ……」


 まぁさっさと終わってしまったら空いた時間が暇になるもんな。まぁきっちり掃除してくれるしどうやるかはメルフィの自由だ


「私もお母さんの洗濯物は手洗い派でした。メルフィさんも同志だったのですね」

「ユキ姉……頭良いのに頭悪そうとか器用」

「その褒め言葉は初めて言われました」


 このメイド、ポジティブである

 とりあえず着替えを済ませたらリビングにでも行こうかな。掃除の邪魔になりそうだし……ユキは動く気配が無いが、画材道具が邪魔にならないのだろうか

 しかし見た目メイドの方が掃除しないで絵を描いているとはいかに……




「アリスは寝顔だけ見ると可愛らしい」

「天使の寝顔ですね。普段の元気な姿も可愛らしいと思いますけどね」

「ちょっとうるさい。黙ってれば可愛いと言われるタイプに違いない」


 風呂場、というか脱衣所から出ると二人して寝てるアリスを眺めているようだ

 まぁあの寝顔を見たら二人が可愛いと思う気持ちも分かる


「でもこう……もう少し服をはだけさせれば……」

「なんと……!」


 寝てるアリスの胸元のボタンを外し、服を肩より下までずり下ろす変態候補のメルフィ。ここまでされて起きないとは……


「一仕事終えて昼下がりに惰眠をむさぼる幼妻の完成」

「服がはだける一仕事……意味深です。まさか身内に姉さん以外の上級者が居るとは思いませんでした」

「少し変化させるだけでも印象が大分違う。素材が良いから色々試すべき」

「貴女達の会話に入っていけそうにないわ」


 むしろ入りたくない。ここにサヨが入ろうものなら私の部屋が混沌と化す。哀れなりアリス、せいぜい遊ばれてくれ。私はリビングに避難しておこう


「あぁ……マイちゃんは今日はユキの肩に居るのね」

「たまには親友をお貸しください」

「そうね、たまには親友同士語り合うといいわ」


 ただマイちゃんにユキの変態がうつらなきゃいいけど……



☆☆☆☆☆☆



「おはよう」

「おはようございます」


 サヨは今日はリビングに居た。まぁ一日中風呂に入ってるわけじゃないし、居てもおかしくはないけど

 マオとルリも起きてだれている


「この私に挨拶無しとはいい度胸」

「……おふぁようございます」

「その様子じゃ外の幽霊が気になってあんまり寝れなかったって感じね」

「ワシは別に睡眠なぞしなくても大丈夫じゃがな」


 昨晩はいつもなら寝てる時間なのにマオが起きていたから日課の尻揉みが出来なかった。寝るのを待ってらんないから仕方なく寝たが、ずっと不眠状態だったなら寝て正解だったな


「外が静かな事を考えると惨劇は無事終わったみたいね」

「惨劇が起こったのに無事というのも変ですが」

「私達が無事ならいいのよ」


 ちょっと外の様子を見てみようか……破裂したとか言ってたし、肉片が飛び散ってるなんてグロい光景が広がってそうだ


「サヨ、外を見に行くからおんぶしなさい」

「何ですかその期待してますって表情は……恐らくお姉様のご期待には添えませんよ」


 期待に添う添わないは見ない事には分からない

 サヨの背中に飛び乗り外へ向かう。一応マオとルリにも聞いたが断固拒否っ!っと言い返された。別に幽霊はもう居ないと思うけど





「ほへー……これは確かに期待外れというか」

「だから言いましたのに」


 外には見事に死体が無かった。冒険者達が使っていたテントやら道具やらはボロボロにはなっているが残っている。だがあった筈の肉片は欠片も残ってない、ただし血の後はそこらに多々ある


「ここには私達の馬車以外は結界が張られてません。夜中の内にその辺の魔物の餌となったのでしょう」

「そういうこと」


 ゾンビにならなかっただけマシか。いや魔物に食われる事を考えると天然モノのゾンビは案外少ないのかもしれない

 惨劇現場を見れなかったのは仕方ない、気を取り直して散策してみよう。どれどれ、まずは冒険者達の遺品に何か良さげな物がないか見てみようか。生き残った者として使える物は頂かないと……


「ヤバいわ、五丁目の屑共と同じ考えしてたわ」

「出身が同じですからね」


 しかしやはりランクが低そうな冒険者達の所持品にはロクなものが無かった。装備品なども落ちてはいるがそもそもまともな装備をしない私達にとってはゴミに等しい

 食料品も当然持ってた様だがこちらも魔物に美味しく頂かれたみたいだ。どうせ不味い食べ物だっただろうからこちらも要らない


「なんだ……収穫は何も無しね」

「私達はともかく、マオさんやメルフィさん用の武器は何か有ればと思いましたが、やっぱり無いですね」

「仕方ないわ。今回の収穫はサヨの服は上から覗くと襟から手を突っ込んでみたくなるエロ仕様って分かった事だけね」

「そういう事はベッドの上でお願いします」


 残念なおっぱいじゃそそられんからやらねーよ

 一通り見た事だし戻って出発しようか、冒険者を食ったって言う魔物の姿も見えないし……


 馬車に戻って先へ進むことを告げる。ユキ達はまだリビングには戻ってなかったので私の部屋にまだ居るのだろう。たまにはサヨに御者をさせる事にしよう

 ぺけぴーが未だに部屋でダラダラしていたが、あんまりサボると部屋を取り壊すと言ったら慌てて部屋を飛び出した。馬にまで私の怠け癖がうつったか……


「じゃあ早くホットケーキの森へ行きましょう」

「了解です。ハイキですけどね」


 未だ目的地までは遠い、そろそろ移動時間を使って出来る暇つぶしを真面目に考えておくか


 進みだした馬車の窓からはあの惨劇現場が見える……そういえば黒い幽霊はどこへ向かったのやら。昨日進んで行った方角は私達の進路と同じだったが……また会ったりしなきゃいいけどなぁ



★★★★★★★★★★



 だらだらしながら進んでようやく森の近くまで進んだようだ


 あれから何も問題もなく進んだと言いたい所だが、一つだけちょっとした問題が起きた

 あの黒い幽霊を見た次の日、アリスが目を覚まさなかったのだ……とは言え幸せそうに眠る寝顔からは切羽詰まった感は見えなかったが

 マオとかは若干慌てていたが、明日にでもなれば起きるだろうと言って落ち着かせた。実際次の日に起きたらリビングでアリス起きてが騒いでいた


 静かだと物足りないが喋りだすと五月蝿いとは難儀な存在だ

 ちなみに何でそんなに寝てたのか聞いたら夜遊びして疲れてたから、だそうだ。嘘か真か分からんが元気ならそれでいい




「何かやけに人が増えた気がするのう……あやつらもハイキの森とやらに向かっておるのじゃろうか?」

「別に森に向かってるって訳でもないでしょう?でも確かに増えたわね」


 窓を見ていると結構人とすれ違う。冒険者ではあると思うが装備がお粗末なものではなくそれなりに立派なので低ランクでは無さそうだ

 この先に何かあるのだろうか……例えばあの幽霊を討伐する為に来たとかねー


「どうなの?森以外に冒険者が興味を持つ所とかあんの?」

「さあ?聞いてみましょうか?」

「……いえ、いいわ。気にせず進みましょう」

「そうですね、面倒事かもしれませんし」


 面倒事か……今私の目の前でアリスちゃん歌謡ショーなどと垂れ幕まで作って歌い踊ってる幽霊を相手にする方がよっぽど面倒だと思う

 無理やり付き合わされているマオとルリは最初こそ渋い表情だったが今はノリノリである。目の前でアリスの格好をした名前もアリスな少女が歌っているので盛り上がるのも分からんでもないが……


「ちい姉が一緒に歌いたそうにこちらを見ている~」

「「ヒューヒューっ!」」

「外の連中に聞こえたら恥ずかしいからやめて」

「ノリ悪いよっ!」


 文句を言いつつ歌謡ショーは再開された。こいつが言う事聞くわけないわな。今度はアリスが歌いマオが踊るらしいが、アリスの元気な歌にマオの舞は合わないと思う


「ぼよおおぉぉんみょんみょんびょええぇぇ」

「はぅー……急に踊る気力が無くなりました……」

「せっかく舞いに合わせてあげたのに……マオちゃんまでノリ悪いなぁ」

「あんたのせいでしょ」


 あんな脱力ソング聞かされたらやる気無くして当然だ

 この子供軍団を完全無視してサヨとメルフィは本を読んでいる。この前のガイドブックと違い、周辺に出る魔物が載っている模様……こちらは真面目組か。もうすぐ目的地に着くので念入りに準備をしているのだろう

 いよいよ美味いと評判の蜂蜜が味わえるのだな……いや依頼で行くんだっけか。そういえば蜂蜜といえば冒険に出たばっかりの時に美味しい花の蜜があったな、確か白露花の蜜


「ルリ、白露花の蜜って出せる?」

「んぉ?……白露花の蜜とはまた通じゃのぅ。飲んだ事はあるから作れるのじゃ……しかし解毒の効果は無いぞ?あれは白露花が作るからこそ効果が出るのじゃからな」

「この際解毒うんぬんはいいのよ、美味い蜜が飲めればそれで良し。紅茶を作ってそれに入れてちょうだい」

「うむ。久々に味わうのも良いな……自分も飲むとしよう」


 ルリも好きなのか嬉々として作り出した。そして結局は聞き耳を立てていた全員で味わう事になる。もちろんアリスは除く

 ユキも仲間はずれは可哀想なので作った紅茶をメルフィに運んでもらった。五月蝿いとはいえ目の保養になると言えるアリスの歌や踊りを見ながら優雅に紅茶を飲む……うむ、実に良い


 何だか食材探しの旅になってきたな



☆☆☆☆☆☆



「もう間もなく到着しますね……と言っても馬車から降りてしばらく歩かなければいけません」

「たまになら抱っこちゃんで構わないわ」

「ちい姉は結局歩かないもんねっ」


 浮いてる幽霊に言われたくない

 周りの景色も山やら木やらで緑になってきた。まだ森って感じではないが、サヨの言うとおり目的地まであと僅かって感じだ


「お母さん、何やら問題事の気配が」

「スルーしなさいな」

「いえ……うーん」


 あのユキが何やら唸っている……スルー出来ない厄介事か?

 とりあえず外を見て下さい、と言われたのでユキが御者をしている所まで向かい外を見る

 別に魔物が襲ってきた訳でもならず者に絡まれた訳でもない……ただ道に何やら肌が赤黒い図体のデカイ死体が複数あった

 それとは別に道脇に何か埋められた様な形跡があるが、それは死んだ冒険者を埋葬したのだろう。近くに地面が焦げてるのでゾンビにならぬ様に燃やしてから埋めたらしい


「オーガみたいですね」

「魔物?」

「ゴブリン同様に魔物に分類される亜人です」


 オーガ、名前だけなら強そうだ。鬼と一緒で力馬鹿ってイメージ。この図体だと速さはあまり無さそうだけど


「すれ違った冒険者はこのオーガを討伐に来たのかもしれませんね」

「あれだけの冒険者が揃ってたって事は強いの?」

「見た目通り力は強いですが速さはありません。危険度はCです。まぁ数が多いでしょうからBと言ってもいいかと」


 白猫並みか……さほど脅威には感じない。だがユキが問題事の気配と言う事はただのオーガではないのかもしれない


「お姉様、この辺りにオーガなど居ない筈です」

「どっかから来たって事か」

「恐らくそうでしょうね」

「目的地にも居そう?」

「どうでしょう……この辺に居たという事はハイキの森に居てもおかしくありません」


 敵が増えるのは面倒くさいなぁ……このボケ共も狙ったかの様に私達が行く時に来なくてもいいのに

 オーガの死体を睨んでいるとふと気付いた


「ユキ、オーガみたいって言ったわね?確証はないの?」

「はぁ……姉さんの言った通りこの辺りにオーガは居ませんし、肌の色と大きさから判断したので確証はありませんけど」

「あの死体達を見なさい。あの腰に巻いてる布、というか衣服。大分ボロボロだけどあれは多分ズボンよ」

「んー……確かにサイズは大分小さいですがズボンっぽいですね」

「その通りね、あの太腿部分の破れ方はズボンを穿いたまま大きくなって破れた様に思えるわ」

「……穿いたまま、とすると」


 頭の良いユキとサヨはすでに気付いたようだ

 もうすぐハイキの森……何も廃棄する対象は動くホットケーキだけではないのだ


「あれは元人間と思うわ。あいつらも廃棄された哀れな失敗作なんでしょう」


 フォース王国ってのはホント碌なことしない

 いっそ国に隕石でも落としてやろうか……そんな事を考えながら依頼があるのでどの道行かなくてはならないハイキの森へ進む事にした

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