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幼女とホットケーキ

 現在、外から聞こえる悲鳴を聞きながら夕食を食べてる最中だ

 皆なかなかの外道っぷりを発揮して冒険者なんか知ったこっちゃねぇ、と言った感じでほのぼのと食事をしている。マオだけは外の様子が気になるのかソワソワしてるけど、冒険者というか幽霊が来ないか気になるのだろう


「ヒァゥ……オ゛ア゛ゥゥゥォ……」

「ウオアアァァッッ!?は、破裂したぞっ!?」


 何かパン!っと破裂する音がしたと思ったら人が破裂しただけか。爆薬突っ込めば似たような現象起こるし珍しいことじゃない


「……何で、いつも狙われるの」

「急に何よ気色悪い」


 何かアリスがぶつぶつ言い出した。話すアリスの表情に感情は無い


「エ゛ァァ……ウァィィィ……」

「逃げろっ!?」


「殺さなきゃ……こいつら全員殺さなきゃ……」

「まさか……」


 あの幽霊が言っている事がアリスに分かるのか……?というか乗っ取られてない?

 皆も急に変貌したアリスに若干緊張している……いきなり暴れだす事も考えられるし警戒しておくが……




「とでも……言っているのだろうか……」

「おう、木刀持ってこいや」

「どうぞ、符で作った物ですが切れ味鋭い剣です」

「やだなぁ……場を和ませようとした軽い冗談じゃない」

「同じ幽霊のあんたがやると重いのよ」


 先程とは打って変わって明るく笑うアリス。こちらとしてはホッとした様な腹立つ様な……とにかくコイツの冗談は質が悪い


「何というか……一人でも賑やかじゃなお主は」

「ふふんっ!一人だけご飯食べれない腹いせだよっ!」

「一人だけ美味いご飯食べれないのは可哀想だけど、お供えはしてあるんだし我慢なさいな」

「目の前にある分余計悔しいんだよー」


 自分で用意させといて何を言っているのだ……まぁ後からメルフィが美味しく頂くのだが

 これまで共にして分かった事だがメルフィは中々のフードファイターだ


「メルフィって大食漢よね、やっぱり大食いで育ったから?」

「多分。でもどうせ太らないし」

「居ますよねぇ……そういう女性の敵って」


 かくいう私も太らないというか成長しない。過去のぐうたら生活でも体重の増減は無かった。どちらかと言えば肉より野菜派だったからかもしれないが……体内脂肪という言葉は脳内から消し去っておく




「おいっ!……あれ、開かねぇ……助けてくれ!馬車を持ってるって事は高ランクなんだろっ!?頼む、殺されちまうっ!」

「何か来ましたよ」

「無視。勝手に死ね」

「しかし馬車の近くに居られると幽霊まで寄ってきますが」


 そりゃマズイ。吹っ飛ばして馬車から遠ざけなければ……仕方ない。ドアを開けた瞬間にマイちゃんアタックでやっちまおう


「ちょっと行ってくるわ」

「……助けるのですか?」


 私が助けるとか思ってないくせに……

 私だけだと不安なのかユキも同行するらしく、一緒にリビングを出てドンドンとドアを叩く愚か者をいざやっちまおうと構える。ただし構えるのはマイちゃんだ。ユキに開けるよう合図をし、ドアが開いたと同時にマイちゃんが頭の上から突っ込んでいった


「たっ、んぼぉっ!?」


 田んぼが何だって?変なやられ方 


「来世からは敵は選んで挑むことね」


 大分吹っ飛んだので聞いてないだろうけど

 ドアから見る分には死体が散乱しているって事はないし幽霊の姿も見えない。逆側で惨劇が繰り広げられていると思われる。ちょっと見たい気もするが止めておこう


「じゃあ戻りましょう」

「はい。マイさんお疲れ様でした」


 一仕事終えたマイちゃんは頭の上に戻った。また冒険者が来ても面倒だから人が近づけないように結界を張らせよう。触れたら電撃で痺れて動けなくなるようなヤツがいいな


「終わりました?幽霊が来るんじゃないかと震えるマオさんが失禁寸前でしたよ」

「うそ言わないで下さい!」

「サヨ、もっと広い範囲で結界張っといて。触れたら感電死する様なやつ」

「疲れるので防壁だけで勘弁して下さい。数十メートルくらい範囲広げて張っておきます」


 数十メートルとか狭いな……と思ったが良く考えたら結構広い。これでへっぽこ冒険者達が近寄ってくる事は無いので安心だ


「安心した所で怖がりなマオの気を紛らわす為に何か話題ないの?各自の部屋が出来た事で皆集まるのは食事時くらいに減ったし、他愛も無い話はこういう時にしましょう」

「はいはいっ!実は幽霊ってのは自分の意思で容姿を変えられたり出来るわけ!そして私は実は毎日姿を変えてたりします……それはね?昨日は白、今日は青と白の縞々の下着を」

「アリス、食事の時くらい静かにしなさい」

「さっきと言ってる事違うじゃんっ」


 こいつに喋らせたら延々と一人で話し続けそうなので却下。そもそも食事時に下着の話をしだす時点で頭おかしい。これも腹いせだろうか……


「だが確認する」

「いやん」


 確かに縞々だった。そんな所を変えても誰も気付かんわ


「じゃあ丁度いいので依頼関連で花蜂の居るハイキの森について話しますね」

「その森ってあとどんくらいで着く?」

「一週間といった所です。私も行った事ないので本で得た知識ですが、ハイキの森だけに存在する魔物がいるのですが何だと思います?ヒントは蜂蜜から連想して下さい」


 ここでクイズ登場。蜂蜜といえばか……熊しか知らんから熊だろう


「お姉様は分かった様ですね。じゃあ……ルリさん分かりますか?」

「あー、蜂蜜じゃろ?あれは美味いな」

「味の事なんか聞いてません。まぁ知らないという事は分かりました、ではメルフィさんはどうです?」

「蟻」


 アリか、蜂蜜からアリを連想するとは……だが森にうじゃうじゃ居るアリの魔物とか厄介そうで有り得る。だがその森だけに住んでるって時点でアリでは無いだろう


「残念ですが違います。ではお姉様、に聞く前にマオさんにも聞きましょう」

「私が入ってないよー?」

「しょうもない答えが返ってきそうなのでスルーです。ではマオさんどうぞ」


 サヨの勘は正しい。アリスの思考は全く分からんから何を言うかは想像できないが、ロクな事じゃないのは確か。ユキに答えを聞かなかったのは知っているからだろう、二人でどう進むか考えている姿は容易に想像出来る

 そして質問されたマオは何故か自信ありげな顔をしていた。というかすでにドヤ顔してた


「知ってるみたいね」

「はいっ!」


 元気になってきたな、どうやらあの幽霊の事は頭から離れてきたようで……良い事だ、忘れた頃に驚かして楽しむとしよう


「マオ殿、答えは何なのじゃ?」

「ホットケーキですっ」

「はい。マオさん正解です」

「何でだよ」


 ホットケーキの魔物って何だよ。何でだよって思ったら思わず口から出てしまったくらい衝撃だ

 蜂蜜と言えば熊だろうが、いや実際に熊が蜂蜜舐めてるとこは見た事無いけど……


「その様子ではお姉様の答えは違ったのですか?」

「熊でしょう、横文字でヴゥェアでしょう?熊じゃなきゃマイちゃんが正解よ」

「ワタシハマモノジャナイ」

「何ですかその奇妙な発音。まぁマイさんが蜂蜜好きそうなのは同意しますが」


 しかし一体どういうことだ?ホットケーキの魔物……ホットケーキが何段にも重なってて手足が生えてるとか?というか食えるのか?うぅむ、ミステリー……


「お姉ちゃんに勝ったです」

「お姉様はホットケーキにはバター派で分からなかったのでしょう」

「そういうフォローは要らん。しかしホットケーキが魔物になるなんて世も末ね」

「では詳しく説明しましょう。何故ホットケーキの魔物が現れたかと言いますと……ある科学者の告発らしいのですが、どうも昔のフォース王国に居た姫が我侭な者だった様でお菓子が人の様に暮らすお菓子の町を造りたい……と無理を言った事がきっかけらしいです」


 お菓子の町の時点で何となく分かった。良くホットケーキなんぞに命を吹き込めたもんだと関心する


「ホットケーキ以外のヤツは居ないの?」

「居ません。その姫がホットケーキ好きだったのでまず最初の住民はホットケーキで作ろう、という事になったのですが……研究に次ぐ研究、そして改良の連続……かなり時間はかかりましたが流石は実験体を生み出した研究馬鹿のフォース王国というべきか、何とか動くホットケーキを作る事が出来ました。ただその時すでに姫はおばさんになっており


『お菓子の町?そんな子供じゃあるまいし……そんなものにお金をかけないでちょうだい』


 とショッキングな一言を受けてお菓子の町計画はお流れとなりました」


 もっと早く言えよ、とその科学者達は言いたかっただろうな。

 長年ホットケーキに費やしてきた時間はなんなのだと


「しかし折角生み出した生きたホットケーキ、そのまま処分するのも悔しいので森に放ってこっそり飼っていたそうです」

「それが今から向かう森というわけじゃな?」

「そうです。ハイキの森の由来は廃棄という事ですね。しかし当時の科学者達が皆亡くなった事でホットケーキ達は絶滅の危機となりました。

 如何にホットケーキと言えど生きてるのは事実、勝手に生み出された上に捨てられた怒りからか弱って動けないながらも森から発生している魔素を吸収して魔物になり、そのまま現在に至ると言われています」


 何だろう……ホットケーキとか馬鹿馬鹿しい話が始まると思わせといて割りと真面目だったこのモヤモヤ感


「繁殖とか出来るの?」

「叩くと分裂します。ポケットを叩くとビスケットが増えるのと同じ原理です」

「それは増えてんじゃない、割れてんのよ」


 そんな馬鹿な……と言った表情でこちらを見るアホが一人、サヨではなくマオだ

 アホは放っておいて話の中でいまいち分からん部分がある。それは何というか魔素の事なのだが


「魔素ってのがイマイチ理解出来ないのよねぇ……私達だって吸ってたりするんでしょ?」

「ふむ、つまり私達は魔物にならないのは何でだろうって事ですね?……その辺は不明ですが濃い魔素、別称として瘴気と呼ばれるものを長時間吸収すると人体にも影響があるそうです」

「その辺は前にどっかで聞いたわね」

「……あと、確証はありませんが死ぬ直前に生きたいと強く思った者が魔素を過剰に吸収してアンデッドになってしまう、と言った推測もあります」


 まぁ人の手によって生まれるアンデッドもいますがね、とサヨは続けて言った。この前の実験体の傍に居たゾンビ達がそうだ

 うぅむ、魔素については結局不明な事が多いが、まぁほぼ影響ないなら考えなくてもいいか


「もういいわ。こういう話は私には向いてない」

「では今晩はお開きという事で」

「そうね」


 ぐだぐだ喋っている間に食べ終わった食器類はユキとメルフィが片付けている。言われた通り静かにしてたアリスは何が楽しいのか身体を右へ左へとユラユラ揺らしてご満悦だった。

 しばらくリビングで寛いでからマオが寝たあと日課となった美尻を揉んで寝るとしよう


 しばらく経っておねむとなったマオだが、やはりあの幽霊が怖いのか添い寝を要求された。だがルリを身代わりとして放り投げて断った。ルリなら抱き枕の代わりにはなるだろう

 そういえば話に夢中で頭から抜けていたが外の惨劇はもう終わっただろうか……

 



★★★★★★★★★★




 やっと終わった……いっぱい人が居た。みんな敵だった

 私を襲ってくる人達は皆殺してあげた。私を見た人は逃げるか襲ってくるかどちらかしか居ない……

 でもここはもう安全……じゃない。まだ生きてる人がいる。ちゃんと殺しとかないと




「ちょっかいも出してない人を襲うなんていーけないんだぁ」


 馬車らしき乗り物に歩いていたら急に女の子の声が聞こえてきた……近くから聞こえるのにどこにも姿が無い……誰なんだろう?


「あなたの後ろにいるの」


 !?

 真後ろから声がかけられて吃驚した……でも後ろを向いても誰もいない


「あなたの後ろにいるの」


 また声が掛けられて振り向いたけどやっぱり居ない……何なの……誰なの?

 怖い……姿の見えないこの子は怖いっ!

 殺さなきゃ……殺さなきゃ私が殺されちゃう……


「あーなーたーのっ後ろーにいるのー」

「ウア゛オオェ」

「おぉ?あー、今私を殺そうとしたなー?やっちゃうぞこらぁ」


 死なない……おかしいおかしいおかしいっ!ちゃんといつも通りやったのに……さっきまで居た人達だってちゃんと殺せたのに……

 この子は危険、危ない……関わっちゃ駄目……早くあの馬車に居る人達を殺して逃げなきゃ


「あそこにはね、私が頑張って頑張ってやっと掴んだ幸せがあるの。それを狙うだなんて許せないなぁ……」


 急げ……早く行かなきゃ……早く逃げなきゃ……


「ずぶりっとな」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァッァァ!!?」


 ぎ……い、痛い。何で……凄く痛い、いだぁぁぁぁいっぃぃぃぉぉおぉ

 お、お腹を貫かれだぁ……ありえ、ない……私の身体は何も、効かない……


「むっふっふー、幽霊は霊体……要するに魂だけの存在なんだよねぇ、どう?痛いでしょ?魂を傷つけられるのは痛いでしょ?」

「アアァゥ……ギゥィ……」

「あーひゃひゃひゃ、もっとやっていい?いいよね?私を、私達を殺そうとしたんだし?殺されてもいいよね?てか殺ーす……ん?幽霊だから消滅させるだっけ」


 あぁ……殺される、やだやだ、逃げる

 早くここから離れなきゃ……もういい、あれに手を出しちゃいけないんだ。遠くに逃げよう、早く早く早く


 いつもはノロノロとしか歩けないけど、恐怖からかすごく速く歩けた。あの子が追ってくる気配は無い……見逃してくれたかな……助かった、でも怖いからもっと逃げなきゃ




「私メリーさん、あなたの後ろにいたりして?」


 ひぃいいぃぃぃぃぃぃぎゃあああぁぁっぁあぁっぁぁぁ!!!!!!??

 何で!?どうして!私が何をしたのっ!?あああああああああぁぁぁやだぁ……消えたくない……帰りたい……帰りたい


「アハハハハハハハッッ!!わかる、わかるねぇ……あなたの怯え具合がよく分かるよ。そんなに私が怖いんだ……そうだよねぇ、殺せないし逆にやられそうになっちゃうもんねぇ?」


 今も声の主の姿は見えない……うぁ……痛い……またあの痛みがやってくるの?


「ふふんっ、私を殺そうとした罰は与えたよ!私は優しいからねっ、このくらいで許してあげる……良かったね?相手が私のお姉ちゃんだったら容赦なく消されてた筈だよ。これに懲りたら私達を狙う事はしないでね?次は必ずやっちゃうから」


 許す?ならもう痛いのはないのかな……よかった

 ああ、こわい……この世界はこんなにもこわい……


「コワイ……カエリタィ……」

「お、初めてまともに聞き取れる事を喋ったねっ!そうだなぁ……折角だし、あなたは自分がどういう姿しているか気付いてないだろうから教えてあげる

 今のあなたはよく分からない黒い不気味な人影でしかないんだけど、それが何故かと言えばあなたが自分が何者か忘れてるからだねっ!」


 なにを言っているのかな……私は……私は?


「むっふっふー、でも私は意地悪だから少ししか教えてあげない。せいぜい思い出すことだねっ!でも自分で言ってる事がヒントになるんじゃない?どこに帰りたいのか私は分からないけど、それさえ思い出せれば自分の事が一気に分かる、そんな気がするー」


 そうなのかな……今まで自分が誰かなんて考えたこと無かった……ただただ彷徨って何をしようとしていたんだろうなぁ……分からない


「精々がんばってね?んー、もしあなたがお姉ちゃんが興味をもつ様な存在になったなら気が向いて助けてくれるかもねぇ……自分を思い出して一人じゃどうにもならない時は私達を探してみるといいよ」


 助けてくれるんだ……こわいけど、いいひと?


「ただお姉ちゃんはあなたに殺される冒険者を余裕で見過ごす外道だからね、無理だったら殺される前に逃げてね?」


 ……やっぱりこわい。お姉ちゃんってひとはこの子よりもっとこわいひとなんだ。会いたくない……会ったら痛いじゃすまされないかもしれないし


「じゃあ私は帰るよ?ひゃっほーぅ!寝てるお姉ちゃんのベッドに忍び込んでやるぜぃっ!!」


 ……気配がなくなった?

 何かすごく陽気に帰っていったなぁ……


 でもどうにもならない時ってどういうことかな?あの子は私の事を知ってるのかな……

 確かメリーさんだっけ……もし本当に困ったら、お姉さんはこわいけどまたあの子に相談してみようかな……



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