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幼女、取り憑かれる

 先程の夢の話だが気になると言えば気になる。間違いなく性格が少し違うが私だったし妙に現実味があった。もしや予知夢という便利な能力が備わってしまったのではなかろうか。とはいえあの母が病気になってるとは全くもって思えない、と私の直感も言っている

 仮に夢の様に重病な場合、私としても家族の為ならその場の勢いで犠牲になろうと思うかもしんない。でも流石にユキ達を残して私死ぬから、ってな感じで力を使うとは考えない筈だ。残される娘達を無視するほど私は馬鹿じゃないのだ


「もしやあの夢は病気ではないけどお母さんが何かしらピンチになっていると言いたかったのか!そりゃいいや、ざまぁ」

「そこの親不孝者のお嬢さん、可愛い女の子が顔を殴られて痛がってるんだけど?」

「まぁ可哀想……傷口に御札貼ってあげなくちゃ」

「悪霊じゃないんだよ!」


 確かに悪霊じゃなさげだけど、というか今は幽霊に構ってる暇は無い。何だかんだ気になるので一応母の様子を見に行ってやらなあかんのだ


「べ、別にお母さんの事が心配なんじゃないんだからねっ!」

「うわ……何か凄く違和感」

「うっさいわね、自分でも似合わないって分かってるわよ」


 んじゃ、まずはメルフィを呼びに行くか

 ああ、あと何かしら土産でも持っていってやるかな。だとしたら荷物持ちとしてユキかサヨは連れて行こう


「じゃあね幽霊さん?面白そうな娘だけど、今は相手してられないわ」

「うん、今は……だね」


 何か意味深な台詞を残してどこかに消えていった。後でまた出てくる気か、まぁ私としても幽霊の仲間欲しかったからこの際あの娘でも良い……というかあの娘が良いかもな、何か馬が合うというか波長が合うというか


「また会えたら誘ってみるか……賑やかになるのはいいことよ」



☆☆☆☆☆☆



「どこ行ってた」

「その辺で休んでるって言ったじゃない」

「聞いてない」

「本に夢中になってる方が悪い。それに今はお小言聞いてる暇ないの、ちょっと実家を見に行こうと思ってるのよ」

「実家?……よく分からないけど仕方ない。何の問題も無かったから許してあげる」


 なぜ私が許しを得る方の立場なのだ……ここで文句言うとまた長くなりそうだから私が引くけど、後で覚えてろ


「なら帰るわよ、でもユキは買い物から戻ってないかも」

「帰ってなくても呼べば来そう」


 あー……そうだな。奴ならこの前みたいに謎の力を発揮して戻ってくるだろうな。待たなくていいから便利なんだろうけど不気味と言わざるを得ない



………



 馬車に戻ってきた。ちなみに現在馬車を置いている場所は道幅が広い道に堂々と置いている

 中に入り、一応ユキの部屋を確認した。で、案の定ユキが居なかったので呼んだら本当に来たの巻


「もはやホラーね、どうやって私を監視してんのよ」

「してません。忠誠心が高くなると何となく呼ばれてると分かるもんです」

「変態は凄いのね。ちょっと実家に帰るからお供しなさい」

「てっきり妹が産まれるまで帰らないと思ってましたがホームシックですか?」

「私に予知夢的な能力が備わったか確かめにいくのよ」


 という事で今回は夢と同様にユキと二人だけで戻る事にする。そういや今日はサヨを全く見かけてないがまだ寝てるんだろうか?いつもは早起きするくせに昼過ぎても起きないとは珍しい。様子が気になるがそれは帰ってきてからでいいか


「じゃあお願い」

「はい」


 別に転移符でもいいのだが魔力が無くなると使えなくなる代物なので魔法を使うに越した事は無い。という事で――


 あ……と言う間に到着である。毎度ながら一瞬で着くから旅の醍醐味なんかまるでありゃしない。だが急ぐ時には惜しみなく使おう


「いい?気付かれないようにこっそり侵入するわよ」

「なぜそんなコソ泥みたいな真似を……」

「もしかしたら私たちが居ない隙に浮気相手とにゃんにゃんしてるかもしれないじゃない」

「可能性はまず無いです」


 まず無いって事はゼロではないって事だ

 とりあえず音を立てずに静かに侵入してみたが、何か人の気配がしない


「留守……?これは好都合、今の内に金目の物を集めるのよ」

「泥棒をメインにしてどうするんですか、しかも実家」

「おっと……危ない、何かすっかり空き巣気分だったわ」


 なんとも拍子抜けしたのでいつも通りに戻って母の部屋へ向かう。もしかしたらすでに死んだ後かもしれないし


 一直線に母の部屋の前まで来て何のためらいもなくドアを開け放った。親子だし礼儀とか不要


「し……死んでる……」

「誰も居ませんよ」

「でも何かやたら汚いと言うか……散らかってるわねぇ」

「空き巣が侵入して部屋を物色しようと中に入ったら見目麗しい未亡人が居たので誘拐されたとかでしょうか」

「勝手に父さんを殺さないでちょうだい」


 ユキが居なくなった途端にこの惨状、流石は私の親というかほんとにダメな母だな。父の苦労が目に浮かぶわ


「こりゃ主婦の集いがあるのに寝坊し、慌てて奥に仕舞ってた高い服を出して着替えてたらこうなった、って感じ」

「まるで見てたかの様に具体的ですね、でも私もそんな気がしてきました」

「いつ帰るか分からないのを待っているのも退屈だし戻ろっか」

「せっかく用意したお土産が無駄になりますが」


 玄関に置いておけばいいと思うが……じゃあもう少し待つか

 何かユキはこの部屋の汚さが我慢できない様で片付け始めたし、オバサンの下着とかよく触れんな


「ん?……これは……お母さん、どうやらセティ様は同窓会に出掛けられたみたいです。これは夜まで帰ってこないかと」

「同窓会で浮気するって事ね」

「浮気から離れてください」


 ユキから受け取った手紙には確かに同窓会のお知らせと書かれていた。あの母が同窓会に行ったら大分浮いてそうだな……女子には滅法嫌われてたって話しだし、おぉ……これが母のピンチってことか


「つまりお母さんは同窓会に行ったはいいけど苛められてんのよ」

「いえ……皆さんいい年した大人なんですけど」

「ババアになるとより陰湿になるのよ」


 て事で母を探してこっそり見守ることにする。父も居ないって事は同伴してるのかも、もしくはまだ詰め所でお勤めしてるかだな


 サヨほどではないがユキも多少は気配を探れる。母と2年近くも一緒にいたので気配はバッチリ覚えており大体の位置は分かるそうだ。だったら空き巣ごっこする前に不在だと言って欲しかった




 同窓会が行われてるのは家から多少離れた大き目の飲食店だった。大人数で座れる場所を取ったらしく、30人ほどは集まっている。その中にやはり見栄をはって高めの服を着用している母がいた


「クラスの同窓会って感じか、父さんは居ないわね」

「こうして眺めてるとセティ様は若々しいですね」

「やっぱり浮いてるわ……お母さんの周りだけ人離れてるし」

「本当に嫌われてるなら呼びませんよ……まぁ男性には好評らしく段々接近する方がちらほらと……」

「ここに父さんが居ればきっと面白い事になったのに」


 母は表面上は笑顔を装っているが間違いなく退屈している。つまらないなら何で参加したのだろう?私は同窓会なんか参加する気ない


「……どうユキ?おばさん連中が話してるのは揃って息子自慢やら娘自慢やらそんなのばっかよ?」

「おばさんはそんなもんです」

「お母さんが会話に混ざれないのは私が底辺だからか……」


 そりゃ娘は一年間ごろごろしてて結局冒険者になりました、とか見栄っ張りな母は言えないわな

 聞こえてくる話は騎士になっただの進学しただの就職しただのそんなのばかり。冒険者という単語は全く出てこなかった




「ウチの娘?冒険者になったわ」


 と思ったら他の誰でもなく母の口から出てきた。何考えてんだあのオバハンは


「冒険者?あの進学も就職も出来ず仕方なくなるあの冒険者?」

「その冒険者、あの子は旅をするのが夢だったからねぇ」

「ウチの娘はセティさんの娘さんと同級生だったけど、なかなかやんちゃだったみたいね」

「お宅の娘さんは王都で就職したんだっけ?」

「うん、もし就職がなかなか出来なくても冒険者だけはさせないつもりだったけど、無事に職に就けてよかったよ」


 聞けば聞くほど冒険者の中傷が繰り広げられている。何か聞いてる私が馬鹿にされてるみたいで腹立ってきた


「ユキ、あそこに隕石落とすから気絶した後はお願い」

「それではセティ様も死んでしまいます」

「わかった。お母さんがトイレに行った隙にやるわ」

「ついカッとなってやるのはダメです」

「後で反省する」

「反省して済む事ではありませんよ……とりあえず落ち着いて下さい」


 ぬぐぐ……えぇい、母も母だ。冒険者である娘が馬鹿にされてんだから私の親ならぶん殴るくらいしてやればいいのだ!

 ちっ……マイちゃんを連れてきてれば体当たりで黙らせられたものを……!


「ウチの娘は昔からの夢を叶えただけよ、それがたまたま冒険者だった。子供の頃からの夢を叶えられる人間がこの世にどれだけ居るのかしら?それに魔物から守ってくれてる冒険者ってはたして本当に底辺の存在なのかと私は思うわね」

「そりゃ冒険者がいざって時に魔物から町を守るのは義務だもの……嫌でも戦わなきゃダメでしょ?」

「危険だけど仕方ないよね、どんな人でも必ずなれる代わりにある義務だし」

「そう……当たり前だと思ってるのね。大昔は魔物と戦う勇敢な冒険者、それが今じゃ死んでも構わない様な底辺の人間が仕方なくなる冒険者。いつからそうなっちゃったのかしら」


 何かしらけちゃった、と言って席を立つ母。家に帰るのか

 母が帰った後はさぞかし陰口で盛り上がる事だろう、というか娘の私がボロクソに言われそうだ。

 席を立って出口へ向かう母を見て残念そうにしてるのは独身っぽいオッサン連中だけだ。確かに嫌われてるというか何というか


 とりあえず母が店を出るまでに呼び止めよう


「家に居なかったと思ったらここに居たのね」

「あれ?ペドちゃんじゃない……今回もお早いお帰りで。というか聞いてたでしょ」

「まぁね……悪かったわね、底辺で」

「私は底辺なんて思ってないわよ」


 あそこに居る連中はそう思ってんだろ


「元気でやってる?」

「えぇ……人数も増えて賑やかにやってるわ」

「ならいいわ、何か頼む?」

「……あの連中が居るのに出なくていいの?」

「別に構わないわ」


 私が構う、あのババア共がチラチラこちらを伺いつつヒソヒソと話しているのが見えるのだ。話してる内容を想像するだけで爆発させたくなる


 結局飲み物だけ注文して居座る事にした


「最近のペドちゃんの活躍を聞かせてもらおうじゃない」

「別に聞かせる様な事は特にしてないわ」

「ユキちゃん本当?」

「そうですねぇ……ごく最近ですとご自分で依頼を受けて大金を稼いだり他国のお姫様と友達になったりした事でしょうか?」

「大金……?」

「……たったの3000万よ、お姫様関連の依頼額がそれね」


 何を言ってるんだこの娘は……って感じでアホ面してる母


「でも1000万はすでに使った」

「どんな生活してんのよ」

「そりゃ毎日好き勝手に楽しく生活してるわよ」

「……何か満喫してるわね」

「当たり前よ。私達は誰にも縛られない自由な冒険家よ、あー……世間体を気にしてやりたくもない職に就かなくて良かったわ。

 決められた時間通りに起きて上の人間に命令されるがまま働いてストレスを溜めずに済んだもの。おまけに休みが少ないわお給金が少ないわやってらんない。たった一日で大金稼げて毎日自由に過ごせるなら私は底辺の冒険者でいる方がマシ」


 はたしてどちらが負け組か……いやまぁ私達のようなパーティなんてごく稀なのでまともに食事を出来ない冒険者の方が多いのも事実。ああいうババア達はそんな冒険者のダメな部分ばかり見てるんだろう、というか五丁目の冒険者しか知らないのかも。ファルクス達みたいな冒険者を見ればまた考えも変わるかもしれないな


「ダラダラ過ごしていた私にお母さんが言ってくれたお陰で楽しくやってるわ、ありがとう」

「どういたしまして」

「1000万はお母さん達にあげる、仕送りみたいなもんね。今は必要無いし。と言っても散財するんじゃなくて私の妹のためとかに使いなさいよ」

「ペドちゃんったら太っ腹ねー、ちゃんと貯金しとくから安心なさい」


 あの母から貯金なんて言葉が出るとは……と思ったが今は欲しい物が無いだけなんだと。その内衝動買いで大金が飛んでいきそうだ


 本当はお金なんかじゃなくて別の物で親孝行したい所だが贈るものなんか何もない。なんとも情けない娘だこと


「じゃ、私達は戻るわ」

「もう?結局何しに帰ってきたの?まさかお金渡しに来ただけじゃないんでしょ?」

「……何だっけ?まぁお母さんの間抜け面を見に帰ってきたのよ。ああ、それとお土産あったわ、隣国の名物らしい食べ物」

「あら楽しみ」


 母と連れ立って店を出る

 当初の目的である病気の有無だが、見る限り母の状態は至って健康だった。これは予想通りだけど……夢は所詮は夢ってわけか――


「ちょっと寄り道するからユキはお母さんを送っていってあげなさい」

「お一人にするのはちょっと……」

「大丈夫、いざとなったら転移符の出番よ。というかここは町中よ?」

「わかりました」

「じゃあね、ペドちゃん。次は赤ちゃんが産まれる頃かしら?」

「そうね、そのくらいに帰るわ」


 母との挨拶を終わらせ、ユキが転移するのを見送ってから移動する

 場所は人気のない裏道というか路地裏、誰も居ないのを確認してから立ち止まる


 すると何者かに後ろからしがみつかれた




「私メリーさん、今あなたの後ろに抱きついてるの」

「知ってる。ささやかな胸が当たってるわ」

「失敬な!この身長にしてはある方だよ!」


 腕を振りほどき、後ろを振り返ると先程会った幽霊の姿。地面に腹から上だけ生えていた

 急に姿が見えなくなったと思ったが着いてきてたのか……


「むっふっふー、結局お母さんが心配で実家に戻るなんて良い子良い子。あなたのお母さんも良い人そうだね」

「撫でるな殴るぞ」

「おわ、撫でるな危険」


 グーパンするもヒョイっと避けられた。避けた拍子に幽霊の全身が地面から出てきて、先程は急いでたのでよく観察出来なかった少女の姿が見える

 身長はサヨより少し高い……13才くらいの身長か。長い金色の髪に青い目、頭にはリボン型カチューシャをしており青い生地のエプロンドレスを着ている


 やっぱり透けているのだが……気になる。触れる事は確認済みなので幽霊のスカートを捲くってみた


「いやん」


 ふつうに捲れた。ちゃんと水色の下着を着用しているし足も普通に生えている……一度スカートを降ろし再び捲る


「いやん……って二度目からはお金とるよー?」

「大事な事なので二回見ました」

「確かに大事なトコだけどさー」


 ふむふむ、身体が透けてるくせに服の中身が全く見えない。ただしスカートの下に足があったって事は服の下にちゃんと肉体があるって事だ。一体どういう原理なんだろ


「どうなってんのよスケスケ詐欺、透けてるなら内臓まで見えるぐらい透けなさいよ」

「スケスケ詐欺……新しい犯罪だね!おじさん……一万くれたらスケスケの服に着替えてあげるよ?ワクワクしながらお金を渡して期待してるとぉ……残念っ!幽霊ちゃんでした!……みたいな?」

「幽霊のくせに元気ね……何か想像と違うわ」

「ふふん、私をその辺の悪霊なんかと一緒にしないで欲しいな。物理を有効にするも無効にするも気分次第!そして昼間だろうが普通に現れるのがこの私っ!」


 ドヤ顔しながらこちらに指を向けるポーズをする頭の悪そうな幽霊

 こいつの言う通り他の幽霊とは違って変わった存在であるのは事実なのだろう……普通じゃないなら仲間にするのもまた面白そうだが


「あんまり煩いのは嫌なのよねぇ」

「……いえ、私、根暗ですから」

「喋り方変えればいいってもんじゃないわ」

「実は私ってばこう見えて大人しい女の子なんだよねっ!」

「やかましい」


 何というハイテンション……間違いなく相手にしてたら疲れる

 自称大人しい幽霊は私の周りをスキップしながらぐるぐる回っている。何がしたいのだこの馬鹿


「あなた何で幽霊なんかやってるのよ」

「気付いたらなってた、きっと私には未練があったんだよ……未練を晴らさない限り私は空に帰る事は出来ない」

「……」



「とでも……言うのだろうか……」

「自分で言うな」

「お約束だもん」

「幽霊の中でもお約束なのね。で、あなたの名前はなに?気が向けば貴女の未練とやらを調べてあげるわ」

「当ててみてー?」


 当てるも何も……この幽霊の格好から察するに


「アリス」


 昔読んだ本に出てきた登場人物そのまんまの格好しといて違う名前だったら只のアリスマニアだ

 流石にストレートすぎて残念っ!ハズレ!……と言われると思ってたが


 何故か泣いていた


「なぜ泣く」

「んぇ?……いや何というか、名前を呼ばれて嬉しかったのかな?」

「ふぅん……て事は貴女はアリスで合ってるのね」

「うん、私の名前はアリスだよ」


 自分の事は覚えてる系の幽霊だったか……泣き止むまでしばらく待つか、結果として私が泣かしたみたいな感じになってるな




「ふぇっくしっ!……もう大丈夫だよ」

「あっそ。幽霊でもくしゃみするのね……また新たな発見出来たわ」

「それよりもメリーという名前に惑わされずに見事正解したあなたには賞品をプレゼント」


 最初の面白そうなものを見る笑顔へと戻ったアリスはにやにやしながら近づいてくる


「正解者のあなたにはもれなく私が取り憑きます。ひゃっほーぅ!」

「きゃー、たすけてー」

「もうちょっと役者魂見せて欲しいな」

「素人だもの。取り憑くのはともかく、貴女は面白そうな娘だから来たけりゃ来なさい」

「うん、お世話になりまぁす」


 ……うーん、何故だか親しみを感じるというか知ってる者みたいな不思議な感じがする娘だ



★★★★★★★★★★



「という事で取り憑かれました」

「取り憑きました!宜しくねっ!」

「わかりました。早速除霊の準備を始めます」


 テキパキと除霊の準備を始めるサヨを止める

 あの後ユキが戻ってきたというか探しに来たので簡単にアリスを紹介して馬車まで戻ってきた。そして皆にもアリスを紹介しようと経緯を話して今に至る


「お姉様、幽霊に取り憑かれるって事は生気やら精気やら吸い取られるって事ですよ?」

「私はその辺の幽霊とは違うんだよお嬢さん?私なら少し疲れる程度の生気で十分だよ」

「少しでも吸われたら疲れてるからってお姉様がベッドでぐうたら生活しそうなんですよ」

「私の悪口はやめろ」


 サヨのせいで出鼻を挫かれたがアリスの紹介を続けよう。別に仲間になる事に不満がある者はサヨ以外居ないようで何より


「続けるわよ?最近新しい面子がたびたび増えてるけど、この娘も例にもれず同行する事になったなんちゃって幽霊のアリスよ」

「アリスだよ!不思議の国とは関係ないけど不思議ちゃんって呼んでね」

「それは良い意味の渾名じゃないわ」

「……のう、お主」

「ん?このちんまいのは誰かな?」

「順番に紹介しようと思ったのに……その娘はついこないだ加入したルリ、ちんまいけど水の大精霊よ。もしかしてあんたら知り合い?」


 ルリは何か知り合いを見つけたって感じの目をアリスに向けてるし、もしかしたら早くもアリスに関する情報を得るチャンスか


「わー可愛い!思わずこう、腕を首に回して締め付けたくなっちゃうっ!」

「ぐぇ!?はな、離ぜ……」

「その娘すぐ泣くからやめてあげなさい」


 はいはい、と言われた通りルリを開放した。だが開放する直前ルリの耳元に何か囁いた気がするが……やっぱり知り合いだろうか


「ルリ、アリスのことやっぱり知ってんの?」

「うぅ……こんな野蛮な奴知らないのじゃ!ちょっと知ってる者に似てると思っただけじゃ」


 ふむ……嘘は言ってないようだ。ならアリスは謎の幽霊のままか


「噂を聞く限り国から国へと移動するなんて行動的な幽霊とは思いましたが、こうも元気なら分からないでもないですね」

「え?私ってそんな有名だったの?」

「ギルドで話題の幽霊よ」

「やっぱりこう可愛いと目立っちゃうんだね!わかります」

「自分で言うな」

「あの……」


 自意識過剰なアリスに呆れているとユキが何か言いたげな様子で入ってきた


「ギルドで聞いた情報とアリスさんの容姿が全く違います」

「そうなの……?なら私は別人を拾ってしまったのね、そっちの幽霊の方が良さげだったら取り替えましょう」

「いやいや、私の方がいいよきっと」

「それで?ギルドで噂の幽霊ってどんな奴よ」

「年はマオさんくらい、髪の色は黒ですしちょっかいかけると殺されるといった凶暴な悪霊ですよ」

「そりゃ別人だわ……でもそっか、ギルドで話題になるなら大人しい幽霊なわけないか」


 恐らく討伐依頼が出ている事だろう。流石に依頼が出ている奴を仲間には出来んな

 まぁ気難しい悪霊よりノリが良いアリスの方がマシか


「じゃあ人数も増えて世界を旅するパーティっぽくなった所で次なる国に行くわよ」

「目的地は決まってるんですか?」

「メルフィの実家があるフォース王国に行くわ。と言っても厄介そうな王都には行かずに田舎にある実家だけよ」

「きな臭い場所には近付かないと、それが無難ですね」

「でも道中くらいは寄り道したいから良さそうなダンジョンとかあったら教えてね」

「探しておきます」


 今の人数は7人……マイちゃんやぺけぴーを入れると9人か。国外を旅する冒険者達は平均20人くらいで旅するらしいが、私達は強さ的に十分だろう。アリスは戦えないと思うけど

 最後に入った幽霊のおかげで賑やかな旅になるだろうと思いながら早速トゥース王国を発つ事にした

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