幼女と昔の友達
マイちゃんを一行に加えてからは、歩いてゆっくり目的地に向かう事にした。野宿するのも悪くないと思ったからだ。
ついでに魔獣ウォッチングも兼ねている。こんな山奥の魔獣は危険なんだろうが、ユキが居れば何の問題もない。安心プランの旅だ。
「マイちゃん綺麗になったわねー」
パタパタ
「私と再会出来て嬉しいよねー」
パタパタ
「…マイちゃん私の事好き?」
パタパタ
「……マイちゃん私の事嫌い?」
パタパタ
……
「駄目ね。私にはまだマイちゃんの気持ちが分からないわ。友情値が足りないみたい」
「長く接して居れば微妙な羽根の動きの違いが分かってくるかもしれませんね」
「それは無理ね、面倒くさがりな私が微妙な羽根の動きを見分けようと頑張る訳がないじゃない」
自他共に認めるやる気がない少女、それが私だ。
「こういうのは同じ立場に立って見れば気持ちが分かったりするのかもしれません」
「例えば?」
「そう、ですね…私がマイさんの立場になって答えてみますので、先程の質問をもう一度お願いします」
「なるほど、わかったわ」
一理あるかもしれない。学園でもからかわれる立場から、からかう立場になって気付いた事もある。嫌がらせは凄く楽しい、と
「マイちゃん綺麗になったわねー」
(ご主人様程ではありません)
パタパタ
「私と再会出来て嬉しいよねー」
(あぁ…再びそのご尊顔を拝見出来て感無量でございます)
パタパタ
「…マイちゃん私の事好き?」
(もちろんです!ご主人様が居ない人生など考えられません!)
パタパタ
「……マイちゃん私の事嫌い?」
(そんな事はございません。私はご主人様が大好きです!…ただ、そちらの美人メイドのユキ様がご主人様に向ける愛情には遠く及びません…)
パタパタパタパタパタパタッ!
自分で美人メイドって言うのね。実際美人だからいいけど、普通嬢クラスの女が言ったら痛い人認定だ。
それにしてもこの激しい羽根の動き…
「これは私にも何となく分かるわ、適当な事言うな!って言ってる感じ」
「むー…」
「マイちゃん、りん粉が飛び散るからやめて」
パタ…
「ご主人様の命令を聞くのを見る限り、こちらの言葉を理解はしている様ですね」
「頭良いのね。流石だわマイちゃん」
意志疎通は難しいが、こちらの言う事が分かるだけいいか。会話できればいいが無理だろう、蝶だし。
「だが蝶とはいえ、奇跡ぱわーによってもはや新種と化したマイちゃんなら喋れるんじゃないかと期待してる私がいる」
「案外喋ったり出来るかもしれませんね」
やってみる価値はある。喋れないなら喋れないで構わないし。
「マイちゃん、外道って言ってごらん?はい!げ・ど・う!」
「数ある言葉から外道をチョイスするとは…やはりご主人様の御心は計り知れません」
うるさい。パッと思いついた言葉がこれなんだから仕方ない
「げ・ど・う!」
「げ・ど・う!」
何かユキも混ざってきた
「げ・ど・う!」
「げ・ど・う!」
「「げ・ど・う!げ・ど・う!」」
…一体何をやってるんだ、私達は……
「…ねぇ、客観的に見て山中で蝶に向かって外道コールするとかイカれてるとしか思えないのだけど」
「凡人より遥か未来を見据えた天才の発言は理解されないと言いますから大丈夫です」
何か良いこと言ったつもりでいるが、結局他人からはイカれてると思われてると言っている様なものだ。大体未来は全く関係ない
「ご主人様、マイさんの様子が」
「喋るのっ!?」
「……」
私には分からないが、ユキには様子が変に映ったのだろう…ならば信じて待つのみ!
「……」
固唾を飲んでマイちゃんを見守る
「……ォ」
…!聞き取り辛かったが確かにマイちゃんから何か聞こえた!
「……オゥ」
頑張れマイちゃん!
「……グェヴ、オ゛オオォウゥ……」
……怖っ!?すごく怖いんですけどっ!!?絶対呪詛の類いだよコレ?!
「うわあぁっ!私の可愛いマイちゃんがっ!キモ可愛いマイちゃんになっちゃった!!」
「落ち着いてください、ご主人様」
「落ち着けるわけないわっ!ユキも聞いたでしょ?!あの地獄の底から響いてくる様なおぞましい声をっ!!」
「そこまで言ってしまうとマイさんが悲しむかと」
「あ……」
…そうだった。元々無理矢理喋らせようとしたのは私だ。マイちゃんは頑張って期待に応えようとしてくれただけ…
私が馬鹿だった。マイちゃんは心なしか落ち込んでる気がする。こんな健気な友に暴言を吐いてしまったのか、私は……
「ごめんね、マイちゃん…私が馬鹿だったわ」
パタパタ
マイちゃんの返事は最初と同じ、パタパタという羽根の音だけだったが、何だかしょうがないから許してあげる、そう言ってる気がした。
「あぁ…あのご主人様が謝罪をする日が来ようとは…私は成長なされた姿を見る事が出来て感激です!」
ユキが感動に咽び泣いているが無視だ。私はマイちゃんにまだ言いたい事がある。
「ねぇマイちゃん、私のお願い聞いてくれる?」
パタパタ
おそらく返事はおーけー…と、言ってると思う。
「町に帰ったら夜、眠りについた私の母さんの枕元でさっきの言葉を喋ってきて。わかる?あなたを捨てた女よ」
パタパタパタパタパタパタッ!!
マイちゃんはやる気に満ち溢れている…っ!嫌がらせに使えるものは友でも使う。まさに外道。私には最高の誉め言葉だ!
ん?ユキのツッコミが無かったなぁ、とか思ってたら何か考えてます、という表情をしている…魔物でも来るのか?そうなら夕飯の事を考えて美味そうな魔物でお願い。
「あなた一体なに考えてるわけ?」
「それは非常識な行動をとったキチガイに向けて言うセリフです」
大体合ってる。朝の全裸事件を忘れたか。
「じゃあ何か気になる事でもあった?」
「いえ、ご主人様の奇跡ぱわーを使えばマイさんも普通に喋れる様になるのでは…と」
あぁ…そういう事。結論から言えば間違いなく喋れる様になるだろう。奇跡ぱわーで出来る事と出来ない事はある程度わかる。
ただ、元気になれという願いで巨大化する様な謎な力を再びマイちゃんに使うのは躊躇する…
次は喋れる様になったけど、身体が人間になったりするお約束が発生するかもしれない。マイちゃんの性別が実は雄だった場合オッサンに進化したらどうするんだ!
「オッサンはないわー」
「はい?」
パタパタパタパタパタパタッ!!!
マイちゃんが失礼な事を考えるなと言わんばかりに暴れている。ごめんなさい
「いい加減話を進めるわよ。今日は野宿よ野宿。未だに魔物に遭わないから夕飯が危うい」
「魔物をお食べになるつもりですか?」
「食べれないの?」
「…食べられる魔物もいますが……」
ならば良し。どうせ食べるならバーベキューしたいわね。という事は肉だ。野菜は食べれる野草を代用すればいい。
「という事で肉よ肉。豚か猪の魔物いない?」
「それでしたらオークが居ますね」
本で見た事ある魔物の名前だ。豚のくせに装備はするし二本足で歩く。人型系は不味そうだしパス。
「豚は駄目か、牛の魔物は?」
「それでしたらミノタウロスが居ますね」
これも本で見た事ある魔物の名前だ。牛のくせに装備はするし二本足で歩く……豚と一緒じゃん。家畜系の魔物は食われない様に必死なのね
「牛も駄目かー…もう美味しい肉なら何でも良いからユキ宜しく。人型以外で」
「かしこまりました。後ほど味が良い魔物を優先して狩ってきます」
「うん、お願いー」
最初からユキに任せておけば良かったのだ。今はとりあえず寝れそうな場所を探そう。洞窟ないかな洞窟
「魔物がきますね」
「…食料?」
「食べますか?あれ」
ユキが右手で指差した先を見ると、木から木へと跳び移りながらこちらへ向かってくる体長2メートルはあるだろう巨大な猿の姿をした魔物が数体見えた。
いつでも飛び掛かれる距離で止まったのだろう猿達を見る。
ギラついた目を見る限り明らかにこちらに敵意を持っている。
こいつらにとって私達は獲物だ
これから私にとって初めて命を奪い合う戦いが始まる。そう思ったら情けなくも緊張し、ユキの服を掴む手に力が入る。
ちらりとユキを見れば普段通りの涼しげな顔。何とも頼もしいメイドに抱っこされてる事に安心感を感じ、私は奇跡すてっきを猿達に向け戦う決意をした