幼女、馬車を改造する
「つまり半年以上も前から実行してたってわけ?あのババアも気の長いこと」
「えぇ……幻獣の子供が高く売れる、というか買い取ると触れ回った所でこの国で捕まえようなんて考える人間が居るわけないのですが、あの方はその辺が分かっていらっしゃらなかった様で。その内諦めると無視していましたがまさかこんな長い間粘るとは思いませんでした。放置していた私達の過失です」
「国のお偉いさんも何もしなかったんだから気にしないでいいんじゃない?しかし幸か不幸か他所から来た頭の悪い冒険者が食いついてしまったか」
「そうです」
腕輪しといてどの辺りが幸運なんだろうか?幻獣の子供をあっさり捕まえた事か?渡した所であのババアが素直に金を払うわけないし……やはり壊れかけだな、何もかも中途半端だ
「入り口付近に二人死んでたわね、こいつも殺す予定だったの?」
「みたいですね、念のための口封じでしょう。まぁ殺される前に私達が突入したのでこうして生きている様ですが……悪運の強いことです」
「死んでた方が楽だったのに……やっぱり運が悪くなってるわ」
「ややこしいから運がいいのか悪いのかハッキリして欲しいのじゃ」
「悪い」
その不幸筆頭の不細工は意識を失って静かだ。口を縫い付けられたぐらいで失神するとは流石は雑魚
「あともう一つ、約束ってなんだったの?」
「今回の様なちょっかいを出すのをやめて欲しい、と」
「ドンペリンリンちゃん達にあっさり負けちゃったから無効になっちゃったけどねぇ」
そうだろうか……あのババアは今回あっさり失敗と称して諦めて帰ったし、本気で国を乗っ取るつもりは無かった気がする。どちらかと言えばこの二人が目的だったのではと私は思う
「多分、ババアは二人を取り返すついでに国もちょうだいしようと思ったんじゃない?」
「私達?」
「まぁ、初めの頃は本気で国取りしようと考えてたんだろうけど、二人が寝返っちゃったから事情が変わったのよ」
「……別に私達程度の者ならアナルチア様の周りに沢山いると思いますが」
「何とも思ってなかった忠実な手駒でも見知らぬ他人のものになるとなれば妙に手放したくなくなるもんじゃない?人間の心理的に」
「ふむ、つまり何とも思ってなかった幼馴染の女の子が見知らぬ男の彼女になってたら何故かショックを受けるみたいなもんですね」
その例えはどうかと思うが大体合ってる
「今回手酷くフッたからもう諦めたでしょ」
「そうだといいですが……」
サヨが隠されていたヒッポグリフの子供を救出し、二人の怪我も治ったので店内から外に出る。不細工は足を縄で縛って引きずって連れ出す
外に出たら口から割りと血を出して倒れてる今まで存在を忘れていた女がいた
「そういやババアはコイツを忘れていったわね」
「この女は元々は私達の部下でした。しかし何とも無様になってますね」
「ならまた貴女達が扱き使えば?」
「そうですねぇ……じゃあまずは姫様を裏切らない様に調教からですねぇ」
「使える人材ではあるので活用しますか」
では城に向かおう……もちろんミラ達を送るわけではなく金を受け取りにいくためだ
「サヨ、いくらぐらいあれば豪華な馬車に出来る?」
「作業するのは私達ですからね、材料だけですから数百万あれば大丈夫かと」
「なら高価な家具とかも仕入れるとしても一千万あればいいのか……大分余るわ」
「家具代込みでの見積もりでしたがどんだけ豪華にする気ですか……まぁ余った分は貯金に回しましょう」
一軒家建てるのには数千万はかかるから一千万は要るかと思ったがそうでもないらしい。まぁ家ならまだしも馬車だしな、数百万でも十分高い部類に入るんだろう。馬車自体はアホみたいに高いけど
「ならこうしよう、2000万は受け取るけど残りの1000万はアリエ達の給料から毎月支払っていきなさい」
「それは罰の一つか何かですか?」
「えぇ、この国で1000万とかかなりの大金でしょう、せいぜい苦労して払うことね。ギルドで私達のパーティ宛に入金すればいいの?」
「それで良いかと」
「ということで」
「それくらいなら甘んじて受けましょう」
ンフォと子供ヒッポが感動の再会をしているが王都まで乗せてもらうため中断させて騎乗できる体勢になってもらう
人数が増えたので私達はサヨの符で、ミラ達はンフォに乗って城まで移動する。転移すりゃ早いんだけど今回はのんびり行く
☆☆☆☆☆☆
王都に到着した
またグリフォンを町中で飛ばそうものなら目立って仕方ないのでンフォ達とはここでお別れだ
「じゃあね、その子を取り戻してやった恩を返したければこの国を守る事をオススメするわ。ミラが生きてる間だけでも守護してやりなさい」
「キュゥ」
「ガゥ」
「ンフォちゃんありがとうね!幻獣に乗るなんていい体験できたよ!」
「森に遊びに行けばまた乗れるわよ」
「そっか!」
他の者は特に言うこと無いらしいので森へと帰る二匹を無言で見送った
ルリは幻獣と一緒に住んでた身なのだが分体がいるから別に挨拶する必要はないとの事だった
「じゃあ城に行きましょう」
避難した住民なのだろうが、妙に混んでる町中を歩いて進む。ウチの娘達のせいでやたら目立った。城まで遠いし視線が鬱陶しいのでやっぱり転移する事にしよう
………
……
…
「転移まで出来るとは本当に優秀な方達ですねぇ……」
「アイテムなら知ってますけど、まさか冒険者の方に使える人が居るとは思いませんでした」
「凄いメイドさんだねぇ……二人も負けてらんないよ?」
「ふふん、ユキの凄さはこうして抱っこされてても振動がほぼ無い事よ」
「へー……」
褒めちぎられてる当の本人は涼しい顔、というかいつもの無表情。最近家族だけなら割と表情に出す様になったが他人がいるとまだこんな感じだ
城まで来たはいいけど、何の許可証もなく城内にはやはり入れないらしい。しかも身分が一般人な上に冒険者、なのでミラ達だけで中に入り報酬を持ってくるとのこと。
運んできた不細工と顎粉砕女は衛兵に渡した。不細工も聴取の際に何かと言い訳するだろうが奴は不幸になっているのできっと死罪、ババアの事も喋るだろうがその辺はミラ達が上手く対処するだろう
待っている間暇なのでユキ以外の家族は今何をやっているのか聞いた所宿に戻って勉強の予習復習をさせていると言われた
「そういや国の名前に意味が何とか言ってたわね?それ私にも教えて」
「聞いてましたか、例えば私達の国であるワンス王国は犬好きが多い」
「ワンだけに?確かに私も犬派ね、でもそれって勉強するほどのこと?」
「元々のテーマは名前というのが如何に影響を与える代物であるか、というものです」
「私のちんまい身体がまさに見本ね」
「で、サード帝国はサドっ気が強い、フォース王国は力馬鹿などまぁ国名が少なからず影響を与えているのです」
「ふーん、ちなみにトゥース王国は?」
「トゥース王国はフツーっす」
「適当すぎんでしょ」
この国だけ扱いが雑すぎる。ミラ達が不在である意味良かったかもしれない……自覚してるからあんまり気にしない可能性もあるが
ミラ達が城に入っていってもう結構経ったのだが未だに現れず……額が額なだけに用意するのにも時間がかかるのかも、ミラ達が約束を破るとは思えないので報酬無しという心配はしていない
という予想通りしばらくすると中からミラ達が出てきた。何か頑丈そうな箱型の鞄らしきものをメイド二人がかりで運んでいる。あれが現金か
「申し訳ありません、国のお偉いさんがかなり出し渋るので時間がかかりました」
「お偉いさんてのは王様?」
「宰相達です、用意しないと幻獣を暴力で従わせる者たちを敵に回しかねないと脅したらあっさり用意してくれました」
「その場合は回しかねないじゃなくて確実に回すわ」
「ですか、まぁ何にせよお確かめ下さい」
「必要ないわ、面倒だし貴女達を信用する」
「用意したのは私達じゃありませんが」
「サヨ、数えといて」
見知らぬ他人なら全く信用できん、という事でサヨに任せた。何で私がこんな面倒な……とか愚痴をこぼしていたが言われた通り魔法を使用して楽をしながら数え始めた
さて金を受け取ったしもうミラ達に用はない、サヨが数え終わったらおさらばしよう。我ながらあっさりした性格だがこれが私
「……大丈夫ですね、急いで用意しただけあって小銭までかき集めた様で数えるのが面倒でした」
「ご苦労様……じゃ、帰ろうかな」
「もう?……もっとゆっくりすればいいのに」
「やりたい事があんのよ、今回の依頼はその為に受けたんだし」
そう言ったらミラは不貞腐れた。13歳とはいえ何だかんだまだ子供か
「……ねぇねぇ!私から一つお願いしてもいい?」
「断る」
「せめて聞いてよー……」
「……なら私からも言わせてもらうわ」
ユキ達はすでに宿に戻る準備を済ませていた。私の合図でいつでも出発できる
私は別れる前に一度ミラ達を振り返り、
「一日だけって言ったけど、何ならずっと友達にでもなる?」
「……え、う、うん!なるなるっ!」
「ならきっとまた会えるわ、じゃあね」
「絶対だよ!絶対また会おうね!ルリちゃん達も」
「なら貴女には私の名前を教えときましょう、ギルドカード渡すから声に出さずに確認しなさい」
「わかったよ……うん!良い家名だねっ!」
つまり名前は駄目という事である。失礼な奴だ
カードを返してもらい今度こそ後にする。ミラ達の大げさな見送りに少々恥ずかしい思いをするが、まぁ悪くない
「お母さんが……あのお母さんが自ら友達になろうなどと……私は涙で明日が見えません」
「意味が分からない」
「お母さんが成長されて嬉しいという事ですよ」
成長……したんだろうか、まぁ確かに以前なら誰だろうが友達になろう発言はしなかったのも事実。成長したというよりは丸くなったって感じだ。でもどこにでも居そうな性格のミラを気に入るとは正にミラクル
「次は馬車の改装よ、バシバシ働いてもらうわ」
「マサニバシャウマノヨウニナ」
「別に上手くないですよマイさん」
マイちゃんは他人の前ではあまり喋りたがらない、蝶が喋って騒ぎになるかもしれないからこちらとしては有難いが。もしかしたらその辺を考えて喋らないのかも、これで賢い蝶だからな
☆☆☆☆☆☆
「この娘はのじゃロリ、トイレの大精霊で私達のドリンクバーよ。仲良く利用する様に」
「何もかもが間違っておる……ワシはルリじゃ、水の大精霊で主殿のペットじゃ。宜しく頼む」
「泣き虫だから今後はストレス溜まったらルリを泣かせて発散させる様に」
「やめるのじゃ!?」
初の大精霊を見てマオもメルフィもルリを凝視している。メルフィは精霊が見えるし声も聞こえるだけあって本物とすぐに分かった様だが
「あの……大精霊、さんってどう接したらいいんです?」
「大精霊、じゃなくてペットとして接しなさい」
「えー……えと、ルリちゃん宜しくです?」
「うむ、宜しく頼むぞ」
おぉ、偉そうです……と何故かマオは感心していた
「しかし悪魔か……種族関係なく仲間にするとは流石は主殿」
「わ……バレた……」
「あぁ……別に悪魔だからどうこうする気は無いから安心せい」
「はい」
ルリの紹介も済んだことだしいよいよ大工仕事だ。やるのはユキ達だが……とはいえ流石に疲れただろうから明日以降になるけど
「まずは何からやる?」
「そりゃあもちろん拡張からでしょう。私とユキさんで何とか空間を広げる方法を考えますが、もしかしたらお姉様に知恵をお借りするかもしれません」
「私は魔法の事はからっきしよ」
「それは承知しております。まぁ符を使えば何とかなりそうなので念の為です」
ある程度考えてあるなら私が口を出す必要も無さそうだけど
あー……我ながら今日はよく働いた、ような気がするので疲れた。マオの太腿に座りルリに甘い系の飲み物を頼む、出されたのはココアだった。うむ、実に優雅だ
「もうこの快適な生活からは抜け出せないわ」
「満喫中の姉さんに質問がある、私は何をすればいい?」
「メルフィねぇ……今はユキ一人で家事やってるわけだから洗濯とか掃除は?馬車も大きくなったら御者やりながらじゃ難しそうだし」
「ん、わかった。そうする」
自ら仕事をもらうとはやる気があって宜しい。私とは大違いだ、駄目な奴の元には割りと優秀な奴が集まるなんて法則があっても不思議じゃない
「お母さん、今日はお疲れでしょうから早めにお休みになられますか?」
「そうしよっかな」
「明日から大工仕事が待ってますから皆さんも早めに休んだ方がよいと思います」
寝るにしてもまずは風呂、という事でサヨに任せたが魔法を使用したのかすぐに戻ってきた
「札束風呂にしてきました。ご堪能ください」
「馬鹿だろお前」
当然ながら即刻札束の回収とお湯を沸かすことを命じた。あの時ボケを目指せと言ってしまったのを今更ながら後悔した……本当にボケキャラになると誰が予想出来よう
★★★★★★★★★★
騒動から一夜明けた。私は疲れていたし安定の昼起きだが、ユキとサヨは朝から改装作業を始めたようで部屋には二人以外のメンバーが残っていた
「奇跡人の二人だけ作業してるわけね」
「空間魔法とかわたしはさっぱりなので……」
「普通はそうよ」
ルリは何か紙に書いている。夕べ作り出せる飲み物の種類を教えてと言ったのでそれを書いているようだ。マイちゃんは意味もなく部屋の中をパタパタ飛んでいた
「飛ぶ……浮くか、使えるかも」
「どうしたのじゃ?」
「考え事、気にしないで続きを書きなさい」
「わかったのじゃ……しかしあまりに数が多いのぉ」
そんなにあるのか……アイリスも仕込めるだけ仕込んだってことか、私としては有難い話だ
部屋のドアがガチャっと開き、サヨがなんか唸りながら入室してきた。どうやらもう手詰まりしたっぽい
「なに?空間を広げられないとか?」
「いえ……空間を広げる事は何とか……広げるというか引き伸ばすって感じですけど。今悩んでいるのは別の事です」
「何かあったっけ?」
「符を貼り付けて広げている訳なのですが、いかんせん魔力が足りなさ過ぎて永久どころか長時間の維持すら出来ません……という事でどうしたものかとお姉様に相談にきました」
「そんなん外から供給すればいいじゃない。魔素ってのがあるんでしょ?」
「それはすでに考えました。安定した供給には魔素の濃い山などではないと無理です」
「もう一つあるじゃない、普通は無理だけど私達なら出来そうなのが」
「と、言いますと?」
「精霊よ精霊、メルフィもルリも居るんだし頼んだら魔力くれるんじゃない?」
おぉ……と、まるで天啓を受けたかの様に大げさなリアクションをするボケの子
「それです。上手くいけば維持する手段は確保できます」
「ならメルフィとルリは精霊にお願い出来るかどうかを試してきて」
「そういうのは姉さんの方が適任と思う」
「貴女達でも大丈夫よ。サヨ、マイちゃんを見ていて思ったんだけど風魔法を込めた符を荷台の下に貼ったら軽くなったりしない?」
「ふむ……つまり浮力を使うと、やる価値はあるかもしれませんね。改装して積載量が重くなると車輪が潰れる可能性がありますから。今ぐらいの重さになる様に調整してみましょう……いやいや、やはりお姉様に相談すると捗りますね」
早く考えた割りに案外良い案を出したみたいでサヨは意気揚々と部屋を出て行った。メルフィとルリもサヨに続き出て行った
「……残った者は役立たずってわけじゃないですよね?」
「私の助言は役に立った筈よ」
「おぉぅ……という事は役立たずはわたしだけ……」
「マオは私の相手してりゃいいのよ、ウチに役立たずは居ないから安心なさい」
「お姉ちゃん、何か急に人が良くなったです……昨日白くなったからですか?」
「機嫌が良いだけよ」
何だよ白くなったからって……服か?服の事か?別に黒ばっか着る訳じゃないっての
しかし静かだ……こう静かだと本でも読みたい気分になる。馬車が完成すればまた国外に出ようと思ってるし次なる目的地を決めておこう
「むぅ……メルフィはフォース王国の田舎に実家があるって言ってたわね、実験体の事を考えるとあんまり行きたくはない場所よねぇ」
「田舎なら大丈夫じゃないですか?」
「そうねぇ……目立たない様にいけば大丈夫かな……多分」
ならメルフィの里帰りがてらフォース王国に行くか、順番的にはサード帝国だろうがあんな所誰が行くか
あっさり目的地が決まったので再び暇になる。昼まで寝てたとはいえまだ疲れてるし皆が戻るまで寝る事にした




