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幼女、ペットを飼う

「つまりこの森に居る幻獣の子供が攫われたんじゃないかと、そういう事か。残念ながらワシは何も知らぬよ」

「役立たず。結局トイレの大精霊を見ただけで何の収穫も無しか」

「ぐぬ……ワシだって暇じゃないのだが。そうだのう……精霊に聞いてみるから少し待っておれ」


 その手があったな、だったらメルフィに聞けばいいんだけど戻るのも面倒だし大精霊に任せてみるか。大精霊は虚空に向かって何やらブツブツと独り言を言っている。精霊と会話してるんだろうけど端から見ると危ない幼女だ


「大体分かったぞ、確かに幻獣の子供を攫った阿呆がおるそうじゃ」

「詳細は?」

「攫われたのは鷲の頭と馬の身体の幻獣、お主ら人間はヒッポグリフとか言うとるらしいの」

「言ってるのは異世界人だけよ。でも頭が鷲ねぇ……?」


 同じく鷲の頭をしてるグリフォンの方をちらりと見る。同属か何かだろうか


「ヒッポグリフは元はグリフォンの子供みたいなもんじゃな」

「……もしかしてンフォは偵察じゃなくて親心から独断専行で来たのかもね」

「キュウッ!」

「でもたった一匹とか馬鹿も馬鹿、大馬鹿よ。死ねばいいのに」

「キュゥゥゥ……」

「まあそう言うてやるな……子供の様に可愛がってる者の子供が攫われたのだ、気が動転しても仕方あるまい」


 ……ババアのくせに喋り方がなってない。これではどちらかと言うとジジイ言葉だ


「ロリババアならロリババアらしく語尾にのじゃとか付けなさいよ」

「この可愛らしい容姿のワシに向かってババアとは」

「言えよ」

「わ、わかった……のじゃ、だからその杖を向けないでたも!?」


 どうやら本当に並々ならぬトラウマを持っているようだ。ここまで怯えるとは一体何をしたんだろうか……


「うぅ……屈辱なのじゃ、たかが杖一つにこうも怯えるなんて……のじゃ。それもこれもあの外道が悪いのじゃ」

「のじゃのじゃ煩い」

「どうしろと言うんじゃ!?」


 どうもせんでいい、コイツで遊ぶよりも誘拐犯の人物像を聞くほうが重要だ。ほぼ犯人は決まっているが念のためである


「で?精霊から聞いた犯人はどんな奴?」

「ワシが何でもかんでも無償で教えると思ったら大間違いじゃ。聞きたければワシの頼みも聞いてもらうぞ」

「ならいいや、メルフィなら精霊から聞けるしお前は用済み」

「待って待って!ちょっと調子に乗っただけじゃ!聞いて下さいお願いしますうええぇぇぇんっ!!」


 これが大精霊だと誰が信じるだろうか……マオ以上に苛めたくなる逸材だな。どさくさに紛れて私に引っ付いてくるのはムカつくが。とりあえず蹴とばしてそのまま踏み続けよう


「やめるのじゃ!やめるのじゃー!びええええぇぇぇっっ!」

「ドンちゃんドンちゃん!それはいけない!大精霊様の怒りを買っちゃうよ!?とばっちりでウチの国がピンチとかやだよ!」

「だんだん名前を略すのやめて。まあ止めてあげましょう」

「た、助かったのじゃ……礼を言うぞ、えっと……一般人」

「ぐふぅ……確かに一般人みたいに見えると思うけど」

「この娘はトゥース王国のお姫様よ」

「姫か……姫自ら動くほど大騒動になっておるのか」


 大騒動ではあるが姫さんは強引に私達に着いてきただけだ。国の危機を救うべくこんな危ない森までお供するのは褒められたもんじゃないが立派だ




「先ほどの話の続きじゃが、お主にワシの頼みを聞いて欲しいのじゃ」

「お姉様、聞くだけ聞いてみましょう。この手の相手はしつこいので」

「そうね、聞いてやるから言ってみなさい」

「うむ。予想はついてるかも知れぬが、この湖を浄化というか綺麗にして欲しいのじゃ」

「元々はヘドロじゃなかったのね」

「……この湖がこんな姿になったのはその杖を持ったある女のせいじゃ。まあお主の先祖だろうがの……随分前になるが、この湖というか森が美しい場所だった頃の事じゃ。ある日湖の畔に人の気配を感じたので覗いてみると赤い髪の……お主が成長したような女がだるそうに立っていたのじゃ

 ほっとけば居なくなると思っていたが、ぼそっと『紅茶が飲みたい』とか言ったと思ったらゴソゴソ杖を取り出し妙な呪文を唱えてこの湖の水を紅茶にしおったのじゃ!!」


 流石は我が先祖、紅茶が飲みたいからって湖を紅茶にするとはスケールがデカい。馬鹿じゃないかと、普通にカップに出せばいいのに


「あまりに急な出来事に唖然としたが、我に返ったワシはその女にブチギレて元に戻すように迫ったのだ……じゃがラブが何とか言われたらいつの間にかやられとった」

「そのダサい呪文は私の先祖で間違いないわ」

「しかもその女ワシが泣いて謝っても残虐な暴力行為をやめんかった!」

「先代の気持ちも分かるわ。だって貴女、苛めると凄い楽しいもの」

「そ、それはともかく……しばらく痛みに耐えていたら『飽きた、帰る』とか言って湖を元に戻す事無く去って行きおった。ワシは怖いので立ち去る奴にもう文句を言えなかったのじゃ」


 何という歩く災害……過去で会った時はそんな悪い奴に感じなかったが、それは私が同じ力を持っていたからかもしれない。他人に対しては容赦ないのだろう、私と同じで


「何とか元に戻そうとワシも頑張ったのじゃが、何故か何をしようと元に戻らぬのだ……この数百年泣きながら頑張ったが紅茶が腐りヘドロになるばかりで成果は何も無かった……」

「あんたよく泣くわね」

「うむ、水の大精霊じゃからな!よく泣くぞ」


 水属性だからって泣き虫になるわけないだろう……精神が成長してないんだろうな、口調は老けてるけど


「これが奇跡ぱわーによるものなら貴女の頼みは聞けそうにないわね」

「なん……じゃと……?ではこのままワシはヘドロの大精霊として生きていけと……い、いやじゃ!」

「ドンちゃん……本当に無理なの?」

「同じ力じゃ通用しないのよねぇ……というか今気にすべき事は幻獣の事でしょう?」

「そりゃそうだけど、大精霊様が可哀想だもん」


 と言われてもなぁ……何か手はないものかとサヨの方を見るが無理です言った感じで首を横に振る。頭の上にいるマイちゃんは先ほどから無口だ。興味無いのだろう


「ねね!お願いドンちゃんっ!この国の未来はドンちゃんにかかってるよ!」

「勝手に国を背負わせないで」

「……もうよい、えぇと?」

「あ、みみ、ミラと申します!ミラ・クルステンダム」

「あれ?家名はトゥースじゃないの?」

「そりゃ違うよ……」


 にしてもクルステンダムとはまた何とも王族っぽい。ふむ……


「あだ名はミラクルね」

「うっ……た、確かにそんな感じでアリエ達に馬鹿にされたり……」

「いいじゃない、ミラクル。私にとても縁がある言葉だわ……益々気に入った。いいでしょう、何とかなるか分からないけどやってみましょう」


 要するにヘドロを元に戻す事が出来ないのだ、だったら私も先代の様にヘドロを水になれと願えば可能かもしれない。復元が無理なら上書きって事だな


「のう……本当に戻せるのか?」

「さぁ?やってみない事には分からないわ。まあせいぜい願ってなさい……サヨ、気絶中よろしく」

「お任せください」

「マイちゃんも退いといてね」


 マイちゃんがパタパタとサヨの肩に移動したのを見て始める

 言ってみたものの規格外である先代がやらかしたこの状況を私がどうこう出来るかは難しいと思う。だが絶対無理という気がしないので可能性はゼロではない


「奇跡ぱわーよ、なかなか無茶言うけど……この湖を、この森を蝕むこのヘドロの湖を世界三大名水に入るような清らかな水に……どこの湖よりも美しい湖にしなさい!」


 目の前が眩い光に包まれた……

 発動したって事は成功とみていいのだろうか……眩しすぎて見えないけど、でもきっと大丈夫。先代はただ言葉にするだけで奇跡ぱわーが発動するのだろうが、私は違う。私の奇跡ぱわーは強い想いで発動するのだ……想いの力だけはきっと先代にも負けない


「ただただ使った先代の力ごとき……私が負けるわけないっての……」


 そして安定の気絶である

 ぶっちゃけ姫さんの頼みだとか、大精霊の頼みだとかどうでも良かったのだ……ただ私にも先代やアイリスとやらに負けないものがあると知りたかった、ただそれだけ。奇跡ぱわーどころか加護まで先祖譲りと聞いた時から姫さんに頼まれるまでもなくやる気だった。何だかんだ言って拒否ったのは素直に聞くのが癪だから


「世界三大名水ってなんでしょう……」

「おいしい水?」


 ……それはノリで思わず言っちゃっただけだから気にしないで



☆☆☆☆☆☆



「……いつもの寝起きよりスッキリしてるわ」

「おはようございますお姉様」

「……おはよう、どう?私の力は先代の力に通用した?」

「それはご自身の目でお確かめください」


 空気が澄んでるから成功したとは思うが。よっこらせと上半身を起こして湖を見る……


 そこには見事に澄んだ青い色をした湖があった……何故か姫さんが湖に入ってはしゃいでいる


「起きたか……何というか、見事な光景じゃ……お主が寝てる間歓喜で咽び泣いておった」

「また泣いたのね……しかし我ながら良い仕事をしたわ」

「……感謝する。時間が経てば森も昔の様に神聖な場所に戻るじゃろう。飲み物でもいるか?」

「オレンジジュースでも貰うわ」

「オレンジ……確かこんな」


 大精霊は氷でコップを作ると何やら念じ始めた。するとコップの中にオレンジ色した液体が……え?まさかオレンジジュース作ったのコイツ


「ほれ、器が氷だからよく冷えておるぞ」

「……本当にオレンジね、よくもまぁこんな芸当できるわね」

「アイリス殿に飲ませてもらった事があるからな、成分は覚えたから作ることなど造作もない」

「水の大精霊は水、液体に関する事ならお手のものという事ですか……しかしこれは見事です」


 見事なんてもんじゃないだろ……成分とかどうやって集めたんだよ、空気中にオレンジの成分なんかあるわけないじゃん。もはや創造の領域だ


「……もう一つ頼みを聞いてもらってよいか?」

「言うだけならタダよ」

「で、では……何というか、ワシを連れて行ってはくれまいか?」

「この湖はどうすんのよ」

「それはワシの分体に任せておけばよい」


 と言って指差したのは前はヘドロだったが今は透明な水で出来た人型。あれって分体だったのか


「お主がアイリス殿の末裔であり懐かしいからというのも理由の一つではあるが、一番の理由はやはりこの湖をこんな素晴らしい場所へと戻してくれた事じゃ……この恩は幻獣の件程度では返しきれん」

「元々私の先祖が仕出かした事よ……別に恩にきることじゃない」

「お主とあの女は別じゃろ。ならば恩人として感謝する他ないわ」


 恩返しというわけか……そうだなぁ、連れていく必要も無いし連れて行かない理由もない。つまりどっちでもいいのだが


「貴女は家族って感じがしないのよねぇ……私は家族以外いらないし」

「う……うぐ……」

「泣くな、そうね……じゃあペットとして貴女を連れていきましょう」

「だ、大精霊をペットですか……?」

「おおっ!ペットか……それでよいぞ!アイリス殿もワシをペットとやらにしてくれたのじゃ!うむうむ、やはりお主はアイリス殿の末裔じゃのう」

「「……」」


 先代の娘はやはり先代の血筋という事か……大精霊の口ぶりから結構やさしい人物だと思っていたがとんだ外道だ


「アイリス殿は色々ワシに教えてくれてなぁ……先ほどのオレンジなど色々な液体を覚えて披露する度に褒めてくれた。褒められたのはアイリス殿が初めてで嬉しかった」

「……あ、そう。思い出は美化されるものか、アイリスは貴女に色々仕込んだのね」

「何の事じゃ?……まあよい、宜しく頼むぞ……えぇと、ドンじゃったか?」

「名前で呼ぶな、ペットなんだから主とでも呼びなさい」

「そうか?では主殿と呼ぶのじゃ」


 思わぬ所で仲間が増えた。水の大精霊でポジションはペット、どう考えても有り得ないのだが本人が満足しているからいいか。その内ペットというのがどういう存在か知った時にどう反応するかは見物だ


「そういえば貴女の名前は?」

「せっかくじゃから主殿が付けてくれ」

「え……?」

「任せなさい、私は今までも名付けのプロとして活躍してきたから」

「え……?」

「サヨ……何か文句でもあるの?」


 黙って顔を伏せ首を横に振る……なんだろう、何か腹立ったから蹴っておこう


「水の精霊ってウンディーネってのが有名な名前よね」

「うむ、そう呼ばれるのが一番多いのじゃ」

「なら……貴女はウンピーで決まりね」

「何じゃその排泄物に自主規制をかけたような名前は……流石に嫌じゃぞ?略すならディーネとかあるじゃろうが」


 頼んでおいてこの言い様である。ペットのくせに生意気だ、睨み付けながら頬をつねると段々と涙目になってきた。コイツが号泣するまでつねるのを止めない!


「びええええええええええぇぇぇぇぇぇぇんっ!!」

「ほわぁっ!?びっくりした!?……何だ、大精霊様がまた泣いたんだ」

「姫さんも慣れてきたわね」


 号泣したので許してやった。しかしこの名前が不満とはどういうセンスしてんだ


「お姉様が言う事ではないですが」

「なに?」

「ああ、お気になさらず……何故か言わなければいけない気がしましたので」


 変な娘だ……まあサヨが変なのは今に限った事じゃないか。しかし渾身の名前が否定されるとはどうするか……水、水か




「じゃあルリでいいわね」

「おお、まともじゃ……!うむ、ルリでいいぞっ!」


 ……サヨといいこのルリといい簡単に考えた方が喜ばれるというこのモヤモヤ感


「……ちなみにお姉様、なぜルリと……?」

「アルカリ性から決めた」

「えらく斬新な所から考えましたね……」

「あとロリだから」

「でしょうね」


 まあ本人が喜んでるんだから問題ない。名前の由来さえ知らなければあの娘は幸せな筈だ


「にしても大精霊……何とも心強い戦力が増えたものです」

「サヨはあの娘を戦力として見てるんだ?」

「違うのですか?」

「違う……きっとアイリスと一緒だと思うわ」


 アイリスがこの大精霊、ルリをペットなんかにした理由……それはきっと


 念願のドリンクバーを手に入れた……!



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