表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/245

幼女とゾンビ

「やっと終わったわね、どう?首も固かった?」

「はい、普通の剣ならまず折れてますね」

「ほー……それをスッパリ斬るなんて私の作った鞭はその内伝説の武器にでもなりそうね」

「他人に使わせる気はありませんが」


 どうせ私達以外には使えない代物だけどね


 ユキの元へ到着し、地面に落ちているモノ……生首となったクソ女の頭を持ち上げる。拍子にブチブチっと白髪が数本抜けた


「討ち取ったりー、とか言うべき?」

「病原菌でも伝染したら大変ですからあまり触らない方が」

「扱い悪い生首ねぇ」


 サヨに押さえ付けられてるベレッタは特に動き無し。ショックでも受けているのか、ぼーっと生首を見ている。


「つまんないわねぇ……泣くゾンビが泣きわめくゾンビにランクアップするかと思ったのに」

「無理ですよ」


 やっぱり特別なゾンビと言えどただのゾンビ、腐らないだけで他のゾンビと変わりはない……いや、元の人間だった頃に比べれば強化されてるか


「終わったかね?何というか、他国の冒険者達に任せっきりというのは情けない話だが君達が居てくれたおかげで最小限の被害で済んだ、感謝する」

「私達がやりたくてやった事よ、気にしないでいいわ」

「傷心してる……ベレッタちゃんだっけ?彼女は俺に任せてくれ」

「多分その内腐るわよ」

「なんだと……」


 変態兵士は悩みだした。流石に腐った女は遠慮したいらしい、コイツはクソ女を殺した事をあまり気にしてないようだ

 で、唯一気にしてるウチの甘ちゃんマオは……


「ベレッタさんの目の前で大事な人を殺したのに、皆さん何とも思わないんですね……」

「だって敵だもの」

「じ、じゃあ立場が逆だったらどう思います……!」

「マオ、今までも貴女の目の前で人を殺した事あったのに何故このクソ女はそんなに気にするの?」

「え……あの、わたしはベレッタさんが可哀想だと」

「アホらし、今まで殺した奴の家族はどうでもいいって事ね」

「う……」

「貴女のその人を選ぶ所ってあんまり好きじゃないわ、そんな調子じゃ極悪人に子供がいるってだけで見逃しちゃうんじゃない?可哀想ですよーってね」


 反論は無かった。自分でも思い当たる節があるのだろう。残される者が可哀想だからって許されるなら法律意味ねー


「はぁ……今回は許しましょう、次からは馬鹿な事は言わない様に」

「……」

「返事無しって事は肯定って事ね」


 いっちょまえに睨んでくるが無視、というか良い度胸だ。

 初めての反抗的な態度に何故か楽しくなってくる……おお、これが子供が反抗期を迎えた時の保護者の気持ちか


 ウキウキしてクソ女の生首をブラブラ揺らしてたらブチブチッッ!と髪が一気に抜けて落ちた。毛根脆すぎ……


「っう!?……このっ!」


 どうやら今の生首落下を見てベレッタが再び暴れだしたようだ。サヨの表情から察するに結構いっぱいいっぱいらしい


「落ち着け、君には俺が」

「あ」


 ベレッタの前に出た変態兵士が飛んだ

 言葉通り飛んでいった兵士は数十メートル辺りで落ちてゴロゴロ転がりパタッと動かなくなった

 何があったかと言うとベレッタが兵士を割と強烈に蹴っただけ


「お、おい!生きてるか……?」

「ぁい……痛ぇ、死相ってこの事か……!鎧無かったらヤバかった」

「生きてるならいい。これで自分が馬鹿だったと目が覚めただろう?」

「ええ、あの娘と夫婦喧嘩したら死んじゃうから結婚とか無理」

「そういう問題じゃない」


 兵士は無事らしい……頭は無事ではないが、それよりも重要な事がある


「初めて人間に危害を加えたわね」

「あの兵士なら思わず危害を加えても仕方ないかと」

「まあね」


 サヨから逃れようと足掻くベレッタに近付き、ズイッとクソ女の生首を見せつけた


「ほーれ、あなたの愛しのクソ女の生首はいかが?」

「……」

「お、押さえ付ける方の苦労も考えて下さいね……?」

「頑張りなさい」


 暴れながらもじーっと生首を見つめるベレッタ。段々と大人しくなり、やがて動かなくなった。視線は生首に固定されているが


「大人しくなったわね、やっと親友がどんな状態か分かったっ!」


 ペシっ


 ……ベレッタに向けて語りかけていたら頭に軽い衝撃を受けた

 後ろを見ればマオがいた。どうも私の頭を叩いた不届き者はマオみたいだ、自分でやっといて物凄く青い顔をしている


「……睨むだけかと思ったら、手も出せるんだ?」

「しょ、そそそそそういう事しちゃだだ駄目だと思いましゅっ!?」

「ビビりすぎで怒る気も失せるわ」


 あーあ、白けた。もういいや、クソ女に仕返しは済んだ事だし

 マオを素通りしてユキの所へ行き抱っこちゃんに戻る。生首は左手に持ったままだ


「サヨ、もう行くからソイツ離していいわよ」

「わかりました」

「おや、もう行くのか?処理が済んだら恩人だから何かしら礼ぐらい出ると思うが」

「待ってらんないから要らない、でもギルドに討伐依頼出ているかもしれないからこの生首は貰っていくわ」

「むぅ……まあいいか、主犯の胴体はある事だし」

「あの身体は呪われてるから直接触らない方がいいわよ、あとそのゾンビも要らないならこちらで処理するわ」

「分かった」


 時間的に町を出るのは明日でもいいが、騎士団に事情聴取されるのも嫌だし、何より生首を明日まで持ってるとかホラーすぎる

 ベレッタは何も言わないでも歩き出した私達の後ろをちゃんと着いてきてた。というか生首に着いてきてるんだろ


「マオさん、やたら離れてますがどうしました?」

「き、気にしないでください」

「そんな気まずくなるなら言わなきゃよかったんですよ」

「分かってるじゃないですかぁ……」

「姉さん……マオさんはお母さんの頭を叩くような勇者ですよ?私は恐ろしくてからかえません」

「そうでしたね、おーこわいこわい」

「二人とも酷いです……」


 叩いたと言ってもペシっと気の抜けるほどへなちょこな音だったけど、叩くか止めるか散々迷って叩いたって感じだった。もちろんニット帽無くても痛くない程度


「良い関係……」

「メルフィはそう思う?」

「二人の発言はマオ、さんがあまり気にしない様にと気遣ってのこと」

「別にさん付け要らないんじゃない?」

「私も不要ですよ」

「助かる……」

「でも私を名前で呼ぶのは許さん」


 メルフィに何て呼ばせるかは決めて無かったな、戦ってる最中だったから無理もない話だけど

 やっぱり姉系になるのか?サヨはともかく、メルフィは妹って感じ全くないんだけど


「……ペーちゃんと呼ぶ」

「やめろ」


 真顔だからギャグで言ってるのか分からない所が怖い


 宿屋に出発する旨を伝え馬車を出す。ベレッタは乗せる気ないので速度を合わせてゆっくり進む。生首は窓の所に吊るした、道行く者が見たら驚くな




「大体あっさり殺すなんてやっぱりおかしいんですっ!いいですか?何でもかんでも言う通りにすればいいってもんじゃないです!お姉ちゃんが間違った時はちゃんと叱らないと」

「マオさんマオさん、お母さんに言うのが怖いからって私にあたらないで下さい」

「ぐっ……バレてます……」

「それにお母さんは最善の手段を取られました。だから私も躊躇しませんでした」

「最善……?」


 吊るされてるクソ女の髪をブチブチ抜いて遊んでいたら何やら話だした。コイツの毛根腐ってんじゃないかってくらい簡単に抜ける


「あの女を生かした所であれだけ冒険者達をゾンビにしている時点で処刑は確実です。処刑を免れても呪いで死んでました」

「あぅ」

「お母さんは何度も女を刺していたし、私も斬り裂いたのでわかりました。あの女に心臓は無いと、唯一の急所は恐らく頭……のどこかにある核。

 その核を破壊しない限り女は死にません、首を落とそうと……お母さんはそれに気付いたので私に首を斬る様に命令なされたのです」

「え……?まさか」

「はい、生きてますよ?あの女……ゾンビの身体を使ってまた再生するでしょう。兵士達は完全に死んだと思ってるでしょうから他国にでもいけばまず狙われる事もないかと。そして呪いがまだまわってなかった首を斬った事で呪いによる死からも逃れた……これでまたベレッタさんと暮らせます。よかったですね?マオさんが一番望む良い結果で終わって」

「……!!お、おお、お姉ちゃああああぁぁぁぁん!!!」


 うおっ!?なんだいきなり!

 髪抜きに夢中になってたらマオが急に態度を変えて突っ込んできた


「ごめんなさいごめんなさいっ!!お姉ちゃんを疑ってごめんなさい!叩いてごめんなさい!!」

「ええい、うるせぇっ!」

「うぅぅぅ……許してください……お願いしますぅ」

「何なの急に……?ああ、ユキに聞いて今頃気付いたのね……確かクソ女を助ける事について今回は許すって言ったと思うけど?まあその後叩かれたんだから分かってないって気付いてたけど」

「……そう言えば馬鹿な事言うなみたいな後に……ってあれは分かりませんよぉ……うぅ、分かりやすくあの人は生きてるって言ってくれれば決死の覚悟で叩かなくて済んだのに」

「兵士達が聞いてるのに言うわけないじゃない。他にもベレッタが急に大人しくなったからもしかしたら生きてるかもー……って思うぐらいの判断力をつけなさい」

「ぜ、善処します」

「無理って事ね」


 まあこれでマオの件は終わりって事で……


 何か手にわさっとした毛の塊が……マオが脅かすから勢いで一気に抜いてしまったらしい

 クソ女の頭を見ると見事なハゲが……!しかも先ほどから抜いていたため全体的に薄毛に


「これはひどい。せっかくだから全部抜こう」

「それはひどい。仮にも女性なんですから……」

「どうせ再生したらまた生えるわよ」

「生首の髪を一心不乱に抜くお母さん……これは絵に残せませんね」

「お、そう言えば最近ユキ画伯の絵を見てなかったわね」

「では破られそうなのを隠し終えたらお見せします」

「何という自白」


 亜空間に隠されたら見つけようがない、その内無理矢理見せてもらおう。場合によってはもちろん破る


「ところでどちらに向かえば宜しいのですか?」

「メルフィ、他のゾンビはどこ行ったの?」

「この国の関所、の隣にある山」

「じゃ、その山の入り口付近で」

「了解です」


 ゾンビの大群を関所に仕向けたのかと一瞬驚いたがメルフィは常識ある娘でよかった

 でもこの速度じゃかなり時間かかりそうなんだけど?辺りを見れば山なんか近くにもある




「私は思いました。もうあの山でよくね?……と」

「つまり関所付近まで行くのが面倒と」

「いいんじゃないですか?どのみち山越えすれば国から出れますし……無事に出れるかはともかく」

「大丈夫でしょ、このクソ女の実力なら……身体がないけど。メルフィ、適当にゾンビを2、3体戻ってこさせて」

「ん、わかった」


 とりあえずゾンビが戻ってくるまで待とう。そこまで遠くには行ってないだろうからちょっと待てば来るはず


「つまり短時間で髪を抜けきらないといけない……!」

「抜かなくてよいかと」


 ですよね。中途半端なハゲこそリアルに恥ずかしい頭だろう、このクソ女の恥ずかしい姿は是非ともユキ画伯に描いてもらって永久保存しよう



☆☆☆☆☆☆



 先を行っていたゾンビが数体戻ってきた。クソ女の再生に何体必要か分からないけど数体あれば大丈夫か


 それから近くの山の麓までゾンビをお供に進み、到着したので馬車から降りた。窓に吊るしてたクソ女の生首を降ろし……


「貴女の大事な女を返すわ。髪を抜いたのは私の報復の一つだから謝らないわよ」

「……」

「……ゾンビ相手に言っても分からないかもしれないけど、連れてきたゾンビの腹をかっ捌いて生首を突っ込んどけば多分再生するわ。クソ女が再生するまでは山の中で隠れてなさい」

「……」

「そしてクソ女が復活したら国の外に出てその後は好きに生きなさい……最後に、貴女を泣かせたのは悪かったわ」


 どうせ分かってないんだろうなぁ……と思いながらクソ女の生首を手渡す。そういや道中ベレッタは私達から生首を奪い取るなんて事はしなかったな……何故か


「……」

「……何か?」


 生首は返したのにベレッタの視線は私を見下ろしたままで固定されていた。何でだ?なんて思っていると


 ペコリ……


 と、ベレッタに頭を下げられた……

 まさか……ゾンビであるベレッタが御礼をしたとか?うそぉ


「ゾンビが頭を下げる……これまた珍しいというか」

「やりましたね、ゾンビに御礼されたのはお母さんが初でしょう」

「自慢出来るわ。さて、そろそろお行きなさい」


 そう言うと踵を返し、ゾンビ達を連れて山へと去って行った


 ……ゾンビと実験体の化物、人間社会には受け入れられまい


「ベレッタさん達、幸せになれますか?」

「大丈夫よ、あいつらは二人一緒なら幸せでしょ」

「ですよね!」

「私達も出発するわよ、何もないなら次の国に行く?」

「いえ、依頼の品を運ばなければならないので王都には行かなければなりません」


 おお、家具の事か。結構な収入になるんだっけ。普通の国とはいえ王都なら多少は楽しい事があるかも


「じゃあ王都に行きましょっか」

「超ウルトラスーパーミラクル手強い町には寄らないので?」

「行かないわよ」

「おや残念」

「では出発するので馬車にお乗り下さい」


 初の他国でいきなりトラブルがあったが、終わってみれば中々に面白い体験だったな


 馬車に乗る前に一度山の方を振り返った。ベレッタ達の姿はすでに無かった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ