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幼女と実験体

「ぃひゃひゃひゃひゃ!やったやったっ!!貴女達の大切な子を貰っちゃった!あはは……!」

「黙ってなさいカス女」

「た、大変じゃないですか?」

「お母さんなら洗脳くらいはね除けそうですが……」


 あーくらくらする……思考も何か混乱しているし、さっき喋った奴はユキで敵……違う違う

 ああ鬱陶しいっ!あれだ、皆やっちまえばいいんだっ!……ダメじゃん!うー、ウゼー……ウザいウザいウザい!!


「ねえねえ、とりあえず私に刺さってるモノを抜いて?」

「ウザ?仕方ないわね……無様な姿が似合ってるのに勿体無い」

「うーん?あの二人といい、何で洗脳のかかりが浅いのかな?まあいいや、宜しくね?」


 このクソ女の言う通りにしたら何故か気分が良くなった。コイツの言いなりとか気に食わないが、頑張らない代表として気分が楽になれるなら我慢してやろう


 言われた通り身体に刺さってる槍もどきを一つずつ引っこ抜く。かなり深々と刺さっているため、かなり力を入れないと抜けない。むしろ良く引っこ抜けるなと自分自身に感心する。……絶対筋肉痛になるわ


「……何でこいつの為に苦労してるんだろう」

「ほらほら、頑張って!私達は仲間でしょ?」

「そうだっけ?……そうだったかもねぇ。それでも面倒くさい事に変わりはないわ」


 せっせと槍もどきを抜いてる最中周りにいた敵に邪魔はされなかった。敵ながらのんびりした奴等だなぁ……敵にしては何か良く知ってる様な?知り合いだっけか?

 しばらくして全ての槍もどきを抜くことが出来た、ああ疲れた。しかしクソ女はダメージが酷いのか起き上がる気配はない。あんだけやられたからな、未だに余裕で生きてるだけ化物だ


「くひ、ありがとう。……じゃあ次は、貴女の力でその娘達をやっちゃってよ!くふふふ!!」

「……どんなやり方で?」

「それは貴女に任せるよ!」


 何だ、好きにしていいのか……じゃあお言葉に甘えて

 敵の方を……ん?ああ、そうそうユキ達だ、ユキ達の方に奇跡すてっきを向ける。何故か皆抵抗する素振り所か構える事すらしない


 何なの?馬鹿なの?死にたいの?如何に私が弱っちぃ奴でも、無抵抗な上に手負いな奴等ぐらい奇跡ぱわーで楽勝なんだけど?


「つまらない娘達ね」

「……」

「だんまり。まあいいわ」

「くふふ……!早くやっちゃいなよ!」


 うっさいな……分かってるっての


「やれやれ、自分の身が危ないってのに揃いも揃ってその態度、それでも私の……私の何だっけ?」


 むー?何か忘れてる様な……えーっと、さっきまでは確か、洗脳がどうとか考えてたはず。この私が洗脳?ないない……でもこの娘達って確か


「ほらっ!!余計な事考えないで早くっ!」

「うっさい!あなたは黙ってなさいよ」

「私は貴女の主!あ・る・じっ!!」


 主?この私が誰かに仕えてると申したか?ふざけるな、私を扱えるのはただ一人、私自身だけだ!


 てか誰に命令してんの?


 私に命令してんの?


 そういやさっきから命令してたなコイツ


 ふざけんなこの死に損ないがっ!


 クソ女の分際で私を扱き使った罪は重い、私の家族を傷つけた事を抜きにしても死罪は免れない……ああ、思い出した。家族、家族だ。あの娘達は私の!……思い出したらまたくらくらしだし、不快感が再発した。また私を好きに使おうと洗脳する気か?二度も効くか馬鹿めっ!

 ……いいこと思い付いた。ご期待通り私の力とやらを使ってやろう、この死に損ないにな




「私達が受けた怪我と呪い、全てこのクソ女に返してやれ、奇跡ぱわー」

「はへ?……へっ、ぐ……ぅぅ?!」

「私に、命令すんじゃない……ボケ」


 ああスッキリした!そしてこの視界暗転である。さっきの立ちくらみの様な不快なものではなく、いつもの意識が遠のく感じで私は気絶した



☆☆☆☆☆☆



 んぅ……よく寝た。というかよく気絶した。ふぁ……とあくびしながら起きると、私の顔を覗き込んでる不届き者達が見えた


 心なしか、いや明らかに何か心配そうな……それでいて警戒している様な表情をしている。何でだ?


 あ、私洗脳されてるんだっけ?



「洗脳されてる今なら言える。毎晩寝ているマオの尻を揉んで更に大きくしようとしていると……!」

「よかった、お母さんは正常です」

「流石はお姉様、見事な精神力です」

「人が寝ている時に何てことしてるんですか!」


 どうやら今の私は正常らしい……まあ先ほどまでの頭痛やら気分の悪さが無くなっているから分かってたけど


 てか今ので正常と判断されるとか普段どう思われてるのか小一時間ほど問い詰めたい


「やれやれ、ペンダントも洗脳には効かず、か」

「物理と魔法を防ぐだけでも大したものですよ」

「まあね」


 今は私の周りを皆が囲っている状況だ。その中にメルフィもいるのだが、呪いも傷口は治したが大怪我により残っていたダメージもクソ女に移ったため普通に立って私を見ている。


「元気になったみたいね?」

「貴女のおかげ。見事だった、言葉を封じる事や呪いを術者に返す事は貴女以外でも出来る人はいると思う。でも、私の負ったダメージと皆の呪いを簡単にあの女に移せるのは貴女ぐらい……やっぱり貴女の力は凄い」

「私というか、先代の力だけど。血は減ってんだから無理しない様に」

「わかった」


 大丈夫とは思うが、念のため皆の様子を確認しておこう

 ユキの右手は袖はダメになっているが、腕自体は元の綺麗な白い腕に戻っていた。サヨは自分で怪我を治していたので問題ない無し、マオは特に無し

 メルフィは今確認したし……その隣に居るさっきの女ゾンビは未だに兵士に胸を揉まれたままクソ女を見詰めていた


「何でゾンビがいるのよ、あんたら警戒しなさいよ」

「別に何もして来ないので」

「女ゾンビが大丈夫でも他のゾンビが危ないでしょ」

「他のゾンビも同様です」

「あ、俺は気にしないでどうぞ?」

「お前は黙ってろ」


 何もしてこないゾンビはいいとして、肝心のクソ女はどうなったかな?死んではいないだろうが、戦闘をしてないので動けないとは思う

 女ゾンビの目線の先に目を向けると、ボロボロの服の隙間から黒かったり紫だったりする肌がチラッと見えてるクソ女が……全員分のダメージを受けた為か辛そうに喋る事もない


「ざまー。良い格好ね、気分がいいわ」

「……はひゅ、どうなって……何で、治らない……」

「そういやあなたがかけた呪いだから解かれる可能性もあったか」


 全く考えてなかったわ。まあ何で呪いが解けないかって、どうせ奇跡すてっきが絶対解けない様に仕向けたんだろ。奇跡すてっきの逆鱗に触れるとこうも苦しみます、おーこわいこわい


「動けないなら好都合、このまま気の済むまで殴ったあと殺してあげる」


 呪われた奴を奇跡すてっきで殴ったら何となく嫌なのでサヨに符で棒状の武器を作ってもらう


「喉だ喉!喋れない様に潰してやるわっ」

「すでに潰しました……が、もう多少は喋れるまで回復しましたか」

「とんでもない再生力ですね……ほんと謎の生物です」


 だったらまた潰せばいい。にしてもこんだけ再生力あるなら永遠にストレス発散用生物として使えそうだな。まあ危険すぎて無理だけど


「おらぁっ!!」

「い゛っ!?でえぇぇぇ!!?」

「こら、邪魔すんなアホ!」

「いや、俺じゃなくて……!」


 棒を振り下ろすと同時に胸揉み兵士がいきなりクソ女を庇った、と思ったが女ゾンビがクソ女を守る為か覆い被さったみたいだ。

 兵士は巻き添えになっただけだが、胸なんか揉んでる方が悪い


「見てるだけだったくせに、急に動いたわね」

「あの女がそう指示したのでしょう」

「でしょうね」

「結界を張り直したので他のゾンビはご心配なく」


 言われて見れば、他の攻撃的そうなゾンビはすぐ近くにはいるが、結界にぶつかって進めなくなっている


「もっと広範囲に張りなさいよ……めっちゃ目の前にいるじゃない」

「……転移と先ほどの戦いで魔力の方が」

「サヨって案外使えない娘よね」

「使えない……駄目な奴……私は使えない娘」

「ごめん、何か悪かった。冗談よ冗談、サヨは十分役に立ってるわ」


 急にネガティブモードに入りかけて危なかった。意外と言葉攻めに弱いのかもしれない、今後注意しとこう


「このゾンビはどうします?」

「一緒に殴る」

「即答ですね」


 二人まとめて殴りたい所だが、兵士が邪魔すぎる。さっさと離してどく様にと尻をパシパシ叩くが全く離す気配なくモミモミしている……何かゾンビが気の毒になってきた


「ユキ、兵士どかして。そいつら殺せない」

「はい。では姉さんはそっちの腕を」

「無理矢理剥がせばいいんですね?わかりましたっ!」

「ぬぅおっ!?」


 二人とも直接は触らず、鞭と紐のような物を腕に引っ掛けて力ずくで引き剥がす


「ま、待ってくれ!?嫁は殺さないでくれ!!」

「この国では例え人外でも胸を揉んだら嫁になるんかい」

「いや、正確にはまだ嫁じゃないけど……俺、この戦いが終わったらその娘と結婚するんだ」

「やめとけ」

「ん……急に貴方に死相が出た」

「マジで……?」

「メルフィってば死相とか見れるんだ?」

「ちょっとだけ」


 そういうのはサヨの専売特許だと思ってたが、ウチの家族は私とマオを除いて色々出来るなぁ

 まあ兵士の嫁とかどうでもいい、邪魔者がどいた所で殴打タイムを始めよう


「秘技!超ウルトラスーパーミラクル斬りおらぁ!!」

「影響受けてますね」

「子供のチャンバラごっこみたいです」


 ポフッ


 振り下ろしただけである

 ゾンビの背中に当たったが、えらく軽い音がした。まあ幼女の力なんてそんなもんです。でも兵士が痛がるくらいの力があった筈だが……疲れてるのかも


「……無傷ね。まあ超ウルトラスーパーミラクル斬りは私の持つ技の中でも最弱……」

「お姉ちゃん、何か痛々しいです……」

「お前が言うな」

「ふむふむ、風魔法で衝撃を和らげたみたいです」

「そういう事……クソ女の仕業か」


 手駒の筈のゾンビを庇った……てことはこの女ゾンビには何か思い入れがあるのかもしれない。こいつだけ綺麗な状態だし


「このゾンビが大事みたいね?」

「……ぐ、ベレッタは、特別……」

「へぇぇ?」

「お母さん、もの凄く悪どい顔をしてますよ?」

「そりゃあなた、コイツを肉体的にも精神的にもいたぶれそうな素材が見つかったのよ?ニヤニヤしても仕方ないわ」

「……何だろう、味方になった事に凄く安堵する」

「良かったですねメルフィさんっ!お姉ちゃんは家族になら嫌がらせだけで済ませてくれますよ!」

「嫌がらせはいいんだ……」


 いたぶるにしてもどうしようか、打撃はまた無効にされるから刺すか、うん刺そう

 先ほどクソ女を刺しまくったナイフを取り出して逆手に持つ。猟奇的な幼女になろうとした時、また庇う様に兵士が割り込んできた


「邪魔」

「待つんだ幼女!このゾンビは悪いゾンビじゃないかもしれないっ!」

「なんで?」

「黙っておっぱい揉ませてくれた……!」

「よし、共に死ね」

「嘘嘘っ!?ほら、他のゾンビもあんまり襲って来なかったし、その娘が抑えてくれたんじゃないかと……そんな風に思う今日この頃です」


 うーん、確かにそう考えられなくもない。しかし今やゾンビである彼女が人間に危害を加えたくないと思う優しい心があるのやら……

 あったとしたらクソ女はともかく、ゾンビは殺す必要ないな


「特別って言ったわね?まさかこの女ゾンビには感情でもあるの?」

「……ない、はず……けど、敵を倒そうとはしないかな」

「……コイツはお前の何?」

「……友達、私が逃げ続けてた時、助けてくれたのがベレッタ」


 何か感動話が始まりそうだな。私としては逃げ続けてたって話の方が気になるが……この化物が逃げる、どんな相手だし


「ベレッタは、重い病気にかかってたみたいだけど……外の世界が何も分からない私をお世話してくれたの」

「どうします?普通に喋れるくらい回復した様ですが」

「まあ聞きましょ、まだ襲っては来ないわ……多分。私こういうお互いが凄く大事に想ってるって感じの話を聞いた後に片割れを無惨に殺して残された方がどんな反応するか見てみたいの」

「外道……」

「流石にわたしもドン引きです……」


 不評だ。物語によくある悲劇だと思うんだけどなー……


「で、病気で死んだコイツをゾンビにしたと?」

「そう、ベレッタは私が初めて作ったゾンビ。腐らない様にするのが大変だったの」

「出来るの?」

「亜空間の中の様に劣化が止まる感じの魔法をそのゾンビにかけたのでは?」

「へー」


 んな事出来るんだ……でもリディアとか幼女で止まってるし、あんな感じかな……ちょっと違うか


「周りにいるゾンビも友達とか言う気?」

「そう、ベレッタのお友達!私と一緒でベレッタも一人ぼっちだったからお友達を作ってあげたんだぁ」

「なるほどね、てっきりゾンビ軍団作ってどこかに喧嘩売るのかと思ったわ」

「作りすぎて制御出来なくなったけど」

「それで偶然見つけた私を……いい迷惑」


 メルフィは分かる。だが私は何でだ


「私を狙った理由は?」

「ベレッタを、生き返らせれるかもって……奇跡、起こせるんでしょ?」

「出来るかボケ」

「なぁんだ……」


 ……本気でやれば可能かもしれない。だが死人を蘇生する代償は自身の死だ、そう感じる。他人の為にやるつもりはない……でも、私の愛しい娘達が寿命以外で死んだらどうか


「お母さん?」

「ん、何か周りが喧しくなってきたわね」

「応援が来たのか、人数が増えた事で兵士達がゾンビを討伐しだしたみたいです」


 抵抗しないゾンビならこの国の兵士でも簡単に討伐出来るだろう。けど……


「メルフィ、ゾンビを操って国の外に出す事は出来る?」

「……この数なら何とか」

「ならお願い、そこの痴漢」

「え?……俺?」

「そう、女ゾンビを生かしてやる代わりに兵士達にゾンビは無害だから攻撃を止める様に言ってきて」

「俺の言う事聞いてくれるかね」

「出来なきゃソイツは死ぬ」

「任せてくれ!!」


 もう死んでるけど……恐らくあの兵士はモテないから必死なんだな、うん


「お話はもういいわ。早いとこゾンビを退かしてクソ女を殺すわよ」

「何というか、今の状況だと私達って悪役ですよね……気が進みませんねっと」

「とか言いながらも引き剥がすのね」

「はい。どうですか?お姉様の命なら外道行為だろうと実行するこの忠誠心!」

「はいはい立派立派」


 女ゾンビはサヨの馬鹿力であっさり引き離せた。またクソ女を守ろうとジタバタしてるが、そうはさせんとサヨが押さえ付ける。確かに悪役だ


「おいクソ女、一応聞くけどどこから逃げてきた」

「……フォース王国」


 あれ、てっきり非道と定評のあるサード帝国と思った。だって……ねぇ?目の中にあった数字、どう考えても人工的なモノ

 この化物は人体実験の産物だと思ったのに


「あなた実験体じゃないの?」

「ち、違う……!私は人間、あれ?実験体……違う違う違う違う違う違うっ!あああぁぁぁっ……!!」

「その反応は当たりね、27号?ナンバー27?」

「言うなあああぁぁぁぁぁっ!!!」




 いきなり景色が結構な早さで変わっていった

 けふ、まだ視界がぐわんぐわんする。いま視界に映ってるのは青い空、どうもまた吹っ飛ばされた様だ……


 実験体か……あんなのが27体はいるのか。それとも27体目にして初めて成功したのか


「大丈夫ですか?かなり派手に飛ばされましたが」

「ええ、ヘルメットが無ければ危なかったわ」

「それは猫耳ニット帽です」

「丈夫だしヘルメットみたいなものよ。ねぇ、フォース王国って人体実験やる様な国?」

「……そういう話は聞きません。が、裏ではやっているかもしれませんね……まあフォースは力と言う意味もありますから、ああいう強力な存在を作ってても不思議ではないかと。隣がサード帝国という事もありますし」

「二国については習ったわ。今まで起きた戦争はほとんどがその二国の争いみたいね」

「その通りです」


 人間を兵器にするか……ま、今は戦争馬鹿達よりクソ女だな。愉快そうに笑っていた顔は消え、ギラギラした目でこちらを睨む

 追撃が無かったのは呪いで動けないからだ。立つ事も出来ない様で、腕の力で何とか上半身を起こしている状態だ


「次で終わらせる。さっさと終わらせる予定がこの様よ」

「それだけ手強い相手という事です」

「そうね、人外ズが大した事ないって思い知らせてくれた相手ね」

「それは聞き捨てなりません」

「分かってるわ、ユキは片手だったしね。今のとこ大した事ないのはサヨだけよ」


 今の言葉に大きく目を見開いてこちらを凝視してくる娘が一人いた、鼻で笑ってやったら哀しそうな表情になった


「ユキが全力でいける様にマオが私を抱えなさい。メルフィは無理しない程度に援護」

「「はい」」

「動けない敵を相手に四人がかりというのは情けないですが」

「勝てばいいのよ、おら行くわよっ!」


 私もいますっ!という必死な叫びが聞こえてきたが構ってられん

 私達が行動を開始するとクソ女も再び攻撃を始めるが、勢いは衰えている。飛んでくる魔法も結界で弾けるみたいだ


「ああああっ!刺せ!刺せ刺せ刺せ刺せええぇぇぇっ!!」

「こ、れは避けないといけませんねっ!」

「とか思ったらまだ力残ってるじゃない……マオ、結界ない私達は停止しましょう」

「はいっ」

「任せて、要は喋れない様にすればいい」


 とメルフィが言うと、クソ女の足元の土が固まりそのままクソ女の口の中へと突っ込んだ。同時に攻撃が止んだ


「ナイスねメルフィ」

「ん」


 ユキがこの機会を逃すわけがなく一気に迫りクソ女の首めがけて鞭を振るう、だがクソ女は咄嗟に顔を動かし土で塞がれた口でユキの鞭を受けた。口の端から血が出ているが、斬る事は出来なかった


「何て奴……」

「よく見ると歯で受け止めてる」

「土ごと噛んだのか……」


 奴は鞭を掴んでグイグイと自分の方へ引き寄せる……呪われてる分際のくせにユキの方が少しずつだが引き寄せられてるじゃないか


「敵ながら天晴れというか……マオ、ウォーターだかアクアだかって言う魔法を放ちなさい」

「えー……なんかやりすぎな」

「やれ」

「わ、わかりました!水槍っ……ってあれえええぇぇぇ!?」


 何で毎回名前が変わるんだよ

 マオが魔法を放つと同時にうんしょと右手を押して向きを変えた。狙いは……女ゾンビ


「間違えてベレッタ殺しちゃうー」

「!?」

「はいどう……もっ!!」


 クソ女があっさり女ゾンビに意識を向けた時


 ゴグッッッ!


 とかなり鈍い音がした。ユキが鞭ではなく拳で思いっきりクソ女の頭を叩き付けたのだ

 地面に頭がぶつかり反動で若干クソ女の身体が宙に浮いた。普通なら死ぬが


「今なら殺れるっ!」


 言われるまでもなくユキが追撃をかけ、ついにあのクソ女との戦いも終わる……とか思ったのに再び女ゾンビが身を呈して庇いに入り、ユキは鞭の軌道を何とかずらして外す


「何やってんのよサヨっ!ちゃんと押さえてなさいよこのペタン子!!」

「……急に水魔法が飛んできたので」

「そりゃ仕方ないわ」


 うーむ、こう何度も邪魔されるのは腹立つ。いっそまとめて始末したいが……あれ、してもよくね?恨みが無い奴は殺す必要ないけど、すでに死んでる奴ならいいような


「メルフィはあのゾンビは操れないのよね」

「ん……あれだけは無理」

「お姉ちゃんに提案があります」

「いい殺し方なら聞くわよ」

「ふ、二人を許してみてはどうかなぁ?……とか」

「馬鹿じゃねーの?」

「うぅ、そんな心底馬鹿にした風に言わなくても……ほら、案外悪い方達じゃ無さそうですし」

「貴女が甘い分には構わないわ、優しさが貴女の長所の一つだし。でも私に慈悲の心を求めるのは無駄だからやめなさい」

「う……め、メルフィさんも許してあげようとか思いません?」

「別に」


 マオに味方はいなかった。殺す気で戦いをしてる相手をいきなり許そうなんて思うのはウチの家族ではマオぐらいだ

 そうこう言ってたら町の兵士達が変態兵士に無事説得されたのかこちらに来た




「あー……なんだ、何か手伝う事はあるかね?ゾンビは確かに無害そうだから言われた通り攻撃を中止した。町の外に出るまでは用心のため何人か付けてはいるが」

「今のとこ無いわ。終わった後の処理は丸投げするけど」

「約束通りあの娘は殺さないでくれよ?」

「あー……はいはい」

「お姉様、お姉様。珍しいものがありますよ」


 何だ何だとサヨの方をめんどくさそうに見る。サヨは例のゾンビを羽交い締めにしてクソ女から引き離した格好で私を見ていた。そして見世物のようにゾンビを私に見せる……具体的にはゾンビの顔


「世にも珍しい泣くゾンビです」

「……何を馬鹿な、死人に感情は無い。さっきの水魔法のせいでしょ」

「いえ、あれは私がバッチリ防ぎました」


 じゃあゾンビが本当に泣いたっての?何それ面白い

 いや、確か最初の男のアンデッドの時にゾンビは一応知恵があるとか言ってたな……多少なりとも記憶する事が可能だとか、この女ゾンビはクソ女の事を覚えているのか


「記憶に残るほど仲良しだったようね」

「あのゾンビさんが可哀想です。やっぱり殺すのはやめてあげませんか?あの人が居なくなったらゾンビさん独りぼっちになりますよ……」

「大丈夫、一緒に埋めてあげる」

「うー」

「君、安心していいよ。何故なら俺がいるからさっ!」

「ほらっ!こんな人に養われるなんて可哀想すぎます!!」


 マオの暴言によって変態兵士は崩れ落ちた。仲間の兵士も同感のようでウンウン頷いてる

 しかしまーた独りぼっちキャラですかそうですか、一緒に埋めてやるって言ってるのに


「お姉ちゃん……」

「……そんなにアイツらを助けたいの?」

「はい。あの人逃げたって言ってましたし、きっと前の暮らしって……」


 なるほどね、自分の過去の境遇と照らし合わせているのかこの娘は……クソ女も女ゾンビが生きていた頃はきっと楽しく暮らしていただろう。だが女ゾンビ、ベレッタは病に倒れた


「また独りになるのが嫌であの娘をゾンビにしたって所か」

「きっとそうですっ!」


 だからってゾンビにするのは死者に対して決してやっていいことではないがな


 現在みんな待機して私の判断を待っている。何故か兵士達もだ。洗脳された恨みはすでに返した様な気がしないでもない、マオもメルフィも根に持っている様子もない


「……」

「どうなさいますか?お母さん」

「お姉ちゃん……!」

「俺は嫁が泣かずに済むなら殺さなくてもいいと思うぜ」

「こいつは無視してくれ」


 チラリとベレッタの方を見る、変わらず泣いていた。ここまでやっておいて可哀想だからって許すとか私らしくないなぁ……言ってるのはマオだけど


「そうね……」

「お、お姉ちゃん!と、という事は……」

「みんなはアイツへの恨みは晴れたわけ?」


 家族を一人ずつ見渡すと皆頷いた。なんだ、無いのか……結構な仕打ちを受けたのにお優しいことで。結局最後は私の判断になるのか……もう決まっているけどね


「マオ、何でもかんでも思い通りにはいかないものよ。あなた夢見すぎじゃない?」

「え……?」




「ユキ、首」




 ユキの方を見てそう言い放った。ついでに左手で首を水平に斬る、と言うジェスチャーをする

 そしてユキは流石と言うか迷いなくクソ女の首に向けて鞭を思いっきり振るった。また頑丈さに防がれるかと思ったが、それを見越したのか渾身の一撃を放ったらしくクソ女の首と胴体はあっさり離れた


 ベレッタはゾンビだから表情は変わらないが、どことなくショックを受けている感じがする

 そしてそれはマオも同じ……私が下した命令が予想外だったのか、信じられないものを見たって感じの顔で私を見ていた。抱っこされてる分距離が近いから何か気まずいな……

 周りの兵士達も同様、サヨとメルフィが気にした様子が無いのが救いだ


 あーあ、静かになっちゃった……今ので約一名の好感度が下がった気がするが、私は私のやりたい様にやった。これでいいのだ

 私はマオの手を振りほどき、ユキの元へ歩いて向かった

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