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幼女と白い女

「相手の実力は不明ね、まあ彼方さんも私達の実力は分からないでしょうが」

「魔法使い、死霊使い、言霊使い……どれですかね?」

「全て使える可能性もあるわ」


 魔法合戦になると向こうに利がある。しかしユキは近接の方が得意だ。総合的に見ればまだ対等に戦えるだろう


「様子見なんかしてられない相手よ、とにかく間合いを詰めて魔法を撃てない様にしましょう」

「わかりました。要するに喋る隙を与えなければいいのですね!」


 ユキが猛ダッシュで近寄り先手を打つ。奴が構えているのは紫の宝石が先端についてる銀製と思われる杖

 ユキは杖を手放させようと鞭を杖目掛けて振るったが、カンッというやけに軽い音と共に弾かれた


「銀製と思ったけど違うみたい」

「軽くて丈夫そうですね。シルバードラゴンの鱗でも使ってるんでしょう」

「ふーん」


 杖も丈夫だが、ユキの鞭を防ぐとはね……身体能力も高いのかも。だとしたら益々厄介な相手じゃないか


「馬鹿力だな、手が痺れるかと思ったぞ」

「平然としといてよく言うわ」


 追撃を仕掛け、あちらを防戦一方の状態にする。形としては防戦一方だが、奴は片手だけでユキの攻撃を防いでいる……なんて野郎だ


「そろそろ此方からもいかせてもらうぞ」


 その言葉にユキが更に速度を上げて鞭を振るうがことごとくあしらわれる

 奴の左手、杖を持ってない方の手が輝きだした。魔法を使う気だな……悪魔が言っていた呟くだけで発動する力はまだ使わないようだ


「一撃でやられるなんて情けない姿は見せるなよ!」

「奇跡すてっきをくらえ」

「ぬ!?……ぅっ!」


 魔法を使わせまいと奇跡すてっきを投げつけたら見事に反応し、その隙にユキが奴の腹を鞭で攻撃した


「ちっ……!武器を投げるとは非常識な奴め」

「投げる為の武器もある」

「杖は投擲武器ではないわ!」


 普通はな

 奇跡すてっきなんて普段は飾りだ。どうせ戻ってくるし、投げてこそ価値がある


「どう?ユキ、勝てそう?」

「割と厳しいですね……姉さんに続き、こんな早く強敵に出くわすとは思いませんでした」

「そうね」


 お互い再び身構え、戦いを再開した

 今度は奴も接近戦を仕掛けてきた。わずかに隙が出来れば攻撃を仕掛け、こちらに隙が出来れば仕掛けられる

 私を抱っこしてる事により、ユキは本来の力は出せてないだろう


 私も自分なりにチャンスを伺い、今だと思った瞬間に


「奇跡すてっき発射」

「何度も喰らうか馬鹿!」


 投げた奇跡すてっきは遠くまで弾かれた

 なので手元に呼んですかさず投げ付ける。今度は無言だ


 今しがた弾き飛ばした奇跡すてっきを再び投げられて少々動揺したのか、僅かに隙が出来た様でさっきと同じ場所をユキに殴られる


「……ぎぃっ」

「ふははははは!こちらが優勢の様ね」

「真面目に戦えクソったれ!」


 フードを被っているので表情は見えないが、きっと怒りの形相を浮かべているな


「ふんっ……ならばこちらも卑怯な手でも使わせてもらおうか!」


 この私相手にどんな卑怯な手を使うかと思ったら……

 先ほど眠らせたマオとメルが急に起き上がり、私達の前に立ちはだかった


 ……こりゃマズい


「一気に形勢逆転されたわよ」

「困りました、二人に怪我を負わす訳には……」

「そうね。メルの精霊魔法を封じて良かったわ」


 とはいえ他にも攻撃手段はあるわけで……この二人の相手をしてる間に奴も何かしら仕掛けてくるに違いない


「姉さんが戻るまで時間を稼ぎますか?」

「それまで持つ?」

「……どうでしょうね」


 私の家族を手駒にするとは許しがたい、術者を倒せば洗脳が解けるというのが定番のはず


「二人は無視、あの腐れ野郎だけ狙いましょう」

「無視するのが難しいんですけどねっ!!」


 言葉とは裏腹に二人の間をすり抜けて一直線に奴の元へ走り抜ける


 しかしそう簡単にはいかないもので、マオがユキに向けて突っ込んで来た

 普段からは想像出来ない速度、そして遠慮の無さ。本来のマオはやはり強いか


 ユキは片手しか空いていないため、マオの攻撃は防がずに避ける。私の顔スレスレをマオの蹴りが通り過ぎた時はヒヤッとした……


「この私に向かって蹴りを放つとはっ!」

「洗脳されてますから仕方ないですよ」

「関係ないっ!」


 マオが何の感情もなく私を見てるだけでも腹立たしいってのに、この上危害を加えようとするなんて……!


「マオっ!私に攻撃とは許さんぞ!!これ以上やるってんなら尻に奇跡すてっきをぶち込んでやるわぁッッ!!」

「……!?」

「と、隙ありです!すいませんが少々寝ていて下さいませ」


 私が怒鳴るとマオは動揺した。もしかしたら完全に操られてるわけではないのかも

 動揺している内にユキは再び魔法で眠らせ、今度は拘束する魔法で動けない様にした




「ユキ!!」

「くっ……!」

「あちちちっ!?」


 マオに構っている所を狙ったのか、火属性である魔法が迫ってきた。結界は間に合わず、ユキは鞭を振るう風圧で消し飛ばそうとするが完全には無効化出来ず、火の粉が降りかかってきた


「この卑怯者め!」

「卑怯な手を使うと宣言しただろうが」


 確かに


「手加減してやったんだから感謝しろ」

「手加減なんかしてる余裕はすぐ無くなるわよ」

「なら余裕を無くしてみろ、貴様の力を使ってな!」

「……私の力ねぇ」

「その娘に喋ってもらった。貴様は神のごとき奇跡を起こす力を持ってるらしいな……それが本当なら是非とも私の手駒に加えたい所だ」

「それで戻ってきたんだ……私を狙って」


 予想通りと言えば予想通りだ。洗脳して情報を吐かせる、有りがちな手段だな


「本来なら同じくアンデッドを操れるその娘だけ連れ去る予定だったがな……オマケとして連れてきた奴からこんな有益な情報を得られるとは」

「メルがアンデッドを操れるってよく分かったわね?」

「馬鹿め、アンデッドはただ死した者が動くだけの存在ではない。脳さえあれば多少なりとも記憶する事は可能だ、生前によるが知恵もある。つまり今回は操られた張本人達に教えてもらったという訳だな」

「そりゃ知らなかったわ」

「ゾンビが魔法を放てる理由はそういう事ですか」


 何にせよ私達を狙う理由はベラベラ喋ってもらったので把握した。しつこく狙われても面倒だからここで始末しないと……いやどのみち殺す気だったが


 しかし奴は今のところ中継都市を滅ぼす程の力は見せていない……まだ本気には程遠い感じか?というか本当に化物みたいな強さなのか?


「奴は私の力を見たいが為に手加減してるとは思うけど……どう思う?」

「手加減はしていると思いますが、本気出されても何とかなりそうです」

「そうならいいけど……」


 敵は女と予想していたが……喋り方もだが、何か男くさい。悪魔が尻で判断したから廃虚の犯人が女というのも怪しいが、もしかしたら犯人とは別人かもしれない

 つまり奴はただの共犯者の可能性もある。実力はあるがサヨ程の強さは感じないし


「奴が相手なら本気出されても何とかなるでしょう……メルとマオが邪魔しなきゃね」

「なるほど、二人を無効化すれば大丈夫と」

「ただし、奴以外に本命が居る可能性があるわ……」

「そちらがヤバいという事ですね」


 その通り。コイツを奇跡ぱわーで倒してもその後がヤバい……出し惜しみしていた訳じゃ無いが、まだ使わなくて良かった


「とりあえず奇跡ぱわーはまだ使えないわ」

「他に敵がいたら危険ですからね、まあ使う事なく終わらせる様に頑張ります」


 それが一番なんだけど……親玉が来たら厳しいだろうなぁ。こんな事ならユキを世界最強の存在!……とか言って生み出せばよかった。今更だけど


「じゃあ敵が増える前にやるわよ、流石に本命と奴が一緒に向かってきたらキツイわ」

「わかりました!」


 もう一人の邪魔者であるメルが立ちはだかる……かと思ったらぺけぴーが足止めをしてくれていた。

 流石ぺけぴー、そこらの馬車馬とは種族的に違う


「精霊魔法無しならぺけぴーだけで何とかなりそうね」

「有難い事です」


 初めと同じ二対一になった今が好機、奴が本気を出さないにこした事はない。今の内にさっさとぶち殺そう


「私の事は気にせずに確実に殺しなさい。手加減する阿呆に本気を出させる前にケリをつけるわよ」

「了解です」


 私は振り落とされない様に強くユキにしがみつく。目も閉じておかないと絶対気分悪くなるな


 言われた通りユキは今度は殺す気で敵に特攻する。というか最初の一撃で殺すべきだったと思う……まあこれも今更だけど

 とか考えてる間に二人は戦ってるわけだが、流石に本気一歩手前といったユキの方が優勢の様で奴は完全に防ぐ事は出来ず、受け損ねた攻撃はかろうじて回避している


 というか酔った。何で目を開けてんだ私は


「ぬ……!急に動きが変わったな、本気になったという事か!」

「私が居るのに本気になれるか馬鹿め」

「いえ、お母さんが居ると逆に燃えてきますよっ!!」


 言い終わると同時に強めの一撃を放つ。奴はユキの一撃をこれまでと同じく杖で防いだが、ユキは更に馬鹿力を発揮した様でそのまま吹っ飛んだ

 そして追い討ちをかけ、殴って殴って殴って最後は鞭を振りおろして叩きつける


「ふははは!!流石は私の娘、そのまま殺しちまえ!」

「分かってますよっ」

「がふ……!?ぬぅぅ、予想外の強さ……」

「しぶといっ!!はよ死ね!」


 何だコイツは、どんだけ鍛えようがユキの馬鹿力による攻撃を受けて痛がるだけで済むとは思えないのだが……

 かれこれ数発はモロに食らってるくせに普通に起き上がる……人間じゃないだろコイツ


「ユキ、打撃じゃ駄目みたいよ。首をはねましょう」

「そうですね」

「……言っておくが、私を殺した所で二人の洗脳は解けんぞ?」


 別に構わん。後からでもどうにでもなるし……その程度で私達が怯むとでも思ったか

 奇跡ぱわーでも何とか出来るが、洗脳を解けそうな手段を一つ思い付いてる


「その杖、ちょー怪しいわね。さっき杖を使わず左手で魔法を使ってたし……」

「言われてみれば怪しいですね」


 奴は平然を装っているが、私には分かるぞ。間違いなく動揺したな……予想は当たりとみていい、杖さえ壊せば解決


「首、はねちゃえ」

「はい!」

「ふぅおっ!?」


 ギリギリで反応したがちゃんと杖で防ぎやがった。キイイィィンと不愉快な音がした。近くで聞いたから耳鳴りがするわ


「喉仏が見えた。やっぱり男ね」

「でしたら二人を連れ去られてたら危なかったですね」

「性的な意味でね」

「私をそこらのゲスと一緒にしないでもらいたいっ!!」


 奴も反撃に転じてきたが、ユキは楽々弾く。魔法を使ってきたのは二回ほどか?もしかしたら近接の方が得意なのかも


「隙が出来たら決めなさい、もうコイツには時間をかけてらんない」

「はい。案外しぶといのは予想外でした」

「そうね、化物の共犯者なだけはあるわ」


 とはいえなかなか隙が出来ない。最初に奇跡すてっきを投げたのは失敗だったか

 ユキが両手を使えてたらすでに決着はついていただろうなぁ……


「町中で割と派手な戦いしてるんだから誰か気付けばいいのに」

「人払いの結界を張っている、んでしょうねっ!」

「壊せないの?」

「壊せますが、住民が危険になります」


 別に構わん、と言いたいけど駄目か。奴の気を引いてくれればいいが、一般人なら気を引くだけでは済まないだろう

 殺されたりして後でこの国の騎士団から事情聴取、とかなったら面倒くさい


 やはり自分達で奴の隙を作るしかないか、さてどうするか……


「そういや転移符が確か」


 二人に聞こえないくらい小さく呟く、リュックの中に転移符と爆薬があったはず。これで何かしら思い付けば……しかしどう取り出すか

 手を離したら確実に振り落とされるし、うーむ……ポケットに何か無いのか?




「ハンカチがありました」


 役に立たぬ……!


 ……思い付いた。子供みたいな手だが、どうせ見た目子供だし。ハンカチを鼻にあてて、地面を見ているフリをする

 格好としては所謂臭いにおいを我慢してますってポーズだ。表情もそれなりに作って……




「あなたウンコ踏んでるわよ?えんがちょ」

「なにっ!?」

「ユキッ!!」

「はいっ!」


………


……


 ゴト……


 と、少しの静寂の後に奴の首が胴体から離れて地面に落ちた


 まさかの作戦成功である……勝因は排泄物ですとか敵ながら哀れだ


「お前の敗因……それはウン」

「言わなくていいです」

「はいはい。じゃあサクッと杖を壊しましょうか」


 メルは未だぺけぴーが善戦中、マオはいつの間に起きたのか、拘束を外そうとモゾモゾ尻を振っている


「結局戦いの最中に本命はやって来なかった訳だけど」

「この男の独断専行だったのかもしれませんね」


 地面に転がってる首を見れば普通の人間の男……とてもユキの攻撃を何度も防ぐ様な強い奴には見えない


 いや、何か変だな……確かにさっき死んだんだけど、大分前に死んだんじゃないかって言うくらい肌の状態がよろしくない


 ……コイツもアンデッド?


 あんだけペラペラ喋るゾンビなんているか?いないよなぁ


「新種のアンデッドかな」

「確かについさっき死んだ感じはしませんが、不思議ですね」


 まあいい、今は二人を元に戻す事が先だ。ぺけぴーにも悪いし


「では杖を破壊しましょう」

「お願い」


 ユキが杖を取ろうと死体に近付く。一応辺りを警戒しとかないと……


 ふと、死体に目がいく

 別に手がピクッと動くといったよくありそうな展開はない


 だがまさにユキが杖を拾おうとした瞬間、死体の腹部がポコっと動き、猛烈に嫌な予感が――




「ユキ!私を前に出せっ!」

「っ!?」


 ブチャ、と腹部から白い手が現れると同時に黒い炎の様な魔法が放たれた

 何かヤバそうな魔法だが、リディアのペンダントなら何とかしてくれる……!


……



 急な事で焦ったが、何とか二人とも生きている……のだが


「ユキ」

「特製のメイド服をこうも無惨にするとは、中々厄介な魔法です」

「ユキ」

「……申し訳ありません。例えリディア様の御守りがあったとしても、お母さんを盾にするなど私には出来ませんでした」

「いえ、私が悪かったわ……貴女に酷な命を下した私に責任がある。降ろしなさい、その右手じゃ何も出来ないでしょう?」


 ユキの右腕はあの黒い炎によって黒ずみになっている……結局この娘は自分を盾にしたのだ。特製のメイド服とやらが無ければ右腕は――


「ユニクスの血で治る?」

「いえ、これは……恐らく呪いです。ユニクスの血だけでは治らないでしょう。しかし姉さんが戻れば何とか……」

「そう」


 魔法を放ち、私の娘に怪我をさせた張本人は先ほどの死体から這い出てきた


 出てきたのは血まみれで全裸の白い肌の女……恐らくコイツが悪魔の言っていた女だ


「恥ずかしいからあっち向いてて?」

「怪我だけでも治しときなさい」

「はい」

「無視なんだ?」


 治療するユキの右腕を見ていると、何だか酷くムカムカしてくる

 気分が悪く、吐き気がし、無性に……無性に殺意がわく


 以前、母が大怪我をした時と同じ感覚……あのクソ女を殺さないと気が済まない


「……あら奇跡すてっき、また勝手に出てきたわね」


 私の感情を読み取ったか?それとも……


「そうよね、ユキはあなたにとっても大事な娘でしょうからね。何となく分かるわ……私と同様にムカついてるって」


 サヨを勝手に復活させる様な過保護なすてっきだ、ユキが怪我をして黙っているワケがない


「お待たせ」


 その殺すべき相手の準備も整ったようだ。先ほどの奴が着ていた様なローブ姿でフードはしていない

 サヨと違って本当の白髪、病的に白い顔、マオと同様に垂れがちな目で眠そうだ


 身長は先ほどの奴と変わらないメルぐらいの高さ……どうやってあの男の体内に入ってたんだか


「びっくりした?」

「えぇ、殺したくなるくらい」

「わ、怒ってる?」

「貴女のおふざけに付き合う気分じゃないの」


 コイツにもムカついているが自分にも腹が立つ

 私が余計な事を言わなければユキなら避けるなりして無傷で済んだかもしれない。指示なんかしないで実戦経験豊富な娘に任せばよかった


「お前の精神が壊れるまで遊んであげる」


 フィーリア一家で一番チビで弱っちぃ私だから難しいと思うが、コイツは私の手で始末する。そう決意して奇跡すてっきと共に謎の女と対峙した

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