幼女と誘拐魔
「この町は大して観光する様な場所は無いので王都に近い超ウルトラスーパーミラクル手強い町に向かいましょう」
「名前から期待は出来ないわ」
「行かなきゃわかりませんよ」
そりゃそうだが……そんな変な名前の町で生まれた人はどう思ってるのだろうか……自己紹介する度に『超ウルトラスーパーミラクル手強い町出身です!』とか言ってたら聞き手のほとんどが何言ってんだコイツ……ってなるのが目に見えてる
『僕は超ウルトラスーパーミラクル手強い町に生まれた事を誇りに思ってる!』
と言った名言もギャグになってしまうという悲劇
「その超手強い町はどれくらい遠いの?」
「略してはいけません。それでは別の町になってしまいます」
「超手強い町まであるんかい」
町の名前を言う度にあの長い名前を言わなきゃならんのか。なんと面倒くさい
「この国のほぼ中心に位置する町ですからね。ここからですと二週間もあれば着くかと」
「割と遠いのね。何もないのに広さだけはワンス王国並か」
「何もない訳ではありませんが……宿にあったパンフレットによればダンジョンも一応あるみたいですよ?」
「あるんだ。なら行ってみるかな」
「ただし百メートル進んだら探索終了です。ものの数分で制覇出来るでしょう」
「それはダンジョンとは言わない」
初の他国がこれである。しかしこの国のおかげで今後向かう国は面白く感じる事が出来そうだ
「じゃあ出発しましょうか」
「そうですね」
「でもまた入国許可証の提示とかしなきゃいけないんじゃない?」
「ふむ……偽造しますか」
「ちゃんと発行してきなさい」
また変な手段で乗り切られたら妙な噂が流れそうだし
「仕方ありませんねぇ……ではユキさん宜しくお願いします」
「嫌です。昨日失態をしでかした姉さんが行くべきです」
「そうね、サヨが行くべきよ」
「くっ!わかりました……発行に時間かかるかもしれませんよ?」
「構わない。出発は明日でもいいし」
せっかくのトゥース王国初の町だし、一日くらいぶらつくのも悪くない
「……私が居ないと困った事になったり」
「ユキが居るから平気よ」
「メルさんにお願いするとか?」
「メルは転移出来ないでしょうが」
このババア、やたら渋る。そんなに面倒な手続きが嫌なのか
「わかりましたよ……」
「行ってらっしゃい」
「……この判断によって後に大変な事になると、この時のお姉様は知る由もなかった」
「はよ行け」
未練がましい奴だな
何を言われようが私の決定は覆らんわ
シッシッと手を振ると眉間にシワを寄せた微妙な表情をしながら転移していった
「じゃあ町をぶらつきましょうか」
「そうですね。知らない町ですし、適当に見て回りましょう」
「マオも久々のお小遣いの出番がくるんじゃない?」
「……な、なに買えばいいんですか?」
「好きな物買いなさいな」
「貴女達はお小遣い制なの?」
「えぇ、給金が無い代わりにお小遣いね」
「なるほど……家族だから給金ではなくお小遣いを与える」
そう言う意図では無かったが、なかなか良い考え方だ。メルの解釈を採用しよう
「メルさんにはあげないのですか?」
「私は、家族じゃないから……」
「……メルの事は一先ず保留ね。早いトコ行きましょ」
ぞろぞろと宿を出る
しかし宿を出た瞬間に大注目を浴びてしまった。自分達が目立つパーティという事を忘れていた
住民達の目線からしてユキとメルに視線が集中している。特にメルだ、やはり同性から見ても別格なだけはある
「かなり見られてますね」
「ワンス王国の王都じゃ普通だったのにね」
「……何か私に対する視線が酷い」
「メルさんは可愛いですからね!」
「マオは人見知りだったでしょう?こんだけ見られて平気?」
「はいっ、メルさんのおかげであまり視線を感じません」
私も同様に視線をあまり感じないな……つまり私とマオは二人の引き立て役だったのだ!
「……?なぜ私の頬をつねるのです?」
「引き立て役で悪かったわね」
「はい?」
やめよう、虚しくなるから。逆に考えるんだ、二人のおかげでウザい視線を浴びずに済むと
視線は浴びるが、声を掛けてくる様な根性ある奴は居ない様なので私達は気にせず歩きだした
☆☆☆☆☆☆
しばらく散策すると露店が複数並んでる道に出た
食べ物の匂いがするから屋台もあるのだろう。きっと味は普通と思うが、記念に食べてみようか
「あの食べ物はなに?」
「あれは……何ですかね?初見ですし食べてみますか?」
「そうしましょう」
なかなか匂いは期待出来そうだ。なのだが国が国なだけに感動するほどの味は見込めない
屋台で焼いているのは黄色い粒々の……野菜なんだか分からない食べ物
「これは何て食べ物?」
「い、いらっしゃい……いえ、よくぞお越しいただけました?」
「普通でいいから、で?何て食べ物?」
「はっ、はい……これはトウモロコシって食べ物ですよ」
「とーもころし」
「トウモロコシ」
「トゥモロウ?」
「もはや全然違いますよ」
変な名前の食べ物……トゥース王国だからか?まあ問題は味だ味
「4つちょーだい」
「ありがとうございます、ちょっと待ってて下さい」
と言って網にトウ……トウモコ……野菜らしき物を焼き始めた。これってこの国の特産品だったりして
「これはトゥース王国の名物なの?」
「名物と言える程のものじゃないですけど、まあこの国の人は好んで食べますよ」
他国とはいえ好んで食べる物なら不味い事はあるまい。昨日の夕食でワンス王国と味付けに大差ないのは確認済みだ
焼いている最中にタレらしきものをハケで塗ると、何とも香ばしい匂いがする……これ美味いんじゃないか?
店主が焼き終えたのか長い串を食べ物に貫通させた。手で持って食べるタイプらしい
「お待たせいたしました」
「いくら?」
「4つで1200ポッケになります」
「一本300か……まあ普通の値段かな」
「普通の国なものでして」
全てにおいて普通にしなくてもいいだろうに……
この国のギルドなら普通の受付嬢であるノエルはすぐ馴染みそうだと何となく思った
買った物をその場で食べる事はなく、座れそうな場所でのんびり食べるとする。屋台があるからか、近くにベンチが設置してあるのでそこにした
「という事でいただきます」
ガブリ……と噛みたい所だが幼女故にカプッと小さく噛みつく
粒々がプチプチ潰れてなかなか食感は楽しい。この食べ物自体は美味しいと思うが、店主が塗ったタレのせいで味は普通って感じになっている……何と残念な食べ物だ
「タレが無ければよかった」
「ぐふっ……!」
「聞こえたみたいですよ?」
「事実だからいいのよ」
「わたしは美味しいと思いますけど」
「マオは何でも美味しいって言うでしょうが」
ムシャムシャしていると、この町の住民っぽい者が近付いてきた。若い男だが、どうも緊張している……告白でもする気か?
「こんにちわ……その、変な事聞くけど……今食べてる物は隣の屋台の?」
「そうですよ」
「……あ、ありがとう、ございました」
私はムシャムシャしてるから返事はユキがした。まさか美人と会話しちゃった!……って自慢するんじゃあるまいな
「店主!トウモロコシ1つ!」
「俺も1つ!」
「私もっ!」
「僕は5つだ!」
「ま、毎度?」
何か知らんが先ほどの屋台が繁盛しだした。さっきまで客は私達ぐらいだったのに一気に十人は並んでいる
「人間は意味不明」
「貴女も今は人間でしょうに」
「うん……人間の食べ物は好き」
「わたしもです」
人間自体は微妙なところ……って感じか。まあ最初に会った奴が最悪だったらしいからなぁ。人間か聞いてないけど多分人間だろ
「俺は今っ……美少女達と同じ物を食べているっ!」
「僕もだ……!これで思い残す事は無いっ」
「その程度で満足するんだ」
ある意味幸せな奴等だな
店主は急に忙しくなった事でかなり必死な顔をしているが
「なんか店主に迷惑かけちゃうし移動しましょうか」
「しかしこの分では行く先々で同じ様な事になりそうですね」
「まあ売上は上がるからいいんじゃない?」
食べ終えたトーモ何とかを捨て……捨てたら拾ってよからぬ事をする輩が居そうだから紙に包んでとりあえずユキの亜空間に突っ込む
そしてまた宛もなくブラブラ歩くことにした
……
…
「土壁って何か脆そうね」
「老朽化すればどんな物でも脆くなりますよ」
そういう事を聞いた訳ではないのだが……何かすぐ崩れそうで安心感がないんだよなぁ
「ホント何もないわね、大きな町じゃないって事もあるけど」
「ギルドが無いのは珍しいですね」
「平和すぎて潰れたのかもね」
「ギルドは潰れないと思いますが」
という事はギルドがある町は限られてるのか
見た感じ冒険者が見当たらないのもギルドが無い事が関係してるかもしれない。町の為に作ればいいのに……冒険者がお金を落としてくれるだろうから
「お母さん」
「どうかした?」
「メルさんが見当たりませんが……」
「子供じゃないんだし、一人でその辺を散策してるんでしょうよ」
メルに甘いユキは心配性だなぁ……長年生きた経験があるし大丈夫だろ
「ちなみにマオさんも見当たりません」
「一大事じゃない!そっちを先に言いなさいお馬鹿っ!」
「扱いに差がありすぎじゃないですか?」
「うっさい!早く捜すわよ!」
何をのんびりしてるのだこの娘は!
「何故マオさんはそこまで心配なのでしょう……実力的には大丈夫と思うのですが」
「そこじゃない。知らない町でマオが私から離れて行動するとは思えない」
「説得力ありますね……つまり何かに巻き込まれたか、はたまた……」
何かに巻き込まれたなら私達も気付きそうなものだが……知らない内に居なくなったって事はメルが連れ去った可能性も……ないか
「メルが連れ去ったと思ったけど、あり得ないわね……私の機嫌を損ねたら封印を解けなくなるって分かってる筈だから」
「二人で買い物に行ったという事は?」
「それなら私達に言っていくわよ」
残るは……もしや誘拐?果たしてあの二人を誘拐出来るだろうか……誘拐……?
「何故かしら、誘拐という言葉が妙にピンとくるわ」
「お得意の直感ですね、ならば悠長にしてられません。二人を捜索致しましょう」
「えぇ、もしかしたらエロい目にあってるかもしれないしね」
「……確かにあり得ます」
ユキが二人を捜す為に走り出す……が、この町にまだ居るかどうか……
そしてユキに気付かせずに連れ去ったなら実力はかなり高い
「ユキ、私の予想を言うわ。捜しながらでいいから聞きなさい」
「お願いします」
「仮に誘拐という予想が当たっていたなら、犯人は廃虚に現れた例の奴よ」
「……なるほど。悪魔から私達の情報を知ったのでしょうか」
「かもね、目的は同じくアンデッドを操れるメルかな」
「確か悪魔から聞いた話では女性でしたね」
「そうだっけ。ならエロい目は免れてそうね」
会話しながらも捜索の手は緩めない。とりあえず人気の無い場所を中心に捜すが……当然というか見つからない
しかし昨日の今日とは随分行動的だ。もしやサヨが居ない内を狙ったのか?
「あの場所は?」
「公園ですね、人気はありませんが」
「そりゃ雑草いっぱい生えてるし。何か最近手付かずって感じ」
「行ってみましょう」
着いた場所は確かに公園って感じだ。噴水は枯れ、ベンチも草で覆われてしまってるが
二人の姿はやはり無い。うーむ……仕方ない、サヨが戻るまで待って魔法で探知してもらうしかないか
「一度宿まで戻りましょう」
「……わかりました。姉さんを待つのですね?」
「そう、残念だけど私達だけじゃ見つけるのは難しいわ」
「奇跡ぱわーでも無理ですか?」
「それは可能、だけどもれなく気絶中に襲われるから捜索に使うのは難しいわ」
「確かに……相手の実力からして気絶したお母さんを守りながら戦うのは難しいですね」
攻撃ならリディアのペンダントが守ってくれるかもしれない。だが逆に私が連れ去られたら意味ない
一通り公園を捜索して宿へと引き返す事にした
★★★★★★★★★★
「ほらぺけぴー、マオの下着よ。匂いで捜してちょーだい」
『くるっくー……』
「無理がありますよ」
やはり馬じゃダメか……神獣だから嗅覚も優れてるなんて事は無かった
サヨは遅くなるかもとは言っていたが、いつ頃までかかるんだ?二人が居なくなってはや一時間、早めに救出したいが
「サヨの去り際のセリフが現実になったわね。事が済んだら殴りましょう」
「では私は蹴りましょう」
宿の前でそんな会話をしていると人の気配を感じた。サヨが戻ってきたか……
「おかえ、り……?」
「あらまぁ」
「ただいまです」
「ただいま……」
帰ってきたのは行方不明の二人だった。普通に元気そうだし。
まさか自力で戻って来るとは思わなかった
思わないな――
「ユキ」
「はい」
「二人を眠らせろ」
私の命令に返事をする事なく二人に近付き、それぞれ顔の前で手をかざすと二人はあっさり眠りに落ちた
恐らく魔法とは思うが、接近したのは何故だし……と思ったが崩れ落ちる二人を支える為か
そして二人を小脇に抱えて私の元へ戻ってきた
「言われた通り眠らせましたが」
「ご苦労様、近くに犯人が居るだろうから注意なさい」
「……」
宿の周りはいつの間にやら人気が無い。昼間だってのに明らかに怪しい
「めんどくさい。はよ出てこい」
捜すのもダルいから自分から出てくる様に発言する。反応は無い
と、私達の真正面の空間が揺らぎだした。敵も転移が出来るほど魔法の腕が良いみたいだな
そのまま待ち、現れたのはローブ姿の何者か……あの悪魔の言う通りフードを被っていて顔は分からない。
「初めましてクソ野郎」
「……よくあの二人に気付けた」
「メルはともかくマオはね、私を見る時の目はいつも優しいのよ……お分かり?」
「目を見て気付いた、か。確かに感情までは操れない……見事」
それだけではないが……メルは今、私によって精霊魔法を封じられている。他の力は知らないが、この二人だけで自力で何とかするのは困難だ
何にせよ
「私の家族に手を出したわね?お前には死ぬ以外の選択肢は許されない」
「あの場から逃げたお前に殺せるものか……」
「あの場とは廃虚のことね」
愚かな……私達が恐れをなして逃げたと思ったか。無事では済まないと感じはしたが、勝てないという訳ではない
余裕こいて私の前に現れたのが運の尽きだボケ。しかし、わざわざ二人を操って戻って来たという事は目的はメルではなく私かユキ……まあ私の力が目当てだろうな
「行くわよユキ」
「お母さんは待機で……」
「いいえ、抱っこしながら戦いなさい。指示はするから……右手だけで十分でしょ?」
「……何とか頑張ります」
かなり難色を示すが、私が引かないと分かって渋々左手で抱えた。ユキの私を危険な目にあわせたくないという考えは分かってるが我慢してもらう
「フィーリア親子の力を見せてあげましょうか」
「はい」
「私と戦う選択を選ぶとは愚かだな」
相手が身構える……余裕ぶって無防備で対峙する馬鹿ではないか
まあ構わない、勝てばいい。負けた方が愚かって事だ
抱っこちゃんで対峙している私達は見ようによってはふざけているが、至って真剣な面持ちで戦いに挑んだ




