幼女と初めての他国
「貴女を助けて欲しいのか、ある人ってのを助けて欲しいのかハッキリしなさいな」
「私」
「あんたかよ」
だったら初めからそう言えばいいのに、回りくどいのは嫌いなんだが
「でも断る。貴女の人生なんか背負いたくないし、面倒だからヤダ」
「同じ様なことを貴女の祖先に言われた……」
「……祖先?もしかしなくてもフィーリア?」
「そう」
「貴女いくつだって話よ」
同年代くらいの半端な奇跡人と思ったら実はサヨ並のババアとか……
「何かババアと言われた気がします」
「気のせいじゃないから気にしないで」
「わかり……え?」
「まさか貴女の家族の話も嘘っぱち?」
「あれは本当」
……どうなってるんだこの不思議ちゃんは。まるで話が理解出来ない
「ごふっ!?こら、今は私を殴ってる場合ではなかろう?八つ当たりはやめたまえ」
「黙りなさい。私はババアじゃない、どう考えても若い!」
「ふむ、なら君はいくつなのだ?」
「……ひゃくさい」
「私に嘘は通じんぞ?明らかにサバを読んだな。だがどっちにしろそりゃババアだぼっ……!?」
「しね」
「貴女という存在が全く分からない」
「詳しく説明する。その前に後ろは気にしなくていいの?」
「無視していいわ」
一人だけ何かはしゃいでるが他の家族は誰も気にしちゃいない
悪魔も助けてとか言ってる気がするが敵だし無視
「じゃあ説明する。簡潔に言うと私は記憶を持ったまま何度も生まれ変わる、所謂転生を繰り返している。もう二千年はそうやって生きてきた」
「そりゃまた途方もない数字で実感出来ない話ね」
「二千年ですか、もはや生きた歴史の教科書ですね」
「ほへー……」
よく今まで正気でいられたもんだ。私なら生まれ変わる度に発狂する。一度きりの人生だから楽しく生きたいと思うのに転生なんかしちゃ命の有り難みがないわ
「最初は悪魔として生まれた。そしてマスター……封印された例の方の使い魔として呼ばれたのが事の始まり。ちなみにヌポポゴンとは当時の私の名前」
「てことは昔の貴女は巨大生物だったの?」
「違う、大きさは二メートルぐらい。容姿は今で言うカバがピンク色して翼が生えてる感じ」
「可愛くなさそう」
「どう考えても可愛くなかった。おかげでマスターの扱いも悪かったし」
そりゃ今みたいな美少女になるなんて思わないし
マスターとやらが男の場合、今のメルを使い魔にしてたら小躍りしてただろう
「マスターが封印される時、私に対してある命令をした。必ず封印を破壊しろ……と。でも何をやっても解かれる事はなかった」
「貴女のマスターはどんな悪さをしたのよ」
「色々」
「色々ねぇ……てことは悪人だったってわけか」
「悪人?たぶん貴女が思ってる以上のクズ、封印されて当然。どうせなら殺せば良かったのに」
「使い魔のくせに忠誠心の欠片も無いわね」
「使い魔だったからって忠誠心があるわけじゃない。貴女は勝手に召喚した相手の使い魔にされて忠誠を誓える?」
「無理」
言い方を変えるとメルは誘拐された上に奴隷にされたと
おお、不運なヒロインっぽい
「ねーねー、フィーリア一族とソイツってどっちがクズなの?」
「それはマスター。貴女もフィーリアも何もしなければ無害。マスターは機嫌次第で近くに居る人間に害を為す」
「そりゃ私以上のクズだわ。そんな横暴な奴ならどうせ無駄に強くて誰も逆らえなかったってトコでしょ?」
「そう」
そういう奴は二千年も昔から変わらず存在してるんだな
「私からも質問いいですか?」
「うん」
「その方の名前って何ですか?悪名として有名になってそうで気になります」
名前か、確かに気になる。どうせ私は知らないだろうが、ユキかサヨならもしかしたら知ってるかも
「名前はサイトウユキオ」
「変な名前ね。ユキ、知ってる?」
「いえ……」
やっぱり二歳児のユキには分からないか。てことは残るはババアのサヨに聞くしかない
「ねぇババア、そんな悪魔に構ってないでこっち来なさい。質問があるの」
「なぜ私を見ながらババア発言をなさるのです?」
「どうせ聞いてたんでしょう?知ってる名前?」
「く……無視ですかそうですか。……で?サイトなんとかでしたか?知りませんよ」
「年の功でも無理ならメジャーな奴じゃないのね」
「何という扱いの悪さ……誕生日辺りから特に酷いです。そんなにメロンがダメでしたか?」
メロンに罪はない。だが調理したサヨには重い罪があるのは確か
でも今はそんなの関係ねー
「何で妙な力を除けば確実に貴女より実力がある者達が大人しく従っているのかが分からない」
「お母さんなので」
「お姉ちゃんだから」
「何だかんだ言ってお姉様ですからね」
「意味が分からない」
従うか、そういう関係じゃないのだがなかなか良い事を言う。この家族達がどこまで私の嫌がらせや暴言に耐えられるかは知っておきたい
「とりあえず白銀のペタン娘、どれだけババアと言ったらキレる?」
「キレません」
「本当にぃ?ババアよババア?もうお婆ちゃん何て可愛いもんじゃない、ただの蔑称よ?」
「ほ、本題に戻られては?」
耐えるなコイツ……まあサヨの言う通り話が逸れすぎた。今は勘弁してやろう
「ちなみにマオがババア発言したらキレる?」
「当たり前じゃないですか」
「わたしはそんな事言いません!」
良い子ちゃんだもんな
「話逸らして悪かったわ、なんだったっけ?そのクズを解放すれば貴女が助かるんだっけ?」
「少し違う。封印を解けば私は呪縛から解放される、そう言う契約。別にマスターはどうでもいい」
「なるほど、その呪縛とやらが貴女が転生するってやつか」
「そう……悪魔としての生を終え、永遠の眠りについたと思った。でも何故か今度は力と記憶を受け継いだままエルフとして誕生した」
だから精霊魔法が使えるのか、今の様に種族が変わっても以前の力が使えるとか卑怯な存在だな
「新たな力を得られるなら転生もいいんじゃない?」
「生は一度きりだからこそ価値がある。何度死のうが再び目覚めるのは苦痛でしかない……その上私は今まで封印を解く事だけを使命として生きてきた。貴女達の様に楽しく生きた事は一度もない」
「そりゃ御愁傷様」
カバの悪魔からエルフに、ね……今は人間だけど黒い翼は健在だ。という事は……?
「もしかしてだけど、エルフの時の貴女も黒い翼があったり?」
「もちろん。転生しようと元である悪魔の魂は消えない、黒い翼はその証の様なもの。おかげで不吉なエルフとして迫害された……動ける様になってすぐに逃げたけど」
「……私の顔見知りに黒髪に黒い翼のエルフがいるんだけど?」
「恐らく私の影響……過去に数人だけど同じ様なエルフが生まれた。不遇な扱いを受けてるなら申し訳ないと思う」
まさかの繋がりだ。こんな所であのエルフの元凶を知るとは……やっぱり世の中狭いわ
「何度目の転生だったか、私はようやく封印を解ける存在を知った」
「で、拒否られた」
「そう……偶然フィーリアという存在を知り、藁にもすがる思いで数年かけて探したのに『知るかカス』の一言のあと蹴り飛ばされ、痛みに悶える私を一瞥したあと転移されて終わった」
「「「「うわぁ……」」」」
そりゃ腐った性格と言われても仕方ないわ。同じく転生する経緯を聞いただろうに……愛を称する名にふさわしくない先祖だ
「呆気なく希望を砕かれた私はそれでも諦めなかった。あの女の子孫なら同じ力を受け継いでもおかしくない……魂の扱いは悪魔の領分。かなり時間はかかったけど、あの女の一族として転生する事に成功した。もっとも、直系は妙な力に邪魔されて無理だったけど」
「フィーリア一族の直系以外とは気になるわね」
「そのままの意味。自らお腹を痛めて産んだのではなく、例の力によって産み出した存在達のこと……恐らく直系は貴女の血筋だけ」
「私の親戚は奇跡人ばっかかい」
どんだけ奇跡人を量産したんだ先代は。私なんかユキだけでもう結構って感じなのに……
ユキの様な変態が量産されると思うと寒気がする
「フィーリア一族として転生して16回目、とうとう貴女が生まれてきた……あの女の力を受け継いだ貴女が」
「転生しすぎ」
「仕方ない……悪魔やエルフに比べてすぐに死ぬから」
長寿種族と比べるんじゃない
でも人間……じゃない、奇跡人の子孫にしちゃ短命だな。サヨはまだ生きてるし、奇跡人自体は不老だが人間と混ざったらダメなのか?つまり混ぜるな危険と
「奇跡人って何人生きてるんだろ」
「ほとんど亡くなってると思う」
「そうなのサヨ?」
「さあ?ただ、私もショタロウの他に創造主に産み出された者に会った事は無いのでメルさんの言う通りほとんど死んでるのでは?」
なんだ……会いたかったような会わなくてよかったような
いやどうせ化物みたいな強い奴だろうし会わなくてよかったわ。サヨと違って殺す気で喧嘩売ってきたらたまったもんじゃない
「これで話は終わり?貴女が私に執着する理由はよくわかったわ」
「……貴女から拒否する気配をかなり感じる」
「よく分かったわね。先代もだけど、私が可哀想ってだけで人助けするとか寒気がする」
「確かにお母さんからは想像出来ません」
「お姉ちゃんは可哀想な人を鼻で笑ってこそお姉ちゃんです」
「マオさんがダメな方向に教育されてるのですが?」
「やっぱり私の教育では外道寄りになっちゃうのね。まあ過ぎたるお人好しは馬鹿をみるし、悪い事じゃないわ」
話も終わった事だし、メルを助ける選択肢はないという事で……?
む、私の直感がさっさとここを出ろと告げてる気がする
「じゃ、早いトコ先へ進むわよ。転移で馬車までお願い」
「……待って欲しい」
「はいはい、とりあえず貴女も一緒に来なさい」
「どうかなさいましたか?妙に急ぎますね」
「長居すると面倒な事が起こりそうなのよ」
「面倒……お母さんの直感なら従いましょう。もしかしたらここを壊滅させた張本人が戻って来るかもしれません」
「この腐れ悪魔はどうします?」
別に戦う理由無いし放置でいいと思うが……もし本当に危険人物が戻ってきたら私達の事を喋られても困る
いや、たぶん戻って来るな。ユキに言われて何かピンと来たから間違いない
「殺す理由は特にない、でもそのまま口が軽そうなコイツを生かしておいたら厄介になりそう。そうね、最近奇跡ぱわーの出番少ないし口封じに使ってみるかな」
「それが貴女の一族の力?予想外にカッコ悪い名前……」
「黙りなさい。奇跡ぱわーの機嫌を損ねたら貴女に救いは永遠に訪れない」
「奇跡ぱわーマジ格好いい、マジ半端ない」
「チャラく言うな」
キャラと合ってないんだよ
さて、早いトコ片付けないといよいよマズイ気がする。
「私が気絶したら速攻で馬車まで転移、そして馬車ごと離れた場所まで再び転移すること。見つかったらダメよ、分かった?」
「……そんなにヤバそうな相手ですか?」
「知らない。けど、なんか……私達は無事では済まないって感じ」
「それは一大事。では言う通りに致しましょう」
長年お世話になってきた直感だ。たぶん当たる
人外ズが居ても嫌な予感がするって事は二人並かそれ以上の化物と思う
「じゃあねブルー、私達はずらかるわ。せいぜい死なない様にね」
「そんなん言われたら私も逃げるわ馬鹿者」
「何にせよあなたに恨みは無いけど言葉を封じさせてもらう。メルは私の力がどんなのか見ときなさい。コイツの声を封じろ、奇跡ぱわー!」
「……?……?!」
発動後、ブルーは本当に話せない事に焦っている様子。
これで良し、後は目が覚めたら変わらず旅を続けてる事を願うのみ……
★★★★★★★★★★
目が覚めたらすでに日が落ちる前、気絶前の願い虚しくユキとサヨはバトル中だった
「で?あの二人は何で戦ってんの?」
「どっちがお姉ちゃんを膝枕するか、だそうです」
「そして結局決着がつかなくてマオがやったってわけね」
「はい!」
アホだなあの二人。目が覚めたら戦闘中らしき音が聞こえて焦ったわ……紛らわしいんだよ馬鹿野郎
だがまぁ結局無事に厄介事から逃れることは出来た。今は嫌な予感がしないから安心だ
「結局あの廃虚にどんな奴が現れたか分かる?」
「サヨさんにでも聞いてみたらどうですか?」
「あの二人忙しそうだもん」
「私が精霊に聞いてみる……」
「へー、精霊はどこにでも居るもんね。世界中の情報が得られるんじゃない?」
「可能、貴女の事も精霊から聞いた。ただ人が多すぎる場所は嫌って行かないけど」
精霊は人間嫌いと、クルルも嫌いだったな
私が町を出て旅を始めたのは最近と言えば最近だ。メルが今になって私に会いに来たのは最近私のことを精霊から教えられたからか
「で?何か分かった?」
「だめ、どの精霊も今はあの場所には行きたくないみたい」
「精霊すら近寄りたくない奴が来たのね、さっさと逃げてよかったわ」
「貴女達は強い。むしろ新たに被害が出る前に何とかすべきだったと思う」
「知ったこっちゃないわ」
「……そうだった、貴女はそういう人だった」
しかし回避したはいいけど、ここはどこだろうか?
周りに木々は無く岩肌ばかりの景色。昔会った地竜の住処みたいな場所だ
「ここどこ?」
「トゥース王国の中にある山」
「なんだ……もう他国内なんだ」
……あれ?転移で入ったなら不法入国じゃね?
後で揉め事になるとかやめてくれよ
「お姉様がすでに起きてるじゃないですか!」
「姉さんが無駄に頑張るからです。この前膝枕したんですから私に譲ればよかったんです」
「貴女はいつも抱っこしてるでしょうに」
「それはそれです。でも久しぶりに良い訓練が出来たのでよかったです」
人外姉妹も戻って来た事だしとりあえず町を目指そう
「入国手続きとかしてないけど大丈夫でしょうね?」
「不覚にも大きな鳥の魔物に連れ去られたとか言えば大丈夫ですよ」
「馬車まで無傷で運ぶとか良心的な魔物だこと」
「この国は容姿の良い者に甘い奴等ばかりなので何とかなります」
へー、凄い自信だ。その発言は自分で容姿がいいと言ってると分かってるのか?
サヨの話によればこのトゥース王国は良くも悪くもとにかく普通の国なんだと
民の容姿も普通、性格も普通、魔物の強さも普通、騎士団の強さも普通……料理も普通なので期待はしないで下さいとのこと
ここまで普通と言われると気になる。中には一人ぐらい普通から外れた奴が居てもおかしくない。大体普通の性格ってどんなだよ
「百聞は一見に如かず、とにかく見てみたい」
「では近くの町を目指しましょう。ここからですと国の北側の国境付近の町が一番近いですね」
「本来なら東側から入国する筈でしたが、姉さんが適当に転移するので」
「一刻も早く逃げるというお姉様の意を酌んでの事です」
「国境付近なら入国し直せばいいじゃない」
「ふ……私の魔力量でそう何度も転移出来るわけないじゃないですか」
「私は可能ですが、同じく魔力量は姉さん並なので念のため温存しておきます」
二人とも魔力量は大した事ないと、それでも普通よりは多そうだが。鞭や符術を使うのはそう言った理由か
しかし、何とも和やかに話が進んでいる。さっきまでの厄介事は無かったことにしたらしい
みんな頑張らないフィーリア一家として順応してる様で何より。これがジェイコブのパーティだったら今頃強敵との戦いでシリアスになってたかも
「そう言えば結局メルさんの事はどうなさるのです?」
「どうもしないけど?」
「……私の安らかな眠りは永遠に来ない気がしてきた」
「大丈夫ですよメルさん、お母さんは家族には甘い方なので」
「家族……?」
「親戚は不明ですがね」
「メルさんってこれからも同行するんですか?」
「それはどっか行け的な発言ですか?マオさんも外道になってきましたね」
「違いますよ!?」
メルか……美少女になったのはつまらないが、別に嫌いではないから同行するのは構わない
でも連れ歩くには容姿が目立つ、いや私達自体が目立つんだけど
「メルが着いて来たけりゃ来なさい。給金無しで働いてもらうけど」
「お願いする。食と住を用意してくれるなら別にお金は要らない」
「ホント欲の無い奴ばっかりね」
「欲を言えば封印を」
「言わんでいい」
解いて欲しけりゃその気にさせてみろ。私は先代よりは甘い筈だからチャンスはあるぞ?
☆☆☆☆☆☆
「もうすぐ着きますよ」
「早いわね」
「速度上げましたから。どうせ岩ばかりの景色ですし」
馬車の外を見てみれば確かに未だ岩肌ばかり。
御者は引き続きサヨがやっている。サヨもユキ並に私の事を良く分かってる様で良い判断をする
周りに冒険者の姿は無い。というか魔物も見当たらない……何か平和な国だなぁ
「ワンス王国より平和ね」
「そうですね。ただ平和なおかげで騎士団や冒険者の質が悪いのがこの国の問題です」
「そういう問題が出るんだ」
「距離があるとはいえ隣国がサード帝国ですから割と重要な問題ですよ」
「攻められたら終わると」
戦争なんか長い事起こってないから杞憂に終わりそうな問題だが、油断した所で戦争勃発なんて事もある
いや自国の問題じゃないからそう真面目に考える必要ないか……とも言えないんだよね、この国がやられたら次は我が国だから
「まあ途中に高ランクの魔物がうじゃうじゃ住む森に道を塞がれてますからね、サード帝国が馬鹿じゃ無ければトゥース王国に攻め入る事はありません」
「なんだ……心配無用なのね」
「はい。あそこを通るだけで兵の大多数を失うでしょう」
「なら私達も通れないか」
「やめた方がいいですね。私も昔、修行の為に入ってみましたが、馬型の魔物にあっさり結界を破壊されてヤバかったです。転移が無ければ死んでましたよ」
人外が死にそうになる森がこの世に存在したのか……むしろ人外を殺せる魔物が居たとは
「ならやめとこ。ちなみに何て名前の森?」
「コリーア大森林と言います」
「大森林って言うくらいなら広いの?」
「下手すればワンス王国ぐらい広いです」
広すぎだ。そりゃそんな所を通ってまで攻めようとは思わないわ。馬鹿じゃ無ければ
「と言ってる内に到着しましたよ」
「馬車で入れる?」
「大丈夫そうです。ワンス王国の町に比べて道が広いので」
確かに道は広そうだがでこぼこしてるな。ここから見える建物も何となくボロっちぃ
「もしかして土壁の家ばっか?」
「みたいですね。まあ国が変われば家の造りも変わりますよ」
「国力の高さを知る目安にもなります」
「この国はワンス王国以下ってことか」
まあ他国に対していちゃもんつける気は無いし、そろそろ入り口に近付くから黙ろう
「よ、よよよよよく参らら、参らるた……た、他国の方かな?」
「どもり過ぎです」
「げふんげふんっ!……す、すまない。可愛い娘には免疫が無いのでな」
新手のナンパだろうか?
応対してるのはサヨだから相手はロリコンか
「えと、入国許可証の提示をお願いする」
「……それが、深い事情があって許可証を持ってないのです」
「そそ、それは困る……他国の者は許可証が無いと中に入れる事は出来ないのだ」
「そこでお願いがあるのですが、許可証の発行をあなたにお願いしたいのです」
「お、俺!?」
無理があるぞサヨ……すでに国の中にある町で入国許可証を発行するとか聞いた事ないわ
「サヨに任せてたら無理そうね」
「まぁまぁ、ここは姉さんに任せましょう。年の功ですよ年の功」
やっぱり国境から入り直すべきだったと思うが
「いや何というかな、発行するには国境にある詰所で身分証を」
「わかりました。後で発行しますのでとりあえず町に入れて下さい」
「いやだからっ!?」
ダメじゃん。ただの我が侭少女じゃないか……話術がなってないわ
「……中にっ……入れて?」
「どうぞお通り下さいありがとうございます」
通れた
おかしいだろ
「何とか入れましたね」
「おい、そこのフィーリア一家の面汚し」
「何をいきなり……何か問題ありました?」
「卑猥な言葉で乗り切るとはガッカリだわ」
「別に卑猥な事は言ってません」
言ってはいないが、言い方がやらしいんだ馬鹿野郎。私達まで変態とか思われたらどうすんだ
「予想通りチョロかったですね」
「そんなに可愛い女に免疫ないんだ」
「はい。まあ町中の住民を見て頂けたら分かるかと」
どれどれ……
住民と思われる人達は白や黒の地味なシャツに地味なズボンやスカートの服装……顔も良くはないが悪くもない。まさに普通な顔ばかり
似てる顔ではないのに皆一様に普通という感想が思いつくのはある意味見事
「試しにあの女性にこの町の名前を聞いてみて」
「わかりました」
進行方向のちょっと先にこちらに向かってくる女性がいたので声を掛ける様に指示する
女ならどういう反応か気になったからだ
「すいません」
「はいっ!どういたしまちて!」
「まだ何も聞いてません」
同じくテンパるみたいだな。冒険者なら他国から沢山来るだろうが、男ばっかだもんな……男前には免疫あっても美人には免疫無いとか
「この町の名前は何というのですか?」
「ハイパー手強い町です!」
なんだって?何か町の名前っぽくない言葉が聞こえた様な?
「ハイパー……手強い町が名前なんですか?」
「は、はい。この国は全てにおいて普通なので、他国に舐められない様に強そうな名前をつけて牽制するとか……?」
逆に舐められるわ
ハイパー手強い町とか本気で付けたならこの国はもうダメだわ
「……ちなみに王都に一番近い重要な町もそんな名前で?」
「超ウルトラスーパーミラクル手強い町です」
子供か
★★★★★★★★★★
「私は五丁目とか結構適当な名前と思ってたけど、実はマシな名前と気付かされたわ」
「下には下がいるもんですよ」
「とりあえず今日は宿を手配して探索は明日にしますか?」
「そうするわ」
向かった宿は馬車をおけるスペースのある大きめの宿
『この町三番くらいでありたい亭』
一番じゃないとか謙虚だな。ではなく、まさか宿や店まで普通の名前じゃないのか?ただの願望じゃないか
「もしかしたら、この国は普通から脱却したいのかもね……」
「他国から普通とばかり言われ続けたら嫌気さしますよ」
「でも普通というのは結構幸せな事だと思う……」
「そうですね……」
普通より酷い人生を歩んだ娘達がしんみりしている
私は……私もどう考えても普通じゃないな……楽しんでるけど
宿に入り例によってテンパる受付の店員に宿泊する旨を告げ、何とか部屋を手配した
人数増えたし部屋を別にすればいいのに大部屋になった。何か譲れないものがあるらしい
部屋の中は派手な装飾は無くベッドが6つほど並んでおり、他にはテーブルと椅子があるのみ
これで三番目になれるのか疑問だ
日が暮れるまで談笑したあと食堂に向かう。談笑中に姿が変わり口調も変わったメルは寡黙キャラになったかと思ったが、意外と喋る方だった。おでぶの時も喋ってたしな
夕食を済ませ、再び談笑を楽しみ眠たくなった者から就寝についた。もちろん最初に寝たのはマオだった
明日からトゥース王国探索が始まるし、話のネタも尽きたので寝るかな
「じゃ、寝るから。貴女達も早めに寝なさいね」
「私も魔力回復のためもう寝ますね」
私に合わせたかの様に一斉に就寝する。実際合わせたのだと思うが
今日あった出来事で気になるのはやはり廃虚のこと。悪魔の声を封じたくらいで済ませたのは正しかったか……
仮に喋らないから紙に書いたとかされたら不味い。始末しなかったのは少し失敗した。会長の様に殺すべきだったなぁ
『あそこに居たゾンビが死霊使いの僕だった場合、戻って来た理由は私がゾンビを操った事を気付いたからかもしれない』
談笑の中でメルがこんな事を言っていたが、その理由が合っていればアンデッドを使って面倒を起こす可能性がある。位置的に被害があるとすればこの国かワンス王国のどちらか……はたまた他にも襲った都市があり、別の場所に戦力を集中させるか
はぁ……今悩んでも仕方ないから寝よう。厄介な奴が現れても何とかなるか……フィーリア一家なら
という事で皆の安らかな寝息を聞きながら眠りにつく
ちなみに夕食で注文したハンバーグはやっぱり普通だった




