幼女と訳有りな親戚
私達は未だ前屈みの悪魔と対峙している
不敵な笑みを浮かべてるが無様な格好のせいで台無しだ
「男の悪魔ってキモい色の肌してるわね」
「青は食欲減退の効果がありますよ」
「なら食べ物に困ってるのね。きっと空腹をあの肌を見て紛らわせてるのよ」
「勝手に貧しい奴認定するな」
やれやれと態勢を整え普通に立つ悪魔、やっと下半身が落ち着いたようだ
「さっきのローパーはあなたの仕業?」
「うむ、私の育てたピンクロータ君で間違いない」
「何か知らないけど卑猥な名前に聞こえるわ」
「そうかね?まあいい、少女の触手攻めに気を取られている隙によくもピンクロータ君をやってくれたな」
「気を取られる方が悪いでしょう」
「ぐぬ……」
気配を消すのはお手のものらしいが、強くはなさそうだ。舞王に比べて全く脅威を感じない
「む?そこな少女、君は実に私好みだ。ピンクロータ君の詫びとして貰ってやろう」
「ユキじゃない?」
「姉さんでは?」
「いやいや、マオさんでしょう」
「わたし普通の容姿ですけどー?だから違います」
「いや君だ君、紫の髪の君だ」
マオだった。まさかと思うが悪魔同士だし何かに惹かれたか?
バレてはなさそうだけど
「正面から見ても分かる!実に形の良い尻だっ!!」
「こっち見るなです」
「そう恥ずかしがるな、はっはっは!」
「おいブルー」
「勝手にブルー呼ばわりとは感心せんな」
うっさいブルー
この私の目の前で妹をナンパ……ナンパか?とにかく口説くとは良い度胸だ
「いいか、この娘の尻は私の物だ。フィーリア一家の宝を奪うなど私の命ある限り許さん!」
「つまり君が天寿を全うした後ならいいのだな?」
「その通り。お好きにどうぞ」
「お姉ちゃん!?」
死んだ後の事なんか知るか、言い寄る輩は自分で対処してくれ。その頃にはマオも舞王ばりの女性に成長してることだろう
「だが流石にそこまで待ってられんわ。君が死ねばいいのだろう?簡単ではないか」
あ……私に向かって死ねなんて言っちゃったら……
「よし、殺しますか」
「私が殺りましょう」
「いやいや、姉さんは先ほど活躍しましたし」
「では半分ずつで。誰に向かって死ねなどと言ったか思い知らせてやりましょう」
「了解です」
ほれみろ、過保護コンビが殺る気満々になったじゃないか
「待ちなさいな……まだ何の情報も得てないのに」
「こんな奴の情報要らないでしょう」
「ここを滅ぼした奴を知ってるかもしれないじゃない?コイツじゃなさそうだし」
「なるほど……」
「で?誰がやったか知ってるの?」
「む?この都市を壊滅させた奴か?」
うーむ、と悩みだす悪魔。知らないなら知らないって言えばいいのに
「知ってはいるが…何者かはサッパリ分からぬ。ただ恐ろしい奴ではあるな」
「具体的には?」
「遠目で隠れながら見てたから良く分からんが…ただ呟くだけでここに居た人間達が死んでいったな、魔法ではなかった」
「なんじゃそりゃ」
「私が知るか、突っ立って囁くだけで爆発させたり燃やしたり切り刻んだりと意味不明な奴なんだぞ?」
魔法じゃないのにそんな現象を起こすとか……まるで奇跡ぱわーだな。仮にそうなら気絶してない分そいつのが凄そうだけど
「奇跡ぱわーと思う?」
「違うでしょう……似て非なる力です」
「私の予想では言霊使いですね、強力では有るみたいですが」
「言霊ねぇ……」
「生物を産み出したりは出来ません。魔法の真似事がせいぜいでしょうし、間違いなくお姉様の方が上ですよ」
一回使ったら気絶する方が上なわけない。一都市を壊滅させる様な危険人物には関わらないが吉だな
この先もしも会ったら転移でずらかる様にしよう
「もういいかね?始めようではないか!」
「あいつ勝てる気満々だけど?」
「雑魚は大体あんなです」
ファイティングポーズでこちらを伺う悪魔。確かに雑魚臭が半端ない
別に殺す必要無いのだが、あっちがやる気なら仕方ない。
「やっちまえ」
と言った瞬間には悪魔に迫る二つの影、悪魔も予想外の早さに思わず動揺して行動が遅れてしまった
残念だがその一瞬が命取りだ。ユキが鞭で足を思いっきりシバいて叩き折る。そしてサヨはまさかの肉弾戦で顔面にグーパンして吹っ飛ばした
見た目人間っぽいマオはともかく、男悪魔は肌が青いくせに血は赤かった
「いぎゃぃ…た、タンマ……!」
「殺し合いの最中に待った何かしません。私の痴態を見た以上生かしてはおけません」
「ああ……それでやる気だったんだ」
どう見ても優勢だし、戦闘は二人に任せて私は先ほど話に出た言霊使いの事でも考えよう
まずこの都市を壊滅させた目的が不明だな。ハッキリ言ってここを狙ってもメリット無さげだ。
ただ冒険者達が集まる都市だ。一般都市に比べれば腕試しするにはよさそうだ。しかしたかが腕試しで一都市を狙うだろうか……
「ゾンビか、冒険者達のゾンビがこれだけいればソコソコ戦力になるわね」
「はい?」
「ああ、気にしないで」
言霊使いではなく死霊使いなら襲ってもおかしくないな。その場合攻撃方法が不明になってしまうが……目に見えない魔法を使える幽霊に命令したとか?
その辺は置いといて、あの悪魔が死霊使いとは思えない。隠れていたゾンビが急に襲ってきたって事は件の犯人はすでにここに居てゾンビを操ったって事か?
悪魔同様にユキやサヨに気付かれないほど手強い奴なのか、それとも……
「二人とも止まりなさい。おい悪魔、あなたが見た奴って髪の色なんだった?あと性別も」
「おぅー……助かった……まさか私の足をあっさり折るとは。で?髪の色だったか?フード被ってたから分からんな、ただ尻の形から察するに女だな。大きさは触手少女と美尻少女の中間……ああ、ちょうどその太っちょぐらいだ……まあアッチは痩せてたがな」
「へぇー?」
「いやいや、わたすじゃないだよ」
「そんな事言ってないわよ。で?ここが滅んだのはいつ頃?」
「ほんの一月前だな」
最近すぎるわ。わざわざ私達が寄る寸前に滅ぼすとは……誕生日が無かったら丁度巻き込まれてたかも
「偶然っぽくないわ」
ここを通ったかは分からないが、ブゥミンは巻き込まれずに済んで良かったな。
ブゥミン、ブゥミンねぇ……そういや何でユキは連れてきたのか聞いてなかったな
「ブゥミンはユキがスカウトしたの?」
「いいえ、メルさんから話かけてきましたよ?一人だからパーティに入れて欲しいと」
「苛めた相手のパーティに入りたいとか妙な事言うわね?」
「そりゃぁ、女性ばっかりの方が安心だすから……」
「ふふ……この少人数で国外を旅しようってのに安心するんだ。実力を知りもしない連中だってのに」
怪しい……怪しいなぁブゥミン
最近知り合ったエルフのおかげで姿を変える精霊魔法は把握済みだ。だからブゥミンが姿を変えてる可能性も思い付ける
「あなた精霊魔法使える?」
「使えるわけないだすよ……」
「まあどっちでもいいわ。ちょっと貴女の身の潔白を証明してみましょう」
何故か精霊魔法が使えなくなったあのエルフに再び精霊魔法を使える様に出来たのだ。逆に使えなくする様に命令も出来る筈だ
精霊魔法以外で姿を変えている事も考えられるが、それならあの二人が気付くだろう。二人を含め、私達は精霊だけは感じられない……だから精霊魔法以外考えられない
「な、何をするだか?」
「何もしないわ。貴女にはね?」
姿が変わらなければそれでいい。また普通に旅に連れていくだけだ。
人間が精霊魔法を使える可能性は限りなく低い、だから思い過ごしとは思う
だが――
「精霊、その娘に精霊魔法を使わせる事は許さない。姿を変えてるなら元の姿に戻せ」
驚愕の表情を浮かべるブゥミン
いや、ブゥミンだった何者か。太っていた身体はスラリとした身体へ変化……本来の姿に戻っていた
人間離れした美しさ。痩せれば美少女になると思っていた姿そのものだった。服装も今の体型に合った魔法使いが着るような白いローブにマントと変わっている
怪しいとはいえ、まさか本当に人間が精霊魔法を使えたとは……私もつくづく妙な奴に会うなぁ
呪われてるんじゃなかろうか
☆☆☆☆☆☆
「まさか……精霊に干渉出来るなんて思わなかった」
「普通に喋れるのね」
「何で分かった?」
「勘だけど?てか貴女以外に別の誰かが潜んでる可能性の方が高かったわよ」
「なら何で私を疑ったの?」
「私は家族しか信用してない。貴女はただの同行者、なら初めに疑わなくちゃね。近くに敵がいる可能性は早めに潰したかったの」
こうなってはゾンビを操っていたのはメルの可能性が格段に高くなった
私達に近付いた目的などは未だ不明ではあるが、何かしら利用しようと思っていたのだろう
「大量殺人を犯した輩を同行させてたとは思いもしなかった」
「……私は殺してない」
「ゾンビを操っていたのは貴女でしょう?」
「それは、そう……」
精霊魔法も使えてゾンビを使役する術まで持ってるとか、流石は我が親戚。というかフィーリア一族恐るべし
「どうユキ、これが貴女が連れてきた人物よ?何か弁解でもある?」
「悪い方では無いと思ったのですが……申し訳ありません」
「その人は悪くない」
「そうね、悪いのは貴女」
しかし今までのブゥミンは演技だったのか……私にまで気付かせないとは大したもんだ
さてどうしよう……ゾンビを私達を襲わせたって事は殺すつもりだったのか?なら殺すか
「よし殺そう」
「お待ち下さい、まだ完全に敵と決まった訳では」
「おめでたいわねユキ。命を脅かす恐れのある存在は誰であろうと潰す、例えそれが知り合いでもね。なに?たかが短期間でそんなに情が移ったの?」
「はいはい、そこまで。どうですお姉様?一応メルさんの言い分も聞いてみては?」
「そうですよお姉ちゃん」
何故か皆メル贔屓だ
さっきまでのペドちゃん至上主義はどこいった、くそぅ
「ふん、じゃあその言い分とやらを聞いてから処刑しましょう」
「ですから……あぁ、まあいいです。ではメルさんどうぞ」
「分かった。まずはさっき言った通り私はここに居た冒険者達を殺してなんかいない」
「貴女と同じぐらいの背丈の他の女がやったと?そりゃ中々の偶然だわ」
「メルさんぐらいの身長の女性は多いと思いますが」
あっそ。もう何を言っても無駄そうだ
どうせ最終決定権は私にある、話が終わるまでは大人しくしておいてやろう
「何だか私が空気だな!まあ君たちがそこな美少女の方を向いてるおかげで尻の観察出来てよいがな」
「まずは邪魔な悪魔を始末します」
「今はほっとけ」
害は無いし。悪魔のくせにメルに注目してる隙を狙って攻撃するという姑息な手段はしないみたいだ
むしろ何故か一緒に聞き手として参加している
「続きいい?……ゾンビの事はここに近付く前に精霊に教えられて気付いた。最初は近付かせない様に操ったけど……貴女の力を確認する為に仕向けたの、ごめんなさい」
「私の力?」
「持ってるでしょ?人とは違う不思議な力……結局見れなかったけど」
バレてたか、まあ別に隠してないけど
「私の目的は貴女の力である人の封印を解いて貰うこと」
「封印ねぇ」
「貴女の事は色々調べた。普通にお願いしても断られると思ったから、自主的に封印を解いてくれる様に誘導するつもりだった」
誘導?……最近封印されていると聞いた奴って言えばヌポポゴンだな
でもある人って言うぐらいだから人間なんだろう、そしてヌポポゴンは怪獣……うーん?
「普段の生活の様子や嬉々としてダンジョンに行き、更に怪しい落とし穴に迷いなく飛び込んだ貴女を見て面白そうな事には興味を持つ、そして行動的になると分析した」
「合ってるわね」
「だから貴女が読んでた本を興味を持ちそうな話に精霊魔法ですり替えた。そして徐々にヒントを与えて目的地まで誘導し、最終的に封印を解いて貰う……これが私の考えだった」
「で、失敗に終わったと」
ヒント、この廃虚のギルドで金庫を見つけたのはメルだったな。じゃあ金庫の中にはそのヒントとやらが入っているはず、金目の物じゃないのか
いつ仕込んだか分からないが、私達がギルドで物色してる時に何らかの方法で金庫に入れたのかも
そんな事より私としてはヌポポゴンの話が作り話だった事が残念で仕方ない。
「……お願い、封印を解いて欲しい。もう貴女以外に解ける者はいないの」
「断る。大体それが人に頼み事をする態度?土下座しろ土下座」
「お願い、します」
言われた通り素直に土下座するメル……こいつも形振りかまってられないみたいだな
でも私は容赦なくメルの頭を踏んづける。この私を利用しようとした事をまだ許しちゃいない
「額が地面に着いてないわよ?」
「っ……お願い、です」
「聞いて欲しけりゃ顔面全体を地面に着けなさいな」
「お母さん……」
「黙ってろ」
美少女が地面にキスする姿……なかなか良い見世物だわ。とりあえず満足するまでゲシゲシ頭を蹴ろう
「もういいわよ?満足したわ」
「……お願、いっ……!場所は案内する」
「何言ってんの?聞くだけよ、封印を解くなんて一言も言ってないじゃない。ばーかばーかっ!」
「……ぁ、ぁあ、貴女はぁっ!!」
お?怒った?
砂まみれで睨みつけるとか良い顔をしてるぞ
「やはりあの女の血筋っ!腐った性格をしてる!!」
「知ってる」
「……頼み事じゃ無理なら、力ずくでいくまで」
あの女とは誰だろう……血筋って言ったから母かもしれない。同じく腐った性格だし
などと考えていたらベリッとメルの背中から黒い翼が出てきた
どっかで見たと思ったらいつぞやのエルフと全く一緒だ。
黒い翼流行ってるんじゃね?
「ほぅ、古い悪魔の翼を持つ人間とは珍しい……珍しいというか異常だな」
「知っているのかブルー」
「古い悪魔と言っただろう?つまり悪魔の祖先はああいう翼をしていたらしいな」
マオの様にコウモリの羽みたいなのが今の悪魔の翼か……精霊魔法に悪魔の翼、エルフか悪魔か人間か分からん奴になったな
「力ずくと言ったわね?やってみなさいな」
「お姉様」
「大丈夫、どうせ私を殺す事はないし」
ニヤニヤしながらメルに近付く。せっかくの美人が台無しになるほど歪んだ表情をしている
「封印を解く気になるまで痛めつけてやる……!」
「お前には無理よ、そもそもたかが拷問で私が屈するわけがない」
「方法はいくらでもある……貴女の精神を操ればいい」
「私を操れたら大したもんよ。まぁ、仮に出来たとしても何も考えない操り人形状態じゃお前がお望みの力は発動しないでしょうけど?」
「……ならば貴女の仲間を人質にするまで」
「言ったな?メル・フィーリア。私の家族に手を出すと、なら死ね」
「……死ぬ?それが出来れば……っ!」
奇跡すてっきをメルに向けて構えたが、何か様子が変なので一旦止まる。奇跡すてっきは構えたままだが
「あなた死ねないの?」
そう聞いたらビクリと震えたあと、ユラユラと不気味な足取りでこちらに向かってくる
サヨが庇うように前に出て来たが、大丈夫そうなので下がらせる
目の前まで来たメルに一応警戒していると、危害を加えられるわけでもなくただ抱き着かれた
「私は抱っこちゃんだけど、抱き枕ちゃんじゃないわ」
「…私の残りの人生、全て貴女に捧げます……だから、お願いしますっ!私を、助けて下さい……っ!お願い、助けて……」
んー?ある人って奴じゃなくメルを助けろって?
……どういうことー?




