幼女と初めてのダンジョン
「豚はビタミンが豊富らしいわね」
「食用として連れてきたのではありませんよ」
「ならどうしてよ」
まさかユキがおでぶちゃんを連れてくるとは思わなかった。確か客人とか言ってたな
「そのお客様が私達に何の用なの?」
「何でもパーティに入りたいとか」
「却下」
ユキめ…私が家族以外と同行しないと知ってての狼藉か
「まぁまぁ…まずはこの方の話を聞いてあげて下さい」
「ふん…時間の無駄にならなきゃいいけど?」
「ではどうぞ」
ユキが身体をずらし、おでぶちゃんに前へ出るように促す
身体はデカいくせに気は小さいみたいでおどおどしながら前に出てきた。出会った当初のマオみたいな奴だ
「あの…リーダーの方って」
「私よ、何か文句ある?」
「いえ!滅相もないだす!?」
だす…やっぱりおかしなしゃべり方だ。世界ってのは色んな言葉があるもんだ
「あの時結局聞けなかったわね、どこの生まれ?」
「わたすはフォース王国にある田舎の村から来ただよ」
「何か遠そうね」
「実際かなり遠いですよ」
そんな遠くからこんな所まで何しに来たんだか
「じゃあ一応聞いてあげるから言いなさいな」
「…じゃあ、まずはわたすの身の上話から……わたすは両親が亡くなるまで家から出たこと無かっただよ…勉強も言葉も教えてくれたのはおっ母だ」
「へー…にしてもフォース王国ってのは変なしゃべり方するのね」
「いんや、わたすだけだ…初めて外に出て知らない人と会話したら馬鹿にされただよ……」
「つまり、親がわざと変な言葉を教えたって訳ね」
箱入り娘として育てられたって訳だ。すんげぇ変な娘に育てたみたいだけど
「親が亡くなったら苦労しただぁ…どうお金稼げばいいか分からなかっただよ……何とか誰でもなれる冒険者になったんだけども」
「パーティに入れてくれる奴が居ない、と」
「んだ……こんな体型だから足手纏いと思われるみたいでなぁ…」
「どうやってここまで来たのよ」
「他の冒険者達と一緒に商人の護衛の依頼を受けただ。役に立たなかったけんども」
なるほど、適当に依頼を受けたらここまで来るハメになったと
「馬鹿みたい」
「そぎゃんこつ言わんでも…」
「違う変な言葉になったわね、せめて統一しなさいよ」
「色々な言葉を一気に教えられたで難しいだよ」
こいつの親はどんだけおかしな娘に育てたかったのだと
「私からも質問いいですか?」
「いいだすよ」
「あなた体重どのくらいあるんですか?」
「ぐ……ひ、百二十キロだす」
「「「重っ!?」」」
太りすぎだろう…常識的に考えて
「あなたどんだけ食べてたのよ」
「普通に一日七食だ」
それは普通じゃねぇ…そんだけ食べて家から出ないなら太るわな
「田舎にしてはお金持ちですねぇ」
「うちは貧乏だすよ?」
「そんだけ食べて?貴女の食費の為に親は働きすぎで死んだの?」
「いんや、餓死って言われただ」
「あなた親の分まで食べてたのですか?結構ヒドイ方ですね」
おでぶちゃんに対する好感度が下がり始めたな…それに気付いたのかおでぶちゃんが焦りだした
「ち、違うだよ!わたすは無理矢理食べろって言われて食べただけだよぉ」
「……なるほど」
何となくおでぶちゃんの両親の思惑…気持ちが分かってきた
「貴女両親は好き?」
「うーん…嫌いじゃないけど、難しいだよ……もう少し普通に育てて欲しかっただ」
「そう…」
親の心子知らず、おでぶちゃんが普通に育ってたら容姿の良さからして普通の生活は難しいだろう
フォース王国に典型的な馬鹿貴族がいた場合、ただの村人であるおでぶちゃんは断れずに連れていかれていても不思議じゃない
「貴女は両親に感謝なさい。その醜い体型が結果的に貴女を守っていたのだから」
「そうなんだすか?」
「そうよ、貴女の両親は自らが餓えて死のうとも、貴女の安全を優先したの。立派な親じゃない」
きっとしゃべり方もそうだ。両親は幼いおでぶちゃんが容姿に優れすぎてるのを見抜き、醜い体型と変な言葉で悪い虫から遠ざけようとしたのだ
「でも…わたす痩せようと思ってるだよ」
「ほう…死んだ両親の気持ちを無下にしようっての?」
「違うだよ…太りすぎは健康によくないって言われただ」
「そりゃ痩せた方がいいわ」
なんとも現実的な理由だった…そうだよな、肥満は色々病気になるみたいだし、若い内に痩せた方がいいな。年取ったら痩せにくいらしいし
「じゃ、ダイエット頑張ってねー、さよなら」
「が、頑張る…って違うだよ!?」
「何と言おうがパーティには入れない」
「そ…そんなぁ…」
わざわざお荷物と分かってる奴を入れるわけない。痩せても面倒な事になりそうなら尚更だ
「お母さん」
「何よー…いくらユキの頼みでも聞かないわよ」
「この方は私達に結構関わりのある方です。私や姉さんと同じ気配も薄いですが感じます」
……なんだと?
ユキとサヨと同じって事は奇跡人って事だぞ…んな馬鹿な……
「貴女…名前は……?」
「わたすはメル・フィーリアだよ。家名はあるけど貴族じゃねぇから……メルフィって愛称で呼ばれてただ」
☆☆☆☆☆☆
「彼女は私以外の創造主に生み出された奇跡人の末裔なんでしょうね」
「奇跡人って子供産めるんだ」
「そりゃ基本的に人と同じ様に出来てますから…まあ私は無理ですが」
今はおでぶちゃんは居ない。外を走ってダイエットしてるからだ
そう、結局おでぶちゃんは私達と同行する事になったのだ。だが家族としてはまだ認めてないけど
「で?おでぶちゃんは貴女達みたいに戦えるの?」
「無理でしょう。あの体型で走れる程度の体力はありますが、他は普通の人とほとんど変わりません」
「ふーん…なら雑用係にするしかないか」
「それが宜しいです」
しかしサヨの占いに出た相手は結局おでぶちゃんだったか……もっとマシな奴が良かったなぁ
「あの娘、アンデッドになる気あると思う?」
「あるわけないでしょうね…」
だよなー…あの娘がちゃんと私達の家族になれればいいんだけど、難しいな…おでぶちゃん自身にまだそういう気持ちが無いから
「ま、今から考えても仕方ないわ。明日には出発するんだし、そっちを気にしましょ」
「行き先はトゥース王国ですよね?」
「ええ、一ヶ月はかかるんでしょ?長旅よねぇ」
移動してる最中はさぞかし退屈だろうが、初めての他国は新鮮で楽しい事だろう
見た目通り子供みたいにワクワクする
「マイちゃんに黙って出発して大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ、あの子ならきっと追いつくわ」
「マイさんと別れて結構経ちましたね。少しは小型化したでしょうかねぇ」
したんじゃないか?さらに巨大化してようものなら呆れるしかない
マイちゃん話をしながら昨日購入したギルド監修の世界のダンジョンが載ってる本を読んでいると、道中に寄れそうなダンジョンを見つけた
「そんな事より見なさい、最初の中継都市から少しいった所に小さいけどダンジョンがあるみたいよ」
「行くんですか?絶対何も無いですよ」
「分からないわよ?誰にも見つけられなかった隠し部屋があるかも」
「なら行ってみますか」
未知なるダンジョンに行く前に練習がてら攻略されたダンジョンに行くのも悪くない
「ダンジョンってどういう場所ですか?」
「地下に作られた人工的な迷宮…と言えばいいのでしょうか……まあ自然に出来たものでは無いです」
「ほへー」
「大体トイレが無いから注意です」
おおぅ……トイレは失念していた。奥深いダンジョンならヤバくね?もよおしたら皆どうしてるんだ…男はともかく女は
「そうだ、亜空間に個室トイレを仕舞っておこう。排泄物はそのまま亜空間行き」
「嫌ですよ、自分の亜空間にお姉様の…排泄物……ですと?」
「やっぱやめとくわ」
「冗談ですよ、ちゃんと馬車と同様にお姉様の実家に繋げときます」
ならいいが…イマイチ信用ならん。ちゃんと亜空間を繋げる所を監視しておこう
しかし個室トイレって高そうだな…まあ収入あるしいいか。この面子ならすぐに稼げるし
寛いでいたら外を走っていたおでぶちゃんとユキが帰ってきた
「メルさんをパーティ加入申請をしてきました」
「ただいま戻っただす」
「…その言葉遣いを普通に矯正しましょう」
「ずっと使い続けてるんで変えるのは難しいだよ…」
難しかろうが直させる。ずっと聞き続けるとイライラしてくるのだ
「一つ聞いていいだすか?」
「何よ?」
「あなた達は家族なんだすか?」
「そうよ、血は繋がってないけど」
そう言ったら心なしか寂しそうな表情をした…この娘も今や身内の居ないぼっちだもんなぁ
だがあのエルフ同様に同情だけでは家族には入れない。おでぶちゃんが心底私達を信用して家族になりたいと言ったら考えてやろう
「てか私達の名前教えてないわね、ユキはすでに知ってるようだけど」
「そういえば…」
「私はペド・フィーリア…一応貴女の親戚になるのかな」
「えええ!?こんな異国に親戚がいただか!」
私だってこんな場所でフィーリアの家名を持つ者に会うなんて思ってなかった。ある意味奇跡だ……ほんとに偶然だよなぁ?
「私はサヨと申します」
「わたしはマオですっ!」
「よ、よろしくだす」
「宜しくです、でしょう?やり直し」
「よろしく、だぇす」
ですも言えないんかい
こりゃあ時間かかりそうだわ
「何はともあれ頑張らないフィーリア一家の見習いとして頑張りなさい」
「はい!…にしても皆可愛らしいから形見狭いだよ……」
「何それ嫌味?」
「どうしてそうなるだ…」
ち…当たり前だが痩せた時の自分がいかに優れた容姿であるか把握出来てないようだ…
「やってらんねー……マオ、ふて寝するから太もも貸しなさい」
「はぁい」
「……わたすは何かいけない事を言っただか?」
「お気になさらず、お母さんはこういう方です」
まるで私が扱いにくい奴みたいに言う、ユキは妙におでぶちゃんに肩入れしているな
「そういえばお姉ちゃん、家でもその猫耳帽子被ってるんですね」
「……」
「お姉ちゃん?」
「にゃん?」
「「ぐふっ…!」」
約二名ほど悶絶した
それが誰なのか考えるまでもないだろう
「かーわーいーーっ!もう一回お願いです!」
「嫌よ、じゃあお休み」
「ちぇー…お休みなさいです」
そういやマオの勉強の続きがうやむやになったな…いつでも出来るしいいや、退屈な移動中にやらせよう
★★★★★★★★★★
いよいよ王都を旅立つ日が来た
誕生日がなけりゃもうトゥース王国に居たかもしれない
「じゃあ準備はいいわね?個室トイレは買った?」
「昨日の内に。輸送する家具も全て亜空間に収納済みです」
「宜しい、では行きましょう」
借りた一軒家は髪の毛一つ残さないほどに掃除をした。ユキが私達が住んでいた痕跡を残さない様に無駄に頑張ったのだ
まずはドワーフの様子を見てから国外へ出る。結局亜人騒動からどうなったのか見てないし
カマラは城に攻めてきた亜人を相手に奮闘した功績により無事に釈放されていると調べたユキに聞いた
男性二人分ほど重くなった馬車を引っ張るぺけぴーだが、特に辛そうではない。流石は我らがぺけぴーだ、ちょー頑張れ
☆☆☆☆☆☆
ドワーフの村は特に変わりなかった。唯一変わった事はカマラが再び鍛冶を始めた事だ
だが今度は武器ではなく防具を作成していた。殺す為ではなく、守るための物を作るらしい…良い事だと思う
ドワーフの村を後にして、アグラダの一件以来の国境を目指す。王都からは割と近いからすぐに着くだろう
「国外は二度目だけど、あの時は急いでたからなぁ…」
「実の親を人質に出した時の事ですね」
「わたしもです……」
「流石はお姉様、以前から予測不可な行動をされていたようで…」
「とんでもない娘だよぉ……」
とんでもない、大いに結構。つまらん人生を送るより普通じゃ考えられない行動した方が面白いだろう?
私と共に行動する以上、振り回される事を覚悟しておいて欲しいわ
………
ちゃっちゃと国境にそびえる向かって検問を通過した。例によってギルドカードを提示したら簡単に通れた
国外に出たら見覚えのある草原と巨大な昆虫が見えた。この辺はすでに見たからいいや
「ここから長い退屈期間が始まるわよ、有効に活用してマオの弱いおつむを強化しましょう」
「はぃ」
「じゃあ早速勉強の続きよ、1285624+568427は?」
「わかりません」
「少しは考えなさい」
「うー…もっと簡単にしてください。ちなみに答えはなんです?」
「分かるわけないでしょ?言った問題すら覚えてないのに」
「「「……」」」
何か文句でも?
「あー…ブゥミン、代わりに答えなさい」
「……ひょっとしなくてもわたすの事だすか?」
「そうよ」
「ひどいだよ…えーと、わたすはそんな勉強教えてもらってないから分からないだ」
…ここにお馬鹿がもう一人いた。実力もない上にお馬鹿だと救いようがない、なのでこの娘も頭脳ぐらい強化しようか
だが二人に同時に勉強を教えるのは進行度が違うからやめとくか
「ブゥミンはユキに懐いてるからユキが教えなさい。御者はしばらくサヨよ、そしてマオは私が直々に教えてあげましょう…光栄に思いなさい」
「わ、わぁい……」
めっちゃ嫌そうだ。きっとまともな勉強出来ないとでも思ってるんだろ?その通りだよ
「色々考えてる所を失礼しますが、中継都市には寄りますか?」
「いらんいらん、ダンジョン行きなさい」
「ではそのように」
人生は長いようで短いんだからちゃっちゃか行くべし
★★★★★★★★★★
言葉通りちゃっちゃかダンジョンの付近までやってきた。ぺけぴーが昼夜休みなしで走り続けるのはどうかと思ったが、平気そうだったので休憩するタイミングの判断は本人…本馬にまかせた
地図を頼りに中継都市から少し先に進み、ちょっと山側に入るとダンジョンの入口らしき四角い穴が見える
こんな簡単に見つかりそうな場所にダンジョンを作ったのか?もしくは作った当初は見つかりにくい地形だったとか
「ここは初級者達だけでも準備さえちゃんとすれば攻略出来る、というくらい簡単なダンジョンです。まさに初心者向けですね」
そんな簡単なダンジョンを何故作った。何か引っかかるな…
「ま、入口で立ち止まってても仕方ないわ。早く入ってみましょう」
「では私が先頭で行きましょう」
サヨが率先して先頭で歩きだしたので任せて着いていく。
ダンジョン内は当然暗いが、魔法で灯りを作り出せるから問題ない
どうやら私達以外に探索してる冒険者は居ないみたいだ。まあこんな何も無さそうなダンジョンにわざわざ来る奴はそうはいまい
「いつものコウモリです」
「何か見飽きたわね」
この私を苦戦させたクランチバット、道中懲りずに結界に体当たりしていた学習しない魔物だ
こんな馬鹿な奴に苦戦したかと思うと泣けてきた
「このダンジョンには雑魚しか居ませんので魔物は無視します」
「ええ、でも初見の魔物は観察しましょう」
「多分居ないと思いますが」
まあ今回は魔物目当てじゃないから構わないか
しかし…皆は気にならない様だが、ダンジョンの壁の出来栄えは見事だ…というか異常だ。
レンガと違って頑丈そうで妙にスベスベしてそうな石だし…ダンジョンは大昔に出来たハズ、それなのにこの造りが出来るとは…文明が退化してんじゃなかろうか
「落とし穴ですね」
「よく分かるわね?」
「慣れればお姉様なら簡単に見分けられますよ」
そりゃ買いかぶりすぎだ。人はともかく無機物は分からん。現に床の違いがさっぱり不明だ
「どうすれば落ちるの?」
「ここが窪む仕組みになってます。つまりここを踏めば開くのでしょう」
「試しに踏んでみて」
「では…」
うーむ…やはり床の違いが分からない。どこが初心者向けなんだと
サヨが窪むと言ってた箇所を踏むと、確かにガコッとその部分の床が沈んだ
そして私達の真下の床が開き、そのまま落ち……
「わひゃああぁぁっ!?」
「落ち着きなさいマオ、落ちてないでしょう?」
「……あれ?」
「ちゃんと結界を張ってますよ、何も魔物避けだけが結界の使い方ではありません。ちなみに初めてお姉様達の前に現れた時も同じ方法で上空に待機してました」
そういや空から降ってきてたっけ?…何にせよ私達に落とし穴は無効となったワケだ。なら下は気にせずサクサク進もう
一本道をしばらく進むと広い部屋に出た
休憩する場所なのか?んなワケない、わざわざ冒険者に優しいダンジョンを造るとか考えられん
「一応注意して下さい。ここには結構な数の落とし穴が…」
サヨが説明を終える前にガガ…と床が動く音がした。
ブゥミンの足元で
「うおおぉぉ!?足元が揺れるだよおおぉぉぉ!」
「あ、馬鹿……」
かなりの振動をしながら動く床に驚いたブゥミンが焦って逃げ出した
その矢先にブゥミンの前方の床がカパッと開いたがかろうじて落ちずに済んだ。
「ユキ、ブゥミンを止めなさい。あの早さじゃ次の次ぐらいで落ちる」
「はい!」
まさに新たな落とし穴に落ちる寸前、ユキの鞭にぐるぐる巻きにされる事によりブゥミンは動きを止めた
冷静になった所で鞭を外し、こちらに戻ってくる様に告げた
「私達に落とし穴は関係ないと分かってて何故焦るの?」
「ゆ、床がゴゴゴ…ってなるから気が動転しただよぉ」
まあ普通は焦るわな
焦って逃げた所で更に落とし穴が時間差で次々に開く
なかなかえげつない罠じゃないか
辺りを見渡せば至る所に落とし穴が開いている。どれも幅一メートルくらいの小さめな落とし穴だが……
ふむ、何か違和感がある
どれも普通の落とし穴なんだがなぁ
「ま、いいや。先に行くわよ」
帰りにまた来る。その時に考えよう
☆☆☆☆☆☆
驚いた事にあの後わずか20分で最深部についた。短すぎだろう…ダンジョン的に考えて
「流石は初心者向け、もう制覇しましたね」
「これで終わりとかこのダンジョン造った意味ないじゃない」
「ふむ…この右側にある周りより少し濃い色をした石はスイッチになってます。ここを押すと……」
ガコッと押すと重々しい音を立てて壁がスライドし始めた。これが隠し部屋なんだろう
「と、この様に隠し部屋が現れた訳ですが…当然中にあったであろう宝は回収済みです」
「隠し部屋の中に更に隠し部屋があったりは?」
「残念ながら」
こんな大層なダンジョンがこれで終わりー?そんな馬鹿な…
考えろ、私。私ならどういう理由でダンジョンを造る?…やっぱり引きこもるため?誰にも渡したくない宝を隠すため?
アホ言え、このダンジョンは魔法を使わなきゃ造るのは困難だ。こんなダンジョン造れる奴が亜空間魔法を使えないワケがない。
「渡したくない宝は自分の亜空間に仕舞うからこの案はボツ…となると引きこもるため……」
「どうしました?お母さん……」
「ユキ、ちょっと降ろしなさい。自分なりにダンジョンについて考えながら歩くから」
不思議そうにしながら言われた通りに私を降ろす。
自分の足で立つと、足元の頑丈さが分かる…気がする。何かダンジョンって防空壕代わりにもなりそうだなぁ
黙々と考えながら先ほどの部屋まで戻ってきた。何故か落とし穴が全て閉まっている
人の気配が無くなると自動的に戻るのか?えらい凄いな……
拍子抜けというか、帰りでは落とし穴は反応せず普通に入口まで戻れた。うーむ……
「…待ちなさい、少しこの部屋に用がある」
「どうしたのです?」
「先ほどから結構考え込んでおられますが……」
気になる事がある…とだけ伝え、再びあの部屋に入る
さてさて、さっき感じた違和感の正体を掴む様に集中して調べるか
「サヨ、この部屋の落とし穴をもう一回起動させて」
「?……わかりました」
スタスタとサヨが歩を進めると、先ほどと同じくガガ…と床が動き出し、逃げた所を想定して開いて行く落とし穴が次々と開いていく
しばらくして、全ての落とし穴が同じ様な穴になって開いていた
なるほど…怪しい落とし穴が分かった
それは最初にブゥミンが落ちそうになった落とし穴だ。
最終的には周りと同じ様な落とし穴になって目立たなくなっているが、あれだけゆっくり開いていく落とし穴なんかまず落ちない。しかも振動でこの床は危ないと知らせてくれる無駄機能つきだ
ではブゥミンみたいに焦って別の落とし穴に誘導する為かと言われれば違うと言える…ハズ
何故ならわざわざ面倒な仕掛けにしなくても最初からその落とし穴に落とした方が話が早いから
「落とし穴として機能してないなら、これは落とし穴ではなく…」
入口…か……?
いやいや、こんな深そうで落ちたら死にそうな入口あるわけないじゃないですかーやだー
「私は冒険家よ!危険は承知の内ってね!」
「ど、どうしました?」
穴に落ちてみるっ!
なんて言ったら止められるに決まっている
なので……
「あい!らぶ!ふぁみりーーーっ!!!」
「お母さんっ!!?」
「おねっちゃっ!?」
「えええぇぇぇ!?」
「なんだすか!?」
謎の掛け声と共に私は穴へと身を投げ出した。皆の驚愕した声は面白い
落ちてすぐガコッと音がし、上を見れば真っ暗になっていた。床が閉じた様だ
「…不味い、下降中に私の後を追って落ちてくるユキ達に掴まえてもらうつもりだったのにっ!……えぇいっ!奇跡すてっき!!」
奇跡すてっきを両手で持ち、壁に突き立て少しでも落下速度を抑える事にする
だが落下速度が落ちる所かますます早くなる。こりゃダメだ
下にクッションとなる物がある事を祈ろう。仮に固い地面だとしても、数秒生きてさえいれば奇跡ぱわーで何とかなる
…てか奇跡ぱわーでゆっくり落下すればいいんじゃね?…やめとこ、下に魔物なんかいたら気絶してる私なんかイチコロだ。何か後払いも却下されて問答無用で気絶しそうだし…
まあ大怪我した場合は治すために結局気絶するけど。だからクッションがある事を願う
「…串刺し以外でお願いしますっ!」
そんな事を祈りながらやけに深い落とし穴を私は落下していった




