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幼女、怖い話をしながら王都に行く

 まだ年相応の身体で、友達もそれなりにいた初等部の頃の話よ


 当時、特に仲が良かった――ちゃんと放課後に遊ぶ約束をし、寮に帰ってすぐに裏山に出掛けた私は『今日は何をして遊ぼうかやぁ』ってわくわく考えながら――ちゃんを待っていたわ


 でも待てども待てども――ちゃんは来なかった。すでに夕暮れ時で、裏山なせいか辺りは暗くなってた


 それでも私は待ち続けたわ、だって約束したからね


 夜になって、暗闇の恐怖にビクつきながらもあの子が来るのを待っていた。

 でもじっと待つのにも疲れ、お腹も空いて段々イライラしてきたの


 そして漸く私は思ったわけよ、あの子は約束を破ったんだって…



『――ちゃんなんか…死んじゃえばいいんだ』



 一向に寮に帰らない私を学園の教師達が探してたみたいで、裏山でぽつんと座っていた所を見つけられ、私は教師に連れられ寮に帰ったわ


 帰りながら説教されてね、私のせいじゃない!――ちゃんが悪い!って反論したけど、結局怒られたなぁ


 この怒りは――ちゃんにぶつけてやろう、と思いながら寮に帰ったら何か慌ただしくなっててね?

 何事かと私を連れてきた教師が聞くと


『――ちゃんが…ただの風邪と思ってたのに、き…急に容態が悪くなって、そのまま…』


 ……あの子は約束を破ったんじゃない、来たくても来れなかったのよ


 ただの風邪が急に死に至るほど悪化するなんてね…まるで私が死んじゃえ、と願ったのが叶ったみたいじゃない




 ――ちゃんの家でお葬式があった。私は母と一緒にもちろん参列した

 最期のお別れを言った時、あの子の母親が私に近付いてきた…


『…先生に聞いたんだけどね?…娘が亡くなる前にペドちゃんにこれをあげて、って頼んだみたいなの……ペドちゃんはウサギが好きだからって…約束を破った御詫びだって……』


 渡されたのは今や相棒とも呼べるウサギのリュック……受け取る際、あの子にいいないいな!私も欲しいっ!…なんて言ってたのを思い出したわ


 あの子の死因は結局分からず仕舞い…だけど、私は思った。余計な力を持つ私が願ったからだと…


『死ねと願ったら死んじゃうんだ…仲良しな子でも喧嘩したらつい殺しちゃうかもしれないんだぁ……じゃあ私は何も考えずに生きればいいの?人形みたいにっ!アッハハハハハハハハハハハ!!!……嗚呼アアアアアアアアアアアアアアァァァァァァっ!!!!』



☆☆☆☆☆☆



「…ってのがこのリュックにまつわる話」

「「「「……」」」」


 静かになった


「……作り話ですよね?」

「どっちがいい?」

「つ、作り話で……」

「じゃあ作り話よ」


「「「「……」」」」


 おやまぁ…皆何とも聞きたくない事聞きました、って感じにしかめっ面になった


 現在、馬車に戻って王都へ向かっている所だが、暇だし皆で怖い話でもしようって事で百物語ならぬ十物語をやってる最中だ

 何で十物語かと言えば、百も思いつかないし聞くのもダルいからだ


「…どうなんですか?ユキさん」

「作り話かと…出所不明とお母さんも言ってましたし…」

「…出所不明の方が怖くない?」


 お姉さんの言う通りだ。いつの間にか持ってましたとか呪われてる感がハンパない


「じゃ、次はユキで」

「え?こんなモヤモヤした気持ちのまま次にいくの?」

「うん」

「怖くはない話ですが」

「構わないわ」


 では…と、ユキが語り始める。ユキが語っている間はサヨと御者を交代している

 これまで会話のないマオは両手で耳を塞ぎ、目もしっかり閉じている。何てベタな事をやる娘だろうか…

 どうせ微かに聞こえるってのに無駄な事を




「これは当時0才だった私がお母さんに頼まれてお使いをした時の話です」

「0才がお使いしたの?それは怖いね!」

「ええ確かに…ですが本題は別なのでお静かに」


 お姉さんのツッコミは当前だ。普通の0才なんて赤ん坊だからお使い出来るわけない


「日も落ちてすっかり夜になってしまいましたが、頼まれていた物を無事に入手出来てホッとして帰っている途中、ふと目の前に気配を感じたので目を向けると…間違いなく人ではない何かがそこに居たのです」

「それって町中?」

「いえ、通りかかった廃村です」

「どこにお使いに行ったんですか…」


 再び話を遮られたが、ユキは気にせず続きを語り始める…私が何を頼んだのか確かに気になる…


「その所謂幽霊と言われる存在は女性…だったと思います。とりあえず立ち止まって待っていると


『子供…私の子供…返して…』


 と言いながら近寄って来ました。私はあなたの子供なんか知りませんと言ったのですが、彼女は全く聞く耳を持ちませんでした」


 良くありそうで無いような話だ。未だにその幽霊がいるなら廃村とやらに行ってみたい


「散々知らないと言っても聞かない彼女を根気強く説得していると…


『返せっ!お前の子供をよこせっ!』


 と、返してから寄越せに変わっていました。そして私は思ったのです…この女が言ってる子供ってお母さんの事じゃないかと」

「子供はあなたでしょ」

「こほん…そう考えたら沸々と怒りがこみ上げてきました。そして


『この私のご主人様を寄越せとは良く言った。貴様はあの世にも行けない…ここで消滅しろ』


 と、ぶちギレて戦闘体勢をとったら逃げる様に消えました」


 キレたユキ相手とか逃げるだろ…

 にしても久しぶりにご主人様って聞いた


「…あの女性の霊は、村が廃村になるほどの惨劇に巻き込まれて死んだ者であり…死してなお、我が子を探してさ迷い歩いているとでも…言うのだろうか……」

「なぜ口調が変わったし」


 私の話はおしまいです、とユキは話を切り上げる

 やはり幽霊より私が何を頼んだかの方が気になる話だった


「じゃあ次は私っ!」

「立候補するなんて自信ありげね」

「あるよー。これは数年前に私がお客さんに目隠しプレイを強いられた時の」

「次はサヨね、ユキと御者を交代して」

「まだ始まってもいない!」

「始まらなくていいわ」


 目隠しプレイの時点で違う怖さの話だって分かるわ。今はエロい話は求めていない


「私、ですか…そうですねぇ……では怖くないですが、私が何も出来なかった何かの話でも」

「何かってなによ」

「結局正体が掴めなかったので…」


 つまり生き物ではあるのか…しかし、サヨが何も出来なかった相手が存在するとは…


「あれはまだ私が龍人くらい弱かった頃です」

「龍人って弱いの?」

「一般的には脅威じゃない?ドラゴンの人型って感じだし」


「強くなろうと決めて一人で修行の旅をしていた時なのですが、たまたま見つけた村…小さな村でしたかね?とにかく村に休息がてら一泊させてもらおうと思ったのです。ただどの国にも属さない場所だったのが不可解でした」


 ほうほう…なかなか続きが聞きたくなる入り方だ。妙な場所にある小さな村とかいかにも何かありそうだから


「村人に泊まっていいか尋ねると…ここは危険な場所だから早く離れなさい、との一点張り…何故かと聞けば恐ろしい怪物が出るとの事でした」


 …皆サヨの話を神妙な面持ちで聞いている。ただしマオは除く


「怪物が出るのに何でここに住んでるのか疑問でしたね。修行ついでに魔物の類いなら私が退治しますと申し出てみましたが、君には無理だと断られました

 しかし、私が大丈夫とずっと粘るので村人もしぶしぶ泊まる事を許可してくれたのです」


 ふぅ…とサヨは一息入れる

 お姉さんは続きが聞きたくてウズウズしている


「その日の晩、いつ出るか分からない相手を横になって待っていると、月明かりでそこそこ明るかった部屋が急に影が出来たかの様に暗くなりました

 何事かと窓を見やると……そこには窓からはみ出るほどに巨大な目がありました。ドラゴンかと思いましたが、その目は爬虫類の様な目ではなく…確かに人間と同じ目でした」

「…目玉だけ?」

「いいえ、かなり荒い鼻息も聞こえてたので巨大な顔でしたよ…あまりに巨大なので身体を地面に寝かせてから覗いていた様です。サイクロプスとも違う様でした


 私は気色悪い魔物だと思いながら外へ飛び出すと、何故か何も居ませんでした……逃げたのかと部屋に戻ると、また奴が覗いてくるのです


 面倒なので窓の向こうの目に向かって魔法を放とうとしたら…良く分からない内に意識を失って、気付けば朝でした」


 何だそいつ…普通に遭遇したくないんですけどー?何をされたか分からない内に気絶とかこえー


「一番奇妙だったのは起きた場所がただの草原だった事です…

 幻ではなく、確かに村が存在していたハズなんですがねぇ……急に村が消えた事とあの巨人が何か関係してるか今となってはわかりません


 …もしかしたら、あの村は別の場所で未だに存在し、あの怪物に怯える生活をしてるかもしれません


 もしくは…やはり当時の私が作り出した幻であり、この世には存在しない村と怪物だった…とでも…言うのだろうか……」


「その、とでも言うのだろうか…って言葉いるの?」

「当然です。怪談話の終わりにはこの言葉を付けるのがお約束なのです」


 聞いた事ないわ

 何か最後の一言で恐怖が薄れてしまう…ついでに嘘くさい話になる


 さて、次は未だに耳を塞いでいるマオなんだが…


「ほら!悪魔のくせに怖い話程度で怯えるんじゃない!次はマオの番よ!」

「うぅ…苦手なものに種族は関係ないですよぉ」

「いいから…大した話無いかもしれないけど、あなたも怖い話の一つくらい知ってるでしょ?」


 体験となると別だが、怖い話なら世に腐るほど溢れている。マオが読んだ本の中にもあるだろう…たぶん

 マオは悩んでいたが、何か思い出したのか語りだした



「いつぐらいか忘れましたが、あれは暑くなってきてた日で…夜に喉が渇いたのでお皿に溜めてた雨水を飲もうとした舌にズキッと痛みが走ったのです

 同時になんか口からはみ出るくらいの大きさのナニかが舌の上のをモゾモゾと動いていたので、慌てて取り出したら…結構大きなムカデ」

「おいやめろ」


 気色悪い話を聞かせるなと言いたい。確かに鳥肌はたつが、私が求めてる怖さはそんなグロいもんじゃない


「その話はボツよ。他に何かない?」

「起きたら拘束されて気味の悪いオジサンに胸を揉まれてたのが一番怖かった出来事です」

「おめでとう、貴女が一番よ」


 もう怪談話は切り上げよう…違う次元の怖い話をする者が約二名いるから


「おや、終わりですか?百から十物語まで減らしたのにまだ半分程度ですが」

「もうマオ以上の話は出ないからいいわ、終わり終わりー」


 大人しく王都に着くまで寝ていよう…ぺけぴーが頑張れば明日か明後日には着くだろう


「…気分を変えてサヨの膝枕で寝てみようかな」

「私ですか?……構わないのですが、私も小さいのでちゃんと寝られるかどうか…」

「座席じゃなくて床に足を伸ばせばいけるでしょ」

「では…何か敷かないと…」


 別に直寝でいいんだけど、わざわざ布を敷いてくれた。我が侭言った私は見てるだけだ。我ながら良いご身分だこと




「準備出来ました。…ど、どうじょ」

「何で緊張する必要あんの…」


 ではではとサヨの太ももに頭を乗せて横になる

 ふむ…悪くない。サヨも体型は子供の部類に入るため体温が高いのか、何か温かい


「サヨはあったかいね」

「はひゅっ!?」

「……何か変な事言ったっけ?」

「姉さんもお母さんの前ではただの乙女という事です」


 どういう事だよ。寝ながらサヨの顔を見上げると真っ赤だった。

 膝枕でこの状態……これは好かれてるを通り越して愛されてるレベルじゃないか?私もモテる幼女だなー






「その愛しい者を見るような目で私を見るんじゃねー」

「あ、愛は愛でも家族愛です!ええっ!!」

「ならいいや」


 家族愛なら安心。仮にあいらぶゆーとか言われたら奇跡ぱわーが炸裂する所だった


「…相手を魅了する胸キュンな行動や言動を自分でしておいて突き放す…ペドちゃんっていつか刺されそうな幼女だよねー」

「どこが胸キュンなのよ…」


 はー寝よ寝よ。こう見えて療養中の身なのだ


「あぁっ……」


 ……何か珍しくユキがちょっと慌てた様な声をあげた。何だろうか?…まぁスライムでも轢いたんだろ、気にしないで寝よ



★★★★★★★★★★



 何事もなく王都に着いた。怪談話をした二日後の到着だから予定通りと言える


「あーあ…またエロ親父達を相手にする日々が始まるのかー」

「なら別の仕事すれば?」

「言ってみただけだよ……じゃ、水商売仲間が気になるから私は行くね!」

「送るわよ?」

「いいよ、王都の様子も気になるし…私が帰った事を宣伝しながら行くつもりだしっ!」

「そう…なら元気でね」

「ペドちゃん達もね!短い間だったけど楽しかったよっ!じゃあね!」


 お姉さんは挨拶を済ませると足早にさっさと行ってしまった。忙しい人だな…


「じゃ、私達も買物したら出発しましょうか」

「いいえ、私から提案…というかお願いがあります」

「なぁに?」

「一月ほど王都に滞在したいと思います」


 一月…結構長いぞ


「何で?」

「何でもです。一月ほど王都でお金を稼ぎ、物資を補給してから出発する予定です」


 もうお願いじゃなくて決定事項になってるじゃないか…ユキがここまで強く言うって事は必要な事なんだろう


「わかったわ…」

「ありがとうございます。一月となると宿に泊まるより一軒家を借りる方が安上がりです。なのでまずは借家を探しましょう」


 一軒家か…ある程度騒いでも大丈夫そうだな

 何でユキがこんな事言い出したか分からないが、せっかく王都に滞在するならそれなりに楽しむかな




★★★★★★★★★★




 何とかお母さんを説得…結構無理矢理だったけど、説得して一月の間王都に滞在する許しを得られた


 あの後無事に一軒家を借りる事が出来た。一月で12万ポッケ…安い宿だと一日大体8000ポッケ、一月だと24万はかかる。食費は別としても安上がりだ。ぺけぴーや馬車を置ける庭もあるし




 私はお母さんが寝たのを確認して姉とマオさんを起こし、重要な話がある…と切り出した


「…あなたが妙に強行するから何か有るとは思いましたが」

「眠たいです……」

「すぐ済ませますので」


 マオさんが半分夢の中で申し訳ないが、そんな事すら気にしてられないほどの話なのだ


「およそ…一ヶ月後の七月三日、この日は私達にとってかなり大事な日です」

「さっさと言って下さい」

「しちがつみっかぁ……」

「ほら、もう寝落ちしそうな子もいますし」


 ……確かに、前置きを長くしたら重要な部分を話す頃には寝てしまいそうだ


「ではさっさと本題に入ります」

「ええどうぞ」




「七月三日はお母さんの誕生日になります」


 その一言でマオさんは目を覚まし、姉と一緒に黙って真剣に聞き始めた

 …やはりお母さんは愛されてるなぁ…と思わず笑みを溢して続きを話す事にした

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