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幼女、エルフと別れる

「…暑苦しい」


 まだ外は暗いので夜中だと分かる

 私にしがみついてるアホの娘のせいで目が覚めてしまった


 マオの手をどかし、楽になったところで再び眠りにつこうと思ったら、外から歌声らしき音が聞こえてきた


「…何言ってるか分かんないから歌かどうかも分からないわね」


 とりあえず見に行ってみるかな


……



「あれ?ペドちゃん起きたんだ」

「お姉さんは寝てなかったの?」

「私は夜に強いからねぇ」


 お姉さんの隣に座って例の歌声の主の方を見やる

 ある程度予想はついてたが、歌っていたのはあのエルフだった


 明かりの為に燃えていた松明や家も今は消化されて、現在は月明かりしかない

 その月明かりの下で、エルフは黒い翼を広げて歌っている。美人だから様になってて何かムカつく


「やっぱり何て言ってるか分かんないわ」

「エルフだけが使える言語らしいよ」


 へぇ…意味は分からないが、歌声だけは素晴らしいと思う。音楽には疎い私にそう思わせるんだから相当だろう


「ああいう高い音程で歌うの何て言うの?」

「んぅ…ソプラノじゃない?私も音楽とか詳しくないから分かんないや」


 まあいいか、エルフはこちらに気付いた様子はなく、目を閉じて歌い続けている…


「…歌ってる時は、良い顔するのね」

「歌うのが好きなのでしょう」

「あら、起きたの?」

「はい」


 ユキも起きてきた。私がテントから居なくなったのに気付いたんだろう


「エルフが歌って、マオが舞う…よさそうだけど、舞にはちょっと合わないかなぁ」

「おや、少しはお母さんの御眼鏡に適いました?」

「いえ全く」

「あらまぁ…」

「言ったでしょ?家族はともかく、仲間なんか信用出来ない。だからエルフは仲間にしない…」

「でしたら彼女が仲間にしてと言い続ける限り無理ですね」


 その通り、こんだけ冒険者がいるんだから別を探せばいいんだ…ジェイコブのパーティなんかオススメだぞ


「ふぁ……寝よ」

「飽きましたか…じゃあテントに戻りましょう」

「ええ」


 いつまで歌い続けるか分からないし、別に聞いてくれと頼まれた訳でもない。最後まで付き合う必要は無いな


「お姉さんも少しは寝た方がいいわよ?」

「うん、歌が終わったら寝るよ」


 最後まで見てるんだ…

 ご苦労な事だ…ま、あの歌声だから見ていたい気持ちは分かる


 二人をほっといてテントに戻ると、私が居なくなったからか、マオはサヨにしがみついて寝ていた

 サヨの顔はどうみてもしかめっ面だ。何だか微笑ましいのでサヨとマオはそのままにして、空いてる場所に寝る事にした




☆☆☆☆☆☆




「よし、埋葬が済んだら出発よ」

「どこに埋葬するのですか?」

「妖精達が住んでる山でいいんじゃない?」

「なるほど、そこならアンデッド化はしないでしょうし良いと思います」


 うむ、何でアンデッド化しないかは気にしないでおく。聞いたらマナがどうとか魔素がどうたらって小難しい話をしだすから…サヨ辺りが


「じゃ、ちゃっちゃと転移で向かって済ましちゃいましょ」



★★★★★★★★★★



 で、ちゃっちゃと来てからちゃっちゃと穴を掘って鬼達とシリウスを埋葬した

 一応人と鬼だから離して埋めてある


「…マオ、あの着物に着替えて舞を見せてあげれば?」

「はい?」

「いいですね、他所には魂を冥界に送る為に踊る風習もありますし」

「…ここで着替えるんですか?」


 いいじゃん、私達とお姉さん、一応シリウスの仲間だったので連れてきたエルフだけなんだし

 それでも嫌がって渋る…めんどくさい


「布か何かで隠してあげれば?」

「では私が…」

「お、お手しゅうおかけします」


 噛んどる噛んどる

 着替えてる間に椅子でも用意して待っていよう


☆☆☆☆☆☆



 着替え終わってマオが舞を始めた。

 ギャラリーの私達がものっそい見てるせいか、顔が強張っているし動きも固い


 見た感じゆっくり踊るイメージだが、案外早い動きも取り入れたらしい…ちなみに踊りの構成はマオに任せてある


「イマイチ」

「緊張してるので何とも固い動きですねぇ」


 舞王の様に綺麗に長い袖を翻す事も出来てない。最近ろくに練習してなかったせいもあるか


「…ま、緊張はしてるけど目を見る限り真面目にやってるからいっか」

「ええ、要は気持ちがこもっているかです」


 その通り、鬼達もあの世から酒盛りしながら微笑ましく見ている事だろう


 …飽きた。どうやら今のマオには私を魅せるだけ実力は無いらしい

 はぁ…今日もいい天気だなー



★★★★★★★★★★



 私がいつの間にか寝てしまった間に埋葬は無事終わったようだ


 最後どうなったか知らないが…ま、いいや、私はただの見物人だったワケだし




「お、帰ってきたな!」

「まだいたんだ」

「そりゃ戦利品は取れるだけ取らなきゃな」


 がめつい奴等だ…だが戦利品と言う割には何も持ってない


「何も入手出来てないじゃない」

「…よく分からん紙は入手した」

「貸してみ」


 手渡されたのは…符だなこりゃ。符を知らない奴には何のこっちゃ分からないゴミと思うだろう


「貰っとこ」

「え…いやまぁいっか…俺にゃただの紙にしか見えないし」


 文字が書いてあるが、私には読めない。当然モブオも読めなかったハズだ


「てことでサヨ、何の符?」

「これは結界の符ですね、鬼達が妖精達の魔法を防いだのはこれのおかげでしょう」

「ふーん…ほらモブオ、持ってる紙を全部よこしなさい」

「まるでカツアゲじゃないか…」


 しぶしぶ数枚の符を私に渡す

 例によって何て書いてあるか不明だ…しかし書いてある字が違っているから効果は違うと思う


「これは遠くの相手に連絡する為の符、こっちは…転移符ですね」

「…サヨの符って他人から見ると凄い効果よね」


 私達は転移や結界が当たり前になってるけど、冒険者で使える者はそうは居ない

 何故ならそんな魔法使えるなら騎士団に入ってるハズだから


 ごく僅かに冒険したくて冒険者になるそれなりの魔法使いがいるにはいるが…


「私達が所持してる符以外は機能停止にしておきましょう」

「また面倒なことに使われたくありませんからね…急に使えなくなったらショタロウ達もビックリでしょうが」


 そういや亜人達も持ってたっけ…残念だが今後はサヨの符に頼らず頑張ってもらおう



 モブジロウ達が壊れた家の残骸で何か箱を作っている。たぶん会長達を入れる棺を作成してると思われる

 流石の五丁目の冒険者達も死体をそのまま担いで帰るという選択肢は無かったようだ


 そして壊れた家や爆薬で荒れた大地を整理してるのは虫人達だ。もはやここは虫人の里となるため、自分達で復旧するつもりらしい

 鬼達よりも数が多いので土地の拡張もするのだろう


 だが虫人を手伝っているのか、瓦礫を片付けている冒険者達も見える


「…虫人と人間が協力しあう、昔はこの光景が当たり前だったのよね」

「こうして再び協力出来ていますし、いつかまた昔の様に戻れるかもしれませんね」

「ゴキブリさえ居なければ、ですが」

「遠目に見る分には何ともないけど、近くじゃねー」

「スリッパを持ってると近寄って来ない様です」


 大昔からスリッパは活躍したのか…進化前に散々同胞がやられたトラウマが根付いているようだ

 スリッパ片手に突撃したら面白そうだが、あまりゴキブリを苛めない方が良い。飛ぶから


 ここでの用は済んだ私達は、王都へ出発する事にした。後はエルフの処遇だけだが…




 後に後にとずるずる引き延ばすのも面倒なので、エルフに話があると告げ向き合う


「私は今の貴女を仲間にするつもりは無い…いえ、仲間なんか要らない」

「うん…わかってた」

「貴女が語った不幸なんて世の中にはありふれた話よ、私にとってつまらない話。この娘、マオだって若干違うけど貴女と似たような境遇だったわ…でもマオは私と共に歩む事を許した…何でか分かる?」

「…ううん」


 運が良かった事もある。当時はユキとの二人旅に不安を感じてたし…

 だがつまらない娘だったら今頃は居ない…きっとあの時舞王に頼まれても断った


「周囲が全て敵になってしまったら、ほとんどの奴は貴女みたいに逃げるでしょうね…でもマオは諦めなかったわ、そこが気に入ったの」

「うん…」

「ま、それは決め手じゃないんだけど。この娘は私に仲間にして何て言ってない、私が唯一信頼出来る存在、それを欲しいと願ったから今ここに居る」


 時間はかかった。姉の様な存在から姉になるまでには…


「貴女とここで別れても縁があるならば必然的にまた会うでしょう。その時に再び問うわ、貴女は私達の何になりたいのか。貴女の答えに私が満足出来たら同行を許可しましょう」

「何って言われても…」

「特別にヒントをあげる。貴女が今までに一番信頼、信用出来たのは誰?どんな存在?それが答え、簡単でしょ?」

「……ぁ」

「今は答えは要らない。……私の手によって痛い思いをしても尚私達と共に歩もうとする貴女。こんな私に何を見たのか分からないけど、どのくらい先になるか分からない未来…再会した時、変わらずに私が必要と言うのなら貴女の答えを真の名前と共に聞きましょう。その時に貴女を同行させるか決めるわ」

「……うんっ!わかったよ!」


 エルフなんだから悪魔のマオと違って翼を出した格好でも問題あるまい。次に会うときは今の格好で堂々と歩ける強い精神になっていて欲しい所だ


「そうねぇ…しばらくファルコブの所で世話になるといいわ、あいつらなら悪いようにはしないはずよ」

「大丈夫かな…?」

「精霊魔法を使えるエルフなら大歓迎するでしょう」

「…わかった、聞いてみるね」


 ファルコブ達とは何処かでまた会う気がする…その時、エルフが彼等と深い信頼関係になっていれば私達の所には来ないだろう…それならそれでいい




「じゃあね、貴女の歌っている時の顔は嫌いじゃなかったわ」



★★★★★★★★★★



 私達と五丁目の冒険者達だけで帰路につく

 転移でさっさと帰ってもいいけど、もう急ぐ必要は無いため普通に歩いて帰る。転移に頼ってばかりじゃつまらん


「猿です」

「…いつぞやの黒い猿ね」

「ふ…たかが危険度E程度の猿なんざ恐るるに足らず!」

「へー…そこまで言うならあんた達に任せて私達は見物してるわ」

「……そうなると危険度Aぐらいにはね上がる」


 他人任せにするつもりだったのか、たまには戦ってへっぽこぶりを見せてみろ


「アインの馬鹿が余計な事言うから…」

「責任とって一人でやれ、たかが黒毛猿なんだろ?」

「…あれはもはや黒毛猿なんて雑魚じゃない。超危険なブラック…ブラック毛モンキーになってしまった!」

「馬鹿なくせに横文字使うなよ…余計馬鹿丸出しだぞ?」

「…そういうシュテムは分かんのか?」


 モブジロウはシュテムって名前なのか…何て忘れそうな名前だ。どうせ忘れるならモブジロウでいいや


「ふ…馬鹿と一緒にするな…全部横文字にするとブラックへぁモンキーだ」

「く…少し知ってるからって調子に乗んなよ!」



「合ってんの?」

「まぁ一応…発音はクソですが」

「クソみたいな奴等だから仕方ないわ、でも毛モンキーの方が面白いから毛モンキーでいきましょう」

「ブラックが抜けてますよ」


 毛モンキー達は相変わらず群れで行動している。まだ遠巻きに様子を見ているようだ


「襲って来ないなら無視して進もうぜ」

「だな」

「つまらん猿だな、俺の実力は見せられなかったか」


「なら私に任せなさい」

「え…やめて…」

「また余計な事言うから…」


 前回猿を結果的に挑発できたって事は、今回も同様に通用するはず…


「ばーかばーかっ!」

「ペドちゃん待って!?」

「落ち着け、猿はまだ動いちゃいない!」


 む?通用しなかったな…特に激昂して襲ってくるとかなかった


「耐えたわね」

「前に私達が奴等の仲間を殺したのを見てたのかもしれませんね」


 それで警戒していると…ならほっといても襲って来ないかも

 でも何もしないなら何故出てきたし


「そこの冒険者達よりもばーか」

「「「ウギャアアアアァァァァ!!」」」


 怒った。


「それで怒るとかどういう意味だゴラアアアアァァァァァッ!!!」

「ぶち殺したるわっ!」

「いくぞおらあああぁぁぁぁっ!!」


 ついでに冒険者達も怒った

 威勢だけは良かったが、それぞれ木の後ろに隠れて迎え撃つという情けなさ


 猿が近付いてきた所で剣をブンブン振り回す。子供かお前ら


 そして木に隠れているモブオ達を倒そうと近付いた猿達が斬られて下がる。あれにやられるとは…


「あれで案外優勢なのが不思議」

「どちらも馬鹿ですから」

「いいえ大馬鹿です」


 猿達は一旦離れて様子を見る。こいつら…強いぞ?と言わんばかりの警戒だ…何だこのレベルの低い戦い


「…ほっといて先へ行きましょう」

「そうですね」


 冒険者達を残して帰る事にした。棺はちゃんと持ってこいよー、とだけ言い残して進む


「うおっ!?何か新手の白いモコモコが来たぞ!」

「グルニャー」

「何だ猫じゃねえか……ねーよ!ホワイトキャットだコイツ!」

「助けてペドちゃん!置いてかないで!?」

「見捨てないで!」

「人聞き悪いわね」


 白猫とかまぁ懐かしい…あの時は目を閉じてる間にボッコボコにされたんだっけか


 猿達は白猫の登場で我先にと逃げ出している。所詮雑魚だな




「猫さん…」

「どう見ても虎よ、マオが相手してみる?たかが虎が大きくなって魔物になっただけよ」


 危険度は高いがな


「わかりました。撫でてみます」

「え…?そういう相手じゃない……って行っちゃったし!こらアホー!」

「まぁまぁ…案外大人しく撫でられたり…」


 相手は魔物なんだけど…

 マオがやけに自信有り気にホワイトキャットに近付く




 頭を撫でようとしたら押し倒されて腕を噛まれた


「いだああああぁぁぁっ!?」

「言わんこっちゃない。魔物相手にアホなの?ぶらっくうるふとは違うのよ?」


 仕方なく助けようとしたら、予想外な事に五丁目の冒険者達が駆け出した


「女の子を押し倒すとはハレンチな!」

「刺せ刺せ!婦女暴行は見過ごせん!」

「べ、別に颯爽と助けて好感度あがんないかなー…とか思ってないぞ!」

「お前ら頭に刺せ!たぶん死ぬ!!」

「頭は固くて刺さらんぞ!?」


 マオを噛むことに夢中な白猫は冒険者達にザクザク剣を刺される。危険度Bにしては楽に倒せそうだな…と思ったが中々死なない


「け、結構しぶといな」

「マオちゃんには悪いが、もう少し噛まれててもらおう」

「矛先がこっちきたら困るしな」


 やはりクズはクズだった


「い、いだい…っ!痛いんデスっ!!」

「ニ゛ャっ……!」


 ドス……っとホワイトキャットの腹にマオは噛まれて無い方の腕でグーパンをかました

 冒険者達に刺されても平気そうだったのに、マオの一撃で悶絶している

 噛まれてた腕も自由になったので、その隙に白猫を押し退けこちらに戻って来る


「み、見ました?わたしの必殺…痛いんデスを…!」

「かっこ悪い」

「ぐす…」

「てか噛まれた腕は大丈夫なの?」

「あ、甘噛みなので」

「アホか、思いっきり涙目じゃない。さっさと治療してもらいなさい」


 白猫はどうなったのかと視線を向けると……両目から剣を生やしてグッタリしていた。ひどい殺し方だな


 絶命した白猫の周りでモブオ達は勝利の雄叫びをあげていた


「Bランクを倒すとか…俺達はやれば出来ると証明されたな」

「報酬どれくらいだろうか…」

「報酬の前に俺達が倒したってノエルちゃんが信じてくれるかどうか」


 九割方マオの功績なのにまるで自分達だけでやったかのようだ。別に構わないけどねー


「傷は大したこと無さそうね」

「丈夫なマオさんだから軽傷で済みましたが、これが普通の人間なら簡単に噛み千切られてますよ」

「肌を触った感じじゃ普通の女子みたいにふにふになのに…不思議ね」

「く、くすぐったいです」


 あるある。他人に触られるとやけにくすぐったくなるもん




 モブオ達は必死に白猫の頭部を胴体から切断している。何してるか聞いたら、討伐したと証明するのに何を持っていけばいいか分からないから頭を丸ごと持っていくとの事


「…荷物が増えた、ペドちゃん…転移で五丁目に戻らない?」

「断る」

「そこをなんとか!ほら、死体も臭くなっちゃうし!報酬も貰わなきゃだろ?」


 そういや妖精達の件で報酬を貰えるんだっけ…うーむ、まあいいか


「仕方ないから聞いてあげましょう、お願いユキ」

「では皆さん集まって下さい」


 ユキの周りに集まる。モブオ達が来ると皆嫌そうな顔をするのは相変わらずだが、マオがより嫌悪の表情になった。囮にされた事を根に持っているらしい



★★★★★★★★★★



 もはや何度目の里帰りか分からない。しばらくは帰らないとか言った気がするけど、ありゃ嘘だ


「会長を埋めるにしても実家の方に聞いた方がよくない?どこにあるか知らないけど……王都だとは思う」

「縁を切ってあるなら別に構わないと思います」

「死んだ原因がこの国に敵対したから、とか言わない方がよいのでは?」

「…まあいっか、会長の家族に頭にぱんつ被ってる姿を見せる必要ないし」


 埋める場所は学園側にある裏山にする。死体を埋めると何か言われそうなので、バレない様にやらなければならない


 皆で行こうと思ったが、マオには初めての御使いがてら別行動をしてもらおうかな


「マオ、貴女は私の実家に連絡用の符を持っていって。使い方もちゃんと教えてね?それと子供が産まれたら教える様に言っておいて」

「わ、わかりました!」


 これから戦いでもするのかってくらい神妙な面持ちでマオは駆け出した。別に急ぐ必要はないんだけど



………


……




 埋葬が終わった。会長と友人の棺は並べて埋めた。あの世でも仲良くやってくれって事で


「さよなら会長…あの世で会えたらまた遊んであげる」


 短く、あっさりとした別れだが…私達の挨拶はこの程度でいい。私達は不敵に笑いあって別れる方がお似合いだ


 …そうだろ?……だから会長もニヤつきながら私がくたばるのをあの世で待っていろ…







 無事に御使いを済ませたマオと合流して、次は報酬をいただく為にギルドにやってきた。お金はあって困るものでも無いので貰えるもんは貰っておく


 ギルドに入るとガラガラだった。私達だけが転移で帰ってきたからだな…五丁目の冒険者と言えど、ろくに知らない奴まで連れてくる義理はない


 空いているのですぐに済みそうだ。ノエルも暇そうにしている。先にモブオを並ばせ、私達は後ろに続く…というか


「他の奴等は並ばないの?」

「むしろペドちゃん達が皆して並んでるのは何故だ?」

「意味が分からないわ」

「いや、パーティ組んでるなら代表者として誰か一人が受付すれば大丈夫なんだが…」


 ……


「パーティ組んだ記憶がない」

「じゃあ今から登録すればいいんじゃね?」

「…そうするかな」


 いちいち皆で来る必要なくなるなら登録しといた方がいい。ギルドなんか全く利用しないから気付かなかった




「という訳でパーティ組むから」

「はいはい、じゃあ必要事項に記入を」

「代筆お願い」

「…わかりましたよ、もう。じゃあメンバーは…ソープ様を除いたその四人でいいですね?仮に増えたらまた申請して下さい」


 お姉さんを知ってたか…まあ同じ五丁目出身だし。しかし増えたらね…何人まで大丈夫なんだろう…四人以上でも良いって事はやっぱり八人くらい?


「パーティって何人までいいの?」

「特に上限はありません。千人だろうと結構です、ただ分前がかなり少なくなるのでそこまで人数増やすパーティはありませんが」


 何人でもいいとか…千人とかもはや冒険者のパーティじゃないだろ


「…何でそんなに?」

「そりゃ依頼で他国に行くにはかなりの人数が必要ですから。ランクにもよりますが、最低でも四十人は必要と思います」

「へー……」

「まぁ大体は複数のパーティが一緒の依頼を受けるのが一般的ですが」


 …四人と馬で他国へ行こうとしてる私達は何なんだろうか……


「お母さん、普通の冒険者は転移も結界も使えないのでかなりの人数が必要なのです」

「交代で見張りが必要ですし…強い魔物に遭遇した場合、全滅を逃れる為にはどうしても大勢じゃないと対処できませんから」


 なるほど…敵わない魔物にはここは俺が食い止める!俺に構わず先に行け!…何て名シーンが繰り広げられてるんだな


「問題は食料でしょうね、大体が現地調達になります」

「そ、まあ他所の話はどうだっていいわ。私達は少数で問題無さそうだし」

「…それがおかしいのですけどね。さて、次はパーティ名です」


 パーティ名か…何か考えるのもめんどくさいな…五丁目冒険者とかそんなので良くない?


 …それだと他国じゃ伝わらないか、うーん…好きな食べ物とか…?


「決まりました?」

「昨日の夕飯も茸を食べました」

「少々お時間を下さい」


……



 何か真剣なユキは適当な席に向かい、私を降ろして座らせる。他の皆もそれぞれ席に着いた。どうやら家族会議をするようだ


「お姉様…流石にあのパーティ名はどうかと思います」

「はい。夕飯に茸を食べなかった次の日はどうするのです?」

「違うでしょ?それも違うでしょー?」

「じゃあ何ならいいのよ…他のパーティはどんなのがあるの?」


 少々お待ち下さい…と言ってユキは席を離れて受付に向かった。少し経つと何か紙を貰って戻ってきた


「人気のあるパーティ名を書いてもらってきました」

「お、でかしたわ。早速聞かせてちょうだい」

「はい…えー…人気なのは『白銀の○○』『漆黒の○○』…後は大体横文字が主だそうです」


 …子供が考えた名前みたい。老けたオッサンが『漆黒のなんちゃら』とか真顔で言ってたら笑うしかない


「横文字ってどんなの?」

「『ダーク○○』『ホワイト○○』と、色を使う場合が多いみたいです」

「私にも見せて下さい。どれどれ…えーっと……『白銀の幻狼団』……ぶふっ」

「笑ったら可哀想よ」

「す、すいません…」


 気持ちは分かる。幻狼団だけでもいいのに何故だか白銀が付いているのが謎だ。そいつらなりにカッコ良く考えたんだろう


「てか滅多に名乗る事のないパーティ名何かどうでもいい。私が決める、それでいいわね?」

「「…はい」」

「はいー」


 不満そうだった。ただマオだけ返事が適当だった

 良くわかってなかったのか?




「待たせたわね」

「暇なので大丈夫です。それで?パーティ名は何になりました?」

「頑張らないフィーリア一家」

「…最初の頑張らないは要ります?」

「そっちがメインよ」

「依頼を受けた際に信頼性が下がりますよ?」

「構わない」

「……わかりました。頑張らないフィーリア一家ですね」


 ノエルまで何が不満なんだ…パーティ名なんかで実力が分かる訳ないだろうに


 その後に更にパーティについての説明があった。高ランクによる割引はパーティにも有効らしい…同等ではなく五割だけだがこれはいい。一人が高ランクなら良いって訳だから


「リーダーは…ペド様でいいですね」

「ええ」

「……これで登録は大丈夫です。ちなみに報酬を受け取る際はリーダー以外でも可能です」

「わかった。ありがとう」


 終わったところで次は報酬だ

 いくらぐらい貰えるのかと思ったら…


「…ペド様達が依頼を受けた記録はありませんけど?」

「……私もギルドで依頼を受けた覚えはない」

「じゃあ駄目ですね、お疲れ様でした」


 ……タダ働きですかぁ

 ノエルに文句言ったって仕方ない…依頼を受け忘れた、というか受ける気がなかった私が悪い


「…クルルに貰ったお菓子の報酬で我慢しましょう」

「今回は残念でしたね…」


 そうだな…どうせショボい金額だったと思って忘れよう

 次はいよいよ国外に行くんだ、うじうじしてはいられない


「また世話になったわねノエル…私達はもう行くわ」

「はい。良い旅路を」

「ありがと」


 皆で話あった予定としては馬車まで転移で戻って、その後はお姉さんを王都に送ってから国外に出発だ


「そうと決まれば早く行きましょう!私達の旅は始まったばかりよ!」

「長い間応援ありがとうございました」

「……何言ってんの?」

「いえ…ふと言わなければ、と思いまして」


 変なユキだ…

 何か出鼻をくじかれたが、予定通り私達は出発する事にした


 ちなみにモブオ達はホワイトキャットの討伐報酬は貰えなかった。やはりノエルには信じられなかったようだ。ざまぁ

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