表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/245

幼女と幸運な男

「誰?あいつ」

「お母さんが刺した女性です」

「へー…正体はこんななんだ」


 いつの間にか手に刺さっていたナイフを引き抜いて、ユキに治療してもらいながら周囲を観察すると…戦闘どころか味方陣営は祝勝会でもしてる様な盛り上がりを見せている

 対するあちらさんはと言えば、偽善者は心ここにあらずと言った感じだし、偽善者の視線の先にある黒い物体…ユキが言うには私が刺した女、つまりエルフがうずくまっている

 …精霊魔法で正体を隠していた理由はエルフと思えない容姿のせいか


 あ、刺したと言えば、あの時はモブオの剣を普通に持てたな…私も知らぬ間に強化したっぽい


「モブオ、剣貸して」

「…耳はダメだぞ?」

「耳?…何か忘れてるような」

「何も忘れてないぞ!?ほらっ!ご要望の剣だ」

「ありがと」


 …やはり普通に持てる。そうか…ついに私も武器を振り回す幼女にランクアップしたのか


「見なさいユキ、普通に武器が持てる様になったわ」

「何故急に…?」

「知らん」


 理由なんかさっぱり思いつかない。でもいいじゃないか…武器が持てて悪い事では無いし


「あ…そういえば…」

「何か思い付いた?」

「はい。リ…ではなくロナさんから頂いたペンダントのおかげでは?」


 おお…可能性はある。私を守ってくれるって言ってたし、あのビリビリから守ってくれても不思議ではない


「私がどうかしました?」

「予想が合ってたら貴女は最高の友達って事」

「まぁ…まあまあっ!」


 試してみるか…

 まずは剣を手放し、地面に置く。次にペンダントを外し、再び剣を拾うと…





「あだだだだだだっ!!」

「予想は合ってましたね」


 いつもの電流が流れた様な痛みが走った…痛みに慌てて剣を放り捨てる。ちょービリビリした


「大丈夫?ペドちゃん」

「えぇ…でも貴女のペンダントのおかげで普通の武器が持てるようになったから助かったわ…いや武器とかほぼ使わないんだけど」

「うーん…そういう使い道の為にあげたんじゃないけど、ペドちゃんが喜んでくれたならいいかー」


 …奇跡すてっき以外の武器を拒絶する謎の力を抑えるとか、実はリディアが作るアイテムはとんでもない性能なんじゃないか?


「あー、ペドちゃんが私を胡散臭いものを見る目で見てきます」

「ごめん、あまりにも高性能なアイテムを作るからちょっとね」

「伊達に長い事生きてないって事ですよー…でも自分自身で傷付ける場合は効果ありませんから注意ですよ?」

「私は自分大好きだからそんな事しないわ」

「え?でもさっきむーっ!?」

「ロナ様、お疲れの様なのであちらで少々お休みください」


 何か言いかけたリディアが連行されていった…空気を読んでほっとこう

 でもそっか…リディアはロリババアだったっけ…長年生きてりゃ凄いアイテム作れても不思議じゃないか…しかも魔女だし


 手の治療も終わったのでそろそろコッソリ帰ろうかな…


「じゃ、帰りましょっか」

「いえ、まだやる事が…やらなければならない事があるのでしばらくお待ち下さい」

「えー…何なのよ?」

「…大事な事です。再び耳削ぎ事件を起こさない為にも」


 なんのこっちゃ

 サヨとマオもウンウン頷いている…私以外の皆は何か知ってるみたいだ


「ではお母さん…目を閉じて下さい」

「何でよ、いかがわしい事でもする気?」

「今はしません」


 後でする気か。今のユキの目はいたって真剣なので言われた通り目を閉じる


「背中のリュックを拝借しますね」

「私の相棒をどうするのよ?」

「いえ、血で汚れてますし…穴も空いてるので修復しないと」

「ああ…そうね、お願いするわ」


 目を開けていいと言われたので開く。ユキはリュックを持っておらず、どこにやったか聞けば亜空間にしまったと言われた

 思いっきり隠し事してるな…この身内達は


 ユキとサヨは敵の方に向かって歩き出した。やらなきゃいけない事をしに行ったのだろう。

 しばらく待とうにも暇なので、お祝いムードの冒険者達を眺める事にする




「ご覧ください!奇跡の生還を果たした…何とかさんです!」

「ミレーユよ…」

「ミレーユ…無事でよかった…」

「覚悟はいいわね?ジェイコブ」

「ジェイコ…!?き、君までジェイコブ呼ばわりするのか…」

「仲間を見捨てる輩なんかジェイコブで十分よ」

「…いざって時は助けるつもりだった」

「私が剣で刺されそうになった時がいざって時でしょうがあああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

「ぼぐぅっ…!?ぉ、おお……そ、ソコは…いかん、がな……」


 何故かジェイコブは怒りんぼ改めミレーユに股間を蹴り上げられた。

 うーむ…私の意識が無い間に面白い出来事があったみたいだ…何か一人だけ疎外感


 その様子を見ていた男性冒険者達も何故か股間を押さえて痛そうにしている。私は分からんが、男共には共感出来る痛さらしい


 じゃあ次は……




「よし…マオ、私を抱えなさい。あの黒いエルフを見に行きましょう」

「…お姉ちゃんが近付いて怯えなきゃいいですけど」


 剣で腹を刺したもんなー…怯えられてもしゃあないわ



☆☆☆☆☆☆



「近くで見るとより黒いわ」

「黒髪って珍しいんですか?」

「居る事は居るでしょうけど…私は初めて見たわ」


 エルフは近寄ってきた私達に気付かないようで、未だにうずくまって震えている…これじゃ顔も見えない

 とりあえず奇跡すてっきで頭を小突いて私達の存在に気付かせる


「……!?……は…!ひっ!」

「嫌ねぇ…怯えすぎよ。てか何?血が出てる…というか耳が片方無いわよ?」

「ああ、あなたが…!あなたがやったんじゃないっ!」

「言いがかりも甚だしいわね、腹はともかく耳をどうこうした覚えはない」

「ふ、ふざけないでっ!?私から片耳どころか精霊魔法まで奪っておいてっ!!返して…返してよっ!!」

「何なのよ…鬱陶しいっ」


 意味が分からない…返せと言われても取った覚えがないから返しようが無い


「そこの保護者のカス野郎!この女なんとかしなさいよ」

「……え、あ…ああ…」


 返事はしたものの、特に動く気配は無し


「なんだ、見た目が人外に変わったら仲間じゃないってわけか」

「そっ…そんな事はない!……その、フェル…君が本当は亜人だとしても、僕は君の仲間だよ…絶対に…!」

「………亜人?」


 あーあ……馬鹿だなコイツ…普通のエルフの容姿とは違う事を気にしてる奴を亜人呼ばわりとは…


「ふっ…ふふふふ…あっはははははっ!!ひっ…!……こ、この私を亜人呼ばわりするんだぁ……」

「いや、今のは」

「うるさいっ!……所詮あなたも容姿だけで決め付ける様な程度の低い連中と一緒ってことね…」

「聞いてくれ!」

「寄るな触るな人間!……別にいいわよ、私だってあなたを利用してただけだし」




「やったわマオ、面白い事になってきた!」

「お姉ちゃん……目が生き生きしてます…」


 そりゃ目の前でダメ男とヒステリー女の言い争いが見れるとか最高じゃないか!




「全く援護が無いと思って来てみれば…何してんだ?」

「この状況で亜人の女に夢中とはお気楽だな…!やっぱり余所者はアテにならねぇなっ!」

「もういい、俺達だけで鬼共を殲滅するぞ!」


 鬼達の相手をしていた冒険者達があの男達の様子を一瞥すると、侮蔑の目を投げ掛けて戦場に戻っていった


「あの男の味方が徐々に減ってるわ…良い傾向ね、最終的に一人だけになればいいのに」


 あのエルフも完全に拒絶したみたいだ。今まで冒険者達のリーダー気取りでいたが…もはやこれまでだな



「利用って…どういう意味なんだ……」

「あなたなんて運が良いだけの男じゃないっ!…でも、その強運にあやかれば…私は…!

 もしかしたら更なる高位の精霊と契約出来るかもしれない…そう思ってたから一緒に居ただけよ!……それが今じゃこの様よっ!高位の精霊どころか全て失ったわ!この役立たずっ!」

「なっ…そんな考えで僕と一緒に居たのかっ!」

「そうよっ!!」






「ぷっ…はっはははははっ!あーっはははははは!!聞いた?マオ!しょうもない…しょうもない奴ね!」

「わ、笑いすぎですよ!」

「…何が可笑しいの!?」

「全てよ!くだらな過ぎて笑うしかないわ…大体何でそんなに精霊にこだわるのよ?」

「…私の姿を見て分からない?そこの男みたいに…精霊魔法が無ければ私は亜人呼ばわりされるのっ!……精霊魔法が無いと……私はエルフとして認められないの…」


 たかが容姿ぐらいで大袈裟な、亜人呼ばわりする奴なんか無視すればいい。大体エルフになる事なんか、エルフとして生まれる以外無理だろうが


「お前の父親はエルフなんでしょ?母親も」

「え?……そりゃ、そうだけど」

「だったらお前もエルフじゃない。エルフになれないとか意味不明なんだけど」

「だ、だって…!こんな姿だし…」

「黒髪に黒い翼が生えてるとエルフじゃないってわけ?エルフってのも容姿にこだわる俗っぽい奴等なんだ」

「そんな事はっ……ないって言いたいけど…中には私が混血の子供だって言う奴もいる……化け物を見る目で見られる事もあった!」


 有りそうな話だ。その辺は人間と変わらないな…どうせ片親が亜人と子供を作るようなエルフの恥さらしとかそんな感じで言われてんだろ


「…高位の精霊と契約すれば…私を、馬鹿にする奴なんかきっと居なくなる…!」

「それが精霊にこだわる理由ね」


 そんな理由で契約を求められても出来ないと思うが…精霊の考えなんか分からんけど


「マオと比べると大したことないって思っちゃうわ…」

「そうですか?」


 そうだよ…自覚してない様だが


 さて、このエルフの高位の精霊に対する熱意とかどうでもいい。いかに自分が愚かな考えしているか教えてやろう…


「…その為の妖精達はどこ行ったのか」

「よんだー?」

「よんだよ」

「呼ばれたからきた!」

「参上致した」

「最後誰よ」


 変な妖精が混じっていたが、まあいい…しかし、わらわらとまた集団で来られて鬱陶しいな


「エルフ、高位の精霊ばっか気にしてるみたいだけど、この妖精達みたいな下位の精霊はどうでも良いっての?住処である山の自然を破壊して苦しめて良い存在なの?」

「そ、そんな事ない…よ?」

「嘘つきー!」

「平然と山を壊したくせにーっ!」

「だ、だって…」


 せいぜい責められてろ…精霊魔法を使えないなら、いや自分達より位の高い精霊がついてないなら妖精達も遠慮なく罵倒するだろう




「このショックを受けてる馬鹿どうしよう?」

「さあ?」

「…エルフがこの男は強運だって言ってたわね」


 ユキ達が殺すのが難しいと言った理由はそれだろう…何かしら邪魔が入って致命傷は与えられないって事か


「だったら…今まで受けてきた幸運が、今度は不幸として返ってきたなら……面白そうね」

「運が良いなんて羨ましいです」

「そうね、今日はその運に見放されてるようだけど」


 しかし他人に言われるほどの強運って事はよっぽどの事だ。運が良くなる加護でも持ってんじゃないか?


「お母さん、修復が終わりました」

「お?ありがとう……おー、新品みたいになったわ。流石はユキね」

「はい、今までで一番の裁縫を致しました」

「今面白そうな事が起きそうだからもう少しここに居ましょう」

「それは構いませんが」

「お姉様、口だけのクソ野郎も持ってきました」

「…何で?」

「え?……あ、そういえば記憶がゲフンゲフン!」


 記憶がなんだ…?私の記憶が吹っ飛んだとでも?確かに起きたらナイフが手に刺さってるなんて変な出来事があったが…


 ふーむ…あの様子ではこの相棒のリュックが関係してそうだが…

 じぃー…っとリュックを見ていると、ユキ達がソワソワしだした






「…片耳だけやたら新品ね」

「「「ビクっ」」」

「分かりやすすぎでしょ」


 つまり片耳を失ってしまったのか…このウサギは…そうか……


「くっ…!お母さんの目利きを侮ってました…」

「このままでは耳削ぎ鬼ごっこが再び…!」

「何言ってんのか知らないけど、もう直してある物で愚痴愚痴いうつもりないわ」


……



「流石は女神、ペド神様!なんと広い心の持ち主でしょう!」

「やかましい」


 確かに愚痴愚痴いうつもりはない…言ったって仕方ないから。やられたらやり返すのがフィーリア一族だ


「この口達者が耳を千切った犯人でしょ?どうしてやろうか…」

「許してないじゃないですかー」

「許すとは言ってない…そうね、私の大事な相棒の耳を千切った訳だし、こいつの大事な人間の耳でも千切ってやりましょう」

「む、無関係な人を傷付けるのはいけないと思いますっ!」

「だまらっしゃい、こいつの大事な奴なら十分関係者よ」



「…意識あろうが無かろうが一緒じゃないですか?」

「お母さんですから」

「…そうですか」


 ダメですダメですとマオがしつこく食い下がってくる…私を説得する言葉の中に優しい外道とか意味分からない事を言ってきた


「ち…わかったわかった、股間爆破で許してやるわ」

「お、お姉ちゃん!やっぱりお姉ちゃんは優しいですっ!」

「…股間爆破は優しいんですか?」

「生かしてるだけ優しいですよ」


 耳を千切った張本人には何をしても良いらしい…やっぱりマオも私達に感化され始めたっぽい


 だが肝心の爆薬が威力の高い物しか無いからなー…もれなく股間以外も吹き飛ぶだろう




「お母さん、冒険者達がやられてますよ」

「鬼に?」

「というか長に」


 おお…冒険者が宙に放り投げられてる方を見れば、確かに長がまさしく鬼の形相で蹴散らしている

 やはり鬼の力は侮れないって事か


「……!見つけたぞ小娘ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」


 長はこちらの存在を確認すると、間違いなく私を標的にして突っ込んでくる…


「よし、その口達者を起こしなさい。起きたら長の目の前に転移させましょう」

「殺されますよ?」

「何の問題もないじゃない」

「わかりました。まぁ冒険者になったなら死ぬ覚悟は出来てるでしょうし」


 絶対出来てない。弱者には態度デカイが、強敵を目の前にすると必死に命乞いをする…それが口だけの奴ってもんだ


「死ねえぇぇっ!げふぁあああっ!」


 口達者を起こす前に突っ込んできた長が結界にぶつかって見事に飛んでった。こっちが無防備に立ってる時点で少しは警戒しろ馬鹿め


「今の内に叩き起こして転移させなさい」

「はっ」

「ぐほっ!?」

「転移」


 ユキが鞭で首を叩くとすぐに起きた。そして起きた瞬間にサヨに長の目の前に飛ばされた。なかなかの早業だ


「いて……な、なんだ!?」

「クソガキめっ!……なんだ?この弱そうな人間…急に現れおって」

「お、お前こそなんだ!ハゲっ!」

「この俺に向かってハゲだと?てめえだって薄らハゲだろうがっ!死ねやああぁぁぁっ!」

「た助げっぶ…」


 ……長のパンチ一発で顔面が破壊された。別に顔が飛び散った訳ではない、ただ血塗れになっただけでまだ生きている


「実は多少は強かった…とか無かったわ」

「何もせずに助けを求めるとは情けない…」




「ぐぅぅ…た、助けてくれ……」

「…クソで雑魚な人間…強い魔力を持ってる奴を連れて来い。そうすりゃ命だけは助けてやろう」

「……っ!」


 こちらを憎々しげに睨みながら口達者に取引を持ち掛ける長。魔力を得て結界をぶち破るつもりか…


「心臓食ったってすぐに魔力を得る事は無理でしょ?」

「ええ」

「代わりに結界を破壊させるつもりでは?まぁ無理でしょうが」


 長がそこまで考えてるとは思えないが…馬鹿だし


「ケツションの事だから特に警戒する必要ないわね」

「…はぁ、どうすればお母さんに下品な言葉を言わせない様に出来るのでしょう…」

「聞こえとるわ小娘ぇっ!誰がケツションだカスっ!」

「尻から小便する奴なんかケツションで十分よ…ぷぷーっ」

「おの、おおおおのれぇ……」


 あーいい気味、馬鹿もからかってスッキリした事だし…


「ご飯にしましょう」



☆☆☆☆☆☆



「あー…血を流した後の肉は格別だわ」

「聞いた事ありませんが」

「あらまぁ…茸のくせに美味しいこと」

「串焼きだと美味しく感じるのが不思議です」


 料理してもらうのを待つのも嫌なので、結構な頻度でお世話になってるバーベキューセットで食いたい物を焼く


「誰だよっ!?こんな時に良い匂いさせてる奴はっ!」

「集中できねー…」

「あの娘達…自由すぎんだろ…」


 冒険者達の批難の声が聞こえるが、仕方ないだろ…空腹だったんだから


「お、アイツとうとうあのエルフに目をつけたわ」

「予想通りです。あの中じゃ一番の魔力持ちですし…しかし考えつくまでかなりの時間がかかりましたね。弱い上に馬鹿とは」

「利用されてたと暴露されたあの男がどう行動するか見物ですよ」


 完全にギャラリーである。一度まったりするとテンションだだ下がりだ

 何かもうあっちで勝手に最終決戦でもしてくれって感じだ。やる気無いです




「フェル殿…!…いや、この亜人めが!お、俺を助けろっ!散々お前らのために働いてやっただろ!?あの鬼をやれ!やるんだっ!」

「こっちは忙しいの!口だけの奴を助けてる暇なんか無いっ!」

「うううるさいっ!人間様に逆らうなクソ女っ!だったら俺の身代わりになれ!こっちにごっ!?」

「はねにさわるなーハゲー」

「私達のおもちゃ引っ張るな!」

「ふわふわもこもこー」


 いつの間に仲良くなったのか、エルフの羽で遊んでた妖精達が口達者を恐らく精霊魔法で撃退した


「凄いっ!この何一つ出来ない情けなさ、雑魚の鑑だわ!」

「二度とお目にかかれない様な逸材ですね」

「むしろ二度と見たくない相手です」




「……すげー役立たず。だがまぁ、あの女の魔力は確かに魅力的だな」

「きゃー、ケツションが向かったわー。逃げてー」

「うるさいわ!その食事をさっさと片付けろ!」

「断る」


 まだ余は満腹ではない

 この先の展開をモグモグしながら観戦させてもらうとする


 長がエルフに近付くと、予想通りあの男が立ちはだかった。ショックから立ち直ったようだ

 エルフはあれだけ言ったのに自分を守ろうとする男に少々ビックリしている


「んー?…あの腕輪は確か…」

「何か気になる事でもあった?」

「ええ…」


 目を細めて男を注視したリディアは何かに気付いたらしい。腕輪とか言ってたな


「あれはですねー…合っていればある意味呪いのアイテムなんです。

 身に付けていれば幸運が舞い込みますが、外せばそれ以上の不幸が返ってくるのですよ。なので一度幸運を得てしまったらほとんどの人は怖れて外すのをためらい、そのままずっと身に付けるハメになるアイテムです」

「それで呪いのアイテム…と」

「質が悪いのは脆い素材で作ってあるので壊れやすく、一生涯身に付けるのは難しいって所です」


 私がどうこう言わなくても勝手に不幸が倍返しになってたのか

 しかし作った奴は悪趣味なんてもんじゃないな…わざわざ他人の不幸を楽しむ為に無駄に凄いアイテムを作るとは…


「…あの男はアレがどんな代物か知ってるのかね」

「それは知ってるんじゃないでしょうか?」

「あんな剥き出しにして無防備なのに?」

「…言われてみれば」


 確かめるには直接聞くが一番、今まさに長を相手に剣と拳で戦ってる最中だが…ユキに頼んで長の方を相手してもらう


「うおっ!?飯食ってたと思ったら戦いの最中に不意討ちかっ!?この非常識どもめっ!」

「ハゲは黙ってなさい」

「お前らの仕業だろおおおぁぁがあああぁぁっ!!」


 ユキの挑発にあっさり乗った。奴はハゲという事をケツション以上に気にしてるとみた


「えっと…何がなにやら…」

「邪魔したわね、あなたに聞きたい事があるのよ」

「…なんだい?」

「その腕輪、どういう代物か知ってる?」

「これかい?…いや、知らないな……これは父の形見でね、どんな時も…どんな事があっても外すな、そう遺言で言われたから付け続けてるけど」


 見た目はごく普通の青色のシンプルな腕輪だが…素材が分からん。デザインじゃなければひび割れしているな…

 しかし何も教えずに息子にこんなアイテムを渡したのか…形見の品がまさか身の破滅を導くアイテムとは思ってまい


「少し、壊れかけてますねー」

「やっぱり?壊れて幸運効果が弱まったから今日はついてなかったのかも」

「…ごめん、何の話だい?」

「いいわ、教えてあげる。その腕輪が如何にゲスなアイテムか心して聞きなさい」



……





「なるほど、ね…そっか、そういう事だったんだ」

「今まで自分でも運が良いと思ってたの?」

「ああ…僕は、これまでも度々人命を助けてきたんだ…でも、中には助けられなかった命だってある。なのに遺族の方には感謝されるばかり…

 敵を倒せば常に感謝され、格上の相手や魔物にも運良く死なずにこれた……自分でも実力は無いとわかってるのにランクだけはすぐに上がるし…不思議と何をやっても上手くいったから」


 何をやっても…か

 その口振りではこれまでにかなりの幸運を授かったとみえる…ならば腕輪が無くなれば…コイツは死ぬ


「残念ね…その腕輪が完全にではなくとも壊れてしまった事で私の怒りに触れてしまった…もう不幸は始まってるの」


 もしかしたら、腕輪がまだ問題なく存在していたら…私達は今回の出来事に首を突っ込むことはなく、今頃国外を旅していたかも


 そして完全に壊れていたら…すでに私達がこの男の命を……




「違うよ」

「…何が?」

「君達に会ったのは…この腕輪が壊れる前に僕に与えてくれた最後の幸運だよ」


 なぜそうなった…エルフにだって残虐行為をしたし、コイツにだって敵対している


「君が教えてくれなければ…僕は何も知らずにあっけなく死んだだろうね…

 死ぬ前に知れてよかった…アイテム頼りに今までやってきてた情けない男だと気付けてよかったよ、自分の力に勘違いしたまま死にたくはないからね」

「そう…惜しいわ、腕輪さえ無ければそれなりの冒険者になれたかもね」

「…そうかもね、上手く行き過ぎて…何をやっても大丈夫なんだって思ってたから

 だから、君達が僕に敵意を見せてきた時…フェルの姿が変わってしまった時、どうして上手くいってない…と混乱するばかりで対処出来なかった…」


 判断能力が鍛えられてないって事か…無理もない話だ




「…お願いがある」

「聞けそうなら聞きましょう」

「あの鬼は僕にやらせてほしい…腕輪を外して戦ってみたい」

「間違いなく死ぬわよ?」

「覚悟は出来てる…そして、僕が死んだら…フェルの事を頼みたい」

「何で私達に?あいつを刺したの私なんだけど?」

「そうなんだけど…君はあの姿のフェルを最初からエルフとして扱ってくれた…君なら大丈夫そうだって何となく感じた。それだけだよ」


 ごめん被る、次の仲間は幽霊だって決めてるんだ…それに見た目が目立つエルフなんか連れていけるか!


「…惚れた女なら、生きて自分で面倒見なさい」

「…もちろんさっ!死ぬ気は無いっっ!生きて、また彼女と一緒に…旅をして……困ってる人を…今度は、自分の力で助けて感謝されてみたいっ!!」


 その夢が叶う事はほぼあり得ない。だけど足掻いてみろ、不幸をはね除ける力があると見せてほしい




「待たせたな鬼よっ!」

「くそメイドが!邪魔しおって……っ!おら来い雑魚っ!貴様なんざさっさと殺してやるわっ!用があるのは後ろの奴等だ!特に生意気な小娘になぁっ!!」

「僕が、勝つんだっ!絶対にぃぃっ!」


 あの男…シリウスが長目掛けて走り出す…腕輪を外していったので、すぐにでも不運にみまわれるだろう




「…あれ?お姉ちゃんはどこです?」

「え?まさか…!」




「くははははっ!聞いていたぞ?貴様、アイテムの運頼りで生きてきたが、今はその運が無いらしいなぁっ!」

「そうだっ…だから、お前を実力で倒してみせる!!」

「実力?…てんで雑魚のお前が?笑わせるな!」


 …金属音が聞こえる

 長は武器ではなく拳のハズなんだが…頑丈な奴だ。股間は脆かったけど


「うはは!全く当たらんぞ?可哀想だから止まってやろうか?うん?」

「……ぜぇい!」

「おーっと!今のは危なかった…ってな!うははははっ!」


 せいぜい油断してろ…だがこれではシリウスは長を倒せそうにない

 ユキがこっそり手助けしてくれればなぁ…念じてみるか、ユキお願いユキお願い…




「いたっ!?ぅっ…なんだ!…またお前かっ!?戦いの邪魔しおってぇっ!」

「もらったああぁぁぁっ!!」

「…!死ぬかボケぇぇぇっ!」


 どうやら母の念を受け取ってくれたようだ。ユキが気付かれない様に鞭で長の足を刺して止め、気を逸らした所をシリウスが仕留めにかかった…


 しかし、急に動きが鈍ったせいだろうか、聞こえてきたのは剣で切り裂く音ではなく、肉を思いきり殴った様な音……


 カラン…とシリウスの手から剣が落ちた。それを見ればどちらが勝者かすぐに分かる


 私達の手助けがあっても、やはり不幸をはね除ける事は出来ず、シリウスは逆に身体に風穴を開けられてしまった



「…ぐっ…ぉぉ……」

「くひっ…ひゃはははっ!お前本当に運が無くなってんなぁ?目に虫でも入ったか?残念だったなぁおいっ!」

「……はっ…ひ…」

「よかったじゃねぇか!自分が今までアイテム頼りだったクズだって分かったんだしな!ふひゃはははは……はっ…ぁ?」


 まだ戦いの終わってない戦場で高笑いする長の胸にはシリウスの剣が刺さっていた



「全てが終わってから勝者気分になる事ね」

「……こ、むすめぇ…っ!」


 恐らくシリウスは勝てないと予想は出来てた。なので私はシリウスが敗れた後…長を殺すべくマントの裏側にしがみつき、気付かれない様に隠れていた。流石にシリウスには気付かれただろうが、たぶん気付かないフリをしてくれたんだろう


 そして予想通りシリウスが勝つ事は不可能だったため、私が剣を拾って長に突き刺したのだ

 シリウスが剣を手放したのは私の考えが分かっていたのかもしれないな



「ずっとしがみついてたおかげで手が痛いったらないわ」

「クソガキ!貴様だけは殺してやるわっ!」


 私に対して攻撃を仕掛けようとするが、頼りになる娘がそれを許さない


「私がそう何度もお母さんが傷付くのを黙って見過ごすわけないでしょう?」

「う…ごかんっ!くそっ……馬鹿力めっ!」


 ユキに巻き付けられた鞭で長は身動きがとれない…なので今の内に


「シリウス、まだ死んじゃいないでしょ?非力な私の力じゃコイツを完全に貫く事は出来ない…だからあなたがやるのよ」

「……っ…!」

「喋らなくていい、ただこの剣を思いっきり押し込みなさい……それであなたの勝ちよ」


 もはや動く事すらままならないだろう…だが私は無理矢理剣を持たせ、残る力を鬼の長を殺させるべく使わせる


「やれっ!」

「……!!」

「ぬぐっ……!?」


 ズブッと剣が更に長の胸に突き刺さった…きっと最後の力を全て剣を刺す力に込めた事だろう…だが長を死に至らせるには届かなかった


 シリウスはその場に崩れ落ちた。もはや息は無いだろう…


「はっ…最後も…不運には、勝てなかった…みたいだな…」

「いいえ、幸運な事に最後は男らしく自分の力のみで戦えたわ」


 偽善者でつまらない存在だと思っていたが、潔く腕輪を外し、運に頼らず戦いに挑んだのは好感が持てた。その姿を見たから私は手助けした




「だからお前は死んでおけ。勝ったのは不運をはね除け…幸運にもこの私を動かしたシリウスだ!」


 軽く助走をつけて思いっきり剣を押し込む。やる気の無い私を動かした男への手向けだ。必ず殺してみせる!

 そう想ったからか、今度こそ長の身体を貫く事が出来た…ざまぁみろ


「こふっ…な、ら……貴様を…敵に回した……お、れは……」

「運が無かったわね」


 私がそう言うと何が可笑しいのか笑いながら仰向けに倒れた…流石に死んだか

 しかし刺さった剣が墓標みたいになってるなぁ




「うおおおっ!降りたら本気出すペドちゃんが勝ったぞおおおぉぉぉぉっ!!」


「流石五丁目の期待の星!良く聞けお前らっ!鬼のボスを倒したのは五丁目の冒険者だからなっ!?そこんとこ宜しく!」

「お前らは何もしてないだろ…」


 盛り上がってる暇があるなら鬼の残党をどうにかしろと…

 しかし疲れた。限界…私の本日の営業は終了しました。もう絶対に動かないぞ


「お疲れ様でした」

「ええ…後は他の連中に任せましょう…もう動きたくない。頑張らない私が頑張りすぎた」

「そうですね…」


 私とシリウスで共闘した事だし、敵対関係とかもう気にしなくていいだろう…というか皆忘れてそうだ


 ユキに抱えられてから下に倒れてるシリウスを見る…結局どこの出身か不明だが、コイツも埋めてやるか

 また五丁目の奴等に運んでもらうとしよう


「鬼のボス…コイツの首を持っていけば…!」

「なに命乞いしてた情けない野郎が手柄を横取りしようとしてんだボケぇっ!」


 口達者が袋叩きにあっている。最後までくだらない奴だな…もはやどうでもいいけど



 家族と友達の元へ行こうと視線を向ければ、シリウスに頼まれてしまったエルフが複雑な表情で立っていた…


 …忘れてた。てかまだ耳から血が出てるな。しかしどうしたもんかと悩むが、考えるのもダルいので今は身体を休ませる事に専念して後から考える事にした

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ