幼女、お願いされる
現場に着いたら俺達主人公です、って感じの集団がそれはもう主人公してた
その辺の冒険者とは思えない立派な装備をしている…こっちはほぼ私服だと言うのに
「何だろう…この敗北感…」
「何で木の上に隠れるんですか」
「私達の出番は無さそうだし…たまには傍観者になってもいいでしょ」
私達は現在、戦場から結構離れた位置から観戦している。こんな離れた所から何故向こうの様子が判るかといえば、遠見の魔法とかいう覗きの為としか思えない魔法をユキにかけてもらったからだ
件の主人公集団の先頭にいるのは俺カッコイイを体言してるかの様な整った顔立ちの青年だ
隣にはヒロインしちゃってますって感じの凄い金髪美女がいる…間違いなくユキより美人だ
「この世にあんな女がいるとはね…圧倒的敗北だわ」
「あれはエルフですよ」
「…別に耳は長くないけど」
「精霊魔法で隠してるんでしょう…エルフ何て稀少種が現れたら騒ぎになるので」
「はー…しかしエルフねぇ…そんなの仲間にするなんてますます主人公ね」
「人間とエルフは仲はそんなに悪くないですが、一緒に行動する事は非常に稀です。あの男性がエルフがピンチな所を颯爽と助けて惚れさせた、といった事も考えられます」
「女性ホイホイの相があるあの男ならあり得ますね」
エルフがピンチな所に出くわすってのがまず難しい…ユキの言う通りなら主人公補正ってのは実在するんじゃないかって思う
「あっちは美人エルフでこっちは死にかけの悪魔…この差は何だっての」
「…あれ?さっきまで良い雰囲気だったのに…急に扱いが悪くなったです…」
気のせいだ気のせい
んー…気になる実力はどうなのか…見かけ倒しって事はないハズ…
「あなた達から見たあの男はどう?勝てる?」
「勝つ事は出来ると思いますが…」
「殺すとなると難しいでしょうね…あの方を確実に殺す決め手が思いつきません…急所を狙っても何故か外れる気しかしませんし」
この人外達でも厳しいのか…人間のくせに恐ろしい奴だ。
急所を何故か外れるというのが意味わからん…謎の力が作用してるのか
「何で味方を倒そうとしてますか」
「念のためよ念のため」
後ろに控えている冒険者達も優秀そうな奴等ばかりだし、この兵士達はあいつらが何とかするだろう
「でも敵を倒す事ばかりで山火事の事なんか気にしちゃいないみたい」
「熱血漢には良くある事です。あの場に居ない低ランクの冒険者達が消火してるのでしょう」
「低ランクの冒険者達がいくら消火を頑張っても賞賛されるのは間違いなくあの男達になりますね」
敵を倒せば解決すると思ってんのかな…そこまで馬鹿じゃないと思いたい
あいつ等は戦いが終わったら妖精達にきゃーきゃー言われながら感謝される事だろう…低ランク涙目だな
でも頑張れ、ちょー頑張れ、陰で活躍するとか何かカッコイイだろ?
さて、対する敵はと言えば、ごつい鎧を着たむさ苦しい奴等だ。どこかの国の兵士みたいだが、どこの兵士だ?
わざわざこの国に来て何がしたいんだろうか…戦争でもやるのか?
「あいつ等がどの国の兵士かわかる?」
「さあ?腕章を見る限り、どの国にも属してないと思われます。知らない内に新しい国でも出来たんですかねー」
そんな簡単に国が出来るか
「…お静かに、下を誰かが通ります」
ユキに言われて黙る
耳をすませばガッシャガッシャと音がする…どうも複数いるようだ
しばらく黙って下を見てると、敵の一味と思われる兵士が通った…
そして兵士達の姿を確認した時、私は奴等に関わってはいけないと勘に頼らずともわかった…何故なら…
「頭に…女物のぱんつを被ってるっ…!」
「ですねぇ…もう帰りましょうか?」
「あの下着が伝説の兜の可能性も」
「ねーよ」
ぱんつ被ってるのは敵のお偉いさんらしき者だけだが…あんなもんに従ってる手下もどうなんだ
こんな変な意味で恐ろしい奴がいるなんて…外の世界ってのは甘いもんじゃない
「…帰りましょう、今回の相手は私達には難易度が高かった…」
「えぇー?妖精…クルルさん達はどうするんですか!?」
「あの男達が何とかするわよ」
「そうです、変態達の相手なんかしてられません」
「へ、変態じゃない可能性も…」
「ぱんつ被って真面目キャラだったらそれこそ怖いわ」
あーやれやれ…と言った感じで帰る準備を始めるユキとサヨ。この二人は戦う気力がもう無い
「…クルルさん、辛そうですよ?」
「そうだけど、こればかりはね…」
消火活動してるハズなのにクルルの体調は悪くなる一方だ。冒険者達が消火してるというのは私達の勘違いだったのか…?
「わかった、わかったわよ…ただし!私達は山火事の消火に当たる!」
「お、お姉ちゃん…!流石はわたしの旦那様です!」
「違う!」
燃えている方を見る限り、さほど燃え広がってはいない…むしろさっきまでより規模が小さい
ちゃんと消火はしてるみたいだが…何でクルルは弱っていくんだ…
「肉食べれば元気になるかも」
「肉じゃ自然の力まで回復しませんよ…」
原因を知るためにも結局行かなきゃダメか…あーあ…今日の私は働き者だなぁ
☆☆☆☆☆☆
一番燃えている場所までやってきた
やっぱりというか、装備が立派とは言えない低ランクと思われる冒険者達が消火活動をしていた
魔法を使えない者ばかりなのか、燃えていない木を切り倒し、被害が広くならない様に措置をとっている
それと同時に当然こちらにも敵がいるため、迎撃と消火を二手に別れて対応してるみたいだ
しかし、武器がぶつかり合う音が結構バラバラな位置からしてる。よく聞くと、大分山の上の方…結構離れた位置からも聞こえる
「また燃やされない様に冒険者達からも攻めてるみたいですね」
「山火事の規模から察するに、敵の数はそこまで多くなさそうです。魔法使いは確実にいるでしょうが…まぁこちらには居ないかと」
「とか言ってる間に敵さんが来ましたよ」
何でこの冒険者達の中で私達に来る…
やってきたのは三人…たった三人で行動するとは余程強さに自信があるのか、人数を割けなかったせいか…
「ウホ…こんな所に良い幼女に良い少女…んー、まぁギリギリ範囲内の少女…そして年増が一人…」
「いま絶対私に対して年増と言いましたね?死ぬがよい」
「まあまあ…落ち着きなさいな、一番年上と思わせといて実は一番若い人」
「…見た目に反して年齢順だと二番目にくるお母さんに免じて殺すのを後にしてあげます」
「ややこしいので普通に呼んでください」
とりあえずニヤニヤしてるロリコン三人組をどうにかしよう。こいつ等から目的を聞ければいいが…
「あんた達の目的って何なの?何で妖精を狙う」
「おいおい、言うわけないだろ?……だがスカートをたくしあげてくれたら教えよう」
「よし、殺そう」
私の言葉に反応したのはユキだけだった。サヨは興味なさげ、マオは反応が遅かったらしい
ユキは鎧と兜に守られていない首を狙って鞭を振るった。
見事に一瞬で頭と胴体を切断された三人はあっけなく絶命した。何で首だけ剥き出しなんだ…狙ってくれって事なのか
殺すのが余りに早すぎて敵の強さなんか分かりゃしない。雑魚臭が漂ってたし弱かったとは思うが…
…しかしそうかぁ、ついに同族を殺めたか…やったのはユキだけど
「ああ…何てこと…人を殺してしまうなんてっ…私達は人殺しという罪を背負って生きていかなきゃダメなのね…!」
「そんな事思ってないでしょうに」
「うん、罪悪感なんかありません」
「お姉ちゃん………」
マオは私のゲスい発言に何か複雑そうだ。朱に交われば赤くなる…私達のせいで優しさを失って外道になったらどうしよう
…大丈夫だよね?
「あー…殺す前に洗脳して聞けばよかった」
「次の相手にやりましょう…ただし、また私を年増と呼んだらすぐ殺します」
「ユキの見た目で年増とか…ロリコンは守備範囲狭いわねぇ…五丁目の冒険者達は幼女から熟女までいけるってのに」
「それもどうかと思いますが」
兵士の死体は放置して消火活動を始める。と言っても私以外の三人が魔法を使ってバシャバシャと水をかけるだけだが
流石魔法…かなりの早さで消火できる
私は暇なので冒険者達に切り倒された切株に座って見学しようと思ったが、何か違和感を感じてすぐ立ち上がった
「何だこれ…腐ってるじゃない」
「…その木は死んでるの…他にもいっぱい」
「あなた喋って大丈夫?」
「ん」
他にも死んでるらしいので辺りの切株も一応調べる
やっぱりどれもこれも腐っていた。
「例外なく木が腐るって事は…土地がダメになってるのかな」
土地を調べようとは思うが、暗くてよく分からない…毒でも撒いてある事も考えられるので手で触る気もない
「…どう?土地も死んでる?」
「まだ生きてる…でももうすぐ死んじゃう」
土地が死ぬって事はやっぱり毒でも撒かれてるに違いない
木を燃やす以外に土地まで手にかけるとは…相手も念入りに考えて行動したっぽい
「助けてサヨ!」
「どどどどうしました!?また変態達が来てセクハラでもされました!!?」
「ちょっと調べて欲しい事があるのよ」
「…………助けてとは?」
「そう言ったらすぐ来るかなって」
サヨはその場にがくりと四つん這いになる…正直すまんかった
でも都合の良い格好になってくれたからそのまま土地を調べてもらおう
「そのまま土地の状態を調べてちょうだい。毒とかない?」
「土地を…?………毒かはわかりませんが、何か薬品らしき物が撒かれてますね…少し時間を頂ければ詳しく調べますが」
「いえ…それだけ分かればいいわ」
魔法で浄化できるだろうか…大量に撒いたとは思わないが、仮に地下深くまで染み込んでいたら結構大変そうだ
いや実行するのはユキ達なんだけど
「木が無事な場所まで行ってみましょう。ほとんど消火された以上、別の場所をやり始める可能性もあるし…冒険者達が阻止しに攻めたと言っても低ランクじゃ不安しかない」
「確かに…では後の二人も呼び戻しましょう」
「えぇ…ユキが来たら運ぶ様に言っといて」
「はい?」
あー…眠い、いや眠いというか意識を保てない。まさか今頃になって気絶タイムに突入するんかい…おのれ奇跡すてっき、サービスなんかしちゃくれない
☆☆☆☆☆☆
「ふぁ…あー…お腹空いた」
「お目覚めですか?あれから2時間は経ってますからね…夕飯時を過ぎてますし、お腹も空いて当然です」
2時間…微妙に長いなぁ、長の記憶なんて数分しか覗いてないのに…過去を見るってのは大変だ…2時間も抱っこしてるユキはもっと大変だわ
起きた場所はまだ被害にあってない木が生い茂っている所、私が起きるまで待機していたらしい
「2時間も経ってんなら何か動きあった?」
「はい。この2時間でマオさんが足し算を出来る様になりました」
「がんばりましたっ!」
「どうでもいい」
マオは私の返事に不服そうだ。ふてくされ気味の顔がそう物語っている
短時間で足し算をマスターした事より、足し算出来なかった方が驚きだよ
「でも学園行ってないしね…計算何か知らないか。で、この2時間で新手のロリコン達と戦った?」
「いえ、現れてません。やはり例の高ランク集団に戦力を集中してると思われます」
「なら自然破壊なんてしてる暇ないかな…この辺は無事みたいだし、これ以上クルルが酷い状態になることはないわね」
さっきの土地がやられた場所からどのくらい離れた位置かは不明だが、木が無事って事は土地も大丈夫ってことだ
だったら妖精が消滅する事はあるまい
「このやり方を見る限りどうも妖精を殺す…という訳ではないみたいですね」
「つまり弱らせて捕獲しようって事か」
「容姿が容姿なので売れますからねー」
「…売れんの?バレたら危険だってのに」
「得られる利益はかなりの物です。強欲な者ならやりかねませんよ」
買う方も買う方でバレたらヤバいんだけど…可愛いから欲しくなるのも分からなくもないが
そんな事を話していたらマオにくいくいと袖を引っ張られた
「…がんばりましたっ」
「はいはい…次は引き算を覚えなさい。それさえマスターすれば貴女一人でお買い物も夢じゃないわ」
「お…おぉ…一人でお買い物…そんな高度な任務をわたしが…」
5歳児でも出来るわ
「とりあえず浄化しましょうか、土地さえ回復すればどうにかなるでしょう」
「うーん…そうね、また薬品撒かれたらその時はその時で」
「わかりました」
土地が回復してるなんて妖精か結構な実力者しか分からないとは思うが
「じゃあ始めますね、ユキさんも手伝ってください」
「はい」
二人で浄化に取り掛かるが、問題の土地からは離れているのに大丈夫か?
と思っていたが、遠くに星形の模様で光っているのが見えた。私が気絶中に範囲内に魔方陣を書いていたみたいだ。用意が良いことで
「どう?」
「ん…だいぶ良くなった」
「なら良かった」
良くなったのがクルルなのか土地かは分からないが
これだけやれば私達の出番はもう終わりでいいんじゃないか
「馬鹿共がまた土地を汚す前に頑張って欲しいわ」
「数の利があるので大丈夫でしょう」
「じゃあ一旦戻りましょう。敵も来ないならここに居る意味ないし」
「そうですね」
本来なら敵の正式な数が分からない内は用心するに越した事はない。いきなり援軍来るとか十分考えられる
「だが私はそんな事気にせず帰ることにした」
「じゃあ戻りましょうか、鬼の里で宜しかったですよね?」
「えぇ、例の鬼達の墓でも作りましょう」
「わたしが穴掘りますっ」
戦いの真っ只中で意気揚々と帰り出すのは私達くらいだ
脳筋共はせいぜい熱いバトルでもやっててくれ
☆☆☆☆☆☆
鬼の里に戻って来たら虫人で溢れかえっていた。あまりに役立たずでこいつらの事忘れてたわ
奥に向かって虫人達に退け、と命じながら進む。無駄に数が多くて邪魔すぎる
鬼タワーが見える位置まで来ると、何故かお姉さんが磔になっていた
「あら…こっちの方が面白そうね」
「助けてペドちゃん!?」
「ペドちゃん…?本当です、ペドちゃんですね」
「私達のとばっちり受けたリディア達じゃない」
磔になったお姉さんの下に燃えそうな木を集めてさあ燃やそう、って時に私達が戻って来れたようだ
何でこうなったか知らないが、危うくお姉さんがエロい目にあうどころか死ぬ所だった
「何でお姉さんを燃やそうとしてるのよ」
「この売女が私がペドちゃんにあげたはずのペンダントを持っていたのでつい」
「ああ…それ私が貸したの」
「ダメですよ?これはペドちゃん専用ですから」
てくてく近寄ってきて私に例のペンダントをかけてくれた。目の前にリディアの顔が来て胸キュン…何てことは無かった
「これを着けてたら怪我する事なかったかもね」
「ペドちゃんが怪我を?もう、お友達の贈り物を醜女に渡したりするから…」
「だんだんお姉さんの扱いが悪くなってるわよ」
「淫売の扱いなんてそんなものです」
「ペドちゃん!お友達はちゃんと選んだ方がいいよっ!これお姉さんからの忠告!…あ、うそうそ!ごめん!ほんの冗談!だから火を点けないで!?」
リディアの護衛っぽい女性が無言で火を点ける。この前も喋らなかったから寡黙で間違いないだろうが、黙々と処刑を始めるのは恐ろしい
「燃やすのはやめたげて」
「…まぁ、いいでしょう」
「へぶぅ!?」
リディアが水魔法で火を消してくれた。というかお姉さんを目標にして魔法を放ったら火も消えた
ともあれ知り合いの危機は脱したので一安心。次は周りでわさわさしてる虫人達だな、元が虫なので大量にいると何か鬱陶しい
近くに居たよく分からない虫人に何でまだここに居るのか聞いてみよう…何だっけな、この虫…カミキリ虫だっけ
「あんたらは山がピンチだってのにまだこんな所にいるの?」
「今すぐ向かいたいのは山々ですが…山なだけに」
「つまらん、燃やしていい?」
「ごめんなさい許してください!結構な年なので老い先短いのです!私には未だに妻も子供も居ないんですっ!………あれ?…死んでもいいや」
「生きろ」
生きる気力を無くした虫人を周りの仲間が励ます。虫生これからさ、その内良いメスに会えるぜ…と言った声が聞こえる
仲間の絆が深まったことだし結果オーライだな、うん…何かごめん
「そこのカブトムシ、あなたならまともに話せそうね」
「はいはい…何でここに居るかですね。我々を騙していた鬼に契約違反という事で里を譲渡してもらおうと思ったのですが、肝心の長が虚ろな目をしたまま微動だにしないので困っていた所です」
そのままカブトムシの話を聞いてみると、どうやら律儀に契約書にサインをして貰いたいとの事だった。
「何て面倒くさい…黙って奪えばいいのに」
「虫人に限った事ではないですが、人間以外の種族は契約というのをかなり重要視していますので」
「へぇ…悪魔やエルフ何かはそんなイメージ強いけど、他の亜人もそうなんだ」
「気に食わない事があれば簡単にこの契約は無かった事に…なんて言い出すのは人間ぐらいですよ」
ぬ…確かに…人間なら言いそうだ…てか私も言いそうだ
「要は契約書にサインすればいいんでしょ?サヨ、長の身体を操って書いてあげなさい」
「そう簡単に言われましても…まぁやりますけど」
出来る事前提で無茶ぶりしたが、本当に出来るらしい。年の功は伊達じゃないってことだ
とか考えてたらサヨがこちらを振り返ってジッと見てきた。サヨも勘の良い娘だな
☆☆☆☆☆☆
「これで大丈夫でしょう」
「…記名の所が『鬼の長』…大丈夫なんでしょうか」
長の名前なんか知らないし知る気もない
最初にカマキリスと呼んでいた虫人に契約書を渡した。これで虫人達がここに留まる必要はない。てか一部だけ残ってればよかったんだ
「これでこの山は我々の住処、ならば次は自然を脅かす者共の排除」
「敵は人間よ、味方も人間だけど」
「…味方からも攻撃されません?」
「多分される」
急に虫人が大量に現れたら敵と思うわな
そうだなぁ…虫人達には隣接する山に行ってもらったらどうだろうか?その旨をユキ達に相談してみる
「敵の援軍対策ですね。あの山だけなら冒険者達だけで事足りそうですし、それで宜しいと思います」
「味方にやられて無駄に死ぬ必要無いですからね」
「わかりました。我々は複数に別れて山々を見張る事にします」
「お願い」
虫人達はワサワサと移動を開始した。すっかり私の部下だ。これっきりの関係だけど
虫人とやりとりをしている最中、静かだったリディアは何かアイテムらしき眼鏡をかけて戦場である山を見ていた
「なにそれ?」
「これですか?遠見の魔法の強化版のアイテムです」
「まさか見えるの?あの山の人間達が」
「見えますよー…あっ」
「え?」
リディアの呟きと共に山の一部が爆発した
ここからでも爆発音と振動が感じられる大きな爆発だった
「何なの?」
「エルフが精霊魔法を放ったんですよ、敵と一緒に山も吹き飛ばすつもりなんですかねー」
「そんな事やって自然の加護なくなったりしないわけ?」
「加護はそう簡単には無くなりませんよ、別に大規模な自然破壊ではないですし」
確かに世界全体で見ればほんの極僅かな被害だ…だが、あそこは私達がわざわざ浄化した周辺だし、低ランクの冒険者達が消火を頑張っていた場所だ
もしかしたら巻き込まれた冒険者もいるかもしれない
そして…クルル達の住処…家だ
「今のでクルルが一瞬顔を歪めたわ」
「エルフは中位以上の精霊と契約してますからね…下位である妖精の事はあまり気にしないのかもしれません」
「自然の精霊を蔑ろにしてるのに加護があるのは納得いかない所です」
全くだ…妖精も自分達より上の精霊がついている以上エルフに楯突くなんて出来ないのだろうな
「何で妖精はエルフ何て連れてきたのかね」
「向こうが勝手に来た線もありますよ、正義感溢れる男性でしたから」
「あり得るわ」
勝手に参加して指揮を執るとか何様だって感じだが、奴はあの中では一番高ランクのハズ…他の冒険者達が従うのも無理はない
だがそもそも妖精を助ける為の戦いで妖精を苦しめてどうすんだって話だ
「お姉ちゃんお姉ちゃん!」
「いつの間にか姿が見えなかったマオじゃない」
「お墓の為の穴を掘ってました!じゃなくて!」
何か興奮してる…というか両手で大事そうに何かを持っている
「妖精さんを拾いました!」
「誘拐ね、人の事言えないわよ」
「そんな事より弱ってるんです」
「あー…弱るでしょうねぇ」
覗いてみると、マオの手に乗ってる妖精は予想以上に弱っていた
黄色の髪なので地属性か?かなりぐったりしていてマオの手から逃げる素振りもない
「…クルルと違ってヤバそうね」
「クルルさんは妖精の中では力がある方みたいですから…」
そうか…クルル基準で考えていたが、思ったより深刻そうだ
死ぬ事は無いとは言え、この状態は相当辛いだろう…思えば冒険者達の案内役の妖精達の姿が見えなかった…きっと動けない状態だったのだ
「…ん」
「?なにこれ…木の実?」
「…あげる」
クルルが急に私に木の実を差し出してきた。くれると言うなら貰うが…謎の木の実を思い切って食べてみる
…甘っ!何だこれ?めっちゃ甘い…花の蜜?でも甘いけどアッサリしてるから美味いな。見た目は木の実だが、お菓子っぽい
「良かったですね、それは妖精が作るお菓子で食べる事が出来た人間何てほんの僅かです」
「へぇ、そうなんだ…そっか…」
何て遠回しなことをする妖精だ。確かに面倒くさがりだが、お菓子を報酬に頼まれればやらない訳ではない
「…ちゃんと言葉で伝えてくれないと分かりづらいわよ」
「…ん、…お願い、です」
「わかったわ…お菓子美味しかったからね」
「行くのですね?ペドちゃん」
「えぇ」
またあそこに行くのはダルいが、すでにお菓子を食べてしまったし仕方ない…という事にしとこう
「じゃあ行きましょ。敵も味方も妖精を害するならまとめて始末すればいいわ」
再び戦場に向かう準備をする。今度は高見の見物ではない…手強そうな相手が二人ほど居るが、どうなるやら
…あ、そういえばお姉さん磔のままだったわ




