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幼女、旅を再開する

「三人だけでずるいです!」


 マイちゃんが何処かへ翔んでいった次の日の朝、昨夜の出来事をマオに教えてやったら今のセリフを頂いた


「起きない方が悪いのよ、二人は起きて勝手に着いてきたんだし」

「むぅ…夜空を翔ぶマイちゃん見たかったです」


 今まで昼間翔ぶ姿しか見てないからなぁ…悔しがる気持ちも分からなくもない




「ところで何でお二人は落ち込んでるんです?」

「さあ?」


 昨夜から無言な二人は未だに無言のままだ。大方マイちゃんと永遠のお別れをしたと思っているんだろ


「…マオさん、マイさんの様子を見たでしょう?」

「はい、辛そうでしたね」

「ですから…その、マイさんとはもう…」


 言いづらそうなサヨとは対称的にマオはのほほんとしている

 ひょっとしたら何の話かよく分かってないのかも


「マオさん、普段と変わらない様ですが…あなたはマイさんの事心配じゃなかったのですか?」

「…?お姉ちゃんがいつも通りですし…特には…でも一人で何処か行っちゃったのは心配ですね」

「お姉様が…?」


 マオは私の様子を見てマイちゃんは大丈夫だろうと判断したらしい。サヨと思考が逆だ

 良くも悪くも素直に考えるタイプだな


「マイちゃんは大丈夫なんですよね?」

「ええ」

「ほら」

「…なるほど、マオさんはお姉様が正しいと…私達はお姉様を信じていなかったという訳ですか」


 サヨは自分で出来る全ての診断をしたからなぁ…そりゃ私がマイちゃんは大丈夫だって思い込んでると判断してもおかしくないか


「じゃあサヨを安心させる為にマイちゃんがどんな状態だったか教えるとしましょうか」

「「「お願いします」」」

「学園に移動中にマイちゃんの反応見て確信したからまず間違ってないと思うわ…

 簡潔に言うとマイちゃんが元気なかった原因は食べ過ぎね」

「……食べ過ぎ?」


 学園へ向けて移動中に私なりに考えていたマイちゃんの不調の原因を本人にカマかけてみたのだ




『…そういえば、お母さん宛に大量の花が届いてたわね』

ピクッ…


『反応したわね、あなたもしかしなくても蜜を飲みまくってお腹壊したでしょ』

プルプル


 今度は震えだした。間違いない、当たっている。ホントしょうもない子だな…




「原因は最近大量に届いた物だったわ」

「…花でしょうか?」



 ぷぅ…



「そうよ、お母さんに届いた大量の花の蜜を飲みまくったんでしょうね」

「ふむ…蜜の量なんてそこまで多くないですし、多種類の花の蜜を一度に飲んでお腹を壊したって事も考えられますね」

「そうね…マイちゃんには合わない花もあったのかもね」


 実は母宛に毒性のある花が贈られてて、それをマイちゃんが飲んだという線も期待している


「…昨夜、マイさんが撒き散らしていた物は?」

「ゲロでしょ」

「きっと気分悪いときに飛び回って吐いてしまったのですね。しかしお母さん、ゲロとはお下品ですよ」

「……ふふふ、私はマイさんの嘔吐物を見て綺麗などと思っていたと……!」


 ゲロ見てそんな感想もっちゃったら泣けてくるわな…


「まあ…サヨはマイちゃんの為に頑張ったわよ、偉い偉い」

「…はぃ」


 結果的にマイちゃんは無事に済んだんだから良かったと思う





「まぁ…あれね、つまり臭いものは臭い」

「うわあああぁぁんっっ!!」


 私の話の最中に屁をこきやがった奴がいると思ったが、犯人は見事に泣く事によって自白した


「生理現象なんですからそこまで気にしなくて良いと思いますよ、女性しか居ないのですし」


 落ち込んでたサヨだが、マオをフォローする余裕はあるみたいだ


 しかしおもむろに立ち上がると部屋のドアを開け放ち、そして更に窓も全開にしてしっかり換気し始めた

 そのまま外を見ながら深呼吸してこちらに戻ってくる


 言ってる事は良かったのにやってる事は残虐極まりない

 見ろ、マオが私のベッドに潜り込んでいじけ始めたじゃないか


 だが私の布団は小さいから尻は丸出しである。頭隠して尻隠さずを見事に体現している

 流石はマオ、尻に定評がある





「起きて早々騒がしいわね、あなた達は」

「あらおはよう、風下は臭うかもしれないわよ」

「なんの話…?マオちゃんがおならでもした?」


 マオの尻がびくりと震えた

 何でこんな時だけ見事に正解を導き出すのか…

 私の部屋に上がり込んできた母はそのまま居座るつもりらしい。暇なんだな


「最近父さんを見ないわね」

「あの人なら詰所でちゃんとお勤めしてるわ」


 また捕まってんの?

 馬鹿じゃなかろうか、この家には馬鹿しかいない


 何でも母のイタズラを真に受けた父はリチャード氏をぶん殴ってそのまま御用となったらしい

 身内としては何とも恥ずかしい理由だ。絶対保釈金は払ってやらないと決心する



「居ないものはしょうがないわ、宜しく言っておいて」

「なに?もう行くの?」

「ええ、のんびりしてる内に面白いイベントが終わってたら困るし」

「忙しないわねー…そうそう、ちゃんとソープちゃんを王都に送ってあげてちょうだいね」


 忘れてた

 ウチには居なかったから、きっと母が復活して盗賊行為をしてる時に実家に向かったのだろう


「一度王都に寄らないといけないか、ついでにドワーフの様子でも見るかな」

「じゃあ行ってらっしゃい、ちゃんと妹が生まれたら一回は帰って来なさいよ」

「はいはい、サヨに頼んで転移で帰るわよ」



 さて、出発だ

 何の目的もなく出発するのはアレだから、マイちゃん騒動の時にちらっと話題になった妖精が見たくなったので、目先の目的として妖精を見るを優先しようと思う。

 幽霊はその後でいいか


 とりあえず未だに人の布団に潜り込んでるマオの尻を蹴飛ばし用意をする様に促す

 いい蹴り心地だった





 皆特に準備が必要な訳では無かったのでほんの数分で用意は整った

 荷物はほとんど亜空間に仕舞いっぱなしだったのだ。


 私は例によってうさぎのリュックだけ背負って準備完了である


「か、可愛らしいですね…お姉様」

「笑いたきゃ笑え」

「滅相もない」


 いつから所持してたか不明だが、長年連れ添った相棒だ。ズタボロになるまで使い続けよう


 ぞろぞろと玄関に向かい、新たに一人増えた旅が今再開される!


「行ってきまーす」

「一応気を付けていきなさいよ」


 今度は長い別れとなるだろう母との挨拶を済ませ、外へと足を踏み出した……






「馬車がない」






☆☆☆☆☆☆



「たった3秒で帰ってくるとか短い旅ねー」

「うるさい。全て亜人達が悪い、むしろサヨが悪い」

「えっ!?」


 馬車を王都に置いてきたのを皆して忘れてた

 結界を貼ったユキと、馬車を引くぺけぴーの二人に取りに行ってもらったが、2日もすれば戻ってくるだろう


「出鼻を挫かれたわ」

「のんびりしましょうよー」

「…あなたも大概引きこもりの素質があるわね」


 ごろごろしてても勿体無いし、今の内にサヨに妖精の居場所とか聞いておこうか…と、思っていたら




「こーんにちゃー!蝶の気配がないので遊びに来ましふぎゃっ!?」

「神聖なお姉様の部屋に窓から入ろうとは愚か者め、ちゃんと玄関から入りなさい」

「ふぁい…」


 例のハーピーが窓から侵入しようとした所でサヨに阻止された

 薄っぺらい札を顔面に受けただけだが涙目だ、それなりの威力があったらしい


 サヨはハーピーを迎えるため玄関に向かった。今回で何度目の訪問だろうか





「ふちゅつか者ですが、宜しくお願いします」

「挨拶間違ってる上に言えてませんよ、入る時はお邪魔しますでしょ」

「僕は邪魔するつもりないのに…変な挨拶…」




「…何でお邪魔します何て言うんですか?」

「言葉通り邪魔する為でしょ。夕飯時に来られたら『こんな時間に常識ないんかい!帰れボケ!』と返すのが礼儀よ」

「それはうそと分かります」


 でも感じとしてはそんなもんじゃないか?知人の家を訪ねて、仮に何か作業中だった場合お邪魔しますで良いのでは?

 詳しくは知らん。他人の家に行く時は考えなしに使ってる言葉だし


 サヨとハーピーが部屋に向かってくる音が聞こえるが…カツカツ言ってるのはハーピーの爪か?



「やっと来れたー」

「何度か来たわね、結局何か用でもあったの?」

「ううん?遊びに来ただけ」


 町を燃やした張本人の一人がホイホイ遊びに来るとは度胸がある


 ハーピーとはいえ一応座れる様で、膝?を曲げて器用に座る。何故か私の隣に


「…何故、お姉様の隣に座るのですか?」

「一番権力ありそうだからー」

「…腹黒い子!」


 何かすでにサヨには見切りをつけてる感がある…慕われてないなぁ


 そして暇人な母が再び部屋に現れた


「誰か来たかなと思ったらまあ美味しそう…」

「改めて貴女が私の母と認識したわ」


 初対面の最初の一言がこれである。一目で鳥肉と判断するとは…


「遊びに来たのに命の危機?」

「実際に食べるわけないでしょう…」


 腰から上が不味そうだもんなぁ…下は羽毛で埋まってるが、鳥と同じか分からないし…


 ……



「な、なに?急にじっと見て…」

「…何か気になる事でも?」


 うむ…凄く気になる


「ハーピーは卵産むのん?」

「…うー?」

「だから、あなた達は卵産むの?」

「…知らない」


 言うつもりは無い…と

 特に恥ずかしい話題ではないと思うが、ハーピーには言い難い事なのかも



「言わぬなら 産ませてみよう 奇跡ぱわー」

「川柳ですね」

「いやぁぁぁぁ!!」


 慌てて私の隣から避難する

 避難した先はヒエラルキー最下位と思われるマオの後ろだ


「助けを求める相手を間違えたわねっ!その娘が役に立つ訳がない!」

「ひどいですっ!?」

「何でサヨちゃんにいかないかなー」

「元主様は下僕になっちゃったから…」

「誰が下僕ですか」


 何とも乗り換えの早い種族だ。忠誠より権力を取るか…まるでクズな貴族みたいだな、永く繁栄するための習性だろうか?


「サヨちゃん…人望ないね」

「盗賊紛いな事をする方に言われたくないです」

「私はあるもの」

「あなたの行いによってお姉様に迷惑がかかるかもしれませんのでまともな人物になって欲しいものです」


 この二人は割と仲悪いな、サヨが一方的に毛嫌いしてる感じだが

 先代の名に傷がつくような行為をする奴が嫌いなのかも…そうなら私はどうなんだと




「サヨちゃんこそ蝶の事で面倒な事態にして迷惑かけたじゃない」

「あ…あれは…」

「健康状態を調べる簡単な魔法を使ってれば良かったのにねー?細菌全て調べたんだっけ?…プッ…お疲れ様!ププーッ!マオちゃんのおならプッププー」

「うわあああぁぁぁぁぁん!!」

「酷いとばっちりを受けた子がいる」


 よもや再び屁の話題を出されるとは思ってなかっただろう


「言わせておけば…一発ぶちかましてやりましょうか?」

「やってごらんなさいな…ただし、私を害そうものならもれなくペドちゃんが怒る」

「ぬぐぐぐぐぐ…!」


 残念だなサヨ…我が母ながら口撃だけは優秀なんだ

 サヨが無念の表情を私に向けてくるが、残念ながら母が言ってる事は本当だ


「事実だから諦めなさい」

「…く、分かりました」


 ものっそい不承不承と言った感じで返事された

 私としては母というより、まだ見ぬ妹か弟に万が一の事がない様に言っただけだが


「あなたが卵産むのか言わないせいでこんな状況になったじゃない」

「あれ?僕のせいなの?」

「そうよ、結局どっちなの?卵産むの?人みたいに赤ちゃん産むの?」

「…卵産むのん」


 そうか…卵産むのか…

 気になってた事が一つ解決して良かった


「卵なら食えるか」

「だめ、ぜったい」

「お姉ちゃんって何でも食べようとしますね、その内お腹壊しそうです」

「私はマイちゃんとは違うわ。直感でヤバイと判断したらムカつく奴に食わせる」

「えげつないです…」


 まあハーピーの卵料理の話は聞かないから食すには向いてないかもしれない

 どうしても食べたいって訳でもないし、別に食べなくていいか





 その後しばらく談笑してたが、特に話題も無くなったので寝る事にした

 ハーピーはマオと仲良くなったらしく二人で話し込んでいる。きっと精神年齢が近いからだろう


 ユキが帰って来るまでまだまだかかる…ハズ。何だかあの娘は明日には帰ってきそうだな…

 私達はこの広さの国を非常識な速度で渡り歩いてる気がする。思えば王都から五丁目までおかしな時間で帰り着いたし


「…次からはもっとゆっくり行きましょう」





★★★★★★★★★★



「貴女の事だからすぐ戻ると思ったわ、でも次の日の朝に帰るとは予想外よ。この国実は狭いんじゃないかと思ったわ」

「頑張りました」


 頑張りすぎだよ

 およそ600kmの距離を何だと思ってる




「ま、何はともあれご苦労様。せっかく朝に戻って来たんだし早めに出発しましょうか」

「そうですね…一つお願い事があるのですが、途中四丁目に寄って宜しいですか?」

「何で?」

「上級者になってしまったので、どのみち義務が生じてしまうなら宿などで割引が利く初段にランクアップしようかと」

「ふむ、それでしたら私もランクを上げましょうか」


 サヨも名乗りをあげた。私の知らない間に冒険者登録したみたいだ


 で、宿や武器屋で利く割引だが、ランク上がる毎に優遇されるんだっけか…


「だったら最高ランクでも目指せば?」

「あまりに高いランクは目立ちますよ?」

「それもそうね…まあ許可しましょう、でも何で四丁目?」

「五丁目には試験官がいませんから」


 五丁目だもんな…

 滅多にランクアップ目指す奴はいまい…


「じゃあまずは四丁目に向かいましょう」

「「はい」」


 一人返事がなかったが、それは未だに寝てるからだ。私より遅く起きるとは許せん


 再び蹴り心地の良い尻を蹴飛ばして起こし、久々の旅路に出る




「今度こそ行ってくるわ」

「はい行ってらっしゃい」


 母に見送られ、馬車が置いてある場所まで抱っこちゃんで進む

 途中でソープお姉さんは回収済みだ


 次はどんな面白いイベントがあるかなぁ…と期待しながら久々に乗る馬車を目指した

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