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幼女と蝶

「いい天気ね…」

「そうですね…」


 草原まで出向き、家族一行でのんびりピクニックと洒落込む

 ことはなく、今日は親友が旅立つ大事な日なので皆してしんみりした雰囲気を出している


「私としては騒ぎながらマイちゃんを見送りたいんだけど?」

「すいません…」

「だって寂しいじゃないですかぁ」

「それでもよ」


 今日はマイちゃんが空に向かって最期の飛翔を見せてくれる…マイちゃんの死に場所は大地ではなく空なのだ


「さて、マイちゃん…」

パタ…

「元気無いわね…無理もないけど。でも私はあなたの翔んでる姿が見たいの」


 死期が近いマイちゃんには羽根を動かすのも辛いと思うが…


「マイちゃん…」


 私の呼び掛けにパタパタと、辛いだろうに羽ばたいてくれるマイちゃん。優しい親友だな


 前の様に元気にとはいかないが、ゆったりと…優雅に空を舞うマイちゃんを皆で眺める


 しばらく上空で舞っていたマイちゃんだが体力が無くなったのか、旋回を止めて上空へ向けて飛び始めた


 空の彼方に旅立つマイちゃんを皆で見送る


「さようなら…私の親友」





☆☆☆☆☆☆



「胸くそ悪い目覚めね」


 ろくでもない夢を見た。きっとサヨが直前に縁起でもない事を言ったせいだ


 いつかは今見た夢が現実になるだろうが、それはまだまだ先の…遠い未来の話だ


「あれ?お姉ちゃんもう起きたんですか?まだ一時間も経ってないですよ?」

「夢見が悪くてね、ていうか私はいつの間に寝たのやら」


 ベッドに座ったのは覚えている、つまりそのままコテンと横になって寝てしまったという事か


「二度寝するのも何だし、ユキ達の所に行ってみるかな」

「マイさんの診察結果が気になりますよね」

「マイちゃんに異常なんて無いわよ」


 ちょっと元気ないだけなのに心配しすぎだと思う。少し寝てりゃ良くなる程度と思うが…


「ま、皆してマイちゃんを心配してくれてるのは良いことよね」



☆☆☆☆☆☆



 というわけでユキ達が居る居間に戻ってきた。

 床に魔方陣なんぞ書いて何だか良くわからない診断をしている


「てかちゃんと床掃除しなさいよ」

「それはもちろんです」

「まだ診察してるの?」

「姉さんが修得してる診察方法を全て試すそうです」


 どんだけ知識あるんだ…

 魔法でちゃちゃっと診察するだけで良いだろうに

 サヨはこちらに気付かないほど集中してるみたいだし、仕方ないから終わるのを待とう







「……ふむぅ」

「終わったぁ?」

「あらお姉様……いらしてたのですね」

「ええ、で?結果は?異常無しでしょうけど」


 何やら渋い顔をするサヨ

 これは予想通り異常は見当たらなかったって顔だ


「……仰る通り、病気に繋がるあらゆる細菌を調べましたが、マイさんにはそれらしき物は見当たりませんでした」

「そんなもん調べてたの?」


 そりゃ時間かかる訳だ

 細菌とか良く知らないが、かなりの種類があるって事は何となく分かる


「問題ないなら良かったわね」

「……お姉様、異常無しで衰弱するとしたら何が考えられますか?」


 それは……老化とか?

 しかし、マイちゃんが年寄りとは思えない…だって肉ガッツリ食ってるし


「……普通の蝶の寿命は長くて1ヶ月程度です」

「マイちゃんは普通じゃないから当てはまらないわね」

「お姉様……」


 魔方陣の中央に佇むマイちゃんを見る

 元気がない原因は別にきっとある…何だ…?


 考えろ、私…

 ダイエットによる断食のせいって訳でも無いみたいだし

 そもそもマイちゃんが食事を我慢できるとは思えない





「お姉様、一つ提案が」

「何よ?」

「マイさんはどうやら半精霊みたいになってますし、完全な精霊に昇格してあげたらどうでしょう?」


 マイちゃんって精霊に片足突っ込んでる存在だったんだ…元気になれって願っただけでどんだけ進化してんだ

 奇跡ぱわー恐るべし


 しかし、精霊って……


「私の中では精霊って目に見えない存在になってんだけど」

「違いますよ?有名な所ですと、妖精が目に見える精霊の代表格かと」


 ああ…妖精って一応精霊か

 自然から生まれた存在だっけ…容姿としては羽根が生えた小人か


「ユニクスの神域で見た小人みたいな奴か」

「……神域に…小人?」

「姉さんお気になさらず、お母さんはたまにおかしくなるのです」

「馬鹿娘はもはや完全に悪口言うようになったわね」


 全くもって嘆かわしい

 しかし良く考えなくても私の影響っぽい。その内クズ呼ばわりされるんだろうか…おお、こわいこわい


「小人はともかく、精霊になって何かメリットあるの?」

「はい。力も上昇しますし、自然から力を借りるので少ない魔力で魔法を行使出来ます。今は体当たりが主なマイさんには攻撃手段が増えて良いかと」


 そりゃ良いことだが…果たしてマイちゃんが魔法なんか使えるか疑問だ


「何より不老になりますので、今後寿命による死からは免れるでしょう…病気は一部かかってしまいますが、それでも現状よりはマシです

 力も得られて今後も変わらず一緒に居られる…私としては…ベストな方法だと、思い…ました……はい……ぐすん」

「いきなり泣き出してどうしたの?ん?」


「今のお姉ちゃんは悪魔も泣いて逃げ出す様な表情をしてます。なので、わたしも悪魔として逃げようと思います」

「アホは黙ってろ」

「ぐすん」


 何故か二人に増えた


「…私も空気を読んで泣いた方が良いのでしょうか?」

「うるさい」


 サヨは何故私が急に睨み付けたか分かってない様だ

 不思議そうな顔をして泣くというなかなか高度な技を披露している




「何か…気にさわる様な事を言ってしまったでしょうか…?」

「いいえ、サヨは悪くはないわ。ただね…私は不老って嫌いなのよね」


 サヨは最善の方法を考えたのだろう

 だから文句を言うつもりは無い…のだけど


「不老なんて行き着く先は孤独しかないじゃない。まさか不老で孤独だった貴女がそんな手段を考えるとは驚いたわ」

「うぅ…すいません…」


「お母さん、不老であっても不死という訳では…」

「そうね、死にはするわね。じゃあどうやって?サヨみたいに呪いを受ける?重い病気になる?自殺する?それとも…誰かに殺される?」

「「うぅ……」」


 どう考えても安らかな死が出来るとは思えない

 世の中には不老に憧れる者が結構居るのだろうけど、ずっと一人で生きていける奴しか無理じゃないかと思う…


「サヨは私を中心に物事を考える傾向があるわね、もう少し仲間…家族達の事ぐらいは考える様になさい」

「はい…肝に銘じておきます」


 そんなに怒った訳ではないのに大分凹んでるな…

 一番マイちゃんの為に働いた者が落ち込むとかどうなんだ?


 落ち込ませたのは私だが、そもそもの原因はマイちゃんだ

 そこんところ覚えておけとマイちゃんに言いたい


 そんな事を考えながらマイちゃんをじぃーっと見詰めてたらフイッと視線を逸らされた


 この駄蝶め……何かやましい事があるな?




「とりあえずマイちゃんの事は後回しね」

「そろそろ終わったぁ?いい加減床の落書き消しておいてねー」

「落書き……」


 母の言葉にサヨは更に凹んだ




★★★★★★★★★★



 あれから大分時間も経って現在は夜中である

 元々夜型だった私にはこの時間まで起きておく程度なら造作もない


「…さてさて」


 もちろん何の考えも無しに夜更かししていた訳ではない…と思いたいが

 マイちゃんにどんな罰を強いるか考えていたらこんな時間だった


 …我ながら暇だな






 居間に行くと、マイちゃんは変わらず佇んでいた

 未だに体調は快復してないみたいだな…だがそんなの関係ない


 むんずとマイちゃんの羽根を掴む

 そしてそのまま外まで連れ出す。大きいので引きずる形になってるが気にしない



「ぺけぴー、起きてる?」

『くるっくー』


 おお…何だかぺけぴーの鳴き声を聞くのも久々かも


「ちょっと私を乗せて走ってちょうだい。目的地は案内するわ」

『くるっくー』


 私が乗れる様に一番低い位置までしゃがんでくれるぺけぴー。小さくてごめんなさい


 マイちゃんは乗れないので引き続き掴んだままの状態で移動する

 何だか恨めしい視線を感じるが、それは私達がする側だと思う


「とりあえず直進して」

『くるっくー!』


 夜中だから静かにする様にと注意して出発する


 走ってる最中に背後から誰かが着いてきてる気がした

 私は気配を探るとか出来ないけど何となく勘がそう言っている


「たぶん二人…ユキとサヨかな」


 過保護な娘達の事だ。夜中に家を出た私を追ってきたのだろう

 寝てたか起きてたかは不明だ


「満月じゃないけど、結構月明かりで明るいわね…」


 ちらほらと灯りが点いてる家が見える。夜更かしする不規則な生活をしてるのは冒険者と思われる

 出歩いてる者もいるが、ユニクス達が滞在してるのでぺけぴーを見ても特に反応はない



「んー…夜は涼しいから良いわねー」


 夜の五丁目の町並みを見ながら目的地へ向けて進んで行った







 しばらくして目的地に到着した

 場所はと言うと、五丁目で一番大きい建物である学園だ


 改めて行くと結構距離があったんだな…


 ぺけぴーに待つように言い、校舎に忍び込む

 セキュリティの抜け穴は在学中に調査済みだ


 懐かしい学園だが、気にせずそのまま屋上を目指す。もたもたして宿直の先公に会っても困るし


 そして屋上の入口に着いた。もちろんドアに鍵がかかっている


「ふっ…私にはユキに作らせたスペアキーがあるのよ」


 たかがドア一枚余裕です

 そして何の問題もなく鍵は開いた


 引きずり過ぎたのかグッタリしてるマイちゃんを連れて屋上へと足を踏み入れた





「…高い所に来ても星空が近くなるって訳でもないか」


 それでも見事な星空を眺める事が出来た

 だが星を眺めるなんてロマンチックな事をやりに来たわけではない


 掴んでいたマイちゃんの羽根を離す。羽根も頑丈になっているから出来る荒業だ




「私はね…完治したらやりたい事が色々あった訳よ」


 星空を見ながら語っているからマイちゃんの様子は分からない

 なので視線を下げてマイちゃんと目線を合わせる


「やっぱり国外に行く事が一番ね。人外種族をたくさん見たいし、色んな物を食べてみたい」


「魔物も見たいわね…どうせならユキに図鑑作らせて全種揃えてみようかな?」


「…まあ、そんな感じでやりたい事が山ほどあるんだけど…その中にマイちゃんの空を翔んでる姿を眺めるってのもあるわ」

パタ…


 漸くマイちゃんが反応した


「この月明かりと星空、夜だけど空中散歩するには絶好の機会じゃない?」


 再び視線を空に向ける

 月までどれくらい距離があるんだろうか…

 子供が空の星を掴もうと手を伸ばす気持ちは良く分かる




「…私はあなたの翔んでる姿が見たいの」


 まるで昼間に見た夢の様な展開だ…


パタパタ…


 と、フラフラしてるが羽根を羽ばたかせ空に飛翔する私の親友


 徐々に高度を上げ、星空の下を悠然と游いでいる


「やっぱり…マイちゃんには空が似合うわ」


 そういえば観客は私だけじゃなかったっけ…

 どうせなら一緒にマイちゃんを見るとするか


「そろそろ出てきたら?」


 屋上のドアの方に向けて声をかけると、予想通りユキとサヨが現れた


「やはりお気づきでしたね」

「勘だけどね」


 空を舞うマイちゃんを見る私の両隣に立つ二人。そのまましばらく無言で空を眺めた




「綺麗ですね…」

「そうね」

「流石はマイさんです」


 ふと、マイちゃんが何かキラキラした物を撒き散らしながら飛翔しだした


「鱗粉…でしょうか?」

「いえ…あれは…何か水状の…」

「…血?」


 二人の会話を余所にマイちゃん観賞を続ける

 何だか動きが鈍くなってきたな…体調的に限界なのか?残念だが、これで終了か



「マイちゃん!これだけ皆を心配させたんだから罰として40cmくらいに小型化してから帰って来なさいっ!」


 空に向かって叫んだ

 きっと聞こえていたのだろう、マイちゃんは月に向かって見えなくなるほど上空に羽ばたいて視界から姿を消した


 すでにマイちゃんが見えないこの場に居てもしょうがないので帰るとするか


「…じゃ、帰りましょう。流石に眠いわ」


 二人は何も言わなかった

 スタスタと歩き出した私の後ろを着いてきてはいるが…


 下で待っていたぺけぴーに乗り、家に帰る

 結局二人は無言のままで静かな帰宅となった。家まで辿り着き、そのままベッドに直行する


 私の部屋に居る一人仲間外れだったアホの娘は、悪魔のくせに夜の10時にはスヤスヤと幸せそうに寝ていた


 良い夢でも見てるのか、表情は緩んでいる。その姿を見たら、何だか少しだけ癒された

 次の夢見はきっと良いと感じ、私も眠りにつく事にした

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