表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/245

幼女、療養中ほのぼのと過ごす

「マイちゃん、これは?」

「トリ」

「おー…中々良いわね」


 今、私が何をしてるかと言えば、マイちゃんがそろそろ喋れる様になったんじゃないかと試している所だ

 つまり、動けないからマイちゃんで暇つぶししてるのだ。今見せたのはユキが描いた鳥の絵だ


「じゃあ私の名前は?」

「……ゲェ…ド…」

「誰が外道よ」


 失礼な

 鳥は言えて私の名前が言えないとはどういう事だ!


「…じゃあこの鶏肉料理は?」

「フライ・ドゥ・ティキン」

「明らかに発音良すぎでしょ。馬鹿にしてんの?どれだけ鳥に対して執着心があるわけ?」

パタパタ


 羽ばたいて誤魔化すな


「…ふーむ、紹介された時から気になってましたが…まさか喋るとは、お姉様のお仲間はどこか変わっていらっしゃる」

「鳥に関する事ばかり喋れて何の意味があるっての」


 マイちゃんが言うフライドゥティキンをつまみながら雑談に興じる

 大分鳥の在庫があるらしく、もう3日ほど鳥肉料理が続いている。おやつまで鶏とか飽きたわ


「一体どこから声が出てるのでしょう…」

「考えるだけ無駄よ」


 ちなみに今は私とサヨとマイちゃんしか居ない。ユキとマオとぺけぴーは私が動けない内に資金稼ぎに行っている

 上級者になってしまったので、稼ぐには効率の良い危険度が高い魔物をマオの修行がてら狩っている。


 ランク初段からは試験を受けなきゃ上がらないので、ドラゴンを狩ろうがランクアップの心配はない。

 緊急事態に参戦する義務は生じてしまったが、試験制度のお陰で高ランクになって目立つ事はないから安心だ


「でもまぁ…マイちゃんの成長具合と言えば喋る事より成長してる事があるわね」

「ほぅ…私は以前のマイさんを知りませんので分かりませんが…一体何でしょう?」

「明らかに巨大化してるわ」


 再会した当初は50cm程度だったのに、今や軽く80cmはある


「肉ばっか食べてるから巨大化しちゃうのよ…蝶らしく花の蜜でも吸ってなさいな」

パタパタ…

「まぁまぁお姉様…面白パーティの一員としては優秀じゃないですか」

「言っておくけど、私は面白メンバーに含まれてないから」

「またまたご冗談を…」


 あの真面目だったボスキャラがたった数日でこの有り様だ。

 冗談でボケを目指せと言ったが、本当にボケになってしまうかもしれない



コンコン



 ドアをノックされたかと思ったが、どうやら窓を叩いたらしい。誰だか知らんがマナーのなってない奴だな


「こ、こんにち…ひぃっ!?い、居たああぁぁぁ!!」

パタパタッ!


 窓を開けて恐る恐る覗き込んできたかと思えばバッサバッサと飛び立っていった

 そしてマイちゃんが捕食でもする気なのか追っていった。


 ありゃ確か、いつぞやの僕っ娘ハーピーだな


「何しに来たんだか…」

「お姉様の気絶中に何度か来たのですが…その度に今の様にマイさんに追われて逃げてますので、私にも何しに来たのか不明です」


 助けてやれよ…毎回追われてたならトラウマになってんじゃないか?

 マイちゃんには食材になりそうにない鳥は捕食しない様に言っておこう


「あの調子じゃしばらく帰って来そうにないわね」

「しかし…普通じゃないとはいえ、蝶相手に逃げ回るとは情けない…もっと鍛えておくべきでした」

「マイちゃんは確か地竜より強いからねぇ…今なら飛竜にも勝てそうだわ」

「…流石はお姉様の御力。蝶ですら非常識になりますか」


 言っておくが、私はマイちゃんを元気にしただけだ。奇跡ぱわーが勝手に余計な強化をしただけだぞ






「ただいま戻りました」

「つ、疲れました…」


 金稼ぎに行っていた二人が帰ってきた。ユキは余裕そうだが、マオはかなりしんどそうだ


「どう?懐は潤った?」

「マオさんの修行も兼ねてましたので、そんなに強い魔物を討伐してませんからそこまでは…」

「うー…面目ないです…」


 別にお金に困ってる訳じゃないから良いんだけどね

 だがマオとかの破れた服やらを買い直さなければならないし、余裕があるに越した事はない。サヨ何か巫女服しか持ってなさそうだもんな


「サヨはちゃんと着替え持ってるの?」

「洗濯した時の為にもう一着はちゃんと持ってます」

「まさか下着も1セットしか持ってないとか言わないわよね?」

「下着ですか?着けてませんよ」

「ぱんつはいてない?」

「はい」


 痴女だ、痴女がいる

 脱いだら素っ裸なんですとか聞いてどうすれば良いんだ


「買いなさい。私の家族に痴女がいる何て許せないわ」

「はぁ…ですが、巫女服に下着は着けてはいけないと言われましたので」

「騙されてんじゃない?その服を売り付けた奴は間違いなく変態よ」

「うーん…まあ、お姉様がそう仰るなら着けましょう」


 そうしてくれ。しかし、聞いておいて良かった…後、問題なのは……


「マオ、そろそろ邪魔な翼を仕舞っていいと思うの。新しい服買えないじゃない」

「どう仕舞うんです?」

「知らないわよ、あなたの身体の一部なんだから気合いで何とかしなさい」


 むむむ…と目を瞑って唸る悪魔。言っといて何だけど、あんな翼を身体の何処に仕舞うんだろう…

 しかし、舞王は角はあったけど、翼は無かったから仕舞ってたんだと思う。だったらマオも収納出来るハズだ


「気合い入れて頑張りなさい。そんな格好のままじゃ旅に連れていけないわよ」

「ぬううぅぅぅぅっ!」


 駄目だこりゃ

 最終手段はむしり取るしかないな。多分また生えてくるだろう


「母であるマオウさんがいらっしゃればコツとか聞けますけど…」

「居ないもんは仕方ないわ」

「連れて来ましょうか?」


 サヨが何でもない風な感じでおかしな事を言った。誰の事か分かってるのか?


「あなた舞王の事知ってるの?」

「舞踊をする方ですよね?以前お会いした事ありますよ。マオさんのお母様とは意外ですが」


 世間は狭いなぁ…

 きっと亜人達の勧誘活動中に知り合ったんだろう、悪魔は居なかったから拒否されたんだろうけど


「んー…舞王を呼ぶのも悪いし、私が復帰間近になっても無理だったら頼むわ」

「分かりました」


 これでマオの翼を何とかする手段は出来たか…早速サヨが役に立ったな

 軽い感じで連れて来るって言ってたから転移で行くんだろ





「そういえば、サヨ達の仲間に鬼も居なかったわね…ちょっと見たかったわ」


 マオを虐めた奴等がどんな奴等か拝みたかったな…あわよくばマオにボコボコにさせたかった



「お…に…?鬼ですって…?……お姉様、その様な名前を口に出してはいけません…穢れてしまいます」

「そこまで言うほど?確かに私もそんなに良い感情は持ってないけど」

「過去に、私は奴等に知能を与えたのですが…失敗しましたね。奴等は如何に自分達の種族が上位種になるか、それだけしか考えてないカス共です。

 仲間に引き込んだ所で内側から崩壊するのが目に見えてましたので放っておく事にしました」


 むぅ…上を目指すのは悪い事ではないと思うが、この嫌悪っぷりはのしあがる為なら非道な事もやってんだろう


「でもマオはそんな奴等に拾われて、10年以上鬼の里で生活してたんだけどね」

「…ご冗談を」

「いやホント」


 サヨが信じられない物を見る目を向けてくる。そしてマオにも視線を向ける。

 マオは両手を上に伸ばして何やら儀式をしていた。アホの子だった


「…少々おかしい所もありますが、あの連中と暮らしてよくあの性格で育ったものです」

「ああ…マオはほとんど一人ぼっちだったのよ、虐められてたんだって。最初の頃はビクビクしてたわ」

「それを聞いて安心しました。まさか鬼共が自分達以外の種族を何の思惑もなく保護するとは思いませんでしたので…」

「思惑ね…」


 拾った子供を虐めてストレス発散でもしてたのかね…それなら確かにろくでもない種族だが


「でも長は優しかったって…文字や言葉も教えてもらったって言ってたわよ?」

「…鬼共の考えは何となく分かります。鬼達はマオさんが悪魔だと気付いてたのでしょう」

「…聞きましょう、でもマオには聞こえない様にお願い」


 もしかしたらマオには酷な話かもしれないからな…あの娘には元気が似合う、落ち込まれても困る


「悪魔は鬼よりも上位種です。その悪魔の子供が運良く手に入ったなら鬼共が利用しない手はありません」

「利用ね…具体的には?」

「血ですよ、上位種である悪魔の血を取り込む事で鬼の力は増すでしょう」


 なるほどなー…


「ふん、大方悪魔である事は教えず、鬼として生きさせるつもりだったのでしょう。文字や言葉を教えたのはその為です」

「マオは最初、自分の事鬼と思ってたからね…合ってるかもね」

「やっぱり…」


 両親も死んだなんて教えられてたっけか

 そういえば、マオの父親は知らんな…ま、悪魔の里に行けば会えるか




「お姉様、マオさんはお姉様に依存してると言っても良いほど懐いてますね…何故でしょう?」

「そりゃ助けたから…ああ、そういう事…あなたの言いたい事が何となく分かったわ」

「変ですよね?一番偉いハズの長がマオさんを大事にしてるのに、他の鬼共はマオさんを虐め続ける。長もその事は知っているハズなのに虐めが無くならないのは虐めを容認しているという事」


 そうだな…マオに聞いた時も少し疑問に思っていた事だ


「長は里で唯一マオさんに優しく接する事で好意を得る。そしていずれ悪魔の血を取り込む…要するに悪魔と鬼の子供を作り出す。恐らくそれが鬼共が考えていた計画でしょう」


 知能を与えられたとはいえ、良く考えた事だな…


「しかし悪魔とはいえ、ろくに戦い方を知らないマオさん相手にそんな面倒な事をするとは意外です…子供が産める様になったら力ずくで襲うと思ってました」

「そりゃ…厄介な母親の魂が宿ってたからね…主に夜に報復してたらしいわ、里を追い出された原因はそれよ」

「なるほど…しかし、それなら昼に襲えば良いだけの話では?」

「昼でも出てこれるハズよ。私は昼にやられたし…まあ、日暮れ間近ではあったけど。あの様子では娘に何かしらあったら起きたでしょ」

「やられた…いえ、ここは聞かなかった事に。…マオさんは母親に愛されてて良かったですね…」


 私もそう思う

 しかし、舞王は正しくマオを守ってたんだな…悪い事をしたと思う。娘にビンタされたし


 今度会ったら一応詫びておこう。気にしてないとは思うが



「それにしても、マオさんも…孤独な時期があったんですね」

「サヨもずっと一人だったもんね…共通点があった訳だ、やな共通点だけど」

「私達だけではないですよ?きっとマイさんも…そしてぺけぴーもお姉様に会う前は一人ぼっちでしたよ」


 マイちゃんは予想出来る、あの大きさだ。仲間には受け入れられまい

 だが、ぺけぴーも?ユニクスの群れの中に居たんだが…


「ぺけぴーも一人…一頭だったの?」

「ご存知の通り、あの子は上手く喋る事が出来ませんからね…群れから離れた所で馴染めず過ごしてました」

「そうだったんだ…」


 今や一家の一員である皆が一人ぼっちだったとな…うーん、何だかモヤモヤするぞ




「お姉様は…知らぬ内に私達を孤独からお救いくださったのですね」

「そんな事考えた事ないわ、私は…ただ、役に立ちそうだから仲間にした。それだけ…」

「ふふふ…そういう事にしておきましょう。でも、私は…いえ、私達はあなたのお陰できっと」


 ええい喧しい!私はそんな善人じゃない!皆して過大評価しすぎだ。けど…




「…あなたは、今幸せ?」

「……空っぽだった心が今は満たされています。私はお姉様に出会えて間違いなく幸せです…例え、この場にフィーリア様が現れようと…私はお姉様の傍から離れる事はないでしょう」

「そ…ならいいわ。私は寝るっ!」


 何だかむずむずするので夢の中に逃げる事にした。

 …もしかしなくても…一番幸せなのは私なのかもしれないな






「…これは独り言です、聞き流しておいて下さい。血の繋がりもない私達を、あなたは家族と呼んで下さる…孤独だった私達にはそれが何よりも嬉しい事でしょう…それだけは言っておきます。お休みなさいませ…」


 …サヨが傍から離れる気配を感じた。不意打ちであんな事を言うとは…マオも同じ様な事言ってたな。言われた通り聞き流しておこう


 まだ皆と出会ってそこまで時間経ってないんだけどな…随分長い事一緒に居た様に慕われている気がする。悪い事じゃないけど、何か不気味だ…





「お母さんとの話は終わりましたか?お暇でしたら符術をご教授お願いします」

「いいですよ、では基本から始めましょう」

「式紙からお願いします」

「あなたそれしか覚える気ないでしょう」


 寝る前にそんな二人の会話が聞こえた。頼むから馬鹿な娘に余計な事は教えないで欲しい



「…世界よ……わたしの翼を鎮める為の力を……!おお…天から力が……!」


 アホの子はまだ儀式の最中だった。翼を仕舞うのに何の力が必要なんだと



「…きたっ!……さあ!傷つき疲れた翼よ…今こそわたしの中で眠るのです!






あ、仕舞えました」

「嘘でしょっ!!?」


 ホントだ!儀式すげぇ!

 寝るのを断念して思わず飛び起きてしまった

 まだ完治してないので前ほどじゃないが痛みが走る…いてー


「おや、おめでとうございます」

「何だか近寄りがたい雰囲気なので放っておきましたが、結果的に良かったですね」


 皆の賛辞に照れるマオ

 言っておくがユキは照れる様な事は言ってないぞ


「マオの奇行も侮れないわね、元々その奇行のせいだけど…何でそんな妄想すんの?」

「昔からのクセですよ、昔は頭の中でしか幸せな生活が出来なかったから…それで、色々本を読んでる内に段々と考える事が楽しくなってきて…そんな感じです」

「…思いの外重い理由だったわね。でも今は違うんだから…もっと自重しなさいよ」

「はぁい」


 絶対わかってない。けど、この娘はこんな調子が似合ってるのかもしれない


「所でもう一度翼を出す事は出来る?」

「たぶん大丈夫です」


 一度成功すれば感覚が分かるはずだし、今度はすぐに収納出来るだろう


「やってみて」

「わかりました!…いきますよ?……いでよ!エンジェル・ウイング!!」

「おい悪魔」


 なに勝手に真逆の存在に生まれ変わってんだ

 だが翼はしっかり出てきた。悪魔の翼だけど


「出し入れは自由になった様ですね、出す場合は翼の部分が空いた服じゃないといけませんが」

「その辺は考えて服を選ばないといけないわね」


 ま、なんにせよマオの件は無事に済んだ事だし、私は昼寝の続きと洒落込む事にした



★★★★★★★★★★



 あれから更に数日経った。毎日ユニクスの血をかけ続けて完治まで後少しという所だ

 何故かユニクス達は未だ町に居るらしく、サヨが毎日馬鹿を殴りにいって血を補充している


 飲めばすでに完治してそうだが、奴の血を飲むのは御免被る


 そして、現在何をしているかと言うと





「ばか!お母さんのばか!」

「何ですってぇ!?馬鹿に馬鹿と言われたくないわ!」


 ユキと親子喧嘩の真っ最中だった。私達が喧嘩とかあり得ない話の様に思えるが…


「…喧嘩と無縁そうなお二人が一体どうしたのです?」

「良い質問ねサヨ。とりあえずこれを読んでみなさい」

「ふむ……『家族度はこれでチェック!家族診断書』…何ですかこれ…」

「56ページを読むのよ」

「無駄にページ数がありますね…」


 確かに…チェックする事何個あるんだってくらい多い。これは暇つぶしにユキに適当に買ってきてもらった本の中の一冊だ


「えっと…よく喧嘩する家庭と喧嘩しない家庭だと、喧嘩しない家庭の方が仲良く思えますが、実際は逆です。喧嘩しない家庭とは親子の関心が薄いからと言えます。それなりに喧嘩して想いをぶつけ合いましょう……こんなの家庭によるでしょうに……」

「まあそうなんだけど…で!喧嘩した事ない私とユキが試しに喧嘩してみたというわけ」

「はい」

「試してる時点で仲良いでしょう…ちなみに喧嘩の理由は?」

「ユキの稼ぎが優秀な事」

「どこに喧嘩する要素があるのですか、逆に凄いです」


 だよなぁ

 どうせ喧嘩するならあり得ない理由で喧嘩してみようという遊び心なんだから気にしないで欲しい


「姉妹の場合はどうなんですかぁ?」

「それも良い質問ねマオ…どれどれ……妹は姉に尽くす為だけに存在する、と」

「絶対書いてないですよね?」


 うむ、書いてない


「お姉様に尽くす…私には間違ってはないですね」

「自分で言っといてなんだけど、つまんない人生送らないでよね」


 自分の人生を他人の為に生きるとか私には考えられん

 私だったら自分のやりたい様に生きて、そして死が迫った時に何の悔いもない最期を迎えたい


「マオも言ってたわね、命を私の為に使うなんて馬鹿な事…やめなさい、私は他人の命を背負う人生なんて御免なの」

「…では、お姉様の隣を歩いて支えるとしましょう…それが私のやりたい事です」

「わたしもわたしも!」


 隣を歩くときたか…別に後悔しないなら何をしようと構わないが……


「あなた達の人生だし、好きにしなさい」

「はい……今度は…ちゃんと好きに生きてみせます、未練は残しません」

「ところでお姉ちゃん、結局姉妹の場合の話はどうなったんです?」


 すげー…良い話だなー…に持っていける所をバッサリ切りおった。流石はマオだ


「…姉妹の場合、衝突する事は些細な事が主な原因なので修復も早い。ただし、大体姉が優秀なので妹は劣等感を持つ事があるので注意。ちなみに兄弟の場合は逆に弟が優秀な事が多い、と……これまた信憑性が無い話ね」

「「ですね」」


 ま、暇つぶしに読んでる本だから信じて読んでないんだけど、少しは楽しめればいいや





「……最近静かよね、具体的には一番煩いお母さんを見かけないわ」

「ああ…お母さんが放った一言が原因で発生した夫婦喧嘩…通称マッコリ事件で思ったより激しい口論になってしまい、何故か家主であるセティ様が家出なさいました」


 いい年して家出とか馬鹿だろ。てか原因私かよ…あと、変な通称つけないでくれ


「私達も最善を尽くしたのですが…残念ながら居なくなりになられました」

「死んだみたく言うな」

「これは失礼しました」


 どうもサヨは私以外のフィーリア一族には尊敬の念がない様に思える


「父さんは何してるわけ?」

「寝込んでいらっしゃいます」

「叩き起こしてきなさい」


 さっさと連れ戻せばいいのに馬鹿め…

 放っておくとどれほど散財するか分からんぞ


☆☆☆☆☆☆


「……なんだい」

「もうすぐ死にそうね」


 たかが母が数日家出しただけでこの有り様だ。どんだけ母ラヴなんだ…


「そんだけショックならさっさと連れ戻せばいいじゃない…このままだと家の財政がヤバくなるわよ」

「分かっちゃいるんだけど…悩むんだよ、マッコリ爺さんの子供を育てるべきか…」

「え?」

「え?」


 なにそれひどい

 信じたの?ホントに信じてたの?誰か教えてあげようよ…


「父さん…あれね…ただの冗談」

「そうか……うぇ?」

「ただの冗談」

「……ペ、ペドオオオオォォォォォォッ!!!」


 吠えた

 大声でペドと叫ぶとか何という変態なんだろうか


「こここ…この世にはな!言っちゃいけない冗談があるんだよ!それはな…セティに関する事だっ!」

「もっと他に言っちゃいけない事はあるでしょ」

「口答えするな!」

「黙りなさい下郎」

「はい」


 父は強い者に弱かった

 サヨの笑ってない目と静かな物言いにすっかり大人しくなった


「ご安心下さいダナン様、お腹の子供は間違いなくお二方の子供です。私の記憶によれば、2ヶ月前に給料をセティ様に渡す為に帰ってきたその晩に確かにお二方は」

「ごめんなさいユキさん、ホントに勘弁してください。娘が聞いてるんです」

「まぁ、そういう訳でセティ様は浮気はしてません」


 ユキが居るならバレるに決まっておるだろうに…




「二人の馴れ初めとか聞きたいわね、我が母ながら恋愛とは無縁そうなんだけど」

「いやいや、ペドちゃんのお母さんは若い頃は本当にモテたんだよ?大体が容姿に惹かれたんだろうけど」

「そういう父さんも?」

「僕は…容姿もあるけど、それよりも家族想いな所に惹かれたなぁ…ペドちゃんも家族想いだよね、間違いなくセティに似てるよ」


 ぬぅ…何とも嬉しくない、が母の家族想いな所は正直好ましい。それ以外が壊滅的だけど

 そういえば私の母方の祖父母は私が生まれる前…母がまだ学生時代の時に若くして亡くなったとか


 そんな早い別れがあったから早くに結婚し、私を産んで家庭を持ったのかもしれない。結果はあんな母にこんな娘となったが……




「とりあえずユキ、今頃散財してるハズのお母さんを連れ戻してきて」

「何処にいらっしゃるかお分かりで?」

「私の母よ?きっと営業してる宿屋の中で一番高い所ね」


 夫婦喧嘩を口実に家出して、さぞかし楽しんでる事だろう。高級宿屋って居心地良いんだよなー





 ユキが出ていった。母が戻るまで話の続きでも聞くか


「で?モテモテの母上は何で父さんなんか選んだの?」

「なんかって……そりゃあ…僕が一番セティを愛してたからさっ!高等部卒業の時に結構な人数に告白されてたんだけど…選ばれたのは僕さ!きっと僕の真摯な想いが通じたんだね!」


 高等部…私より学歴が上とか悔しい。だが頭の良さではきっと勝ってる


 そんな事より結構な人数というのがどれほどか分からないが、パッとしない父より良い男も居たと思うが…

 私の予想では、母はクジで結婚相手を決めたと思う


「結婚相手は誰でも良かった、今は後悔している」

「急に何て事言うんだ!」


 何となく当時の母の気持ちになってみただけだが…うむ、以外と当たってる気がする




「お母さんも気になるけど…先代の結婚相手も気になるわね」

「それは私も気になります」

「家系図に名前とか載ってないかなー」

「ないでしょうね、フィーリア様はここに住んでた訳ではない様ですし」

「なに?」


 じゃあ何で直系の私達が居る…ひょっとしてこの家は先代の実の娘が建てたのか……?


「ここに住み始めたのはフィーリア様の娘と思われます。フィーリア様も立ち寄った事はあるでしょうが、それだけです」

「てっきりウチの墓に眠ってると思ったわ」

「私としてもフィーリア様が没した場所は知りたいですね。お姉様との旅で探しだし、墓前で今は幸せだと伝える事が私の目標です」

「なかなか良い目標ね、でも私思ったの。この子なら先代の死に場所を知ってるんじゃない?」


 言って取り出したのは奇跡すてっき

 この子なら先代と最後まで付き合っているハズだ

 ならば間違いなく知っているに違いない。問題なのは


「擬人化しなきゃ聞けないのよね…それを聞くためにわざわざ気絶したくないなぁ…」

「ひょっとしたら何とかなるかもしれません、少々お待ち下さい」


 何か手があるんだろうか?

 サヨはテーブルを用意し、その上に何か文字が書かれた紙を敷き、更にコインを中央に置いた


「では…お姉様、それにマオさんとオッサンもこちらに指を置いて下さい」

「いいかい?確かにさん付けかもしれないが、それは失礼な呼び方だよ?」

「はよ置け」

「はい」


 父は強い者に以下略

 とりあえず言われた通りにしたが…果たして何とかなるんだろうか…


「では、始めますね」

「ええ」


 何故か部屋のカーテンを閉め、真っ暗ではないが薄暗い部屋にするサヨ。何か怪しくなってきた




「すてっきさん、すてっきさん、お越し下さいませ……すてっきさん、すてっきさん、お越し下さいませ」

「待てぃ!絶対別の何かを呼び出す儀式でしょコレ!!?」

「すてっきさん、すてっきさん、おいでになられましたら返事をお願いします」

「聞いてっ!?」


 サヨの様子がおかしくなっとる…何か目の焦点が定まってない

 謎の呪文をブツブツ唱える姿は異様だ…


「ここ、これ…き、危険ですよ…ね?」

「危険っぽいわね」

「…とりあえず指を離すべきじゃないか?」


 うん、私もそう思う。このままだと呪われそうだ





「指を離すなぁっっ!!」

「「「はいっ!」」」


 こえーよ

 何でこうなった……無事に終わるといいなぁ…と思っていたら


「おおおおお姉ちゃん!う、動いてます!?」

「…サヨが動かしてんじゃないの?」

「ふふふふふ…成功です…あなたはすてっきさんですね?」


 絶対違う

 大体お越し下さいって何だよ…奇跡すてっきここにあるじゃん…どのすてっきさん呼んでんだよ


 指を置いてるコインが文字の上を勝手に動き出した…サヨが動かしてないならだが。どうやら文字を指し示して会話をするっぽい

 で、すてっきさん(仮)の返事はと言うと…




『いまからかえります』



「何のこっちゃ」

「ふむ…どうやらすてっきさんではなく、ユキさんに繋がった様ですね」

「非常識にも程がある」


 ホントに何者だよあの娘は…なに簡単に受信してんだよ…


「残念、失敗ですね」

「そりゃ失敗でしょうよ」

「でもユキさんが帰って来る事はわかりましたね」


 だから何だと

 でもいいか…呪われずに終わった事だし


「先代の事は冒険しながら知りましょう、その方が面白そうだし」

「そうですね…あっさり私の目標達成出来ても何ですし」


 んじゃ…ユキと母が帰って来るのを待ちますかね



☆☆☆☆☆☆



 ガチャっと玄関が開く音が聞こえた。やっと帰ってきたらしい

 かえります発言から結構時間経っているが、間違いなく母のせいだろう





「ただいま戻りました」

「おかえり。で?肝心のお母さんはどこ?」


 一緒に帰ったハズの母の姿が見えない。帰りたくないとか駄々こねたんだろうか?


「セティ様は…リチャードさんと旅行に行くとか」

「セティイイイィィィィッ!!!よりによってあんな奴とおおおぉぉぉっ!!」

「誰よ……」


 父は猛ダッシュで出ていった。母の旅行を阻止しに行ったんだろう…リチャードとかモテそうな名前だな


「…というのは冗談です」

「遅いわよ…ユキがそんな冗談言うとは思わなかったわ」

「セティ様がそう言えと…」


 ああ…そういう事か

 母よ…父にはその冗談は通用しなかったみたいだぞ…




「ただいまー」

「おかえりセティ!悪いけどセティのピンチだからちょっと出てくるよ!じゃっ!」

「んー…?うん、私をよろしくね」

「任せてくれ!」


 父にはもはやリチャードとやらしか見えてない様だ…母をまさかのスルーして家を飛び出して行った

 母は母で意味不明な返事をしているが


「ただいまペドちゃん!すっかり元気になったみたいね!」

「まだ完治してないわよ」

「起き上がれるなら十分元気になったわよ」


 そうかもしれない…しかし、無事にユキが連れ帰ったという事は予想通り高級宿屋に居たんだな…娘が寝たきりで過ごしていたのに何て親だ




「ま、それよりもお母さんに聞きたい事があるのよ、モテモテらしかったのに何で父さんを選んだの?私の予想はクジで選んだと睨んでる」

「惜しい!正解はアミダくじでした!」

「変わんないわよ…フィーリアの名を持つくせに愛が無いわねぇ」

「あるわよ?ペドちゃん大好きっ!愛してる!」


 母に捕まった。鬱陶しい…

 てか痛い!まだ完治してないって言ってるじゃないか!


「痛いのよ!」

「ごめんごめん…ペドちゃんへの溢れんばかりの愛情が暴走しちゃったの」

「そういうのは父さんか、新しい子供に向けてちょうだい」

「父さんねー…まあ嫌いじゃないけど」

「…嘘でも愛してるって言ってあげて」


 ここに父が居なくて良かったかもしれない…


「でも彼で良かったと思ってるのよ?お陰でペドちゃん産まれたんだし」

「…そうね、結婚相手が父さんじゃなかったら私は存在してなかったかもね…その辺は感謝しましょう」


 結構怖い話じゃなかろうか…?もしかしたら私という人物が居なかったかもしれないのは…仮に同じ名前だとしても別の人格が宿っていたハズ


「…ホント、良かったわ、二人の子供で。私という存在に産まれて」

「私もお母さんが居なければ存在してませんからね」

「お姉ちゃんが居なかったら…わたしはたぶん、死んでましたね」

「私は…私も呪いで死んでたでしょう」

パタパタ


 そうだなぁ…私が奇跡ぱわーを持って生まれなきゃ皆この場に居なかったんだよなぁ…

 もしもの事を考えても仕方がない事なんだけど


「人の縁って不思議ね…」

「そうよ、その縁を持てた事こそが奇跡なんだから大切になさいね」

「…珍しく良い事言ったわね」


 だがその通りだ…

 全く考えた事無かったな…やはりこんなでも母か、いつも通り適当に生きてたら気付かない事を気付かせてくれる


 そうだな、忘れない内に言っておこう……自由に、ワガママに生きる私に付いてきてくれる家族達に感謝を

 でも口で言うのは気恥ずかしいので心の中で言う事にする


 私と出会ってくれてありがとう、と


 …心の中で言ったのに何この恥ずかしさ。何か顔が赤くなってる気がする…

 何となくチラリと皆の顔を見渡してみたら…皆して私を見つめ、変わらぬ笑顔で微笑んでいた


 くそ…絶対バレてる…こっちみんな!




 父が不在の中、何ともほのぼのとした雰囲気でこの日は過ぎていった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ