幼女とギルド
到着したギルドを眺めてみる。木造2階建て、酒場と兼用してるらしく、この町にしては中々大きい。
冒険者とやらは人数多いらしいから、数百人が利用できる広さはあるハズだ。
「昔は木造の家が主流だったんだっけ」
「そうですね。火事が原因でレンガ造りが主流になったようです。何でも水不足の時には大規模な火災になったとか」
「火事かぁ…見た事ないなぁ」
「ではこのギルド燃やしてみますか?」
やめろ。私はツーリストになりに来たんだ。犯罪者にクラスチェンジしにきた訳じゃない。
そもそも私は火事が見たいとは一言も言ってない。変な所で馬鹿になるこのメイドには不用意な発言ができないな。
「さっさと入るわよ。登録したらちゃっちゃと依頼こなして豪華な宿に泊まりましょ」
「ご実家が同じ町にあるのに宿ですか?それとも三丁目か四丁目にでもいくのですか?」
折角外に出たのだ。初日くらい豪勢に町一番の宿にとまりたい。いや、毎日豪勢に過ごしたい…いけないいけない、母のダメ菌が伝染していたようだ。
ちなみに三丁目とか四丁目とかは隣町の名前だ。この町は五丁目。北に行けば三丁目、西に行けば四丁目、更に進んで一丁目を過ぎれば王都に着くらしい。村の場合は数字の後に番地で表されている。適当に名前をつけすぎだろう…
「家には帰らない。帰ったらきっと面倒な事になる」
間違いない
「確かに、今セレブリティ様に会うのは避けた方がよさそうです」
ん?
「誰?その金遣いの荒くて目立ちたがりやみたいな名前の人は?」
「え?ご主人様のお母様ですけど…」
「なん…だと…?」
まてまて…まいざまぁ…じゃなくてマイマザーの名前は確か…
「そう、確かセティ・フィーリアが母さんの名前のハズ」
「セレブリティを略してセティにしたそうです。何でもその方が人受けが良さそうだとか」
実の娘が知らなかった事実をなぜ2年前にきたユキが知ってるのか…いや、それよりも母の無駄遣い癖が何となくわかった。
母もまた、呪われし名前をもつ者だったのだ。
だが、金銭面以外もダメな所を見ると名前は関係ないか…うん、関係ないわ。あの人は生まれつきのダメ人間だ。
「さて、今度こそ中に入りましょ。母さんの事なんて考えるだけ時間の無駄よ」
「そうですね。これ以上セレブリティ様の評価が下がるのもなんですし」
すでに下がりようが無いほど底辺に位置するが…。
扉を開けて中に入ると酒場を兼用してるだけあって、酒の匂いが漂ってきた。
昼間から酒飲んでるとか冒険者というのは私よりダメな奴らが多いんじゃないか?
私達はやはり目立つ様で、カウンターに向かう最中にやたらと視線が集まっている。何かヒソヒソ話してるっぽい奴らもいる。 こんなむさ苦しい所に美女と美少女が訪れたんだからわからなくてもない。
カウンター前に並んだが特に混んでは無かった様で、前に4人ほど手続きが終わったら私達に順番が回ってきた。
受付に居るのは茶色い普通の髪型をした普通の顔で普通の服を着たお姉さんだ。良くもなく悪くもない。ホントに普通。
「こんにちわ。登録に来たのだけれど」
「こんにちわ。冒険者登録でしたらこちらの用紙に必要事項を記入…って!あ、あなたはユキ様っ!?登録って言いました?言いましたよね?ついに登録して頂けるのですねっ!!あぁ…ついに我がギルドから優秀な冒険者が誕生する…っ!是非とも…是非ともお願いしますっ!」
……声をかけたのは私なんだけど…何故か登録を受付する側が頭を下げるというおかしな事態を引き起こしてる普通の受付嬢に言いたい事はあるが、それよりも聞き捨てならない言葉があったので私のメイドに聞く事にした。
「ユキって…冒険者じゃなかったの?」
「はい」
ここで更に新たな新事実。母の本名を知った時程では無いが驚いた。
「…じゃあ、どうやってあんなに稼いでたの?」
「薬草を採ってきた後、ここで買い取ってもらってました」
薬草…ね、その辺の冒険者を襲撃して金品強奪してます、とか言われなくて良かったけど…薬草なんかであれだけ稼げるものか?
「薬草だけであんなに稼いでたの?」
「ユキ様はそれはもう優秀な方なんですよっ!!」
普通の受付嬢が会話に割り込んできた。いるよね、他人の武勇伝を本人より語りたがる人。
「ユキ様がお売り下さる薬草はほとんどが貴重な薬になる薬草なんです!山奥の凶悪な魔物が生息する場所にあるはずなんですが…それを一人で、しかも怪我一つなく採ってくるなんて、どう考えても凄い腕をお持ちとしか思えませんっ!」
ふーん…まあユキはチートな存在だからなぁ…しかし、そんなに入手困難なら栽培すれば良いのに
「私が採ってくる薬草は限られた場所でしか生育出来ないようです」
私の疑問にユキが答えてくれた。思考を読まれた事は気にしない
「なるほど…それにしても登録しなくても売却はできる訳か。だとすると今まで通り薬草売るだけでお金稼げるなら登録する必要ないよね」
笑顔だった普通の受付嬢が無表情になって私を見る。というか睨んでくる。そしてユキが睨み返して普通の受付嬢が半泣きになる。
何やってんだあんたら
「ご主人様、他国へ旅行するとなると身分証代わりにギルドカードは持っておいて損はないかと」
「旅行…?」
身分証代わりか…ギルドカードあるだけで他国に出入り自由とかどうかと思うが、楽だからいいか。
半泣きの受付嬢が旅行という単語に疑問を持ったのか、首を傾げて考えこむ。
美人受付嬢ならグッと来るかもしれない仕草だが、普通の受付嬢だから何も感じない。
「じゃあ登録しようかな」
と言った瞬間に待ってましたと言わんばかりの早さで二人分の書類が用意された。
「本来ならばご自身で記入して頂くのですが、そちらのお嬢様の方が書くのが面倒とか仰って登録やめそうな気配がいたしますので今回は私が代筆しますね」
記入する項目が多すぎて書くの面倒くさいオーラを私が出したのに気付いたらしい。
「…そんなにユキに登録して欲しいの?」
「国からの褒賞金がかかってますので」
なるほど。優秀な冒険者を輩出したギルドは国からご褒美が貰えるわけか。
隣町のギルドで登録します、とか言ったら半泣きからガチ泣きになりそうだなぁ
「で、ではまず、名前と年齢からお願いします」
不穏な気配を察知したのか、焦り気味で記入項目に書いてある必須事項を聞いてくる。
昼の内に稼いで宿を予約したいから黙って質問に答える事にする
「フィーリア。16歳」
「ユキ。2歳です」
「…申し訳ありません。きちんと聞こえませんでした。もう一度お願いします」
「フィーリア。16歳」
「ユキ。2歳です」
「…なっんですかそれっ!冷やかしですかっ!?ちくしょーっ!普通の受付嬢だからって馬鹿にして!褒賞金に目が眩んだからってこの仕打ちは酷すぎるっ!きっと散々私で遊んだ後に隣町でちゃんと登録するつもりなんだ!うわあぁぁぁぁぁぁんっ!!」
事実を言ったのにこの言われようだ。というかやめて!ギルド内のほぼ全員の注目浴びちゃってるっ!
「おだまりっ!普通嬢!今言ったのは紛れもない事実よっ!」
「普通嬢って言うなぁ!そんなこの世の男性が思わず求愛しそうな2歳児がいますかっ!?逆ならまだ信じられますが!」
「私が2歳児に見えるって言うの!?ふざけんじゃないわよ!」
「そっちこそ真面目にやって下さいっ!」
この分からず屋めっ!事実は事実なんだから認めろっての!確かに立場が逆なら私も同じ反応かもしれないが
「横から失礼します。ご主人様と私が言った事は全て事実です」
「はい…?」
「ですから、ご主人様は16歳で、私は2歳です」
「…えぇー?そう…なんです?しかし…」
私が言ったら全否定なくせにユキが言ったら半信半疑。この差はなんだ。
「私は2年前に生まれました。ちなみにお母様はご主人様です」
絶句した普通嬢は信じられないとばかりにまじまじと私を見る。気付けば聞き耳を立ててた周りの人々も見ている。
お前らこっちみんな