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幼女、最後の戦いを見守る

「お姉ちゃんお姉ちゃん」

「なに?」

「結局あの人は私の言う所の二大幹部で良かったのです?」


 すごくどうでもよかった

 そういえば奴等以外に先代の忘れ形見が居てもおかしくはないか…

 だが流石にここから真のボスが現れるという展開は無いだろう


「いずれはマオにもあの領域で戦って貰おうかな」

「わたしに人外になれって言うんですか!?」

「悪魔なんだから人外でしょ」


 あの二人が対峙したきり動かないので雑談に興じてるが…

 こういう時って小さな音がきっかけでバトルが始まったりするものだっけ…つまり二人はきっかけ待ちと


 小石を拾って二人の間に落ちる様に狙って投げてみる


 コツーン、と音がしたが二人は不動のままだ



「…あの、タイミングはこちらで決めますので」

「ごめんなさい」


 何で敵に謝らなくちゃならんのか

 邪魔したのは事実だから素直に謝るが


「…っ!」


 だが結果的に動きがあった。私に注意がいったてんぐを見逃す事なくユキは攻撃を仕掛けたのだ


 流石は私の娘、汚い


 しかし、てんぐの側に浮いてた札がユキの一撃を防いだ。自動で防御する機能でもついてるのか?つくづく便利だな


「…真面目そうに見えて卑怯な手を使うのですね」

「私は正面から叩き潰すとは言ってませんので」


 確かに言ってない。隙を見せる方が悪い、私のせいだけど


「そうでした…ねっ!」


 てんぐから放たれた札が不規則な動きをしながらユキに向かう。速度はかなり早い、いつもの私だったらまず見えない


「…む?」


 ユキも札を打ち落とすべく鞭を振るうがスルリと避ける札。どうやらただ飛ばすだけじゃなく、操っているみたいだ


 そして札に意識を割いてるユキに向かって突っ込むてんぐ。なるほど、厄介な戦法だな


 だがてんぐ一人に集中出来なくてもてんぐの体術を見事に捌く。ハッキリ言って、てんぐの動きが良く見えん。

 先代の力を持ってしてもこれとは、先代も人の子であったという事か


 ユキはユキで捌きながらも背中に向かって飛んでくる札を見ずに避ける。我が娘ながらありえねー…


「これくらいでは私に攻撃は通りませんよ」

「むしろこの程度でやられてもらっては拍子抜けです」






「などと申してるけど、マオならどうよ?」

「とっくに沈んでます」


 だよなぁ…人外連中は常識ってもんがない。もっと楽しみながら見れる範疇で戦って欲しいわ


 …おや?



「…邪魔者の気配がするわ」

「はい?」


 未だ暗がりの上空を見つめる。微かにだが、何かが動いてる気配がする

 恐らくハーピーだ、ユキを狙って何かしらしようと思ってるんだろうが、そうはいかない


「くらえ鳥!」

「……も゛っ!?」


 本日何度目になるか分からない奇跡すてっき投擲は見事に何かに当たった。にしても変な呻き声

 落下してきた奴を一応死なない様に受け止めてやる


「ふーん、これがハーピーか」

「…かふっ…い、いたい」


 引っ捕らえたハーピーと思われる亜人は確かに人の頭と胴体を持ち、腕の代わりに翼が有り、下半身は鳥の様になっていた


「二人の戦いを邪魔しようとは良い度胸ね、死ぬ?」

「だ、だって…主様がやられたら困るもん」


 えらく子供くさい奴だな…見た目は大人、とは言えないがマオくらいの年齢に見えるが





「ペドちゃんがハーピーを捕獲したと聞いて急いで戻ってきた!」

「誰に聞いた」


 冒険者達が戻ってきた。見た所ハーピーの捕獲は無理だったのだろう

 こいつらもこいつらで謎の探知機能がついてるな…


「こいつは私が捕獲したからあげないわよ?」

「分かった!売ってください!」

「売らんわ」


 がっくりと両手と膝を地面につける男共。流石にこいつらに渡すのはハーピーとはいえ良心が痛む


「…ペドちゃん」

「何度言われても渡さないってば」

「せめて生乳を拝ませてください」


 心底クズだな…そういえばハーピーの上半身は裸説があったっけか


「残念ながらビキニみたいな物を着けてるみたいよ」

「だがそれもいい」

「ええいッ!失せろ失せろ!お前ら鬱陶しい!」


 何故かハーピーは私の背中にしがみついて男共を恐れている

 こいつらが恐ろしいのは分かるが敵である私に守られてどうする…ここでも私が保有してる人外に懐かれるスキルを発揮してしまったのか?


「しゃあないな、何か凄い戦いあってるからユキさんのパンチラに期待しながら観戦しようぜ」

「だな、服が破けちゃったりするハプニングにもな」

「マオ、私の可愛い娘が卑猥な視線に晒されてるから魔法でも叩き込んで」

「ほんと何なんですか?この人達は…」


 何なんだろうな…こいつらの相手をしてるノエルは尊敬に値するんじゃなかろうか


「…マオ、世界は優しいって言ったけど…訂正するわ。亜人が蔑まれながらも頑張って生きて、こいつらがのうのうと生きてるとか世界は優しくなかったわ」

「です」

「酷いぞペドちゃん、そこまで言われちゃハーピーを譲ってもらわにゃ許せな…」





「「「「ぐっはああぁぁぁっ!!?」」」」


 冒険者達が皆してぶっ飛ばされた。何事かと思ったが、どうやらてんぐが札を使って根こそぎ薙ぎ払ったらしい


「なぜその状況になってたか分かりませんが、ハーピーを守って頂きありがとうございます」

「どういたしまして」


 捕獲したのは私だがな

 見苦しい奴等が居なくなってこちらとしても助かった


 しかし、二人の戦いも気になるが初めて見るハーピーも気になるな…

 怯えてるハーピー、下半身が鳥って事は…所謂モモ肉は食べられる


「焼くだけなら薬味があればいいか…?スタミナつくのがいいわね。マオ…ギルドからニンニクもらってきて」

「その子食べるんですか?」

「お、美味しくないよ?!」

「美味い不味いは私が決めるっ!」

「助けてっ!?主様ぁぁぁぁっ!」


 私に対しても危機感を抱いたのか、騒ぎだすハーピー


「やぁねー…冗談よ」

「…食べない?」

「食べないわよ…不味そうだし」


 何か固そうだし…歯に詰まるタイプの肉はあんまり食べたくない主義なのだ




「ニンニクもらってきました」

「いやああぁぁぁ!!?」

「何でもかんでも命令聞くのは良くないわよ」


 もしかしてマオはホントに食べるつもりだったのかも。妙な所で悪魔らしさを見せないでもらいたい……!?


 何か飛んでくる気配がしたので慌てて振り返ると、まさにユキが私に向かって吹っ飛んでくる真っ最中だった



 なので華麗に避けた



 ズザァーッと地面を滑るユキ。割と勢いがあったらしく、結構先まで飛ばされた


「「「……」」」

「……何か文句でも?」


 ユキを受け止めずに避けた私に対して敵味方関係なく「うわぁ…」って感じの目を向けてくる


「可愛い娘じゃなかったんですか?」

「甘やかすのは良くないでしょ?」


 とりあえず飛んできたユキの元へ行って様子を伺う


「ユキが吹っ飛ぶとは珍しいわね、というか初めて見たわ」

「お恥ずかしい所をお見せしてしまいましたね」

「油断でもしたわけ?」

「いえ、相手が思ったより強いみたいです」


 何と、ユキがそんな事を言うとは思わなかった。てんぐは予想以上の難敵だったか


「ご安心ください。私はお母さんの娘です、最後に勝つのは私です」

「…頼もしい娘ね。なら見事勝利してみなさい」

「仰せのままに」


 とくにダメージは無いみたいで普通に立ち上がるユキ。特殊な素材のメイド服も汚れはあるが、破れてはいない





「…ムカつきますね、鞭使い」

「私の名前はユキです。あなたの名前もお伺いしましょうか?」

「…あなたに名乗る名などありません」

「では天狗殿と」


 やはりユキに対してはツンツンしてるな…同族嫌悪ってやつか?


 今は体術での戦いになっている。まともに見えないから良く分からんが、どうもユキが防戦一方になっている


「ユキさん結構ピンチじゃないですか?」

「主様がんばれー!」

「札を使わなくても強いとはね、流石はチートな先代の創った娘か」


 だがユキもまだ全力は出してない。魔法だって一度も使ってないし…何より動きが鈍い

 マオは気付いてないだろうが、生まれてからずっと一緒に居た母である私には分かる


 そして再びユキが蹴り飛ばされたが、今度は上手く着地できたようだ


「もしかして……あの馬鹿娘め」







「いいザマですね、本来ならすでに死んでいると思いますが、特別に手加減しながら痛めつけてあげてます。気付いてましたか?」

「えぇ、符術とやらもあんまり使ってきませんし、今は体術ばかりで戦ってますから」

「ふふ…分かってるなら宜しいです。もうあなたが勝てる見込みは無いでしょう、残念ながらあなたが生きてこの戦いを終わる事はありません」

「…なぜ、あなたは私に対してそこまで憎しみをお持ちなのでしょう?」


 それは私も気になる



「…憎しみ何てものではありません。あるのは醜い嫉妬心です」

「嫉妬…ですか」

「あなたの姿は私が求めていた姿そのものですから…でも、いずれあなたも私の様になってしまうでしょう。

 世界に呪われたのか、私達は寿命がないみたいです、不老という奴ですね。死ぬ事はできますが…まあ、つまりはあなたも主に先立たれてしまった後、長い孤独を味わうという事です」


 ユキって不老だったんだ…その辺設定した覚えはないんだけど。奇跡ぱわーは勝手に妙なオプションを付けるのが好きだな


「私達の場合は共に死ぬ事になってますのでご心配なく」

「…はぁ、あなただってこの先どこかで置いていかれる可能性もあるでしょうに」

「あり得ません」

「やけに自信があるみたいですね…」


 当たり前だ、ユキが居ないと困るのは何を隠そうこの私だ!


「まあそれはいいです。あなたに一つ聞いておきましょう、この先ずっとペド様に従ってあなたは幸せに過ごせると思いますか?」

「もちろんです、と言いたい所ですが…私はすでに従者をクビになってる身です。従い続けるのは無理でしょう」

「ふ、ふふふふ…そうなのですか…それはお気の毒に。くふふ……こほん、あなたも可哀想な方ですね、主に忠実に従っても結局何も報われなかった…少し親近感を持ちましたよ」


 勝手に私を非情な主扱いするなよ…これでもユキには色々と…した覚えはあんまりないな




「私が可哀想?違いますよ…私は恵まれてます。確かに従者はクビになりましたが、それ以上の関係に私達はなったのです」

「…それ以上、ですか?」

「私達は主と従者から母と娘、つまり対等な関係である親子となったのです…従うのではなく、共に歩んでいくのですよ

 報われない?とんでもない、お母さんは私が何よりも欲しいと思ったものは全て与えてくださいました。良く目移りしてしまう方ですが、ちゃんと私の事も見ていて下さる素晴らしい方です」


 …マオと言いユキと言い、どうして私をヨイショするかなぁ

 恥ずかしがる私の姿でも見たいのか?


 私が素晴らしいとかあり得ないんですけどー…家族はともかく、他者は路傍の石扱いする私だぞ?





「親子…対等な、親子……どうして…?何であなたは私が手にする事が出来なかった物を全て持ってるのですか…これでは…私……私があまりにも惨めじゃないですか…」

「どうしてと言われましても…そもそも創造主が違いますからね」


 俯きながらよたよたと不気味な動きで私に近づいてくるてんぐ。

 今度は私が標的か?キモイ動きはやめて



「…ペド様…どうして…私とあの者、どうしてこんなに不公平な生き方をしてるのですか…?あなたが言っていた運の差なのですか?」

「先代は一人で生きれるけど、私は一人では生きられない…それだけの事ね。私はユキが居ないと困るの」


「…それだけの力をお持ちなのに一人で生きられないハズがないです…」

「お母さんの仰ってる事は事実ですよ、本来のお母さんは口先だけで生きておられるのです」


 おい、事実だけど言い方ってもんがあるだろう


「あなた、流石に失礼ではないですか?」

「このぐらいの軽口はお許しになってくださいます」

「許すか馬鹿、ちょっと来なさい」


 素直に私の元へくる。別に本当に怒ってるわけではない…が、全力を出させる為にやっておかなきゃいけない事がある


「目線を合わせるくらいまでしゃがみなさい」

「はい」


 しゃがんだ所でユキの胸元目掛けてパンチをする、と思わせといてブローチを掴み取る


 きょとんとするユキ



「…気付かないとでも思った?銀細工を守る事に集中して勝てる相手じゃないでしょうに…」

「お気付きでしたか、形のある物の中では一番の宝物ですから…壊される訳にはいきません」

「そう…なら私が預かっておくわ。でも次からは自分の命と銀細工、どちらを優先すべきかちゃんと考えなさい」

「かしこまりました」


 自分の命より私がプレゼントした銀細工が大事…なんて馬鹿な考えは流石にしない…と思いたい


「…妬けますね、よくあなたが銀細工を守る事を優先してると気付かれたものです」

「ちゃんと私の事を見てくれてる、そう言ったではありませんか」

「そうでした、ね…しかし、これであなたも全力が出せるのでしょう?なら私も手加減無しでいきます…必ずや殺してあげましょう」

「親より先に娘が死ぬわけにはいきません。勝つのは私です」




 そして戦いが再開される。今度はお互い出し惜しみなくぶつかり合うだろう


 私もマオも龍人も、それにハーピーも固唾をのんで戦いの行方を見守る



 てんぐはまた札を出すが、数が尋常ではない。確かに手加減無しだ

 ユキも流石に防壁である結界を張らざるを得ないか


 気付けば空はうっすら明るさが出てきている。

 生まれて僅か二年と生き続けて数百年、同じ力から生まれながら対称的な生き方をした二人の最後の戦いは夜明けと共に始まった

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