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幼女と先代が残した娘

 身長的に見た目は子供同士の喧嘩みたいな私とショタロウの戦いが始まった。長々と戦うつもりはないのでサクッと終わらせよう



 ショタロウがパンチをすれば奇跡すてっきで弾き、蹴りをしてきたら掴んでぶん投げる。予想してた通り相手の攻撃は全く私には届かない


 上手く着地したあと特攻してきたショタロウを僅かな動作でかわし、渾身の一撃を脇腹におみまいした

 たったそれだけでショタロウは地に倒れ伏す。物語だと熱い闘いをボスと繰り広げる所なんだろうが、実際の戦闘なんてこんなものだ


 私が余裕かまして手加減しながら戦えば別だが…そんな面倒な事するわけない。早く終わるに越した事はない


「これが現実ね、今はあなた達の想いの方が勝ってるだろうけど、それ以上に実力に差があったってワケ」

「…つぅ、みたいだね、元々僕はそんなに強くはないんだけど」


 想いの力とは我ながらつまらない精神論を語ったものだ。これが魔法勝負なら話は別だが、肉弾戦は実力が物を言う。私のは借り物の力だけど


 ぶっちゃけショタロウの強さは龍人と同等かそれ以下だ。弱い訳ではない。てんぐは更に上で桁外れの実力を持ってそうだが…

 正直私では勝てそうにないと直感が言っている。倒せるとしたらユキぐらいだろう



「…死ぬ前に聞いておくけど、なぜこの国を襲ったの?亜人の子供を助けるだけなら王都だけ襲えばいいでしょうに」

「…亜人は人間に虐げられるだけの存在、それが常識となった事を彼らは許せなかったのさ。彼らだって牙を剥く、人間が亜人と呼ぶ存在は決して弱い獣ではない、と世界に知らしめなければ僕らが作った国へは行けない…そう言ったから僕は手を貸した。この国を選んだのはたまたまかな?たまたまコボルトの子供を拐われたし、この国の名前はワンス…一番最初に襲撃するにはもってこいでしょ?」

「そうね、でも最初で最後になるわ」

「…みたいだね、でも…今回の戦いで僕らの力は示したさ。今の獣人達は生まれた時から負け犬扱いだったけど、これでこれから生まれる次代の子供達に胸をはれる…きっと。でも出来れば…もう少し世界に強さを示させてあげたかったなぁ」


 コイツらもまさか平凡な町で見た目幼女が立ちはだかるとは思ってなかっただろう…私だって思ってなかった


「残念ね、指導者達が揃ってこの町で足止めされなきゃもっと力を示せたでしょう」

「全くだよ…でも、僕だってこのまま終わる訳にはいかない」


 よろついてるが、何とか立ち上がれたようだ。

 勝てないと分かっても向かってくるか…人の身でありながら亜人の為に何故そこまでするのやら…

 だがその覚悟は見事だ、ならば私も本気で相手をしよう、殺す気で




「はいそこまで」


 そしてまた戦おうって時に当然の如く邪魔が入る。流石に慣れた。


 てんぐがショタロウ目掛けて紙を投げつけたと思ったらショタロウが光と共に消えた

 転移だろうか?そこまで出来るとは符術だっけか?なかなか便利だな


「横やりは申し訳ないですが、あの子にはまだ死なれては困るのです」


 私としてもすでに殺さずともいい状況になってるので逃げたなら逃げたで構わない


「私は最後までお相手するのでご安心を…」

「その前にあなた達の事を確認しておくけど、あれでしょ?ユニクス同様先代に創られた存在よね?」

「分かっておられましたか…その通りです。フィーリア様は私達の創造主になります」

「ショタロウもだったのね」


 コイツに関してはヒントが多すぎてすぐ分かったが、ショタロウも先祖に創られたとは…にしては弱かったな


「創造主は好き放題に命を生み出してたからなぁ…そいつは生まれてすぐの頃はもっとガキっぽぐぇっ!?」

「余計な事は言わないでもらいましょうか?」


 馬鹿はやはり馬鹿か…今の攻撃、というかツッコミで流血した様なので丁度いいから洗面器を借りて溜めとこう






「…なぁ、嬢ちゃんよ」


 てんぐに待ったをかけて洗面器をセット中の私に馬鹿が小声で話しかけてきた


「あいつと真面目に戦ってやっちゃあくれねぇか?」

「何でよ?」

「…あいつさ、もう長くないんだよ」


 なに?


「あのバカ野郎…力を手に入れる為に呪法に手を出しやがってな、もういつ死んでもおかしくないくらい呪いが進行してんだよ…久しぶりに俺らの所に来たのは血で進行を遅らせるか試しにきたってワケだ。結果はダメだったがな…まあ、目的であるお前さんに会えたからいいけどよ」

「そう、自業自得ね。私がアイツと戦う理由にはならない」

「…おいおい嬢ちゃんよ」

「安心なさい、ユキがアイツと戦う事になるわ。あの娘に任せておけば何とかなるでしょ」


 私の出番はもうなくていいだろう、今後は一ギャラリーとして二人の戦いを観戦させて貰おう


「…先代が創った娘と私が創った娘の戦いか…面白そうね、勝つのは私の娘でしょうけど」


 うむ、良いイベントだ。人外同士がどんな戦いするか楽しみで仕方ない

 今までのユキの戦いは圧倒的すぎてつまんなかったからなぁ




「待たせたわね」

「構いません、こちらにも戦いに水を差した非がありますから…では、お相手をしてくれますか?」

「えぇ、私じゃなくてユキがだけどね」


 ピタッとてんぐの動きが止まった

 別におかしな事は言ってないのだが…


 再起動するのをしばらく待ったが数分経っても固まったままだ。死んだんじゃね?と思ったが生きてはいるらしい


「…動かないわね」

「よほどお母さんと戦えない事がショックだったのでしょう」


 戦った所で期待には応えられないと思うが…

 丁度いいからマオの様子を見守る事にしよう





「少し見ない間にえらく赤くなってるわね」

「あれで動けるとはマオさんもなかなかの根性です」


 もう全身から出血してるんじゃないか?と疑ってしまうくらい赤い

 ハーピーによって放火された炎に浮かび上がる姿はまさに悪魔だ。翼も片方は折れている


「龍人の方は無傷ね、そこまで力の差があったわけか」

「龍人は最上位と言えますからね…今のお母さんなら楽勝でしょうけど」

「先代がそれだけ人外って事よ」


 にしても確かに根性はある…今だってよろよろと立ち向かい拳を振り上げるが、当たるワケがないと断言出来るほど遅い…当然逆に殴り飛ばされる


 今までどれくらい耐えてきたかは不明だが、流石に立ち上がるのもキツくなってしまったのか倒れたままだ


「…諦めろ、こちらの大将はそっちの大将に生かされた様だからな、今諦めれば命までは取らぬ」

「…だれが、諦め…つっ……はぁ…まだ…」


 今日のマオは何か燃えている。こちらはすでに闘志が鎮火しちゃってますとは言えない状況だ


「今までの、わたしは…ただのお荷物…勝たなきゃ、強くならなきゃ」

「お主は十分強い…が、今はワシには届かぬよ。今後更に精進すればよい…お主が強くなった時、再び戦うと約束しよう」

「わたしは勝つ…わたしは勝たなきゃ…勝たなきゃ…わたしは勝たなきゃ…勝たなきゃ」

「…もはやワシの声も届かぬか」


 うわごとの様にセリフを繰り返すマオ。うつ伏せなので表情を伺う事は出来ない


「…お母さん」

「何か思い付いたみたいね、あれは…」



 演技だ

 私にとっては下手な演技にしか見えないが、龍人は見事に騙されている


「…今は眠れ」


 龍人が倒れ伏すマオに何の警戒もなく近づく…が


「……ウォーター、ランス…」

「ぬっ!?……ぐ、ふ」


 近づいた龍人に向けて魔法を放つ。今まで一度も使わなかったから油断したのだろう…放たれた水の槍はあっさりと龍人の腹に突き刺さった



「ワシの皮膚を突き破るとは見事…だが龍人の生命力を甘くみない事だ、残念だがこの程度なら」

「爆ぜろ…」


 パァンッ!という破裂音と共に龍人に刺さっていた水の槍が龍人の内部で爆発した。確かに内部なら脆いだろう…考えてるなぁ


「…ごふっ…!?……ぐぅ…」


 流石に倒れる龍人。しかし、水の槍と言いつつ色が真っ赤だったな


「あれって…ひょっとして」

「マオさんは自分の血液を使用した様ですね、龍人には生半可な魔法は効きませんから」

「血には魔力込もってそうだしねぇ…あの大量出血も作戦だったのかね?」


 だとしたら勝つ為の手段が少なかったんだな…お陰でどちらが勝者か分からないほどボロボロだ。

 だが、その少ない手段でよくやったものだ


 とりあえず終わったからマオの傍に行き、溜めておいたユニクスの血を柄杓でばっしゃばっしゃとかけてやる

 次第に傷が癒えてきた、様な気がする。血塗れだからさっぱり分からんが



「…お主は悪魔だったな…なら、魔法くらい使えるか…油断したわ」

「わたしの方がボロボロだったけど、あなたの負けです…命までは取らない様に手加減したので死ぬ事はないはずです…たぶん」


 多分かよ、まあ使った事ないような魔法だからどれくらい手加減すればいいか分からないか


「…そうか、ワシの負けか……」

「何でお前が負けたか分かる?」


 倒れた龍人に問う

 一応龍人にも血をかけてやった。これで死にはしないだろう


「その鋭い爪でマオの心臓を貫いてればお前の勝ちは間違いなかった。でも本気と言いつつ試合気分だったせいか、はたまたマオが女だから手加減しながら戦ってしまったからか…明確な殺意が無い故に油断したって所ね」

「…そうかも知れぬ、これでは先に逝った同胞に顔向け出来ぬな……」


 どうせまだ死なないのだ、残りの人生を精々亜人の為に使うんだな


「あなたの油断のお陰で私の座椅子が無事だった訳だから感謝するけどね」

「ふん、次は油断なぞ……ざいす?」

「そう、座椅子」

「ざいす……座椅子か…」


 マオを見やる目には同情の念が見える。別に本人はそこまで嫌がってないんだからいいじゃん


「その目をやめてください。お姉ちゃんのお尻を守る立派なポジションなんです」

「尻と言う言葉さえ無ければ立派だとは思うが」


 全くだ


「なにはともあれ…妄想中はどうかと思ったけど、貴女がちゃんと戦える様になって良かったわ…これで…」


 いつか…マオが一人になっても大丈夫、とは言わないでおく

 所詮私は人間、悪魔の寿命に比べたら短いものだ。私達の中で最後まで生き残ってしまうのはマオとぺけぴーだろう…


 私達の死後も母である舞王は恐らく生きてるだろうし、そこまで気にしなくても良さそうだが、戦えるに越した事はない


「これで…?」

「ん、何でもない。スマートな勝ち方じゃないけど、油断してたとはいえ格上だろう存在に勝ったのは素直に褒めましょう…よくやったわね」

「…へ、えへへ……よくやった…ですか……」


 ほんと、悪魔らしくない娘だこと……


 ひとしきりニヤニヤした後、項垂れていた龍人に向かって声をかけるマオ





「…これからは自分達の幸せの為に力を使ってください。受け売りですけど、世界は優しいのです、あなた方だっていつかは……」


 何か語りだした。どうやら良いこと言って終わらせようという魂胆らしい。私も早く終わらせたい時に良く使う手法だ

 その場の思いつきで話すため、言った事は大体覚えていない。世界が優しい…これは何か言った覚えがあるセリフだ








「…く、あは、あははははははっ!はっはははははは!!」


 停止していたてんぐが再起動した様だ。ただし、故障している


「お、面白い事言いますね…世界が優しい?この世界が?おめでたい…実におめでたい考えしてますよ貴女…ふふ…失礼、笑いが……くふふふふ」

「…わたしはお姉ちゃんにそう言われて救われたのです、笑わないでください」

「実に素晴らしい考えですね!全くもってその通り、ああ…この世界は何と優しいのでしょう…!私達は例外無くその恩恵を受けているのですっ!」

「もう本音を聞いちゃってるから遅いわよ、おめでたい考えしてて悪かったわね」

「滅相もないです…はい」


 確かにおめでたい考えではある。マオには言わなかったが、優しい以上に無責任、無関心であるとも言える


「言っちゃったものは仕方ないですね…なので言いますが、世界が優しいなどと言うのは恵まれた者の戯言ではないでしょうか?」

「恵まれただの恵まれてないだの…そんなの自分の生き方と気持ち次第でしょうに…」


「世の中にはどう足掻いても恵まれた生活が出来ないものだって居るのです…獣人達が良い例です」

「でもお前達という指導者が現れたじゃない、バラバラだった亜人を纏めあげる者が」


「それは結果論です…私達が現れなければ…」

「めんどくさい奴ね、恵まれてなかろうが幸せに生きてる者だって居るでしょうよ。

 世界が亜人が可哀想だから助けるとでも思ってるわけ?お前が言ってる事は運が有ったか無かったか、お前達が現れる前に死んでしまった亜人達がいる…それだけの話よ。そもそも死んでいった亜人でもないのに恵まれて無かったとか勝手に決めつけないでくれる?それは本人が決める事よ」


「それは…確かに獣人達に失礼でした。しかし運ですか…獣人も私も、運が無かっただけでこの状態なのですか…」

「弱い亜人の中には無念の内に死に逝った者も居るでしょう、でもお前は違う…それだけの力を持ってて運が無いとは笑わせるわね、ふざけるなって感じ」


「では…!世界は何をしてくれたのですっ!早くに敬愛すべき主に捨てられ、数百年も私を生かしてどうしろと…」

「世界は私達に自我を与えてくれたわ、自由に…好き勝手に生きれる事がどれだけ素晴らしい事なのか…別れ何て遅かれ早かれ訪れるものよ、主に捨てられたなら…その次は自分の為に生きなさい。てか数百年も引きずってるなんて随分女々しいわね」


 先代がただ捨てたとは思えないが…どちらかと言えば自由の身にしてやったと言える


「…好きに生きなさい。フィーリア様はそう言って突然居なくなりました…主の為に生まれた私にどうしろと言うのですか…」

「言葉通り好きに生きれば良かったのよ」

「それが難しいのです…こんなに辛いのに、世界は何故私という存在を許したのです…」

「どうやらこの世界はどんな者だろうと全てを受け入れるほど寛容みたいだからね、仕方がないわ」


 先代に捨てられた娘がたまたまてんぐという自我だったに過ぎない

 もしも私みたいな自我だったら喜んで好きに生きるな


「全てを…受け入れる…それだけ聞けば、確かに優しく感じますね…」

「悪魔のくせに人間寄りだろうと、蝶と言えない蝶だろうと、極端に言えばお前やユキみたいに力によって生まれた非常識な存在だろうとこの世界で生きる事は出来る。それだけで有難いことじゃない」

「…そうですか……え?」


 こっちがえ?だよ

 何か変な事言ったか?思った事言っただけだから言ったかもしれないが…

 それとも割と適当な事を勢いで言って良いこと言った気でいる私に気づいたか?


 だがてんぐは私ではなく、ユキの方を見て呆然と呟く






「…私と、同じ……?」

「私ですか?一緒と言えば一緒ですね、創造主は違いますが」


 ユキはのほほんと答える

 ふむふむ…てんぐは同じ力で生まれたユキに思う所があるようだ


「……気が変わりました。いいでしょう鞭使い、あなたを先に始末する事にしましょう」

「始末される気はございませんが…元々あなたと戦う予定だったはずですし、お相手お願いします」


 何か知らんが、私の考えてた予定通りユキとてんぐが戦う事になったらしい。


「すいませんペド様…あなたのお相手は少し先になりそうです」

「あっそ。どうせ私が戦ったらまた邪魔が入るに決まってるからいいわ、予想では次はハーピーね」

「…ひ、否定できませんね」


 しないのかよ…まあいい

 過程は大分変わったが、事実上の決戦がやっと始まるのだ

 恐らくユキも無傷では済まないだろうから、ユニクスから再び血を頂く事にしよう


 少し離れた位置に移動した二人が相対する。ユキが負ける心配はしていない…と言いたいが、流石に分からない。


「鞭使い、用意は宜しいですか?」

「いつでも。試合ではないのですから、不意討ちでも宜しかったかと」

「いいえ、あなたは正面から叩き潰します」


 言って札の様な紙を自身の側に複数浮かせるてんぐ

 何やら並々ならぬ闘志のてんぐとユキの戦いが始まった

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