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幼女、戦う意志をなくす

「…そろそろ戦わないか?」

「今そんな気分じゃないです…」


 ダメだコイツ…早く妄想させないと!

 現実で戦えと言ったばかりだが、明らかに妄想中の方が強化されてるのでやむを得ない


「マオ、そいつと戦ってる間は妄想にのめり込むのを許すからさっさとやりなさい」

「無理ですよぉ…今度は角が生えてきたらどうするんです?」

「なんて面倒な娘…」


 先ほどまでの頼もしさはどこへいった…妄想中も面倒な娘だが通常時も面倒とか良い所無しじゃないか


「大体何で急に妄想劇場が始まっちゃったわけ?」

「はじめの内は遊びだったんですけどぉ?やってる内に本気になっちゃったていうか?ノリノリになってたら羽が生えちゃったみたいな…ぎゃんっ!?」

「ごめん、喋り方がムカついた」


 イラっときたので思わず奇跡すてっきをぶつけてしまった

 もう最初の頃の純粋だったマオには戻れないのかもしれない…最初からアホだったっけ?




 しかし真剣勝負とは程遠い展開になってしまった…もうマオの戦いなんぞに時間はかけてられないな


「ユキ、もうマオのぱんつ脱がしちゃいましょう」

「さあ…再開しましょう」

「お主も不憫よのぉ…」

「わたしの扱いなんてこんなもんです…」


 敵に同情されるとは情けない。ほんの少しでも闘志があれば私だって何も言わないんだけど




「あらまぁ…いけませんよペド様…戦う意志の無い者に無理強いしては」


 卑猥野郎が割り込んできた


「悪魔の娘さん…確かマオさんでしたか?貴女は悪魔らしからぬお方の様で」

「わ、悪かったですね!」

「いえいえ、他人を傷付けるのを良しとしない素晴らしい性格の持ち主と思いますよ?」

「そ、そうですか?」


 …こりゃあれか?説得してあわよくば仲間に入れちゃおうという引き抜きじゃないか?


「この者達は別に悪魔に対して恨みなどありません。むしろ人間に敵視されてるなら亜人と称された者達の同志であると言えましょう」

「はぁ…」

「どうです?この者達が作った国へ来ませんか?種族は多いですが、差別も偏見もありません。マオさんの様に少し変わった悪魔でも受け入れられるでしょう。もちろん私が長年かけて施した結界によって人間に害される事もありませんのでご安心下さい」

「え、えぁ?」


 争いなく平和に暮らせるならマオにとっては魅力的な提案じゃなかろうか?


「口を挟まなくて宜しいのですか?」

「あの娘の人生はあの娘が決める事よ」


 あの返事からして良く分かってなさそうだけど

 そもそも私達の元を去るとは思ってない。いきなり現れた卑猥野郎より私達を選ぶハズだ



「あの…要するにあなた方の仲間になれと?」

「そうです。急に言われて戸惑っておられるでしょうが、今より幸せに暮らせる事は保証します」

「幸せ…貴族の人質にされたり、淫魔呼ばわりされたり、ぱんつ脱がされそうになったりしませんか?」

「あなた今までどんな仕打ちを受けてるんですか?」


 あれ?

 敵はおろか、ギルド内の連中までが私を微妙な顔で見てくる。


「こほん…少々予想外の回答に戸惑いましたが、そんな扱い受けているなら尚更こちら側につくべきだと思います」


 うむ、何だかマオが向こう側にいってもおかしくない雰囲気になってきた

 自分でやっといて何だけど、あれじゃ行っちゃったら行っちゃったで仕方がないと思う




「さあ…私の手をお取りください。掴んで下されば今後は誰にも怯えずに済む幸せな生活が待っていますよ?」


 そう言ってマオに向かって手を差しのべる…さてさて、どっちを選択するやら…





「お断りしますね」

「…貴女にとって良い話ですよ?」

「はい、きっとお姉ちゃん達に会う前ならあなたの手を取ったと思います」


 私の人徳が勝ったらしい。ギルド内の連中に向かってドヤ顔してやった


 また微妙な顔をされた



「なぜ、でしょう?」

「お姉ちゃんに会わなければ多分、わたし死んでましたし」

「…それだけですか?」

「それだけ?あなたはわたしとお姉ちゃんが会った時の事を知らないからそう言えるんです。お姉ちゃんは死にかけてた私をあんまり使わない力を使って元気にしてくれました。人間の敵である悪魔と分かっても変わらず接してくれました」


 ぬぅ…何だか恥ずかしい暴露話が始まる気がする…ほどほどにして欲しい…


「お姉ちゃんの言葉で心も救われました…人間にひどい事をされたお母さんもお姉ちゃんの事は認めてくれました…そして何より…今、わたしは幸せです。今以上の幸せは考えられない…ハチャメチャなお姉ちゃん達と旅をするのが楽しいです。しょっちゅう弄られるけど、家族の様に接してくれるのが泣きたくなるくらい嬉しいです」

「…」

「あなたが言う国はきっと平和で素敵な場所なんでしょうね…でも、今のわたしには間違いなく退屈な場所です。だから…あなた達とは一緒にいけません」

「…そうですか」


 背中が痒くなってくる…ギルド内の連中も何だか生暖かい目で見てきた。そんな目で私を見るな!


 説得が不発に終わった卑猥野郎がマオから離れようとした時、マオが卑猥野郎を引き止めた


「あ、ちょっと待ってください」

「…?何ですか?」

「あなたに御礼を言います。過去を思い出してわたしの進む道が見えました。お姉ちゃんに救われた命です…わたしはお姉ちゃんの為に生きます」

「そうですか…そう決められたなら、私からはもう言う事はありません」


 卑猥野郎はそれだけ言うと、マオから離れてこちらに来る

 敵側のくせに何故私達の方に来るんだとツッコミたい



「…とても素晴らしい絆をお持ちのようで」

「どうも、あなたのお陰でマオがより成長出来たかもしれないわ」

「まさしく余計な事をしてしまったワケですか…しかし、いけると思ったのですがね…」


 こいつの思惑がイマイチ分からない。マオを仲間にした所であの娘の性格上私達と同士討ちする事はまず無理、それはコイツも分かってるはず…

 では純粋にマオを思っての引き抜き行為だったのか?




「卑猥野郎は何が狙いなわけ?」

「まずその卑猥野郎というのは止めてください」

「あなたの名前を知らないもの、私の事は知ってるみたいだけど」

「そういえばそうですね、これは失礼しました。天狗とでもお呼びください」


 もの凄い偽名くさい名前が出てきたな…てか偽名だ


「何よそのてんぐってのは…」

「このお面です。天狗の顔をモデルにしてあるそうです」


 ああ、キモイお面の顔はてんぐという生き物のものか…こんなの実在するのか?魔物にいそうだが…


「てか取りなさいよ!このっ!」

「ああっ!そんなペド様…太くて長く固いものをにぎにぎしてはいけません!」

「にっ…!?こ、こん畜生めっ!」


 赤っ鼻を引っ掴んでお面を取ろうとしたら、まるで私が卑猥と言わんばかりの言葉で抵抗されて思わず手を離してしまった

 コイツは変態モード中のユキと同類の気配がする…


 また変な事言われても腹立つし卑猥野郎はもういいや、相手にするのが面倒になってきた




「お待たせしました。もう大丈夫です」

「ふん、良い面構えになったわ。よかろう、本気でかかって来い!」

「言われずともっ!」


 向こうは向こうで真面目な戦いが始まっている。

 今のマオなら心配せずとも何とかなりそうだし、こちらはこちらで続きをやるかな


「という事でショタロウの息の根をとめるかな」

「急すぎるよ…」

「まあまあ、折角なんですから…悪魔と龍人の戦いの行方を最後まで見届けましょう」


 何が折角なのか分からん。仮にも侵攻してきた立場のくせにやけにのんびりしている


「あなたの都合に合わせる必要性がない、私は私の考えで動く」

「…そういう方でしたね、これは失礼しました」


 卑猥野郎に調子を狂わされた感があるが、ここで相手のペースに乗せられる私ではない


 チラッとマオの様子を見ると割と劣勢だった。一方的に攻撃を受ける立場になっているが、目を見れば何かを狙ってるかのようだ


「…妹分が頑張ってるなら、グダグダやってる場合じゃないってね」


 今はもう少しすれば夜が明ける時間だ。夜明け前にはカタをつけようと決意した時



「待たせたなっ!」



 馬鹿が空気を読まずに現れた


「勇馬ユニクス様が来たからにはもう安心だぜ!」

「何であんただけ来たわけ?」

「うむ!油断してたら空飛ぶ連中に侵入されたんでこうして知らせに来た!」

「どこが安心だ役立たずっ!」

「げふぁっ!…か、顔は殴らないでぇ!」


 馬鹿に鉄拳制裁をくらわせたその時、遠くではあるが火の手が上がった


「恐らく王都に火を付けた者達と思われます」

「そのくらい分かってるわ」


 だんだんと火の手が近づいて来る。もしかしたら建物を半壊させたのは、燃えにくいレンガ造りの家が多いから内部から燃やす為だったのかもしれない




「ほらほら!普段役に立たないんですから消化活動くらいしてください!」

「無茶いうなよノエルちゃん…聞いてたろ?外には空飛ぶ亜人がいるんだぜ?俺達なんか瞬殺されちまうよ」

「なんて情けない…あ、一般人の方がっ!?」


 ノエルと冒険者のやりとりを見てた住民が任せてられん!と言わんばかりにバケツを持ち出して消化活動に向かった


「空飛ぶ亜人てどんな奴?鳥の亜人でしょうけど」

「バードマンじゃないでしょうか?顔と下半身は鳥ですが、胴体は人と変わりません」

「ふーん、でも遠目で見たから間違ってるかもしれないけど、月明かりに映った影は女性型だった気がするわ」

「でしたらハーピーでしょう。顔と胴体は人と変わりませんが、下半身はバードマン同様鳥で、腕が翼となっています」


 腕の代わりに翼とか不便だな…足先が器用になってるのか?


「てか羽が邪魔で服着れなさそうね」

「はい、一説によればハーピーは上半身裸で過ごすとか」






「お前ら!五丁目の平和は俺達で守るぞっ!」

「当然だろ!」

「消化活動は一般人に任せて俺達は亜人を相手にするんだな!」

「という事でハーピーは俺達に任せてペドちゃん達はボス戦に集中してくれっ!」

「「…」」


 火の手が上がる方へ駆け出す冒険者達を見て思わずノエル同様無言になってしまった

 ここまで来るといっそ清々しい。五丁目の有り様を見ても欲望に動くとは実にクズだ


「…いいの?あのハーピー達は…えっと、天狗?の…」

「大丈夫です…ハーピー達があの者達に負けるハズがありません」


 何やら会話中だが、私が大人しく終わるのを待っていると思ったら大間違いだ!


「…!?」

「おっと…!」


 無言で奇跡すてっきを投げたが卑猥野郎の結界?に阻まれた。

 何か妙な紙を取り出したと思ったら、すぐさま結界が発動した様に見えたが…


「変わった力を持ってるわね」

「符術と言います。ここまで使いこなすのに大分修行しましたね」


 知らないな…多分、予め紙に力を込めておけばすぐに魔法が発動するとかそんな所だろう


「折角ペド様に会えたのですし、もう少し楽しみたかったですが…仕方ありませんね」


 相手もおふざけは終了したらしい。上等だ…


「では…お相手をお願いしますね」

「何で私がお前の相手をしなきゃいけない?」

「…あれ?」


 何を勘違いしてるのか…私の標的はあくまで亜人のボス的位置にいるショタロウだ


「まあ安心なさい…この町を襲った愚か者には全て等しく死を与えるから…後でハーピーだってちゃんと殺すわ」

「…飄々とした態度でしたので気付きませんでした…あなたの心の中にはそこまで怒りがありましたか…」

「そうよ、私は怒りに任せて我を忘れたりしないもの…気付かないのも無理ないわ」


 最初の内は怪しかったけど


「この町を襲った事があなたの逆鱗に触れてしまいましたか…」

「…お前達は手を出してはいけない者を手にかけてしまったのよ。この国にとっては名も知らぬただの死者の内の一人でしょうけど、私にとっては亜人共全ての命に等しいかそれ以上の存在だったのよ」


 命の代価は命で払ってもらう…ただの醜い復讐なんだろうが、何もせずにいられるほど私は大人ではない


「楽には死ねないと思いなさい…」

「…お母さんお母さん」


 …何だってんだ、皆していざ戦おうって時に邪魔しおって


「…あちらを」

「なによ…?」


 ユキが指差す方向を見る。ハーピーによって燃やされた建物と消化活動をする住民達…よく見ると……



 そこには、元気に消化活動をする父の姿がっ!







 …あれー?生きてはるわぁ

 てか生きてたんかい、じゃあ…私は今まで誰の敵討ちをしていたというのか…


「…早く父さんを殺さなきゃ」

「考えがそちらにいきましたか、落ち着いて下さい」

「落ち着いてるわ。あれはゾンビよ、魔物は殺す」

「本来なら喜ぶべき所なのですが、大分ショックだったみたいですね…そもそも何でダナン様が死んだとお思いになられましたか?」


 そりゃあの時、母がそう言って…ん?母が言って……


『んー…寝ちゃった…』


 ………そっかぁ、寝ちゃったかぁ



「あ、あんなの誰だって勘違いするわよっ!?あの状況よ?あの状況っ!!死んだと思うでしょ普通!!?」

「私達は家の中には入ってませんから当時の状況はわかりません」

「!?」


 こ、この馬鹿娘…私は無関係です、悪くないですと言った表情をしおってぇ!


「…何か様子が変だね」

「妙ですね、あれだけあった殺気が無くなりました」


 敵さんも訝しげな表情だ。そりゃそうだろう…ついさっきまで殺す殺す言ってた私がこんな状態なんだから…


 どうする?復讐とかしたってしょうがないんでお帰り下さいとでも言えと?





「…ノエル、私の近所で誰か死んだ?」

「…えっとぉ……はい、マッコリさん82歳が食事中に亜人の襲撃に驚き、食べてた団子を咽に詰まらせて残念ながら…」


 誰だよ

 晩飯に団子食うなよ

 てか被害者少なすぎじゃないか?そういえば門番は領主の真面目そうな私兵だったか…住民が逃げる為の時間は稼いだんだろう



「…私はこの破壊された町と死んだマッコリ爺さんの為に戦ってるの…その辺覚えておきなさい」

「そうですか…よほど親しい方だったんでしょうね」

「ええ…まあ、そうね。…そ、そう!何より許せないのが私の母を…」


 傷付けた事だ!…と言おうとしたら、視界の隅に何やら破壊された家の瓦礫を除けて物色してる人物の姿が…



「盗ったどおぉぉぉっ!!」



 …紛れもなく母だった。あんにゃろうはどさくさに紛れて他人の家の金品を強奪しているらしい

 傍には護衛に任命したマイちゃんとぺけぴーの姿もある


 盗んだ金品をあろうことか私がプレゼントした缶に詰め込むクズ。私の思い出を汚すんじゃねぇ



「大変よ!セティさんが盗賊紛いの行動してるわ!」

「何だって!?こんな時になんて人だ!捕まえろ!」

「僕の妻に何をするうぅぅぅぅっ!」

「…!…今よ!夫が食い止めてる内にずらかるわよ!蝶と馬!」

「「…」」

「どけ!ダナン!お前も同罪だぞっ!」



 …何でこう、タイミング悪い時に出てくるかな?きっと…私は今、泣いていい…


「…母を、と言いかけましたが、どうやら泣くほどの仕打ちをしてしまったみたいですね」

「…えぇ」

「君たち人間だって、僕が守るべき存在にそれ以上の仕打ちをした事は覚えておいて…許せないのは僕達だって同じなんだ…!」


 なんだろう…この温度差。最初はこちらがヒートしてたのに今はあっちが燃えている


「…いいさ、結局は勝った者が正しいんだ…僕は君たちに勝つっ!」


 …ああ、そう、としか感想がない。

 マオは今どんな気持ちで龍人と戦ってるのかなー、とか関係ない事を考えながらショタロウ達と相対した

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