幼女、早くも親玉に会う
マイちゃんとぺけぴーにはそのまま家の護衛を任せて亜人の殲滅に向かう
「あの、ご両親はどうでしたか?」
「…お母さんはとりあえず生きてたわ」
母は…だが。私の言葉から察したのか皆が黙り込む。気休めの言葉をかけてこないのは有難い
今は家族の事より亜人掃討に集中しよう
鶏戦で奇跡ぱわーによる気絶が後払い出来るのを知ったので今回もそうする
「私が良いと言うまで奇跡ぱわーによる強化を維持させましょう」
「それはあまりにも無茶な要求では?代償が酷くなる恐れがあります」
「構わない…気絶時間が一年だろうが十年だろうが払ってやろうじゃないの」
「…なるべくお母さんの負担を減らす様にします」
私が引く気配がないのを感じたのか、ユキがそう言った。獲物が減るが、娘の好意だし無下には出来ない
奇跡すてっきを呼び出し、早速強化に取り掛かる
「奇跡すてっき…あなたは先代の強さを間近で見てきたわよね?」
間近どころか打撃武器として酷使されていたけど
「私に先代と同等の力を与えなさい、出来ないとは言わせない。代価はもちろん後払いよ…私の報復が終わったら好きなだけ気絶させればいい。分かったら力を寄越しなさい!奇跡ぱわーっ!!」
叫んだと同時に身体が熱くなる。表面上は何の変化も無いが、これは…
「何かしらね…この高揚感は…」
今なら亜人程度は瞬殺出来ると確信が持てる。先代は本当に人間だったのか…?まあいいけど
「じゃあ…いきましょう」
ユキとマオを従えて町中に出る。今の私は抱っこちゃんではなく自分で先頭を歩いている
早速オークを見つけたので試しに走り寄って足を殴ってみた、すると
ベギリ…
「ア゛ギャアアアアア!」
「あらまぁ」
いともあっさりとオークの足を粉砕出来た。普段の私には考えられない力なので何か新鮮だ
ギャアギャア煩いのでオークの脳天もかち割っておく
「ふ、ふふふふふ」
「お、お姉ちゃんが怖いです…」
「マオさんもまだまだですね、今のお母さんを素敵と思えたら真のフィーリア一家になれるでしょう」
「えー…」
ぺちゃくちゃ喋ってる二人をよそに、私は次々と亜人に襲いかかる
家に居た死体はオーク、つまり家族を襲ったのは豚に違いない。なので豚は発見次第ブチ殺す
「あっはははははっ!!爽快ね!豚を簡単に吹き飛ばせるわっ!」
豚を中心に狙い殴って殴って殴りまくる。試しにそこそこ力を込めて殴ったら当たった部分が弾けとんだ。
「脆いっ!汚い血がかかっちゃったじゃない!」
「お母さんに任せっぱなしもなんですし、私達も参加しましょう」
「わたしもっ!?」
当然だ、何のために同行してると思ってるんだ?
「マオ、お勉強の時間よ。亜人を見かけたらどうするんだっけ?」
「せ、説得…?」
「正解は殺す。じゃあ亜人が命乞いをしてきたら?」
「逃がしてあげます!」
「正解は見逃すフリして後ろから襲って殺す、よ」
「外道ですっ!?」
外道上等じゃないか…今なら喜んで悪鬼羅刹になってやろう
半壊した家の窓に映る自分の姿を見る。返り血を浴び、紅い目は爛々と輝いていて歪んだ笑みを浮かべている
悪魔よりも悪魔らしい姿だと思う。
「お前もそう思わない?」
「ビギュ…!」
少しジャンプして頭を殴るだけであっけなく絶命する豚。もっと苦しませるべきか?
「やっぱり楽に殺すより苦しませる方がいい?」
「でしたら四肢を破壊して放置しましょう」
「そうね」
「あわわわわわわっ!」
ユキの言う通り両手両足を粉砕して放っておく。痛みでピギピギ言いながら泣いている豚。オークも泣けるんだな、新発見だ
ユキは私と同様に亜人の四肢だけを攻撃して殺しはしないが死ぬ以上の苦痛を与えている。放っておけばその内死ぬだろうけど
マオはおろおろするばかりで何もしない、基礎能力は高いのに育ちのせいで悪魔らしさが皆無だ。舞王が育てていたなら亜人程度なら鼻歌まじりに殲滅してただろう
「…中ボスっぽい亜人がいたら戦わせてみるか」
悠々と歩きながら亜人を討伐していると、夜の暗闇に紛れて奇襲攻撃をしてくるコボルトが出てきた。
今の私にはそんなもの効かないが…何というか、亜人の気配が分かるのだ。武道の達人みたいだな
「はい残念」
「ヴグェ!」
襲ってきたコボルトの腹部を容赦なく殴る。
その様子を見て一人では無理と判断したのか、複数で襲ってくるが、まとめて回転しながら薙ぎ払った。少し舞王の真似をしてみた
「舞道は武道に通ずる、と」
「極めればですが」
極めればね…今のはただ回転しながら攻撃しただけだもんなー
亜人に出会ったら即攻撃をし続けて早数十分。散々亜人をボコボコにしたせいか、私達を警戒して襲って来なくなった
「攻撃しなけりゃ大丈夫と思ったら大間違いだけど、来ないならこっちから攻めるだけの話ね」
言って亜人達に走り寄る。こんな小さい少女が向かって来るだけなのに亜人の表情には心なしか恐怖が浮かんでいる
「あはっ…良い表情してるわお前達!怯える獲物を容赦なく叩き潰すのは大好きよ!」
背を向けて逃げ出す亜人もいるが、この町に来た亜人は一人たりとも逃がさない…!
「あっはははは!!結局人間から逃げ出すわけ?所詮は畜生って事ね…情けない!」
豚はともかく、コボルトの連中は逃げ足が早い。追うのも面倒なのでユキに任せる。
期待通りに鞭を伸ばして逃げるコボルトを撃破してくれた
「ちなみにお母さん、亜人はどこまで痛めつければいいんですか?」
「そうねぇ…少なくともこの町を襲った連中は殲滅する」
もしかしたらそれだけでは気が済まないかもしれないが、その時は全ての亜人を滅ぼすまで
亜人を掃討するきっかけとなった母の姿を思い出し、怒りが再び沸き上がってきた
「ええいっ!ちっとも気がはれない!自分がこんなに家族を大事に思ってたとは思わなかったっ!いや知ってたけど、いざ家族を傷付けられたらこうも平常心が無くなるなんてねっ!」
いっそ家族に無関心だったならこんなにイライラしなかったかもしれない
「それとは逆に家族以外の相手ならこうも簡単に命を奪える私自身に不快感を覚えるっ!」
「ですが、亜人達を掃討しない限り五丁目の住民の命が危ない以上仕方がない事です…何の理由もなく亜人を殺す訳ではありませんから、今のお母さんの行為は正しいハズです」
そう言ってくれて救われるが、そうじゃないんだよユキ…亜人をこの手で殺しても罪悪感を全く感じないのが腹立つのだ。
「所詮私も平気な顔して亜人を殺す人間と大差なかったって事ねっ!」
叫びながらも亜人を殴る手を緩めない。ちらりと後ろの二人を見れば何とも言えない表情で私を見ていた
ユキはともかく、マオは今の私の姿を見続けたら今後姉と呼んでくれるか分からないな…
いつもの余計な事を考えるクセが出てしまった、今は戦いに集中しよう…戦いというか虐殺だけど
「亜人の集団みっけ」
何の躊躇もなく亜人が集団で建物を襲っている場所に突撃する
「建物なんざ襲ってる場合じゃないわよっ!お前達が今気にすべきはこの私達だ!」
今度の奴らは武器を持っているようだ。コボルトが私に気付いて剣を降り下ろしてくるが、少し横にズレるだけで簡単に避けれる
まともに剣術を学んだ連中ではないので、ただただ振り回すだけしか能がないみたいだ。私も似たようなものだが
この場には数種類の亜人がいるので、私はオークに狙いを絞る。残りはユキが勝手に片付けてくれるだろう
「豚は私の獲物だ!」
作戦変更、数が多いと四肢を狙うのは面倒なので頭を狙って一撃で沈める
豚の装備はこん棒…というか太い木の棒だ。私が避けて地面に叩きつけられたら折れた…当たれば痛いだろう
背が低いのでピョンピョン跳ねながら豚の頭を狙っていたが、着地時を狙って攻撃してくるコボルトが鬱陶しい
そのコボルトはすぐさまユキが始末してくれたが
亜人を蹴散らしながら進むと、建物の入口付近で冒険者らしき者達が戦ってるのが見えた。
亜人に集中して気が付かなかったが、この建物はギルドじゃないか…今の私はそんな事にも気付かない程に亜人に目がいってたようだ
「はっ!後ろががら空きよボケ共がっ!」
狙うのは当然豚だ。足を狙って思いっきり奇跡すてっきを振り抜くと、豚の片足が千切れてバランスを保てなくなった豚が転倒する
「うはははは!無様ねっ!豚なんだから前足も地につけてないとねっ!」
高笑いしながら狩りまくる。すでに先程までの不快感は吹き飛んでおり、有るのは亜人を狩るという意識のみ
「あ、新手の死神だ!」
「馬鹿!よく見ろ!返り血で分かりづらいが、ありゃペドちゃんだ!」
「マジかっ!?ペドちゃんつえぇっ!」
「五丁目のアイドルは実は救世主だったんだ!」
私に気付いた五丁目の冒険者達が騒いでいる。あの数の亜人からギルドを守り続けていたんだからろくでなし達にしては良く頑張ったと思う。
「粗方片付いたわね…ギルド内は無事みたい」
「流石にギルドですね、外壁に施してある強化魔法で無傷です」
「なら入口を守るだけで十分って事か」
試しに窓ガラスを叩いてみる。
ドンッ!と音がなるだけで割れはしなかった。思いっきり殴れば割れると思うけど
ちなみに今の行為で中から悲鳴が聞こえた。結構な数の避難民が居るようだ。少し悪い事をしたと思う。
ノエルの様子はどうだろうかと思い、ギルド内に入る事にした。
ユキとマオには入口の守備を任せる。
私が中に入ると皆してギョッとした表情を浮かべて後ずさる。
そりゃ血だらけの幼女が入って来たら驚くわな
「無事みたいね」
「その声はペド………きゃあああっ!ペド様が重傷をっ!?」
「ただの返り血よ」
自分がどれだけ血を浴びているか不明だが、服についてる血の量を見る限りでは結構赤くなってそうだ
「返り血?…と、とりあえず顔を拭いてください、怖いので」
「そうね」
お湯につけられたタオルを渡されたので遠慮なく顔を拭く。拭いた後タオルを見る、こりゃ赤い
「ペド様……そこまで返り血を浴びるほど亜人を倒したのですか?」
「ええ」
「…実はかなりの実力者だったんですね!」
それはない、本来の自分はオーク一匹すら倒せない弱さだ
「戦況とかわかる?」
「この町を襲ってきたのはコボルトとオークとゴブリンが主力みたいですので、何とか町の冒険者達で抑える事が出来てる状態です。ただ、もっと強い亜人が出てきたらマズかったでしょう…。まさか亜人が手を組んで襲ってくるとは思わなかったので、数に押されてあっけなく門を突破されたのが痛いですね」
「そうね…五丁目には亜人の情報何て来ないでしょうし」
「まあ、五丁目の冒険者達も住民の避難と救助を頑張ってくれましたので、被害は最小限に抑えられた…と、願いたいです」
やれば出来るもんだな…ろくでなし達も。そういえば家を守ってくれてた冒険者もいたな…
と、ギルドで久々にノエルと語らっていた時だった
「おおおお姉ちゃんっ!大変です!四天王が!?」
マオが慌てて私を呼びに来た。亜人の親玉でも来たのか?そんな事よりまだ言ってたのか、その設定
☆☆☆☆☆☆
外に出て見えたのは2mはあるだろう高い身長のワニ。
立派な装備をしており、鎧は鉄製と布きれ一枚の他の亜人とは大違いだ
「ふむ…貴様が我らが同胞を殺しまわってる小さき人間か」
「ワニのくせに喋る知能はあるのね」
「ワシは龍人だ、ワニなどと一緒にするな」
龍人…種族からして強いのだろう。五丁目の冒険者達は龍人の登場で諦めの表情を浮かべている
「龍人だろうと五丁目に仇なす者なら潰すまでよ」
「ふん、かかって来るがいい…と言いたい所だが、貴様はとても強く危険なようだ…恐らくワシよりも。だが、これなら手は出せまい?」
と言って片手に抱えていた人間の子供を見せつけてきた。
何かと思えばそんな事か
「子供もろとも死になさいっ!」
「ストップ!ペド様ストーーーップっ!!」
「落ち着けペドちゃん!」
「だだだ駄目ですよお姉ちゃんっ!?」
奇跡すてっきを投擲するフォームをした私にストップの声がかかる
無視して投げ様とした時、マオに羽交い締めにされた
ええいっ!邪魔するんじゃない!
「ガキをやれっ!ユキ!!」
「ちょっ!?」
私の命令によりユキは子供目掛けて鞭を振るった
龍人もこの展開は予想してなかった様で、一瞬固まってしまった…その一瞬さえあればユキには十分、鞭は狙い通り子供に命中する…が
「あっぶないなぁ…死ぬかと思ったよ」
子供、いやクソガキはユキの鞭を掴んでいた
「…!いたっ!?」
打撃タイプから斬撃タイプに切り替えたのだろう、クソガキは手を負傷し慌てて鞭から手を離した
「びっくりした…凄い切れ味だね…」
「そのまま指がちょんぎれたら良かったのにね」
「どうやら君は気付いてたみたいだね。よく…僕が敵だってわかったね」
「人を見る目はあるのよ…それに、無駄にプライドが高いらしい龍人が人質なんかとるわけない。というかマオ、いい加減離しなさい」
「はぅ!?ご、ごめんなさい!混乱してました…」
解放されてユキの側まで歩み寄る。服が血でびちゃびちゃだったので当然羽交い締めをしたマオの服も血に染まってしまった
「やっぱり似てるなぁ…」
「何の事か分からないけど、もしかしてお前が亜人達のボス?」
「まぁ…そうなるかな」
一瞬耳を疑った。まさか王都ではなく五丁目に親玉が来るとは思ってなかったからだ。
そうかそうか…このクソガキが親玉か…
「くっふふ…まさか、亜人の親玉がのこのこ五丁目なんて小さい町に来るなんて」
「あのねぇ…神獣が暴れまわってるとか王都より厄介な場所だよ?ここは」
そういやユニクス達も居たな、そのお陰で親玉が登場したなら馬鹿も役に立ったな
「お前の相手は私がしてあげる…光栄に思いなさいショタロウ」
「勝手に変な名前付けないでよ」
隣に居る龍人は…そうだなぁ
「マオ、あなたが龍人の相手をしなさい」
「うぇっ!?無茶ですよ!」
「私が大丈夫って言うんだから大丈夫よ」
「そんなぁ…」
実際龍人の強さは不明なのだが、マオが本気出せれば何とかなる気がする
「ユキは邪魔が入らないようにしておいて」
「かしこまりました」
方針も決まった所でショタロウ達と相対する。さてさてどう料理してくれようか…
楽しい楽しい報復の始まりに私は今、凄惨な笑みを浮かべている事だろう
「始めましょうか?」
★★★★★★★★★★
私は今、眼下に見える光景に歓喜しています
視線の先にはペド・フィーリア…いえ、ペド・フィーリア様のお姿が
数百年という長い長い時間恨み続けた相手でしたが、今は恨みなど吹き飛んでいます
ユニクス達が動いたと知った時、すぐさま監視を始めました。彼らが動く理由はペド様が必ず絡んでいると思ったからです
そしてほどなくしてユニクス達と合流したあの御方を初めて見ました
一匹のユニクスの背に乗り、向かってくる敵はユニクス達に任せっぱなし…町に着いたらユニクス達と別行動しましたが、結局敵はメイドらしき人物が撃退してました
こんな自分では何もしない少女がフィーリア様の力を受け継いでいるなんて許せませんでした…この時までは
とある家から出てきたペド様は明らかに先程までとは雰囲気が変わっていました。そして…
そのお身体からは想像出来ない力で敵を簡単に粉砕しました
なんの型もない、ただ力と直感だけの暴力で敵を討つ姿はまさしくフィーリア様そのもの
私から憎悪の感情が次第に抜けていくのを感じました。込み上げてくるのは懐かしさと喜び、そして恋慕に似た感情…
いつしか私は涙を流している事に気づきました
ずっと…ずっと待ち続けて良かった…別人と分かってはいますが、それでもフィーリア様と姿が重なる存在に会えました
あの子に先を越されたのは癪ですが、私も早速ペド様と接触する事にしましょう
永かった空虚な日々をあの御方に終わらせて頂くため、私は遥か上空から地上に向けて降下を始めました
「すぐ…逢いに参ります」




