幼女と家族
「邪魔よ」
「プギッ!?」
寄ってきたオークに奇跡すてっきをぶん投げた。そして再び手元に呼ぶ
「便利な投擲アイテムね」
「…意志がある武器みたいですし、ほどほどに」
「わかったわよ、グレて呼んでも来なくなったら困るしね」
前に人化した時は可愛らしいピンクな少女だったっけ…それを醜い豚にぶん投げるとか確かに酷い事してる感がある
それにしても外にいる亜人達は吠えるばかりだな、教育されていない亜人か、または知能がないフリをしているかだ
「でも変ね…これだけの数の亜人、どこに隠れていたのか…」
この辺りで隠れ場所として考えられるのは山しかないが…
依頼で山に行く冒険者だってそれなりにいる。それなのに誰一人見つけられないとかおかしい
「そこん所どう思う?妄想で何か思い付かない?マオ」
「はぁっ…はぁっ…はひっ?!」
「…何でもないわ」
マオは走るので精一杯らしい…何か体力落ちてないか?鬼の里から走って来たんじゃなかったのか…
「亜人に無双中で忙しそうだけど、ユキはどう思う?」
「転移でもしたのかもしれませんね」
転移って魔法か…?こんな大人数を転移させるとかあり得ないと思うが…それが出来る相手ならとんだ強敵じゃなかろうか
一丁目は近いので遠目でも煙が上っているのが見える。やはり王都以外も攻撃を受けていた
「急ぎたいけど、これじゃあね…鬱陶しい」
「片っ端から吹き飛ばしてますが、キリがないですね」
この短時間で一体どれくらいの亜人がユキの鞭の餌食になっているやら
立ち塞がっているのはほとんどがオークだ。数だけは厄介な相手だ。
「ねえ?私ホントに大丈夫?」
「ユキが側にいるからきっと大丈夫よ」
少し不安げに聞いてくるお姉さん。ユキが先陣をきっているので、ユキに抱えられてるお姉さんは当然迫る亜人を間近で見る事になる。そりゃ一般人は怖いわな
吹っ飛ぶオークを眺めていたら、王都には居なかった亜人が見えた。
「…子供くらいの大きさで緑色したキモい亜人が見えるんだけど」
「ゴブリンですね、亜人ですが魔物として扱われている種族です」
雑魚として有名な奴だな…しかし、オーク同様数が多いのは厄介だ
「腰に布を巻いてるだけ良心的ね」
「あの程度なら攻撃して吹き飛ばしたら捲れますよ、見たくない場合は目を瞑るといいでしょう」
すぐさま目を瞑った。誰がそんなもの見るか
「私は興味あるなー」
「わ、わた…わたしは、…はぁ…目、閉じたら…転び…っ…はぁっ…」
お姉さんは流石というか興味津々な様子。マオはキツいなら黙ってればいいのに…
打撃音と亜人の悲鳴を聞きながら、目を開けていいと許可が出るのを待っていると
「困りました」
「今度はなに?」
「空から魔物が来ました」
鶏かっ!?と思って目を開けて上空を見る。鳥は鳥でもカラスっぽい。
「カラスっぽいと言うかカラスじゃない」
「あれでもれっきとした魔物です。恐らく血の臭いに寄って来たのでしょうね…急降下して嘴で刺してきますのでご注意を」
ご注意しようにも襲われたら刺される覚悟しか出来ないんだけど…
幸いな事に襲われてるのは亜人ばっかりだ…人外の気配を察して私達を避けてるのかもしれない
「ある意味チャンスね、一気に突破出来る?」
「亜人の戦力は落ちますが、それでも道を塞がれてる分だけ速度は落ちたままですね」
ええいめんどくさい!私の進行を止めるとは良い度胸だ!まとめて塵にしてやろうかと考えていた時
『ふははははっ!流石は創造主の末裔だな!波乱な人生歩んでやがる!』
「その声は馬鹿!」
『違うっ!』
いや合ってる!煩いし馬鹿なので付いてくるのをお断りしたユニクスだ。馬鹿以外のユニクス達も一緒にいるらしい
馬鹿を先頭に亜人を蹴りながらこちらに来た
『数日ぶりだなっ!』
「数日所じゃないわよ、まぁ久しぶりね…何しに来たの?」
『助けに来てやったってのにヒデぇな』
それは有難い事だが、怪しいな…神域に居たくせに何でこの状況が分かった
「何で私達が助けが欲しい状況ってわかったのかキリキリ白状しなさい」
『ふはははははっ!』
「笑って誤魔化せるワケないでしょ」
明らかに何か隠している馬鹿。
『いやな?この連中の事は知らんが、つい先日古い知り合いが来てな…お前さんの事を話したらそれはもう嬉しそうに会いに行くって言ってな?』
「何で嬉しそうなのに助けが必要なのよ」
『やっと恨みを晴らせるって嬉々として言ってたから』
「何で知らない奴に恨まれなきゃなんないのよ!」
そいつ私を殺す気じゃないか?あまり恨まれないよう世渡りは上手くやってきたと思ってたのにとんだ災難だ
『何というか…まあ複雑な事情があるんだよ』
「どんな奴よ?せめて容姿くらい知っておいて対処したいわ」
『変な格好してるからすぐ分かるさ』
面白い格好してたら問答無用で攻撃すればいいんだな
「ま、今は変人より亜人ね。手伝いにきたなら貴方達で道を塞いでる奴らを吹っ飛ばしなさいよ」
『お?そりゃ命令かっ!いいぜぇ…お前ら聞いたか!久しぶりに命令されたぜ!』
『『『『ひゃっほーぅ!!』』』』
何で嬉しそうにしてるか分からんが、都合がいいから黙っておく。
ユニクス達が私達の前で固まって走る。流石は神獣というべきか、亜人の群れを簡単に蹴り飛ばしながら走る。
『よっしゃあああぁぁぁっ!お前ら!フォーメーション・オメガだっ!』
『おう!』
『え…?あ、うん…』
『なんだそれ』
『とりあえず返事しとけばいいんじゃない?』
全然息が合ってない、しかもフォーメーションと言いつつ陣形に何の変化もないし
『見よ!この敵を蹴り飛ばす爽快感をっ!そして足の短い小さなお嬢さんでも安心なベルトと背もたれ付きの鞍!』
いつの間に付けた
『どうだい?そんな駄馬より俺様に乗りたくなってきただろう?』
「ならん」
『ちっくしょーめっ!!フォーメーション・オメガ失敗だっ!』
今のがオメガかよ!もう黙って進んで欲しい
「ユキ、亜人は馬鹿達に任せましょう。空いてる右手でマオも抱えてちょうだい、速度を上げるわ」
「了解です」
「ご…ごめ、なさい…」
そろそろマオを強化しといた方がいいかも。五丁目でせいぜい活躍してもらうとしよう
「飛行する亜人が出ないからマイちゃんの出番がないわね」
パタパタ
頭上で返事をするマイちゃん。仮にカラスが襲ってきても大丈夫か
かなりの速さで走っているのに無駄に元気なユニクス達の後を、私達は何の妨害もなく安全に走行していった
★★★★★★★★★★
あれからずっと走り続けている。もうすっかり夜になっていて辺りは暗く視界が悪い
夜と言えばコウモリの野郎が出てくる可能性があるな…
四丁目付近まで来ると亜人の数が急に減った。どうやら王都近辺に戦力を集中させてるみたいだ
「…火の明かりは見えませんね、四丁目はまだ燃やされるまでには至ってないようです」
それなら五丁目もまだ無事かもしれない…だが急ぐに越したことはない
「四丁目にはファル…何だっけ?…確か、ファルコンとかいう優秀な冒険者がいるから何とかなりそうね」
「はい。ちなみにファルクスという名前だったかと」
いいじゃん別に…ファルコンの方が強そうだ
「そうそう、さっきコウモリで思い出したけど、王都や町には飛行する魔物用の結界があるんじゃないの?亜人には効果ないわけ?」
「調べてないので分かりませんが、単純に効かなかったか結界の装置を破壊されたかでしょうね」
その辺はおいおい分かるか、結界が効いた所で結界の上からなら無機物の火炎瓶は落とせそうだし
『神域の外を走るのも久しぶりだが…悪くないな!』
「そう、ちゃんと家を出られてよかったわね」
『おう!』
ユニクス達は成長したのだろう。神域を守り、ただ過ごすだけの日々から家を飛び出す決断が出来たくらいには
私のご高説も役に立ったようで良かった。
「もうじき五丁目に到着致します」
「わかった」
「…お母さん」
「なに?」
前を走るユキが戸惑いがちに聞いてきた。何かあるんだろうか…
「…こうなった以上、五丁目の皆さんが全員無事とは断言出来ません。もしかしたら近しい誰かが犠牲になってる事も考えられます…ですから、その…」
「……覚悟しておくわ」
最悪の状況を想定しておけと、ユキはそう言いたいのか
都合よく知り合いだけ助かる何て展開はないだろうしな…心の準備はしておこう
「…もし」
私の家族に害があったなら、私はどう行動するだろうか…
モヤモヤした気持ちのまま五丁目の目の前まで近付いた
やはり亜人の襲撃はあるようで、怒号が響き渡っている
「ユニクス達は町の周辺の亜人を掃討して」
『任せなっ!数が多くてちと時間はかかりそうだがな!』
「お願い、私達は町に特攻するわよ!」
門はすでに開いている、もしかしたら全門が突破されてるかもしれない
入口の亜人達を両手が塞がっているので跳び蹴りで蹴散らす男らしいユキの後を追う
「うおっ!新手かと思ったらペドちゃん達か!」
五丁目の冒険者を驚かせてしまったみたいだ。
「状況はどう?」
「俺らろくでなしばかりじゃ厳しい所だよ、まあ五丁目の為だから頑張るさ」
「良い心がけね、死ぬんじゃないわよ」
「もちろんだ!」
挨拶もそこそこに先に進む。目的地は当然ながら私の実家だ
見える家は破壊されてたり半壊してたりと様々だ。無事な家が見当たらない…
「酷い事になってるね…私の実家も壊されてるかなぁ」
「家なんて造り直せばいいわよ」
こうも見る家全てが攻撃を受けてちゃ少し不安になってくる…
そして漸く家に着いたが、家の付近でまさに冒険者数人と亜人が戦闘中であった
「ぺけぴー!突撃!」
『くるっくーっ!』
号令と共にオーク数匹を吹き飛ばすぺけぴー、冒険者達は私の実家を守ってくれていたのか?
「ペドちゃん…」
「ありがとう…ここは私達が何とかするわ。あなた達は他の一般人を守ってあげて」
「…ああっ…わかった…ごめんな」
感謝すべきはこちらだ…多少は壊されてるが、家は無事だ。
でも…
「…私一人で行くから、貴女達はここを守って」
「…お母さん」
「大丈夫」
我ながら何が大丈夫なんだか分かりゃしないな…
きっと今の私は険しい表情をしている
一度深呼吸をしてから、家のドアを開けた──
「お土産無いと入れないって言ったでしょ?」
「それだけ余裕なら大丈夫そうね」
亜人の襲撃の最中とは思えない程のいつもの母だった
「びっくりよねー…見てよ、お隣さんの家なんて全壊よ?」
「何で避難しなかったのよ…ギルドか学校に集まる方が安全でしょ」
「ペドちゃんの帰る場所は必要でしょ?それに宝物だって沢山あるもの」
馬鹿が…馬鹿な母め!家だけあっても意味ないだろうが…家なんか無くても
「家族が居る場所が帰る所でしょうに…」
「そう…そうね…」
「…宝物って言うくらいだから、ご自慢の宝石でも守ってると思ったわ」
母が持っているのは豪華な宝石箱ではなく、錆びたボロボロの丸い缶
私はそれを知っている…子供の頃の私があげた物だ。中身は主に私が拾ってきたガラクタを母にプレゼントしたゴミとしか思えない代物ばかりだ
「…大事な娘に貰った物よ?一番の宝物でしょう?」
「恥ずかしい人ね……はぁ………お母さんはここでじっとしてなさい…亜人は私達が何とかするから」
「…ユキちゃんが居るから大丈夫と思うけど、無茶したらダメよ?」
「わかってる」
いつもの母の様で違った…普段通りちゃらけた態度で送り出して欲しかった
「…父さんは?」
「んー…寝ちゃった…」
「そう…こんな時にのんきね」
「本当にねぇ…」
それだけ聞いて家を出る。外には心配そうに私を見る皆が、家族が居た
私は何も言わず神獣であるぺけぴーの前に寄る
「ぺけぴー」
『くるっくー…』
「あなたを傷付ける事になっちゃうけど、お願い…わたし、私の為に…っ!あなたの血を…ぺけぴーの血を寄越しなさいっ!!」
『くるっくーっ!!』
ガブリと自分の前足に噛みつくぺけぴー…ありがとう…この子も本当に良い子だ。私には勿体無いくらいに
家の中で最初に見たのは死に絶えた一匹のオークだった。そして母は壁にもたれた格好で座り込んでいた…
あれだけ元気そうに喋っていたが、壁も床も、母自身も血に塗れていた…私の前だからか元気なフリをしていたが、あれでも死ぬ一歩手前だったろう
お姉さんにぺけぴーの血を母に飲ませてそのまま待機する様に頼んでみる
お姉さんの両親だって安否が不明なのに快く引き受けてくれた…感謝したいと思う。
「私は亜人に特別悪意は持ってなかったわ、興味もないし…でもね、私の家族に手を出した以上、容赦はしない」
私の言葉に全員険しい表情になった。亜人と明確に対立すると言ったようなものだからな
「クソ共にこの町に手を出した事を後悔させてやるわ」




