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幼女と動いた亜人達

 とりあえず襲撃があると想定して行動する事にした。

 国を守ろうとは思ったが、まずは五丁目に戻ってしばらく待機する。もしかしたら町も襲われるかもしれないからだ。



「…いいんですか?」

「いいのよ、あれだけ余裕かましてるんだし亜人ぐらい何とかなるんでしょ。戦える人数も多いんだし、私達が抜けた所で大差ないわ」


 知恵をつけた亜人達が手を組んで襲ってくると言ったって笑いとばされるだけだろう。

 それにどうせ守るなら思い入れがある五丁目の方がいい


「王都の図書館ぐらい行っておきたかったけど、仕方ないわね」

「他国の王都にも大きい図書館はあると思いますよ」


 だといいけど…

 宿屋を出て馬車に乗る。街に長期滞在すると、ぺけぴーとマイちゃんとのふれあいタイムが少ないが、王都みたいに馬車で通れるならそこそこ親睦を深められる




 準備も出来たし、またまた五丁目に戻る為にいざ出発しようとした時、見覚えのある種族の団体が見えた。


「…ドワーフじゃない」

「あの人数ですと、村の住人のほとんどが来てそうですね」


 ドワーフの集団は40人ほどの大所帯だ。納品に来たのならいいが…もしも違っていた場合は…





「ゴラスっ!」

「うおっ!な、何だ…嬢ちゃんかよ、驚かすな!」

「それはごめんなさい、それで?団体さんで一体どうしたの?」

「今日は装備品の納期でな!かなりの数だから大体住民総出で運ぶ事になるんだよ」


 納品なら良いが、肝心の装備品とやらが見当たらない。


「…その装備品は?」


「あー…それなぁ………実は輸送中に襲われてな…空を飛んでる獣人に根こそぎ盗られちまった…流石に力自慢の俺達でも空中に攻撃は出来ないからなぁ」


 予想と違い白昼堂々とドワーフの装備品を奪っていったが、納品されたら奪うのは厳しいから仕方なく襲撃したのかもしれない


 というか空を飛んでる奴らとか、鶏程度に苦戦した記憶を思い出して胸くそが悪くなる


「よく無傷で済んだわね」

「悪い奴らじゃなさそうだったしなー…装備品を持ってく時に金の代わりに食い物置いていったぞ」


 なんだそりゃ?ドワーフには敵意がないのか?意味が分からない


「何か会話とかしなかったの?」

「少しはしたぞ?何でも獣人達の為の国に行くんだとよ。道中危険だから装備品が必要だって話だ」


 ほー…そんな国あったんだな、装備品を奪う理由も分かった。

 だが各地を襲うのが何故か不明なままだ。


「あとは…そうだな、この国は危険だから離れた方がいいって言ってたな!」

「そう言われて何で来たの?」

「そりゃ納品先に謝りをしなきゃならんからな」


 律義な事だ…襲われたんなら仕方ないと思うが、こういった報告をきちんとする事で信頼を得てるのかもしれない


 しかし、危ないとは聞き捨てならない。襲うと言ってるようなものだ


「あー…めんどくさい、頭痛くなるわ」

「わたしみたいに気楽にいけばいいんです」

「マオは何も考えてないだけでしょ」


 羨ましい性格をしてると思う。

 だが私ばかり気にするのも癪だ、大体何で王都の為に戦うつもりがない私が王都で亜人を警戒しなきゃいけないんだ


「そうね…マオの言う通り気楽にいきましょう、なるようになれってね」

「そうですよ!」

「何だか知らんが、悩みが解決したようでよかったなっ!」


 今まで散々考えて悩むのを止めるという結論に至ったのはどうかと思うが、住民がのほほんとしてるのに私達が苦悩するとか腹がたつ


「…じゃ、五丁目に戻りましょっか」


 念のためお姉さんも連れて行こうかなー、と考えながら気を緩めて王都から出ようとした時




 カーン、カーン、カーン




 と、中継都市以来となる鐘の音が聞こえた


「攻めて、きたの?こんな昼間に」

「こんな門の付近では巻き込まれます。奥に避難しておきましょう」

「そうね…一足遅かったかー」


 王都から出られない以上高見の見物でもするしかない

 どれくらいの規模で攻めてきたのか見てやろうじゃないか!でもその前に…


「そうそう、カマラなら城の牢屋に居たわよ、避難ついでに会いにいったら?」

「牢屋ぁ?何やったんだあの馬鹿。まぁいい…ありがとよ嬢ちゃん、お前らも避難するならしとけよ!何せチキンに苦戦しちまう嬢ちゃんだからなっ!」

「余計なお世話よ」


 一言余計な事を言ってゴラス達、ドワーフの集団は奥に向かっていった。多分城に行くんだろう

 腕っぷしはあるのに手伝う気はないらしい。義務ないから当然か


 周囲は慌ただしくなっており、冒険者達は門の付近に集合している


「どこか高い建物の屋上にいくわよ」

「はい」

「了解です!」

パタパタ


 問題はぺけぴーだが、建物の入口付近で待機してもらうしかないか



★★★★★★★★★★



 奥に進んで適当に高い建物に入ったら、どうやら学校っぽかった。五丁目と違って3階建てという豪華さだ。

 第三学校って書いてあるから王都内に他にも学校があるんだろう、広いから当然か

 避難場所にもなってるようで、住民達が避難しているみたいだ。


 この状況なのに妙に楽しげに騒いでいる王都民に眉をしかめる。緊急事態も娯楽の一種とでも思ってるらしい


 ぺけぴーと馬車を校庭に置いて、念のためユキに結界を張ってもらう。


「よし、屋上に上がりましょ、見えるか分かんないけど」

「門から大分離れましたから見えないでしょうね」


 やっぱりか…


「ま、一応上がってはみましょうか」


……




「あらびっくり…亜人達が見えるわ」

「見えますねぇ」

「見えると言いますか…」


 ハッキリと亜人達の姿が確認出来た。何でかと言えば……


「あっさりと門は突破されたみたいね」


 すでに亜人達が王都に侵入していたからだ。

 王都は広いから騎士や冒険者が門に集合するには時間がかかる。

 亜人達は防備が薄い内に一気に門を突破したのだ


「見なさい、一部だけどちゃんと装備してる亜人がいるわ」

「ドワーフから奪った武器でしょうか?」


 見える範囲だが、鎧は傷だらけっぽいし、折れた剣を持ってる奴もいる。いくら何でもボロボロになるのが早すぎる

 多分襲撃した亜人達とは別だろう。空を飛ぶ奴等は見当たらないし


「亜人の装備は新品には見えないから、死んだ騎士や冒険者から奪ったんじゃない?」

「それもあり得ますね」


 王都に侵入する亜人の種族は様々だ。コボルトにオーク、猫の獣人も居るしデカイ虎もいる


「あの先頭にいるデカイ虎がリーダーみたいね」

「ワータイガーですね、亜人の中では上位に位置する強さです」


 ワーを付ければ良いってもんじゃないと思うが…その理屈でいくと猫の獣人はワーキャットという事になる


「お姉ちゃん」

「…どうしたの?」


 いつになく険しい表情のマオ、ワータイガーについて何か知っているんだろうか?

 悪魔も警戒する厄介な力の持ち主だったりして…


「あの虎さんは亜人六傑衆の中でも最弱です、そして六傑衆の後ろには四天王がひかえていて、更にその上に二大幹部が待ち構えて…」

「何言ってんのいきなりっ!?」


 至って真面目な顔でおかしい事を言い出したマオ。大丈夫かこの娘


「これは…聞いた事があります。何でも大体13~15歳の思春期真っ只中の少年少女達に稀に見られる病気だそうです。妄想と現実の区別がつかなくなり、自分が考えた設定を何の疑いもなく現実に投影してしまう難病です。マオさんの年齢は14歳…この症状を引き起こす年齢にぴったり当てはまります」

「こんな時になに発症してんのこの娘っ!?」


 何の前触れもなかったぞ!?ただでさえ残念なのにより残念になっちゃった!


「わたしは正常です!」

「わかったから黙ってて」


 放っておいたら新たな設定を言い出しかねないので黙らせる。

 今は件のワータイガーと主人公パーティみたいな団体が戦ってるので大人しく観戦したい


「いい所を見てるのに声が聞こえないのが残念ね」

「お任せ下さい。風魔法を使って音声を拾ってみます」


 拾えるものなんだろうか…任せろって言ってるぐらいだし出来そうだが



「なぜ急に攻撃してきたっ!」

「お前たちこそわれらを見たら襲ってくるじゃないかっ!」



「黙ってろアホ」

「いたっ!?」


 一人芝居を始めたマオを奇跡すてっきで殴って黙らせる。

 もちろん先程のセリフはアホの妄想の産物だ。


「大変です、お母さん」

「今のマオより大変?」

「そこまでではないですが…どうやら彼らは無言で戦ってるらしいので打撃音くらいしか聞こえません」

「それは考えてなかったわ」


 そりゃ戦ってる最中に喋る余裕なんかないか、もしくは亜人と会話出来ると思ってないかだ


 と…思ってる内にワータイガー一人を主人公っぽいパーティで仕止めたみたいだ

 ワータイガーの周りに居た亜人は他の冒険者が抑えていた。

一対複数とかどっちが悪者か分からないな


 リーダーが倒れた事により人間側が有利になったか?しかし、上位の亜人とはいえたった一人で来たとは思えない、何組かに別れてると思っていいはず。



「ワーウルフも居ませんし、コボルトの数も少ないですね」

「そうねぇ…」


 ワーウルフは知らないが、コボルトの狙いは城にいる子供だろう。

 城がある方角をみれば上空から城へ向かう小さな影が結構見える、多分空を飛ぶ亜人だ


「コボルトと飛べる亜人で城を狙う気かもね。飛行する亜人なら高い塀も関係ないわ、あとはロープでも引っ掛ければコボルトも乗り込めるでしょう」

「…門の付近で騒いで騎士と冒険者を引き付けておいて、手薄になった城を攻めるという事ですか」

「みたいね、亜人を知能が無い獣と思ってなければ城に結構な護衛を配置してると思うけど…」


 してないだろうなぁ…本当に最低限しか残ってない気がする


「ドワーフさん達ってお城にいきましたよね?大丈夫ですかね?」

「強いし大丈夫でしょ、それに亜人に敵視されてないみたいだし」


 というかのんきに歩いて行ったし、城に着くまで明日までかかりそうだ


 とか考えてたら悲鳴が聞こえ始めた。



「騒がしくなってきたわね」

「下をご覧ください」


 屋上の端に移動したユキに言われて下を見る。ここでユキが手を離したら私は落ちると思うと少し怖い。あり得ないけど


 校庭を見ると亜人達の姿が見えた。校庭にはぺけぴーが居るが、どうやら眼中に無いらしい


「校舎に亜人が入り込んだ様です。もしかしたら屋上まで来るかもしれません」

「逃げ場がないじゃない」


 よりによって学校に来るとは…一階付近でガラスの割れる音が聞こえる

 同時に窓から逃げ出す一般人がちらほら見えた。まだ校庭に亜人が居るのに馬鹿だな…


「見物所じゃなくなったわね、どうしましょ?」

「校庭に居る亜人が見えなくなったら飛び降りましょう」


 この高さから飛び降りるのか…言ったのがユキじゃなかったら何言ってんだって感じだな


「わ、わたしも飛び降りるんですっ!?」

「当然よ、貴女の身体能力なら大丈夫でしょ?頑丈だし着地に失敗してもきっと平気よ」


 今は妄想から復帰していつものおどおどしたマオに戻っているみたいだ。

 はぅはぅ煩い



「ん?」


 何か私達の上を何かが通過したように影が出来た…と思って上を見ようと思ったらユキが素早く動いて何かをキャッチした


「火がついた瓶?」

「火炎瓶ですね、中身は間違いなく油でしょう。危ないので消化しておきます」

「…まさか王都を燃やす気?」


 それはこのまま王都にいたらマズイんじゃないか?この広い王都を燃やし尽くすのは難しいと思うが…



「…五丁目を守るのなら、早めに戻るのをお勧めします」

「…そうしなきゃマズい?」

「はい、私も亜人の狙いは捕らわれた子供と物資の略奪と思ってましたが、もはや完全に破壊する気であるように見受けられます。もし、同じ方法で五丁目を襲ったら下手すれば町全体火の海になる恐れも…」



 ……って、それはヤバい!?



「気楽に考えすぎたわ……ゴラスが言ってたじゃない、この国が危険だから避難しろって亜人に言われたって。すぐにでも五丁目に戻るわよ」

「まだ校庭には亜人がいるですよ?」

「ぶっ倒しながら行くわ、ついでにお姉さんも回収しましょう。知り合いが死んだら寝付きも目覚めも悪いから」


 ユキの言う通りなら急がなければならない、五丁目の冒険者達に亜人の集団は荷が重すぎる


「あ、あのっ!何が何やらわからないので少しだけでも説明があったらいいなー…って」

「この国が危険って事は王都だけじゃなく他の町だってすでに襲われてる可能性が高いって事よ、それは五丁目も含まれてるわ。そして同じく燃やされてるかもしれない…」


 考えてみればコボルトの子供一人を助けるために上位の亜人達が動くとは思えない…間違いなく国を破壊しにきている、少し考えれば思いついたのに不覚だ


 未だに危機的状況を楽観視するとは私も全く成長出来てない…まだまだダメな幼女だな





 飛び降りる覚悟がなかなか出来なさそうなマオも小脇に抱える様にユキに指示して屋上から飛んだ


 着地してすぐユキはマオを離して周囲の亜人を片付け始める。

 鞭を伸ばしてその場で動かず簡単に倒しているが、普通の冒険者なら苦戦すると思う。数が多いし


「こうも数が多いと密集してるハズの入口を馬車で出るのは厳しいかと」

「…仕方ないわ、結界もあるし馬車はここに置いて行きましょう」

「かしこまりました」


 決まった所でまずはお姉さんを救出するために裏通りへ向かう



★★★★★★★★★★



 裏通りはまだ襲撃が遅れているようで、お姉さんは無事、家で待機していた


「私だけ逃げるとか申し訳ないなぁ」

「他の娼婦だって無事に生き延びれる可能性もあるわ」


 流石にお姉さんの同僚まで助ける余裕はない。あっさりついてきてくれたし、親しい人は居ないのかも


 お姉さんが私達の速度について来れるワケがないので、私の代わりにユキが小脇に抱えて走っている


 私はと言えば、ぺけぴーに乗っている状態だ。ぺけぴーに乗れるのは私だけだからだ


「座布団敷いてるのにお尻が痛くなりそうね」


 今はそんな事言ってられないので我慢するけど…


 マオがギリギリついてこれる速度で走っているが、それでもかなり早い。これなら夜中には五丁目に着くかな





 亜人や冒険者の横をすり抜けながら走り、いよいよ門に近づいてきた


「ユキの言う通り密集してるわね、無理矢理押し通るわよ!」

「はい!」

「はぅ!」

パタパタ!


 一人返事が怪しかったが気にしてられない!


 私が乗ってるのをお構い無しで、ぺけぴーが頭から突っ込んで行く手を遮る亜人を吹き飛ばす。武器を持ってる亜人は先にユキが鞭で薙ぎ払っている


 ちらりと後ろを見れば至るところで煙が上っていた


「…これじゃ小競り合いじゃなく戦争ね」



 そんな王都を気にする事なく門の突破に全力を出す私達


 流石は人外達と言うべきか、集まっていた亜人の集団をぶっ飛ばし無事に門を突破して外に出る事が出来た。


 が、



「…あらまぁ、凄い数だこと」


 外には視界を埋め尽くさんばかりの亜人が居た

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