幼女、家を出る
久々に朝早くに起きた。正確には部屋に入ってきた母がうるさいので起きた。
目を向ければゼエゼエと荒い息を吐く母とメイドの格好をして涼しげに立つユキの姿が見える。
この状況は…
「ついにユキの魅力に負けたお母さんが襲った…か…」
「ちがうわっ!」
予想はついてたが、私を叩き起こしにきた母をユキが私の安眠の為に阻止していたという訳だ。
結局喧しくて起きたが
「ほらっ!これ必要な荷物。ユキちゃんがちゃんと準備してくれたわよ」
と言って渡されたのはうさぎをモチーフにしたリュック。小さい女の子が好きそうな可愛らしいリュックだ。
私はもう16歳なんだが…
「似合ってるわよ♪貴女の紅い目とお揃いね」
紅い目をした人なんてそこら辺にいくらでもいるだろ。
補足として私の容姿はというと。髪は赤とピンクを混ぜた様な色で腰まであるロングヘアー、ただし身長が低いのでそこまで長いとは思わない。
顔は…幼女好きな変態共に目をつけられる程可愛らしい…とユキに聞いた。嫌すぎる
体型は出るとこは引っ込んで、引っ込んでるとこは引っ込んでる。スレンダーな幼女体型だ
運動皆無なぐーたらな生活していたが、太りもしないし痩せもしない。16になっても未だにミルク臭漂うという幼女好きには堪らない生物、それが私だ。うぎぎ…っ!
「この世全てを恨んでやるって感じで唸ってる所悪いけど、朝の内にはギルドで登録して早速稼ぎに行きなさいよ?」
それにしてもこの母、やたら急かしおる。どんだけ可愛い娘を追い出したいのだ。理由は分かるが。
「昼には近所の奥様方を家に招いて宝石自慢したいのね。わかった」
「な゛っ…んの事かしらね?」
図星かよ
「さて、気は乗らないけどそろそろ行きますかね」
「あぁ…ついにペドちゃんがやる気を…長かった…うぅ…」
歓喜の涙を流す母をスルーしてユキに命ずる
「ユキ、抱っこ」
「はい」
めっちゃ嬉しそうに私を抱っこするユキ。普段は無口無表情のくせに、私を抱っこするだけでこの至福の表情である。
あまりにも好かれすぎて他人に抱っこされた時とか病んで刺し殺したりしないか非常に心配だ。
「こら、待ちなさい…なにナチュラルに二人で旅立とうとしてるの?昨日の私の話を聞いてなかったの?ユキちゃんはお留守番。出稼ぎに出るのは貴女だけ」
ふっ…ユキが私から距離をおける訳がない。分かってないなぁ…。
というか出稼ぎって言いやがった!まさか私が稼いだお金まで自分がせしめる気か?私の金を近所自慢の為に使わせてたまるかっ!
「ユキが私から離れて生きれる訳ないでしょ?というか、父さんの稼ぎだけでも十分贅沢に暮らせるじゃない」
「あの人の稼ぎだけじゃ欲しいネックレスが買えないもの」
この言い様である。父の稼ぎは平民という身分からすれば破格だ。元々はそこらの平民と大して稼ぎは変わらなかったが、ある一家団欒の夕食時にユキが稼いできた金額を聞いて思わず呟いた一言が失言だった。
『へー…父さんより全然稼げるんだ。ユキは凄いね』
父は変わった。まさに仕事の鬼になった。休み?少し寝れれば十分とばかりに働き続けた。給料日にだけ母にお金を渡しに帰ってくる以外ずっと家に帰らず働きづめだ。
その内倒れるからやめろと言っても聞きやしない。
母だけ稼ぎが増えて喜んだ。
『可愛い一人娘の何気ない一言って凄いわ…ペドちゃん良くやったわね』
嬉しくなさすぎる誉め言葉だ。母は父を愛して結婚したか疑わしい。
父の稼ぎは一般的な平民の稼ぎの4倍はある。ユキの稼ぎも父の稼ぎに匹敵する。
そして母はその稼ぎで豪遊する
どう見ても駄目人間です。真のクズは母だ。間違いない。近所の奥様方に自慢する以外に使い道がない物を買ってる時点で気付くべきだった。
私がやる気ない人間になったのも母の影響だ。気付きたくない事実に気付いてしまった…
一刻も早くクズ(母)から離れないと、ダメ人間度が悪化するっ…!
「何で急にお母さんをゴミを見る様な目で見るのかなぁ?」
「喋らないで…もしかしたら空気感染するダメ菌かもしれないから」
「なんかひどいこと言われてるっ!?」
ユキに目で早く外に出るよう促してみる。ご主人様至上主義なユキは心得たとばかりに玄関に疾走する。なぜか通じた、流石はユキだ。
「ま、待って!だからユキちゃんは家に残って私の世話を…っ!」
母が必死に追ってくる。ユキに追い付けるハズないのになー…というか本音が出たな。ユキは私のだ!誰が母の小間使いなんぞにさせるかっ!バカめ!
ユキが玄関を開けて外に出る。うさぎのリュックを忘れてきたと思ったが、いつの間にかユキが背負っていた。流石だ…ともあれついに私の旅行が始まるのだ!
とりあえず旅立つ前に一応母に挨拶しておこう
「じゃあね!ユキを連れて行くのは私から母さんへの親孝行よ!これ以上ダメ人間にならない様に今後自分の事は自分でしてねっ!日に日に太ってるお母さんっ!!」
「大きな声で言わないでっ!?ぎゃーっ!ご近所さんが何かニヤニヤして見てくるっ!?」
母は慌てて家に引きこもった。ざまぁ
「ご主人様、このままギルドへ向かえば宜しいですか?」
「うん、それでお願い」
かしこまりました、と返事したユキはギルドへ向けて歩いていく。
外が怖くて引きこもってた訳では無いので、一年ぶりぐらいに人混みの中を歩いても割と平気だ。歩いてるのはユキだけど。
ふり返って我が家を見れば、一般的なレンガ造りの家だ。あんな家に高額の宝石やアクセサリーとか似合わないな…何かあっさり泥棒に入られそうだ。
抱っこされながら町を見渡してみる。ウチと同じレンガ造りの家が並び、私と違って年相応なのだろう子供達が走り回り、露店商が食べ物からアイテムまで色々と売っているのが見えた。
「この町中の風景を見るのも久しぶりね…」
「ずっと住んでた町をあたかも数年ぶりに訪れたかの様に仰るご主人様は流石です」
馬鹿にされてるんじゃないかと思うが、ユキの事だから純粋に誉めているのだろう。
可愛らしいうさぎのリュックを背負い、美幼女を抱っこしながら歩く美人メイドはやはり目立つのか、やたら注目を浴びてる気がする…
何とも微笑ましいものを見る目を向けてくる人達に見守られる中歩く事30分ほど経ったとき
「到着いたしました。ご主人様」
と、ユキがギルドへ着いた事を伝えてきた。
ついに無職からツーリストにクラスチェンジする時が来たのだ。
…冒険者だったっけ?まぁ似たようなもんでしょ