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幼女、油断する

 山の麓のドワーフの村を見つけたが、カマラが歩いて王都に行くだけあって割と近くにあった。夜とか危険そうだなぁ


「全く安全な場所に見えないわ」

「柵だけですしね、夜は家に入ってれば空から来る魔物も何とかやり過ごせる程度でしょう」


 石造りの家が主流みたいだからこの辺にいる魔物なら大丈夫そうだが…山奥から強い魔物が降りてくる事もあるだろう


「ま、ドワーフは力強そうだし何とかなってるんでしょ」


 どう見ても小さい村なので、馬車を置く場所はなさそうだ。また入り口付近に止めて中へ入る事にする。


 今回の馬車の護衛は何となくくじ引きにした。ぺけぴーだけでも大丈夫そうだが、場所が場所だし念のためだ


 くじ引きの結果は…



☆☆☆☆☆☆



「なぜ…私が何をしたと言うのです……」

「仕方ないでしょ、くじ引きの結果なんだから」


 馬車の護衛という名の居残りはユキだった。たかが短時間の留守番で落胆しすぎじゃなかろうか


「馬車の中だけならまだしも、徒歩で歩く時すらご主人様をマオさんに奪われるなんて…あんまりです…」

「わたしが悪いみたいに言わないでください」


 今まで散々一緒にいたんだから我慢して欲しい

 この狭い村ならすぐ見終わって戻って来れる、ただし興味ある事があったら不明だ




「じゃ、行ってくるわ」

「行ってきますね」

パタパタ

「………いってらっしゃいませ」


 重症だな…なるべく早く戻らないと病むかもしれない…面倒なメイドだ


……



 村の中には住人が見えない、家の中で鍛冶でもしてるのか?何の用事もないのに仕事中に訪ねるのも悪い気がするし、困ったな…


「というかマオ、片手で抱えなさいよ。いざというときの為に利き手は空けておきなさい」

「お、落としそうで…」

「私も掴まってるんだから大丈夫よ」


 抱っこされてる分際で喧しい事を言ってるのは分かっているが、降りるつもりは無い


 フラフラ歩き回って見学していたら一つの家のドアが開いた。出てきたのは髭もじゃのドワーフ


「ドワーフって感じの人に会えたわ」

「どこまでが髭なんでしょうね」


 鼻の下はもちろん、顎、揉み上げと全て髭づくしだ。身長はやはり低い、130cm無いかも

 このチャンスを逃す訳にはいかないので話しかけて聞きたい事を聞いてみよう


「お?人間がこんな所に来るとか珍しいな」

「こんにちわ、少し時間いい?」

「少しならな」


 向こうから話しかけてきたので邪見にされずに済んだ。色々と聞きたい事はある…


「ドワーフの男性って皆髭もじゃなの?」

「ハッハッハ!髭もじゃか!…そうだな、男は大体毛深い奴が多いぜ」


 豪快だなドワーフ…何か好感がもてる種族だ。本で得た知識では豪快、怪力、酒豪が特徴だった。間違いなさそうではある


「何でこんな危ない山の麓に住んでるの?」

「それな、この国の住民じゃないのに無理を言って村を作らせてもらった訳だからよ…山の麓の邪魔にならない所に作ったって訳だ!」

「自分達でこの場所を選んだって事ね」

「いじわるされて追いやられたんじゃないんですね」


 だだっ広い草原があるんだし、そこでも良かった気がするけど、ドワーフ達がこの場所で問題ないならそれでいい

 それからくだらない事から普段の食生活や、寿命の長さなどを聞いた。長寿なエルフと違ってドワーフの寿命は人間と大差ないのは驚いた




「ちょっとお願いしてもいい?」

「お?何だ嬢ちゃん?」

「鍛冶場を見たいの」



☆☆☆☆☆☆



 ドワーフは快く工房に招いてくれた。鍛冶場は他人には見せない、という事はなかったみたいだ。頑固なイメージがあったが、案外気さくな種族と思う。


「あっつい…」

「そりゃ火を使うからなっ!暑くて当然だ」


 工房は地下にあり、熱気の逃げ場がない気がする…棚には完成した品と思われる剣や鎧などの装備品が置かれている。

 魔物が居なくなったら商売出来ないんじゃないか?


「鍛冶をしてる所は見れないの?」

「そりゃあ無理だ。弟子にしか見せないってのが昔からのしきたりだからな…悪いが見せられないな」

「構わないわ、工房とやらを見れただけで十分」


 流石に技術を見せるのはダメか…ま、この部屋をじっくりと見れるだけ有難い


「ん?こんな小物も作ってるのね」

「おう!装備品はしょっちゅう売れるもんじゃないからな!」


 手に取ってみたのは花の形をした銀細工のブローチ…今までは気にした事なかったが、鉱物をこんな形にするのは難しいんじゃないか?


「こういうのは溶かしてから作るの?」

「おう、溶かして型に入れるか、叩いて形を整えるかだな」


 型に入れるなら簡単に出来るかも。私でも作れるんじゃないか?


「そういえば、前にユキに贈り物でもしようか考えてたっけ…銀細工でいいかな」

「それはユキさん喜びますよ!」

「でもお金がないのよね」


 ユキが稼いだ金で贈り物しても意味がない。それにどうせなら手作りが良さそうだ


「こういうの値段はどれくらいなの?」

「凝ってなければ5000ポッケもしないな、一度型さえ作れば量産出来るし」


 手頃な値段だ、すぐに出来る品物なら作り方を教えてもらって自作したい


「申し訳ないのだけど、一つ銀細工をお願い出来ない?出来れば自作したいのだけど」

「自作なぁ…まあシルバークレイなら嬢ちゃんでも出来るだろうよ」

「なにそれ?」

「粘土だ粘土、形が出来たら乾燥させて焼けば出来るぞ」


 粘土なら大丈夫だろう、こねこねすれば良いだけの作業だ。私でも出来るなら後はお金か


「手持ちが無いから、銀細工分の仕事とかない?」

「おいおい…なかなか無茶言う嬢ちゃんだな、急に言われてもそんなの無いぞ?」


 だよねー…何か無いものか、ユキには内緒にしておきたいから時間はあまりかけられない


「そんなに欲しいのか?」

「えぇ、いつも私をお世話してくれる従者に内緒で贈り物をしたいの」

「そいつは良い話だな、何とかしてやりたい所だが…」


 うーむ…と考え込むドワーフ。何か思い付いてと願うばかりだ。

 ドワーフが悩んでる間にどんな銀細工にするかを考えておこう、ユキって名前だし雪とか寒い季節にちなんだ物がいいかな


「どんなのがいいと思う?胸のあたりに付けるブローチにしようとは思うのだけど、形は悩むわ」

「わ、わたしはそういうセンスないですよ」


 これはなかなか頭を使うな…無難に花を型どったのがいいかも…そうだな、雪に関する花言葉とか知らないし…


「雪に関する花とか知らないわよね?」

「ごめんなさい…」


 やはり雪だと難しいかもしれないな、考えを少し変えよう。私とユキの関係にちなんだ花なら何かあるだろう…主とメイドを表す花…そんな花知らない。


「よしっ!お金の代わりに少し手伝ってくれればシルバークレイをやるよ!ついでに焼きまでやってやる」


 そうそう、お金だお金…お金?お、良い花があった!形もさほど難しいものじゃない花が!


「ありがとう、今の一言で良いブローチの形を思い付いたわ」

「おう?何だかわからんが良かったなっ!」


 ついでにお金の事もクリア出来て良かった。問題は銀細工を作ってる間と仕事を手伝ってる間、留守番してるユキをどうするかだ


「…マオ、ユキに夜までかかりそうって言ってきて。絶対にこっちに来ないようにとも」

「…わかりました、凄くいやですけど」


 物凄く嫌な顔でマオは工房から出ていった。気持ちは分かるが、頑張って説得して欲しい



★★★★★★★★★★



「あ゛あ゛…暑い…火傷しないでしょうね?」

「触らなけりゃ何ともねぇさ」


 そりゃそうだ。私は今鍛冶をしている訳ではない、所謂雑用をしている。鍛冶仕事をしてるドワーフに言われた物を運ぶだけの簡単なお仕事




「何が簡単な仕事よ、か弱い少女にこんな鉄の塊持ってけるもんですか!」

「転がしゃいいだろ」


 ふぬぬっ!動かない少女の代名詞の私がいきなり重労働とは…!こういうのはマオの仕事だろ!


 ちなみにマオによるユキの説得はすでに終わっている


『良い機会なので自分を見つめなおすとか意味不明なことを言ってました。こわかったです』


 とはマオの弁。自分を見つめなおす2歳児とか確かに怖い。そんなに濃い人生を送ってきたっけ? マオは何故か村全体の掃除を頼まれて外に出ていった。鳥の糞が臭いんだと…マイちゃんは私の頭の上で見学、良いご身分だこと



「重労働か糞掃除…どちらがいいか、てね」


 やってやろうじゃないか…この私の仕事っぷりをマイちゃんに見せつけてやろうじゃないかっ!



………




「無理。死ぬ」

「根性ねぇなー」


 何とでも言え、もっと軽作業にしてくれないと幼女体には堪えるんだ…もう重いもの運ぶだけで2時間は経ってるってのに…あとどんくらい働けばいいのだ…


「…まぁ、子供にゃ辛いかもな。良し、後はもう一人の姉ちゃんに頑張ってもらうか!嬢ちゃんは今からシルバークレイの作業しなきゃなんねぇしなっ!」

「話が分かるドワーフじゃない、ついでに植物図鑑とかある?」

「あるぜ、俺らは花なんか詳しくねぇからな、見本が無いと作れないんだよ。図鑑なら村の一番奥の資料置き場になってる家にいけばいいぞ」

「わかったわ、ありがとう」


 シルバークレイを必要分だけ受け取って工房を後にした。ドワーフ並に上手くは出来ないだろうが、まあいいか



☆☆☆☆☆☆



 資料置き場とやらで植物図鑑を探したが、案外きっちり仕分けされていたので簡単に見つけられた。


 目次を見てお目当ての花を見つけ出す。載ってはいたが、いざ作ろうと思うと案外難しく感じた。花自体は小さいが、少し本物より大きく作ろう



「粘土を捏ねる幼女とか…似合いすぎでしょ」


 ぶつくさ言いながら粘土の形を整える。やはり手で全てを作るのは無理だな…花弁の柄は何か道具を使わないと難しい。

 ペーパーナイフっぽいのが有るし、これでいいか…少しの間貸して貰おう


「…小さい花だからじっくり見た事なかったけど、案外作ると面倒な柄してるのね」


 この調子じゃ間違いなく不恰好な出来上がりになってしまう…人前で身に付けるには恥ずかしい出来でも、あの娘は喜んでくれるだろうか…?


「…馬鹿らし」


 考えるだけ無駄だ。恥ずかしい出来にしなけりゃいいだけの事…私は無言になって粘土を捏ねる作業に集中した


………


……



 どれくらい粘土を捏ねてたか分からないが、もう夕暮れなのを見れば結構捏ねてたみたいだ。


「…ま、私ではこれくらいが限界でしょうね」


 それなりに上手く出来たと思う花の形をしたシルバークレイ。後は乾燥して焼くんだっけ?

 乾燥するとか時間かかりそうだなぁ


「聞いてみますか、行きましょうマイちゃん」

パタパタ


 マイちゃんは大人しく待っていてくれてた。相変わらず良い子だ





 という事で唯一知ってるドワーフの家に入って乾燥をどうするか聞いてみた。


「資料置き場の隣に乾燥する装置があるぜ、何でもエルフと共同で作ったらしいぞ。原理は知らんが早く乾燥が終わる」

「エルフと仲良いの?」

「何でか不仲と思われてるが、そんな事はねぇな」


 意外だけど、仲良いならそれはそれで良い事だな

 とりあえずドワーフに粘土を渡して出来を確認してもらう。


「滅法大きく作ったな」

「小さいと作りづらいもの」

「いや、焼成すると縮むからな!こんだけ大きけりゃ丁度いい大きさになるさ」


 先に言え!ちっちゃく作ってたら危うく作り直しになってたかもしれない…


「焼くと銀になるの?」

「ほぼ純銀になるぜ」


 ふーん、純銀だと丈夫になったりするのか?その辺も聞いてみる


「そのままだと割と傷が付く、だが魔法でコーティングしときゃ大丈夫だろうよ。衝撃が強すぎたら分からないが」

「魔法使えるの?」

「エルフ特性装置でな」


 エルフかよ、だがドワーフが鍛冶で作った物をエルフが魔法で保護をする…良い関係だと思う。


 乾燥はともかく、焼成は失敗すると割れたり脆くなるみたいなので約束通りドワーフに一任した。

 そういやマオは何処を掃除してるんだろ?資料置き場から戻る際には見かけなかった


「マオはどの辺を掃除してるの?」

「今頃ドワーフの家を掃除して回ってんじゃないか?村の連中に捕まってたからなっ!」


 さぞ良い掃除っぷりだったに違いない。私の代わりに残りの代金分頑張ってもらおう。


☆☆☆☆☆☆


「ほれ、出来たぞ」

「ありがとう……イマイチね」

「シルバークレイの出来なんてそんなもんだろう、だが手作り感があっていいだろ?」

「…そうね、世界に一つの銀細工の方が価値あるわ」


 早速渡しに行こうか、だがその前に色々と世話になった気さくなドワーフに礼ぐらい言っておこう。


「本当にありがとう…お陰で素敵な贈り物が出来たわ」

「おう!そう言ってくれりゃ協力した甲斐があるってもんだ!」

「あなたはまだ作業するの?」

「丁度いいからな、他の依頼品もやっておこうと」

「…そう、お疲れ様。私はすぐにでも渡しに行くわ」

「それがいいさ、じゃあなっ!嬢ちゃん!」

「えぇ、また会いましょう…名前も知らないドワーフさん」


 散々一緒にいて名前も知らなかったが、再会した時にでも聞けばいい。


 焼き場を出れば、外はすっかり夜だった。短時間のハズが長い留守番にしてしまったな…

 ここは村の一番奥に位置するので歩いて帰るにはそこそこかかる。マオが不在なので自力で歩かなければいけない…


 めんどくさいと思いながら歩いて数十歩、耳障りな風切り音が聞こえた。


「コウモリ野郎ね、マイちゃんお願い」

パタパタッ!


 クランチバットを迎撃してくれるマイちゃん。迂闊だったな…夜なんだし奴等が出てもおかしくない…


 そして、明らかにコウモリより大きいと思われる羽音が聞こえた瞬間


「い゛い゛っ!?たああぁぁっ!!!」


 背中に激痛が走ったと思ったら身体が宙に浮き始めた。大型の鳥の魔物が私の背を爪で突き刺し、そのまま飛翔しているらしい


「ぐぅぅっ!…マイちゃんっ!」

「…ピギャッ!」


 私の声を聞いてすかさず鳥の魔物に体当たりをしたマイちゃん、私は無事に魔物の爪から逃れられた。実に頼りになる親友だ


 マイちゃんに体当たりされる前に鳥の魔物に捕まって数メートルは浮いていたので私は当然落下する。まぁ、この程度の高さなら落ちても大丈夫だろう…と信じたい。二階ぐらいの高さなら死にはしない…よね?


 何とか頭部を守ろうと思ったが今日は運が悪い日なのか、コウモリ野郎が左腕に噛みついてきた。仕方なく右手だけで衝撃を和らげようと地面に差し出したが


「…!」


 右手に持ってた銀細工を思い出し咄嗟に手を引っ込める……痛くない様に……と願うが


「あぐっ………!」


 右顔面から落下した。当然激痛が走ったが、何とか銀細工は守れた事に安堵した。

 顔に傷が残らないといいなぁ…と考えながら、暗くて見えないが羽音の量から判断して群がって来てるであろうコウモリ野郎どもをどう切りぬけるか考えた

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