幼女とイモ
夜が明けて、目覚めの紅茶を飲んでから一丁目へとまた向かった。
近くまでは来ていた様なので一時間かからずに一丁目まで到着した。馬車を適当な場所に止め、マイちゃんに見張りを任せて町に入ったが、私達は一丁目に住んでるのだろう人々を見て唖然とした
「…なんなの?この同じ国とは思えない民族達は?」
「別に部族ではありません。王都に近いのであちらで流行っているファッションがこの一丁目でも流行しているのでしょう」
何かチャラい一丁目の民達は異常なほど露出が高い服を着ている…男女共に、だ。男に至っては上半身裸の奴らが目につく
弛んだ腹のキモい男すら上半身裸でうろついている…いや、マフラーで見たくない胸の部分は隠してはいるが…露出するほど自信のあるボディには見えない。
女性も上半身は胸の辺りに柄のついた布を巻いただけ、下半身はやたら短いスカートで悠然と歩いている
「まさか淫魔の町がこの国に存在したなんて…マオの故郷はここにあったのよ!」
「淫魔じゃないですっ!」
ああ、キモいキモい…もうさっさと店で服を買っておさらばしたい…この町は目に毒だ
「一刻も早く買い物を済ませて去りましょう」
「はい」
たまにすれ違う冒険者と思われる者達は普通に身体を守る様な格好をしている。町民との違いが分かりやすいな…
何で王都も一丁目もこんな格好が流行ってるんだろ…何か王都に行きたくなくなってきた
「この国はもうダメかもしれないわ…」
☆☆☆☆☆☆
一番最初に見つけた服屋に入って、マオの着替えを探すついでに展示されてるキチガイファッションを眺める
「これ、この町の女性が胸を隠すために巻いてる布よね?高くない?」
「刺繍が凝ってるみたいですし、その分高いのでしょう」
胸に巻き付けたら刺繍なんか分からないじゃないか…どういう考えしてるんだ…
「お姉ちゃん…わたしはどれを買うべきなのです?変なのしかないです」
「…この布買う?」
「いらないです」
だよね、こんなの私にとっては面積の増えた葉っぱと大差ない…こんなのに高い金を出す必要はない
「もっと普通のを探しましょう」
「「はい」」
普通のがあるか分からないが、奧に行けばこの町じゃ売れない普通の服が置いてあるだろう…私達が探しているのはその普通の服だ
…
奧にはやはり普通の服が展示してあった。この辺りにいる客層はまともな一般人と思われる
「じゃあ、適当に動きやすそうな服を選びなさい。個人的には下はズボンと短パンがオススメね」
「わかりました!」
返事をして早速物色し始めたマオを放って、私達も買いはしないが展示されてる服を見てみる
壁に貼ってある広告らしき紙に書かれてる物はやはりキチガイファッションばかり…謳い文句を読んでみると
『イモいあなたもこれで立派なファッションリーダー!不思議な色気で人気者になろう!』
…と、書かれている
「…イモいって」
「田舎くさいという事でしょうね」
そんな感じだろうな…そうか、イモか…私が言われたとしたら…
『やだー、あの娘…今時ゴスロリとかイモいよねー』
『うんうん、ちょーイモーい』
想像したら物凄く腹が立つ…王都民が下品と言われてるワケだ。同じ国に住んでるのに田舎住まいを蔑視してるんじゃなかろうか。被害妄想だけど
「上の連中は何をやってるの?こんな民で良いと思ってるワケ?」
「ここまで流行った衣装を取り締まったら、国民から反感を持たれるかもしれませんから…」
民の顔色を伺う上層部とか嘆かわしい…他国の冒険者も出入りしているし、この国の現状は知れ渡ってる事だろう…
いくら戦争が長い事起こってないからと言って、これではなぁ…魔物だっているのに
「見た目に反して優秀な民が多い可能性に期待しましょうか」
「…最近の王都と一丁目の民は数年前に比べ、飛躍的に全ての能力が低下しています」
ダメじゃん。馬鹿で雑魚が増加するとか滅亡するわ。いくら町中が安全とはいえ平和ボケしすぎだろう…
「万が一戦争が起こる場合は狙われそうね」
「ご主人様なら狙いますか?」
私なら?めんどくさいからパス…だが、そうだなぁ…
「数十年は様子見ね。今は優秀な騎士も多そうだし…数十年後もこの調子なら弱体化してるでしょう…狙うならその時ね」
「なるほど…」
「ま、今の時代に戦争は起こらないでしょ」
どの国も自国はそれなりに栄えているだろう。わざわざ兵士を犠牲にして領土を増やす必要はない。
「魔物が居なくなったら起こりえるけどね」
「…人間同士はそうでしょう。ですが、人間と亜人の争いはしょっちゅう起こっているので覚えておいた方がいいですよ」
亜人?エルフとかドワーフとかの事か?人と共存してるらしいけど、そうなのか…王都にも居るらしいのに
「争いが起こるのはオークなど、人に受け入れられなかった種族です。エルフやドワーフ、半獣人は人間と容姿も似ているため受け入れられましたが…」
そういう事か…オークはまず無理だろ、見た目も成り立ちも人間には受け入れがたい存在だし
「オークって元は豚の魔物だったのが、人間の女性を襲って産まれたのが原点だっけ?」
「そうです。半獣人と呼んでも良いかもしれませんね、見た目は豚ですが…人間と交配したお陰で進化の過程で知能のある存在になり、武器も使える様になったとされています。ミノタウロスも似たようなものです」
人間を襲った事実が付きまとう限り、共存なんて出来やしないか。それにしても余計な進化をしおって…
「お待たせしましたです」
マオが戻ってきた、どうやら買う服が決まったようだ。
上は普通の白いシャツと水色のワンピース。下はズボンにしたようだ
「…ワンピースで旅をするの?」
「…あ」
ゆるくて私達っぽいから構わないが…ゴスロリの私が言うのも何だし
「それでいいわ、似たようなのをもう数着買っておきましょう。後は下着も選びなさい」
「はい!ありがとうございます!」
満面の笑みでまた下着コーナーへ向かうマオ。悪魔はどうなんだろうか…一見、人と変わらないマオは今の所問題はないが、マオの母は襲撃されたし…
「悪魔はどう?虐げられる側?」
「…宗教国家のナイン皇国では悪魔は滅ぼすべき存在と教えられてるみたいです。恐らくマオウさんを襲ったのはその国の者でしょう」
神を奉ってる国か、鬱陶しい。奴等は人工的に神域を作れるくらいだし、魔法は侮れない。
魔王と勘違いして舞王を襲った奴の祖国なら常識も通用しそうにない
「…マオが悪魔と見破る奴が現れたら面倒ね。ここでマオと別れたなら宗教国家との面倒事は避けられそうだけど、私はこれでもあの娘を気に入ってるから別れるという選択肢はないわね」
「敵対したらその時に考える事にしましょう。もしもの事を考えても仕方ありません」
そりゃそうだ。何事もなく旅を続けられる可能性の方が高い。宗教国家は滞在せずスルーしとこう
マオの買い物が終わるのをしばらく待ち、無事に着替えを入手出来たみたいなので一丁目を後にする事にした。
☆☆☆☆☆☆
「着替えたら一気にからだが軽くなりました。どうです?イモくないです?」
「不快になるからその言葉は使わないでちょうだい」
「はぁい…」
早くも毒されてしまったマオ。芋を馬鹿にするな、馬鹿なあの民達も焼き芋の屋台が来たらどうせ群がるくせに
急ぎ足で馬車に戻ってホッと一息ついたのも束の間、私の目の前で恥ずかしげもなく着替えだしたマオが、先程購入した動きやすい服に着替えたあと、一丁目で覚えた不快な言葉を使いながら感想を求めてきたのが今しがただ。
「感想としては着物姿ばかり見てたから違和感しかないわ。貴女には着物が一番ね、けど動きにくいでしょうし舞いの練習以外はそれで。その格好も似合ってるから安心なさい…ちゃんと一般人に見えるわ」
「はいっ!」
王都に向かいながら駄弁る。最初の話題はチャラい民の不満話ばかりだが、いつの間にか焼き芋の話になっていた。女性同士の会話には良くある事だろう
「散々イモいって言ってたくせに芋食べてるー、ちょーイモーい!…って、奴等が焼き芋食べてたら言ってやりたいわ」
「お姉ちゃんイモいとか言われてないじゃないですか…」
「想像の中で散々言われたのよ」
冒険家とかイモーい、など考えだしたらキリがなかった。発祥先が不明だが、王都にいる誰かが言い出したはず…会う事があれば制裁してやりたい
「ご主人様、子供…?と思われる人影が先の道に居ますが」
「ガキは嫌いよ。マオぐらい可愛げがあるなら別だけど…」
「よ、喜ぶところです?」
御者をしているユキの側まで行き、前方を確認してみる。確かに小さい人影…だが一人だけしか見えない時点で厄介そうだ。
「真っ昼間とはいえ、ガキ一人で町の外に出るとか怪しすぎるわ。私達が気にせずとも、通りすがりの冒険者が何とかしてくれるわよ、無視無視」
「……背中に武器と思われるハンマーを背負っている様です。ひょっとしたらドワーフ族かもしれませんね」
「お、髭もじゃ族は少し興味あるわ」
ドワーフならあの背丈でも大人なのかも…それでも私よりは頭二つ分は高いが
近づくにつれ、だんだんと姿がハッキリしてきた。真ん丸い体型してると思ってたが、以外にスリム…というか
「…女?髭がもじゃっとしてなさそうだし」
「そうみたいですね」
とりあえず声をかけてみよう。ガキならスルーだが、ドワーフなら別だ。
「こんにちわ」
「ん?こんちー」
妙な挨拶を返された。ドワーフの挨拶はこんななのか?
「一人旅でもしてるの?」
「旅ぃ?まっさかぁ!王都に遊びに行ってるの。ちゃんと着替えはこのバッグにあるよ」
「ああ…流行りのあの服…」
「そ、ドワーフって鍛冶したり汚れ仕事ばっかだから格好も作業着だしイモいじゃん?あんなダサい格好ヤだから村を抜け出して王都に遊びにいくの」
ドワーフまであんな格好するのか…まさかエルフまで俗物と化してるなんて事…
「ドワーフの村って何処にあるの?」
「あの山の麓だよ。村に行く気ならオススメしないよー、臭いし汚いし」
「興味あるわ、ドワーフの鍛冶技術とやらは」
「あんなイモい装備より王都のファッション見る方が良いってー」
イモいイモい言われるとムカついてくる…自分に向けられた言葉じゃないが
「イモいかはともかく、装備品を作製してくれるのは有難い事だと思うけど?」
「アタシは正直鍛冶って嫌いなの、だから村があんまり好きじゃないな」
嫌悪感丸出しの目だ。鍛冶嫌いのドワーフも居るんだなー
「あなたの名前は?」
「アタシ?カマラだけど?」
「そう、ドワーフの村に着いたら宜しく言っておいてあげる」
「…告げ口しても意味無いからね?」
「しないわよ」
時間が勿体無いから、とスタスタ去って行った。カマラを見送る。ハンマー背負って歩く子供にしか見えない…人との違いは耳が少し尖っていたくらいだった
「…お姉ちゃんがいつキレるかひやひやしました」
「突然キレる若者扱いしないで」
「ほら…お姉ちゃんが嫌いなチャラい人みたいだったし…」
あのドワーフがチャラそうに見えたか…まあ見えるか。そんな事より私が誰にでもキレると思われているなら由々しき問題だ
自分がイモいとか言われたらやり返すが…イモい発言してるぐらい無視するわ。
「予定を変えて寄り道しましょう」
「ドワーフの村に行くのですね」
「そうよ」
山の麓なんて妙に危ない場所に住んでるのも気になるが…まあ大丈夫だろう
「ドワーフが国内に村を持ってるのは驚きね」
「出稼ぎ組でしょうね、本来の里は国外にあるハズですから」
なるほど…国外から一々納品に来るなら費用も高くなるからか。王都に近いのも騎士に需要があるからだろう
「今度は髭もじゃを見れるわね」
王都に行くよりはドワーフの村を見て回る方が面白いだろう。
急な予定変更に誰も文句言う事なくドワーフの村に向かう事に決定した




